第 3 章 フェルミガンマ線衛星のカロリーメータ単独解析の開発 32
3.4 モンテカルロデータによる最適化
3.4.1 有効なパラメータの変数の選択
多変量解析と Boosted Decision Tree (BDT)法 についてはイントロダクションで述べ た。ではどのような変数を投入するのが効果的だろうか。ここでは主要なパラメータをい くつか紹介する。
Acd2VetoSigmaHit 2.4.1で述べたように、ACDは荷電粒子バックグラウンドを排除 する能力があるが実際にはガンマ線イベントであっても ACD をトリガーする事がある。
Acd2VetoSigmaHit はCALが観測したイベントに関連付けられるACD信号が存在する かどうかを表すパラメータである。CAL で見つかった飛跡を逆にたどることで、もしそ のイベントに対応する ACD信号があるとすればどのタイルか、またそこで落とされるエ ネルギーがどれほどかは推定できる。この推定は検出器と粒子の相互作用の不定性によっ ていくらかの広がりを持ち、各タイル、エネルギー値に対する確率分布関数のようなもの が得られる。そうすると、実際に測定された ACD信号が CALイベントからの予測と比 べて位置とエネルギーの点から見てどれほど逸脱しているか評価でき、両者が関連したも のである確率も得られるわけである。確率は偏差で表され、0σならほぼ確実に関係して おり、5σなら無関係もしくはACD信号無しということになる。イベントの種別による違 いを図3.2に示した。これはモンテカルロシミュレーションによって生成されたガンマ線、
ハドロン、レプトンそれぞれのAcd2VetoSigmaHitの対数をとったもののヒストグラムで ある。無限小を避けるためAcd2VetoSigmaHit=0 には-4の値が充てられており、バック グラウンドである可能性が高い事を示している。
Shower transverse size
1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2
0 0.01 0.02 0.03 0.04 0.05 0.06 0.07
MC CalOnly event data sets Leptons Hadrons Gammas
図3.3: Cal1TransRmsの対数をとったもののヒストグラム。縦軸は正規化されている。
Cal1TransRms ACD には隙間もあり、バックグラウンドをすべて洗い出す事は出来 ない。そこで CAL から得られるシャワーのトポロジーの違いを用いる。陽子などが作 るハドロンシャワーがガンマ線が作る電磁シャワーと顕著に異なる点の一つとして、シャ ワーの軸に対して横方向の分布が大きい事が挙げられる。それを表すパラメータである Cal1TransRms のヒストグラムを図3.3に示した。ハドロンはガンマ線よりシャワーの幅 が広い事がはっきり見て取れる。一方、レプトンの分布はガンマ線と完全に一致してい る。これは電子・陽電子もガンマ線と同じく電磁シャワーを作るためで、他の CAL のパ ラメータでもほぼ同様である。電子・陽電子を排除するには ACDの情報に依らなければ ならない。
CalELayerCorrInitialRatio 以上の2つは通常の解析でも使われてきたパラメータで あるが、新しいパラメータも幾つか考案した。その一つが CalELayerCorrInitialRatioで ある。シャワーの軸に沿った方向の発達を考えると、ガンマ線による電磁シャワーではシャ ワーの始めはあまりエネルギーを落とさず検出器中を進むうちに発達するのに対して、ハ ドロンシャワーでは比較的変化は小さい。この違いを捉えれば識別に役立ちそうである。
前章で説明したようにCALは8層から成っており、それぞれの層に落とされたエネルギー の量がパラメータに入っている。そこで粒子が入射した層のエネルギーの、CAL全体の エネルギー(補正をかけたもの)に対する比を CalELayerCorrInitialRatioとして定義し た。ガンマ、ハドロン、レプトンのヒストグラムを比較すると図3.4のようになる。
多変量解析に使用した主なその他のパラメータは表3.2に掲げた。性能向上にはガンマ 線とバックグラウンドをよく分離するパラメータを選ぶ必要がある。TMVAはテストを 行うと使用したパラメータ重要性を順位づけして出力する機能を備えており、これを参考 にパラメータの差し替えを行った。ただし、この順位はパラメータの組み合わせによって 大きく変動するため、パラメータ同士の相関も考慮しつつ組み合わせの候補を絞り込み、
最後は試行錯誤を繰り返して決定した。
表 3.2: 多変量解析に使用した主なパラメータ変数。縦方向はシャワーの軸の向きを意味 し、横方向はそれと直角な向き。また、CALには第0層があるため最後は第7層である。
名前 説明
CalTrSizeCalT95 エネルギーの関数化したシャワーの横サイズ
Cal1TransRms CAL第1クラスターの横方向分布のRMS
CalEdgeEnergy エネルギー重心がCALモジュールの外縁部にある結晶の生
エネルギーの合計(CALをACDのように使う事を意図して いる)
Acd2TileEnergyRatio ACDタイルのエネルギーのイベント全体のエネルギーに対す
る比
CalBkHalfRatio CAL後半部のエネルギーのCAL全体のエネルギーに対する
比
CalNewCfpCalSelChiSq 飛跡から 100 mm 以内で計算されたシャワー形状に対する フィットの χ2
Acd2VetoCount ACDが発した否定信号の数
Acd2Cal1VetoSigmaHit 最小電離粒子を仮定して飛跡から予測されるACD信号の位
置、エネルギーと実際との偏差
Cal1MomNumCoreXtalsFract CALでヒットした点のうちシャワーの中心部分に位置してい るものの割合
CalELayerCorrInitialRatio CALに粒子が入射した最初の層のエネルギーのCAL全体の エネルギーに対する比
CalELayer34afterInitialRatio CALに粒子が入射した最初の層のエネルギーの、その3層後 ろと4層後ろのエネルギーの和に対する比
CalELayer74Ratio CALの第4層と第7層のエネルギーの比
CalNewCfpCalTmax 縦方向の分布が最大値となる場所
Acd2Cal1Energy15 CAL第1クラスターの軸から15◦以内のACDのエネルギー
Cal1FitChiSquare CAL第1クラスターのフィッティングの χ2
Magnitude of shower evolution 1 1.2 1.4 1.6 1.8 2 2.2 2.4 2.6 2.8 3 0.002
0.004 0.006 0.008 0.01 0.012 0.014 0.016 0.018 0.02
0.022 MC CalOnly event data sets
Leptons Hadrons Gammas
図 3.4: CalELayerCorrInitialRatioの対数をとったもののヒストグラム。縦軸は正規化さ れている。