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バリュー投資――バリュー株効果と小型株効果

ドキュメント内 証券投資の理論史研究 (ページ 81-95)

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第Ⅸ章 バリュー投資――バリュー株効果と小型株効果

近年の行動ファイナンス研究、とりわけ裁定不全アプローチの先駆的研究は、証券市場 におけるアノマリー(効率的市場仮説では説明できない変則的事象)の発見に始まる。本 章では、バリュー投資の優位性、すなわちバリュー株効果と小型株効果に関する先駆的・

代表的研究を考察し、この潮流の理論史を考察すると同時に、現実世界の非効率的な証券 市場における株式投資にとって有用なエビデンスを整理する。

第1節においてBasu (1977) に始まるアノマリー研究を考察する。こうしたMPTの枠 内で行われたアノマリー研究と、近年の行動ファイナンスの裁定不全アプローチは交錯し ていくのである。第2節では、バリュー株とグロース株を定義するために必要な株価指標 を考察する。

第3節では、各国のバリュー株とグロース株のパフォーマンスに関するエビデンスを整 理する。これによってバリュー投資の優位性が明らかになる。さらに、バリュー投資の優 位性の解釈を巡る効率的市場派と行動ファイナンス派の対立を考察する。これは、バリュ ー投資の異常収益が市場ベータ以外のリスクによって説明されるリスク・プレミアムに過 ぎないと解釈するのか、あるいは、人間の認識の系統的な歪みや限定合理性に基づく証券 価格評価の系統的な誤りによってバリュー投資の異常収益がもたらされると考えるのか、

という対立である。

第4節では、バリュー対グロースの5年間保有ポートフォリオの収益率格差が循環的に 変動していることに注目し、バリュー株ポートフォリオが相対的に低迷する期間が循環的 に訪れていることを指摘する。つまり、バリュー投資戦略の優位性が低迷する期間が循環 的に訪れており、低迷の後にはバリュー投資戦略が有効に機能していることを指摘する。

本章では、こうした現象の解釈として、証券市場は必ずしも効率的ではないという立場か らひとつの試論を提示する。

1.アノマリーの発見

株価収益率(PER; price earnings ratio)とは、株価が1株当たり税引利益の何倍かを 示す指標である。一般にPERは低ければ低いほど、株価が割安であることを示す。反対 に、PERは高ければ高いほど、株価が割高であることを示す。

カナダのマクマスター大学の会計学者であるサンジョイ・バスーは、効率的市場仮説で は説明できないアノマリーの謎に光を当て、市場平均をアウトパフォームする投資戦略を

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探る先駆的研究を行った。1977年の「株価収益率と普通株の投資パフォーマンス:効率的 市場仮説の検証」と題する論文で、彼は次のように述べている。

「(効率的市場仮説の妥当性を疑問視する)集団は、株価収益率は証券の将来の投資パ フォーマンスの指標であると信じている。この株価レシオ仮説の支持者は、株価収益 率の低い証券はそれが高い証券をアウトパフォームすると主張する。つまり、証券価 格は歪められており、株価収益率はこのバイアスの指標である。株価収益率の低い株 式の収益率は、たとえ追加的な調査費用や取引費用や税金の差を調整した後でも、内 在するリスクを根拠とする部分を超えて、高くなる傾向があることが判明した。これ は効率的市場仮説とは矛盾するであろう。」1

一般に、PER等の株価指標によって割安とされる株式をバリュー株といい、割高とされ る株式をグロース株をという。Basu (1977) は、低PERの割安株に投資するバリュー投 資戦略が、通常収益を上回る異常収益をもたらすという「株価レシオ仮説」を提唱したの である。

Basu (1977) は、1956年8月から1971年10月までのNYSE上場の1400銘柄のデー タベースを用いた。各年末に750銘柄を取り出し、PERでランキングして五分位ポート フォリオを組成し、翌年度の各銘柄の配当を含む収益率等を計測する作業を1971年3月 分まで行った。表9-1から明らかなように、PERの低いポートフォリオほど株式収益率が 高く、PERの高いポートフォリオほど株式収益率が低い。さらに、PERの最も高いポー トフォリオのβ値が最も高く、その市場リスクが高いことがわかる(ベータ値が最低とな るのは第Ⅱ五分位)。

表9-1 株価収益率のランキングによる投資パフォーマンス 株価収益率の五分位 年平均収益率 β値(市場リスク)

第Ⅴ五分位(最高) 9.34% 1.1121 第Ⅴ五分位(ただし、利益が

マイナスの株式を除く) 9.55% 1.0579 第Ⅳ五分位 9.28% 1.0387 第Ⅲ五分位 11.65% 0.9678 第Ⅱ五分位 13.55% 0.9401 第Ⅰ五分位(最低) 16.30% 0.9866

(出所)Basu (1977) p.667, Table 1より抜粋。

ノースウェスタン大学のロルフ・バンズは、「普通株の株式収益と時価総額の関係」と題

1 Basu (1977) p.663. 括弧内は引用者。

第Ⅸ章 バリュー投資

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する1981年の論文で小型株効果(small firm effect)を指摘した2。小型株効果とは、時 価総額で測った企業サイズの小さい企業の株式には異常収益が認められるというものであ る。Banz (1981) は小型株の市場リスク調整後の収益率は平均すると大型株より大きいこ とを指摘し、これをサイズ効果(size effect)と呼んでいる。サイズが平均的な株式と大 型株との間には収益率の差はほとんど存在しないが、サイズ効果はサイズがきわめて小さ い株式に認められるという。Banz (1981) は、少なくとも過去40年間にサイズ効果が存 在したという事実は、CAPMが誤って特定化されていた証拠であると指摘している3

ペンシルバニア大学のドナルド・カイムは、小型株の異常収益は1月に発生し、その半 分以上は年初の5営業日に集中していることを指摘している4。南カリフォルニア大学のマ ーク・ラインガナムも同様の事実を指摘している5。Reinganum (1983) によれば、年初の 異常収益はタックス・ロス売り効果(tax-loss selling effect)と整合的であるが、それだ けでは説明できないという。タックス・ロス売りとは、投資家がキャピタル・ゲイン税を 節税するために、含み損の出ている持ち株を売却する行為である。こうした投資家は年末 にかけて含み損の出ている持ち株を売り進む。新年になると売り圧力がなくなり、あるい は買い戻されたりする。このため、タックス・ロス売り効果は一月効果の理由のひとつに 数えられる。

図9-1 小型株効果とPER効果

最小

最大

最高

最低 0%

5%

10%

15%

20%

25%

時価総額

PER

(出所)Basu (1983) p.144, Table 5の計数を年率化して筆者作成。

2 Banz (1981)

3 Reinganum (1981) も同様の指摘をしている。

4 Keim (1983)

5 Reinganum (1983)

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Reinganum (1981) は、小型株アノマリーはPERアノマリーを包摂すると指摘したが、

Basu (1983) は1963年から1979年までのリスク調整後の収益率を比較して、2つのアノ

マリーは併存すると主張した6。図9-1から、小型株効果とPER効果が併存していること が伺える。

なお、第Ⅷ章でも指摘したように、当時は今以上に効率的市場仮説が権勢を振るってい た時代である。その時代の米国の学会のトップジャーナルに、効率的市場仮説を公然と反 証した論文を掲載する際には、次のような「作法」があったことをセイラーは近著で明か している。

「70年代後半、会計学教授のサンジョイ・バスーが、バリュー投資を検証してグレア ムの戦略を全面的に支持する、実に見事な研究を行った。ところが、当時はその手の 論文を出版する際には、そうした結果になったことに対して謝罪するという屈辱を受 け入れなければいけなかった。バスーは論文をこう結んでいる。「結論として、今回調 査した 14 年間の証券価格のふるまいは、もしかすると、効率的市場仮説で完全には 記述できないかもしれない」。「すみませんでした」とはっきり謝罪するのはかろうじ て避けた形である。同じように、ユージン・ファーマのシカゴ大学での教え子の1人、

ロルフ・バンズが別のアノマリーを発見した。小型企業で構成されるポートフォリオ のリターンが大企業のポートフォリオのリターンを上回ったのだ。1981年に発表され た論文は、次のような謝罪めいた言葉で締めくくられている。「期間の長さを考えると、

市場の非効率性が原因である可能性は低く、むしろ価格形成モデルに瑕疵 があること を示す証拠となる」。平たく言うと、効率的市場仮説がまちがっていることはありえな いので、このモデルからは何かが抜け落ちているにちがいない、というわけである。」

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2.株価指標――RER,PCFR,PBR,配当利回り

株価指標①――PER,PCFRと企業価値評価

一般に、株価が割安の株式をバリュー株といい、投資家が高い利益成長を期待するがゆ えに株価が割高の株をグロース株あるいはグラマー株という。このとき株価の割安・割高 を測る尺度が必要となる。こうした尺度は株価指標と呼ばれる。本節の本項と次項では、

バリュー株とグロース株を定義するために必要な株価指標を考察する。

前述した PER は最も代表的な株価指標のひとつであり、株価が 1 株当たり税引利益

6 Haugen and Lakonishok (1988) p.43. 榊原他 (1998) 196頁。

7 Thaler (2015) p.221. 310-311頁。引用部分は遠藤真美の訳文であるが、人名の表記は引用者である 筆者が修正している。なお、引用文の中の「グレアムの戦略」とは、ベンジャミン・グレアムが提唱した バリュー投資戦略を指す。グレアムはプロの投資家であると同時に、コロンビア大学で証券分析の授業の 教鞭を執っていた。その教え子の一人が、伝説の投資家のウォーレン・バフェットである。

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