小林佳澄 59) 2005 転倒予防効果の高い ” リズム運動 ” の応用 高齢者を対象としたリズム運動を行い全身の筋肉,バランス訓練をすること リズム運動のパターンと音楽を選択していくことが重要である 指導として,運動の細部にこだわらずに全身を動かすことを伝えていく必要がある
3) プログラム
(1)実施期間,頻度
「音楽あり+動き群」,「音楽なし+動き群」ともに,5か月間,2週に1回,1回60分,
全10回とし,B町内にある5会場で実施した.なお,会場は歩いて参加できることを目安に しており,それぞれ20分以内に位置するように教室の場所を設定した67).開催期間は,平 成26年7月から同年11月までとした.質問紙調査や体力測定は,教室開始前の平成26年6月 と教室終了後の12月の2回実施した.また,教室終了後は,運動の継続状況を確認するため のフォローアップ期間を平成26年12月から平成27年4月まで設けた.
(2)プログラムの概要
前述の神楽体操を利用し,「音楽あり」「音楽なし」の2群で実施した.いずれの群も 動作順序は,まず「遅い動き」,次に「速い動き」,最後に「遅い動き」とした. 「音楽 あり+動き群」の体操実施時は,参加者の自覚運動強度が「楽である」になるように配慮 した.また,運動指導者は,前方で運動のデモンストレーションを行いながら,参加者に
は運動の細部の出来栄えには,あまりこだわらずに身体を大きく動かすことや音のテンポ と体操の動きが一致していなくても参加者が身体を動かし続けることを指示した.
「音楽なし+動き群」では,「音楽あり+動き群」と同様の手順としたが,神楽の音楽は 用いなかった.
また,参加者には筆者ら手作りの出席カードと運動取組カレンダー(以下,運動ダイアリ ー)を配布し,月ごとのカレンダー表示の運動ダイアリーには30分以上運動した日9)に丸印 の記号を記すよう依頼した(資料7).毎回の教室開始前あるいは教室終了後に,自宅での運 動の取組や健康状態に関して,保健師・看護師または作業療法士,理学療法士のいずれか が聴取した.
加えて,両群ともに自宅で神楽体操に取り組めるよう体操の図入りパンフを配布し,さ らに「音楽あり+動き群」には曲が入力されたCD,カセットテープなどを追加配布した.
4) 評価・測定項目
測定では,運動習慣,社会的役割,外出頻度,健康関連QOLを質問紙によって聴取し,
その後運動機能である体力測定を行った.運動習慣では,国民健康・栄養調査の基準9)が 示す条件から「1年間の運動継続をおこなっていること」を除いた「1回30分以上,週に2 回以上」の運動を実施している者を「運動習慣あり」,それ以外は「運動習慣なし」に区 分した.外出頻度では,1ヶ月の間に屋外に用事があり外出した場合とし,ごみ集積場への ゴミ捨てや新聞の受け取りなど短時間な活動 ,本教室への参加回数は除外した.また,1 日の間に複数回出掛けた場合においても1回として算定した.
社会的役割では,老研式活動能力指標113)を用いた(資料8).これはLawtonの理論による 活動能力の体系に依拠しており,古谷野ら114,115)によって開発された13項目の多次元尺度 である.手段的自立,知的能動性,社会的役割の3つの活動能力を測定するものであり,「は い」,「いいえ」の回答を求める.肯定的な回答に対して得点の範囲は0-13点まであり,
得点が高いほど活動能力が高いことを示している.質問1-5は手段的ADL,質問6-9は知的
能動性,質問10-13は社会的役割に関する項目となる.本尺度は社会的役割の水準を含む貴 重な測度であり,在宅高齢者の生活機能の評価に適しているとされる.
健康関連QOLはSF36v273-75)を用いて測定し,下位尺度と3コンポーネントサマリーを質問
紙にて聴取した.使用するに当たり版権元に利用申請・許諾を得ている.
運動機能を調査する体力測定では,握力,開眼片足立ち,手伸ばしテスト,長坐位体前 屈,Timed Up & Go test(以下,TUG),5m最大歩行を測定した(資料9).握力は,竹井機器工 業のデジタル握力計を用いて2回測定し,大きい値を代表値とした.また,握力は上肢筋力 のみならず下肢筋力との関連が明らかになっている116,117).
バランスに関して,開眼片足立ちは重心位置を一定にする静的バランステストおよび重 心を前方に移動しながら動的バランスを測定する手伸ばしテストの2種類を採用した118). 開眼片足立ちは60秒を上限値とし,ストップウォッチを用いて2回測定し,大きい値を代表 値とした.長坐位体前屈は柔軟性を示し,行動を調整する能力の一つとされており119),竹 井機器工業の市販測定器を用いてベッド上で測定した.TUGは,参加者が椅子座位から3m 前方のポールを回って着座するまでの時間 とし,ストップウォッチを用いて,最大努力下 で2回測定し,最速値を代表値とした.また,TUGは,全身の筋力やバランスなど複合的 な動作課題のパフォーマンス測定が可能である120).5m最大歩行は,最大歩行速度を測定 するため,歩行測定開始地点の前後3mを助走と収束距離とし,歩行開始3mと8mの地点に テープで目印を付け,11mの直線歩行路を参加者が最大努力下の歩行を2回行い,最速値を 代表値とした.歩行能力の加齢変化には体力の低下が関連しており,多くの体力テスト項 目の成績が歩行速度と高い相関を示している121,122).なお,測定開始前には口頭説明と練 習を行い理解していることを確かめた.
5) 統計解析
教室参加者の属性および効果を比較するために,65歳以上74歳以下の前期高齢者,75歳 以上の後期高齢者にそれぞれ区分した.「音楽あり+動き群」と「音楽なし+動き群」の
性別の該当者割合の差はカイ二乗検定を行い,年齢については対応のないt検定を行った
(表15,16).教室介入の違いによる運動機能や健康関連QOL,社会的役割の効果・影響を
検討するため,それぞれの群内比較として介入前後の体力測定,SF36v2は対応のあるt検定,
また外出頻度,交流頻度,老研式活動能力指標はMann-WhitneyのU検定を行った.さらに,
群間比較においては,それぞれの群の介入後の結果を用いて,体力測定,SF36v2は対応の ないt検定,その他の項目はMann-WhitneyのU検定を行った 123,124).また,教室参加人数や 運動実施率はカイ二乗検定,運動習慣はMcNemar検定を行った101).統計解析はIBM SPSS
statistics 22.0を用いて行い,両側検定にて危険率5%を有意水準とした.
6) 倫理配慮
本研究の実施にあたり,参加者には文書及び口頭にて説明を行い,参加・不参加の自由,
また参加途中の中止においても不利益がないこと,個人情報の保護は厳重に守ることを伝 え,参加申込書の記入・申請をもって同意とみなした.なお,本研究の実施に当たり,国 際医療福祉大学の倫理承認(14-Io-10)およびA市B町個人情報保護に関する条例の審査を受 け実施した.
第 3節 結果
第1項 対象者属性
募集に応じたのは320人で,対象者は実験群「音楽あり+動き群」102人,「音楽なし+
動き群」118人,対照群100人に割り付けた.これを図4に示した.しかし,本研究の中途で 対照群の半数近い41人が神楽体操の介入希望による参加辞退があった.対照群の人数変化 から属性の該当者割合に有意差が生じ,今後の結果に影響を及ぼす可能性が考えられ1 25 ), また新たな参加者の募集も難しかったため,対照群を本研究から除外し,「音楽あり+動 き群」および「音楽なし+動き群」の2群による分析とした.その後,介入時期に「音楽あ り+動き群」から2人の脱落(入院1人,家事都合1人),「音楽なし+動き群」から3人の脱
落(入院2人,病状悪化1人)が生じた.質問紙や体力測定における評価の欠損値はなかった ことから,最終的な解析の対象者は「音楽あり+動き群」100人,「音楽なし+動き群」115 人となった.前期高齢者の「音楽あり+動き群」,「音楽なし+動き群」 のそれぞれの平
均年齢は68.8±3.1歳,68.2±3.2歳,性別は男性14人,21人,女性52人,38人であった.後
期高齢者では,同様にそれぞれ80.0±3.6歳, 80.9±4.4歳,性別では,男性12人,22人,女 性22人,34人であった.表15,16に示したとおり,年齢や性別に有意差は認めなかった.
P値 性別(人(%)† 男性 14 (11.2) 21 (16.8)
女性 52 (41.6) 38 (30.4)
平均±標準偏差(歳)§ .286
*:P<.05,†:χ2検定,§:対応のないt‐test
表15 参加者のうち前期高齢者の特徴
音楽なし+動き群 (n=59)
68.8±3.1 68.2±3.2
音楽あり+動き群 (n=66)
.074
P値
性別(人(%)† 男性 12 (13.3) 22 (24.5)
女性 22 (24.5) 34 (37.7)
平均±標準偏差(歳)§ .705
*:P<.05,†:χ2検定,§:対応のないt‐test
表16 参加者のうち後期高齢者の特徴 音楽あり+動き群
(n=34)
音楽なし+動き群 (n=56)
.271
80.0±3.6 80.9±4.4
第2項 教室介入内容の違いが体力測定・健康関連QOL・外出頻度・交流頻度・社会 的役割に及ぼす影響の検討
前期高齢者の「音楽あり+動き群」の群内比較において,体力測定項目,社会交流,老 研式活動能力指標のいずれも有意差が認められなかった.他方で健康関連QOLのSF36v2の 項目では,RP,BP,GH,VT,RE,MH,3コンポーネントサマリーのPCS,RCSに介入前 と比べ介入後に有意な改善が認められた.同様に「音楽なし+動き群」では,社会交流の 外出頻度,交流頻度,SF36v2のPF,RP,GH,RE,PCSの介入後に有意な改善が認められ
た.また,それぞれの群の介入後の測定値を用いた群間比較では,外出頻度,交流頻度,
SF,RE,RCSに有意差を認め,いずれも「音楽あり+動き群」の数値が高かった.
後期高齢者の「音楽あり+動き群」の群内比較において,5m最大歩行,3コンポーネン トサマリーのPCSに介入前と比べ介入後に有意な改善を認めた.「音楽なし+動き群」で は,開眼片足立ち,TUG,5m最大歩行,外出頻度,交流頻度,SF,PCSのいずれも介入後 に有意な改善を認めた.
第3項 教室介入内容と性別による参加人数の推移の検討
それぞれの介入の違いによる教室種別や性別の参加人数の推移について,男性または女 性の「音楽あり+動き群」および「音楽なし+動き群」ともに有意差は認めなかった(それ ぞれP=.438,P=.358,P=.348)が,一方でいずれの教室や性別においても参加率がほぼ90%
を超えており,良好な成績であった.
第4項 教室介入内容と性別による自宅運動実施率の検討
介入の違いによる教室や性別の参加人数の推移について,介入前の「音楽あり+動き群」
および「音楽なし+動き群」の運動実施率はそれぞれ5.6%(1人当たり運動実施日数1.6日),
7.9%(同2.4日)であったが,教室終了時には24.7%(同7.4日),22.2%(同6.6日)と運動実施率 が増加しており,その後のフォロー期間においても徐々に増え29.9%(同8.9日),25.0%(同 7.5日)となり有意に増加を示した(P<.001).