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ロタウイルスは、発展途上国、先進国を問わず5歳以下の乳幼児にみられる重度の下痢の主要な 原因ウイルスであり、社会・経済的状態や衛生状態にかかわらず、世界中の小児の約95%が感染 している[資料5.4: 83] [資料5.4: 84]。このロタウイルスによる胃腸炎は、感染力が強く、本邦のよ うな衛生状態の良い国でも、小児のほとんどが生後間もなくロタウイルスに感染するため[資料 5.4: 92] [資料5.4: 85]、ロタウイルス胃腸炎による病院の受診件数並びに入院件数が多く、結果と して医療資源に大きな影響を与えている[資料5.4: 86]。

ロタウイルス胃腸炎に対する治療法は、特異的な抗ウイルス療法は開発されておらず、脱水症 を防ぐための経口補液や輸液などの対症療法のみである。一方、外国では、本ワクチンの導入に より、ロタウイルス胃腸炎の発生、受診及び入院率が大幅に減少することが確かめられており[資 料5.4: 17]、WHOは、世界各国でのV260の積極的な使用を推奨する事前認定(Pre-qualification)

を行っている。

また、ロタウイルスの抗原性は多岐にわたっており、初回感染後の予防効果が血清型特異的で あるとの報告もある。このため、ロタウイルスに対する多価ワクチン接種が、ロタウイルス胃腸 炎に対する最も効果的な予防効果を有するものと考えられる。

以上の点から、本邦において特異的な治療法又は予防手段の確立していない、感染力の高いロ タウイルス胃腸炎に対して多価数(5価)の本ワクチンを導入することの医療上の意義は大きいと 判断した。

ベネフィット:

国内第Ⅲ相試験の結果、ロタウイルス胃腸炎に対する5価の予防ワクチンであるV260は、本邦 で認められているウイルス株の96%を占める血清型[G1、G2、G3、G4又はP1A[8]を含むG型(G9 など)]に起因したロタウイルス胃腸炎に対して、高いワクチン予防効果(74.5%)を示した。ま た、V260の有効性は国内外で類似しており、国内第Ⅲ相試験成績に加え、外国臨床試験成績を用 いて本邦におけるV260の有効性が評価可能であると判断した。このことから、本剤接種は、本邦 においても外国と同様、ロタウイルス胃腸炎の予防に有効であると考える。

本邦における、ロタウイルス胃腸炎の罹患率や入院数などの疾病負担は、すでにロタウイルス ワクチンを導入している欧米諸国と同様のものとなっている。つまり、5歳になるまでに約15人に 1人がロタウイルス胃腸炎で入院し、その約60%が生後6ヵ月から24ヵ月の乳幼児期に発生してい る。一方、急性胃腸炎で入院する5歳未満の小児の60%がロタウイルス胃腸炎によるものと推測さ れている[資料5.4: 90]。外国第Ⅲ相試験の結果、V260は、G1、G2、G3又はG4血清型に起因した ロタウイルス胃腸炎による入院及び救急外来の受診の有意な減少(94.5%)を示した。また、症 例数が少なく、有意な差は認められなかったものの国内第Ⅲ相試験においても同様の結果(100%)

を示した。さらに、外国第Ⅲ相試験のフィンランドにおける追跡調査延長試験(FES)において、

血清型を限定しないロタウイルス胃腸炎による入院及び救急外来の受診を最大3年間(3年目:

100%)、有意に抑制することも示された。また、V260の接種スケジュールは生後6週から接種を

2.5 臨床に関する概括評価 - 74 -

開始し、32週齢までに終了することから、ロタウイルス胃腸炎による入院患者数の上昇する年齢

(生後6~24ヵ月)までに、ワクチン接種をほぼ完了できるものと考える。

これらの点から、本剤接種は、ロタウイルス胃腸炎による入院及び救急外来受診を抑制するこ とにより、ロタウイルス胃腸炎の疾病負担を軽減することが可能であると考える。

V260を本邦に導入した場合の医療経済学的評価は実施されていないものの、本剤の外国臨床試 験の結果、ロタウイルス胃腸炎による保護者の休業日数が、プラセボと比べ有意に抑制(86.6%)

することや、高い費用のかかる入院及び救急外来への受診を、より低い費用の診療(病院、クリ ニック及び診療所の受診、又は受診なし)に変更させる効果も示されている。また、外国におけ

るV260導入による医療経済学的評価の研究において、本剤接種による費用対効果が見込まれる結

果が得られている[資料5.4: 116] [資料5.4: 117]。これらの点から、本剤接種は、本邦においても医 療経済的負担を軽減する可能性も期待される。

本邦の医療現場では、産科や小児科をはじめとする医師不足による病院勤務医の負担が問題と なっている[資料5.4: 168]。2008年の調査では、救急科、産科・産婦人科及び小児科での平均当直 数が依然として高く(小児科:3.48回/月)、勤務時間も長時間(救急科:74.4時間/週)となっ ている[資料5.4: 169]。一方、ロタウイルス胃腸炎は適切な治療が施されれば致死的な疾患とはな らないものの、入院や救急外来受診にいたることが多い疾患であり、これらの治療に携わる小児 科医の負担になっている。外国第Ⅲ相試験の結果、V260は、G1、G2、G3又はG4血清型に起因し たロタウイルス胃腸炎による入院及び救急外来の受診の有意な減少(94.5%)を示した。また、

症例数が少なく、有意な差は認められなかったものの、国内第Ⅲ相試験においても入院及び救急 外来の受診を100%(V260群:0例、プラセボ群:3例)抑制した。、これらの点から、本剤接種は、

小児科の医療従事者に対する負担軽減への貢献が期待される。

以上の点を総合すると、V260のロタウイルス胃腸炎の発症予防、疾病負担軽減、医療経済的負 担の軽減及び医療従事者の負担軽減の点から、本剤を本邦に導入することによるベネフィットは 大きいと考える。

リスク:

V260の安全性に関しては、国内第Ⅲ相試験の結果、本邦の乳児に対する本ワクチンの高い忍容 性が示された。さらに、外国における大規模臨床試験の結果からも、全般的に良好な忍容性が示 された。一方、外国第Ⅲ相試験において、特に注目すべき有害事象の下痢(初回、2回接種及びい ずれかの接種後7日間)と嘔吐(初回及びいずれかの接種後7日間)の発現率が、プラセボ群と比

べ V260群で有意に高くなった。また、本邦の第Ⅲ相試験でも、V260群でこれらの事象の発現率

がプラセボ群と比べ数値的に高値となった。しかしながら、これらの発現率の差は小さく、ほと んどの事象が軽度であったことから、臨床上問題とはならないと考えられる。

2.5 臨床に関する概括評価 - 75 -

外国において、過去に、本剤と異なるロタウイルスワクチンで、腸重積症のリスクの増加が認 められており、本剤でもそのリスクが懸念された。そこで国内外の第Ⅲ相試験及び外国の製造販 売後研究において本剤接種と腸重積症の発症リスクを評価した結果、67,000例以上の乳児を対象 として外国で実施された大規模臨床試験[006試験(REST)]及び乳児85,000例以上を対象にした 製造販売後の安全性観察研究のいずれにおいても、V260接種と腸重積症の発症との関連は示され なかった。また、本邦における第Ⅲ相試験(029試験)においては腸重積症の発症は認められなか った。このようにV260接種と腸重積症の発症との関連を示すデータは示されていないものの、通 常の安全性監視活動として、今後も継続して腸重積症に関する情報を収集することとしている。

さらに、添付文書(案)の【接種不適当者】【接種上の注意】2.重要な基本的注意及び6.その他の 注意、並びに【臨床成績】の項において、腸重積症に関する注意喚起を行った。

外国第Ⅲ相試験の結果、発現例数は少ないものの、接種後42日間に本剤群で0.1%未満(5例/

36,150例)、プラセボ群で0.1%未満(1例/35,536例)に川崎病が報告された。そこで、追加の解 析を実施した結果、発現率の差(V260-プラセボ)に統計学的に有意な差はなかった(発現率の 差=1.10/10,000例; 95%信頼区間: -0.40, 3.11)。さらに、乳児85,000例以上を対象にした製造販売後 の安全性観察研究の結果、V260接種と川崎病の発症との関連は示されなかった。このようにV260 接種と川崎病の発症との関連を示すデータは示されていないものの、通常の安全性監視活動とし て、今後も継続して川崎病に関する情報を収集することとし、さらに、添付文書(案)の【臨床 成績】の項において、川崎病に関する注意喚起を行った。

本剤は生ワクチンであることから、ワクチンウイルスの水平伝播のリスクが懸念される。しか しながら、本剤接種時の糞便中排出は、主に初回接種後で、その頻度も低い。さらに、免疫不全 患者の家族を持つ乳児にV260を接種する場合であっても、ほぼすべての乳児が5歳までにロタウ イルスに自然感染することを踏まえれば、乳児へのワクチン接種により、家族への自然感染リス クが低下する可能性も考えられる。このように、ロタウイルスの自然感染のリスクを考慮して、

ワクチンウイルスの水平伝播のリスクを評価する必要がある。

以上の点を総合すると、V260はロタウイルス胃腸炎の予防が可能なワクチンであり、疾病負担 軽減、医療経済的負担の軽減及び医療従事者の負担軽減も期待されることから高いベネフィット を有しているものと考える。したがって、V260のベネフィットは、臨床上問題となるリスクを大 きく上回るものと考え、本剤は、本邦におけるロタウイルス胃腸炎の予防に対する医療上のニー ズに応えうるワクチンであると判断した。

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