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第 5 章 CTA 大口径望遠鏡光電子増倍管の較正 64

5.2 ゲインの最適化

印加電圧を上げるほどパルス幅が短くなる一方、ゲインは増加する。そのため、ゲイン を4万に保ちつつ印加電圧を上げてパルス幅を短くするには同電圧でのゲインは下げなく てはならない。その方法として以下の3つが提案された。

1. 最終段ダイノードとアノード間の短絡 2. エイジング

3. プリアンプにおける電流分割

これらの方法のうちどれが最も適当か、実際に試験を行い、以下の観点から評価した。

適切な幅でゲインが下がるか

波形などに悪影響がないか

PMTに対して現実的な時間で施せるか

最終的に 3.のプリアンプにおける電流分割を採用することとした。それぞれの方法と、決 定に至る過程を以下に述べる。

5.2.1 最終段ダイノードとアノード間の短絡

方法 図5.2のように最終段ダイノードとアノードから延びるピンを短絡することにより 実効的なPMTの段数を1段減らし、ゲインを低下させる。

図5.2: 短絡する箇所を青線で回路図に示した。また赤い×印の所で電源から切り離した。

図5.3: 実際にピンを短絡した PMTの写真。

テスト 元々ほぼ同じゲインであった PMT ZQ3932 と ZQ3672 のうち ZQ3672 の最終 段ダイノードとアノードのピンを半田付けにより短絡した。その様子が図5.3である。そ の結果、図5.4のようにゲイン vs. 印加電圧曲線に差が現れた。ZQ3672 の動作電圧は ZQ3932 よりも210 V 上昇した。他の数本のPMT でも試験したところ、上昇幅は200

-300 V ほどであった。一方、動作電圧での波形の変化を確認したところ図5.5に示したよ

うにピーク後に顕著な悪化が見られた。またそれに伴って、FWHMも3.7 nsと短絡前か ら 0.3 nsしか短くならず、要求の 3 nsを満たしていない事が分かった。

結論 波形に悪影響があり、これを解決する必要が生じる。また動作電圧の上昇幅の細か い調整が利かない。以上から採用しない。

図 5.4: 元々ほぼ同じゲインであった PMT ZQ3932と ZQ3672のうち ZQ3672を短絡し た後の両者のゲインvs. 印加電圧曲線。縦軸は電荷量だがゲインに相当し、破線がゲイン 4万を示す。

図5.5: 短絡したPMT の動作電圧での波形。

図5.6: エイジングによるゲイン低下をグラフにしたもの。開始時のゲインを100%として いる。

5.2.2 エイジング

方法 PMTには使用しているうちにゲインが低下していくエイジングの現象がある。こ れを意図的に引き起こす。

テスト 700 V を印加したPMTに光を照射し、25日間かけて330 Cの電荷を流したと ころ、ゲインは約20%低下した(図5.6)。これは動作電圧にすると 20-30 V程度の上昇 である。

結論 1000本以上の PMTの動作電圧を、ものよっては100 V以上上昇させなければな らない事を考慮すると、時間がかかりすぎるため採用しない。

5.2.3 プリアンプにおける電流分割

方法 PMTから出力された信号電流を、抵抗を並列に配置することで適当な比に分割、

以降片方のみを用いることでゲインを落とす方法。5.7の左がPMTとPACTA(ASIC)の 間の元々の回路図であるが、設計を変更して右のように抵抗を並列に挿入する。図の左の 抵抗を通る信号電流は捨てられ、PACTAに流れる電流は小さくなる。この方法であれば 抵抗の比を変えることで減衰の倍率を加減できる。図にはゲインを ファクター3.54 で減 衰させる場合、括弧内にファクター2.00の場合、それぞれの抵抗の組み合わせを示した。

テスト 847 V と最も動作電圧の低い PMT を選んでゲインが 3.5分の1 になるよう

PACAT に信号分割を施した。その結果、同じゲインを与える電圧は約160 V 上がって

1006 V となった。前後の波形を図5.8に示した。FWHM の平均値は 3.57 nsから 2.89

27 Ω

15 kΩ PACTA 23 Ω

GND GND

PMT 154 Ω

(76.8 Ω)

69.8 Ω(100 Ω) 15 kΩ PACTA 23 Ω

GND GND GND

PMT

Original Factor 3.54 (2.00)

attenuation

図5.7: PMT-PACTA間の回路図。左は信号分割の設計変更をしていないもの、右がゲイ

ンが 3.5(2.0)分の1になるように変更したもの。

図5.8: 信号分割を施した前後の1イベントの波形を示した。

nsとなり、要求を満たす値となった。また、波形の悪化も特に見られない。

結論 落とすゲインの幅を比較的自由に決めることができ、波形への悪影響もない。また、

PACTA基板の設計を変更するだけで済むため、時間や手間もかからない。以上の理由か

らこの方法を採用した。

5.2.4 最適化の計画

PMT R11920-100 のゲインvs. 印加電圧曲線は、

Gain=a

(V 350 8

)b/7

(5.1)

でフィッティングできる。350はツェナーダイオードにより第1段ダイノードにかけられ ている一定電圧である。HPKから提供されたデータシートにある動作電圧VN と各PMT に適用した減衰ファクターAをこの式にあてはめると、

Vop=A1/b(VN 350) + 350 (5.2) を得て調整後の動作電圧Vopを計算できる。PACTA基板の量産発注前に、納品されてい たPMT R11290-100数本について測定した結果をもとに指数b= 4.83 を仮定し、以下の ようなゲイン最適化の計画を立てた。PACTA基板は減衰ファクターが 3.5、2.0、1.0の 3種類を発注する。この3種類 をHPK のデータシート中の動作電圧に基づき表5.1のよ うに各PMTに割り当てる。最適化後の動作電圧の分布は、図5.9のように変化すると予

表5.1: 信号分割によるゲイン最適化の計画 減衰ファクター 3.5 2.0 1.0 データシートによる動作電圧 - 920 920 - 990 990

-本数 1244 770 13

想した。ほとんどの PMTの動作電圧が 1000 V以上となりパルス幅の要求 3 ns をクリ アすると考えられる。また、動作電圧の分布範囲は 990 - 1100 Vの110 V となり最適化 前の 850 - 1022 V の172 V より狭くできる。実際の PACTA基板 のPMT への取り付

けは CTA-Japanコラボレーションのメンバーが半田付けにより行った。