2.5 臨床に関する概括評価(臨床概括評価)
2.5.6 ベネフィットとリスクに関する結論
BLM-240はイソフルランのα-炭素に結合した塩素をフッ素と置換し,炭素と結合力の強いフッ
素のみでハロゲン化された化学構造を持つことから,脱ハロゲン化が起こりにくく,優れた生体 内安定性を有する.また,BLM-240は血液/ガス分配係数が他のハロゲン化吸入麻酔薬より小さく,
麻酔導入及び麻酔からの覚醒/回復が速やかであるいという特徴を有している.
(1) ベネフィット
1) 麻酔からの迅速な覚醒/回復が可能な吸入麻酔薬である
国内試験003において,N2O併用下でのBLM-240群(111例)とセボフルラン群(50例)にお ける抜管までに要した時間の比較では,BLM-240群では10.1±4.6分(平均値±標準偏差,以下同 じ),セボフルラン群では14.8±8.4分であり,麻酔からの覚醒/回復時間について,BLM-240のセ ボフルランとの非劣性が検証された.
2) 優れた麻酔深度調節性を有する吸入麻酔薬である
国内試験003において,BLM-240群166例における麻酔維持中の麻酔薬としての有効率は98.8%
(164/166例)であり,BLM-240麻酔維持中に麻酔深度が調整できない又は有害事象の発現等に
より治験を中止した症例は,1例も報告なく,全例において支障なく手術が施行された.
また,海外の文献報告5 4-24では,血圧が麻酔薬導入前の血圧(収縮期血圧が基準の10%以内)
に戻るまでの時間において,BLM-240群(29例)は約2分となり,イソフルラン群(30例)の 約6分と比較し,有意に速かった(p=0.011, Mann Whitney-U test).また,BLM-240群はイソフ ルラン群よりも,術中の外科的刺激による循環動態の変化を速やかにコントロールすることが可 能であったとしている.
以上のことから,BLM-240は迅速に適切な麻酔深度が調節可能な吸入麻酔薬であることが示唆 されている.
3) 生体内での代謝が非常に少ない吸入麻酔薬である
海外試験03では,健康成人13例を対象とし,BLM-240長時間麻酔による代謝について検討す るため,O2又は60% N2O併用下でBLM-240 6%(0.83 MAC),9%(1.24 MAC)及び12%(1.66 MAC)
を投与した.その結果,BLM-240投与後,血清及び尿中への僅かなTFAの排泄が認められたが,
イソフルラン及びハロタンで報告されているTFA値と比較し僅かであった.
また,国内試験001において,手術患者6例を対象とし,BLM-240を6.0% 30分投与後の血清 及び尿中の無機フッ素イオン濃度/TFA濃度を測定した結果,いずれも定量下限未満又は尿中に僅 かに検出されたのみであった.
これらの成績から,BLM-240は,体内でほとんど代謝されないことが示された.
4) ソーダライム(二酸化炭素吸収剤)との反応がない吸入麻酔薬である
セボフルランは,呼吸回路に使用されるソーダライムとの反応により,腎毒性を有する Compound A[Fluoromethyl-2,2-difluoro-1-(trifluoromethyl)vinyl ether]を産生する.高濃度の
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Compound A暴露による腎毒性は動物では報告されているが5 4-5,これまでヒトにおいてセボフル
ランによる腎毒性の報告は稀である5 4-6.ただし,セボフルランの米国での添付文書には,
Compound Aの暴露を最小限にするため,1 L/分以下の低流量での使用を推奨していない.
一方,ソーダライム(水分15%)における安定性について,BLM-240,セボフルラン,イソフ ルラン及びハロタンを比較した.その結果,BLM-240の分解物の割合は他の吸入麻酔薬と比較し て,最も低かった5 4-25.
また,乾燥したソーダライムにおけるBLM-240の安定性試験では,フルオロホルムが検出され たのみであり,Compound A等他の分解物は検出されなかった.なお,本来,フルオロホルムは毒 性のない物質とされている5 4-26.
5) 亜酸化窒素(N2O)の併用を必要とせず麻酔維持が可能な吸入麻酔薬である
国内試験003において,BLM-240・O2群55例の麻酔薬としての有効性(機能)は98.2%(54/55 例)が有効であった.また,抜管までの時間は,BLM-240・O2群では9.3±5.7分(平均値±標準偏 差)であり,BLM-240・N2O群(10.1±4.6分)と比較し短い傾向が認められた.安全性について もBLM-240・N2O群では111例中69例(62.2%)に134件,BLM-240・O2群55例中34例(61.8%) に61件の副作用が発現したが,大きな違いはなかった.
以上のように,BLM-240はN2O併用の有無にかかわらず,吸入麻酔薬として有効で安全である ことが示唆された.
一方,セボフルランを含む国内にて使用可能なすべての吸入麻酔薬は,麻酔維持においてはN2O 併用下での国内臨床試験成績しか得られておらず,麻酔維持中の使用はN2O併用下での使用に承 認上は限定されている.
このため,BLM-240は国内で唯一,N2O併用を必要としない麻酔維持時の国内臨床試験成績が 得られている吸入麻酔薬となる.このことは,温室効果ガスの要因の一つであるN2O排出を抑制 し,地球温暖化防止に寄与すると共に,ビタミンB12欠乏症の患者,造血機能障害のある患者,
耳管閉塞・気胸・腸閉塞・気脳症等の体内に閉鎖腔のある患者等,本来であればN2Oを併用すべ きでない患者においても安全に全身麻酔を施行することが可能となる.
(2) リスク
1) 気道刺激性が強く麻酔導入には適さない
BLM-240により麻酔導入を実施した海外試験10B,10E,10J,10H,10K仏及び10K英では,
息こらえ,喉頭痙攣,咳嗽,分泌物等の気道刺激に関連した呼吸反射が高頻度に発現した.また,
TerRietらは2MACのBLM-240,セボフルラン及びイソフルランをマスクにより60秒間吸入した
結果,咳嗽,気道刺激に関連した呼吸反射の発現頻度はそれぞれ74.0(20/27),3.7(1/27)及び
40.7%(11/27例)であったと報告している5 4-3.また,小児を対象とした海外試験12A,12B1及
び12Cにおいて,BLM-240を麻酔導入に使用したとき,咳嗽,喉頭痙攣,分泌物等の呼吸器系有 害事象が高頻度に発現した.小児を対象とした海外試験32-002では,マスク又はラリンゲルマス
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ク下でBLM-240を用いて麻酔維持を行ったが,同様に呼吸器系有害事象が高頻度に発現した.こ
のように海外では,BLM-240は麻酔導入時に気道刺激に関連した症状を高頻度に発現することが 報告されており,北米では麻酔導入にはほとんど用いられていない5 4-4.
(3) まとめ
全身麻酔では,手術中は手術の侵襲度等,様々な外的要因により影響を受けるため,手術施行 に支障がないように速やかに麻酔深度を調節する必要がある.また,手術後は早期に麻酔からの 覚醒/回復することが求められる.麻酔からの迅速な覚醒/回復は,生体防御反応の早期回復につな がるため,予後管理上の重要な要因と考えられるからである.
BLM-240は,腎・肝臓器等に移行しにくく,生体内での代謝率が低い.また,血液溶解性を示
す血液/ガス分配係数が,他のハロゲン化吸入麻酔薬より小さいため,麻酔からの覚醒/回復も迅速 であるとされており5 4-27,今回,本邦で実施された臨床試験においても,このようなBLM-240の 特徴が検証された.
BLM-240のリスクとしては,麻酔導入時に高頻度に呼吸器系の有害事象(呼吸反射)が認めら
れたことである.
このため,本邦ではBLM-240の効能・効果及び用法・用量を「全身麻酔における維持」のみと することで,このリスクを回避することとした.また,静脈路が確保されている患者に静脈麻酔 薬で麻酔導入し,その後,吸入麻酔薬に切り替えて麻酔維持を行う方法は,本邦で通常行われて いる医療行為であるため,BLM-240が麻酔維持のみに使用が限定されることで,医療現場に不利 益をもたらすことはないと考える.また,海外において16年以上にわたり1億件以上の手術に使 用された経験があり,その有効性及び安全性は実証されている.
以上のことから,BLM-240は海外と同様に本邦においても全身麻酔薬として,その有用性が期 待される.
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