3ー1 シュタットウンバウ・オスト・プログラム
(1)背景
1990
年代の終わりになると、旧東ドイツは大きな都市問題を抱えていることが 明らかとなった。連邦政府の「旧東ドイツにおける住宅セクターの構造的変化」の 委員会の報告書は、旧東ドイツにおいて人口減少に伴う空き家の増加が深刻な問題 を生じさせていることを指摘した。特に、社会主義時代において多く建造されたパ ネル工法の集合住宅(以下、プラッテンバウ団地)において、多くの空き家が生じ、建物自体が管理されず廃墟化していき、また、下水道管理をはじめとした社会基盤 施設の維持管理が非効率になっている問題が顕在化してきた。
そして、その報告書の結果を踏まえてドイツ連邦政府は、都市計画的に縮小の問 題をコントロールし、ダメージを最小化させ、より持続可能なコミュニティに転化 させるために、縮小問題に直面する自治体を支援する連邦プログラムを策定するこ とにした。このプログラムは「シュタットウンバウ・オスト(
Stadtumbau Ost
)」と名付けられた。同プログラムは実質的には都市縮小プログラムであるが、シュタ ットウンバウは都市再生という意味である。カッセル大学教授のフランク・ルース ト氏は、「人々の抵抗を和らげるために実質的には都市縮小政策ではあるが、その ようなイメージを喚起させないシュタットウンバウという言葉をプログラムの名 称として使っている」と指摘するi。
このシュタットウンバウに「東」の意味のオストをつけた「シュタットウンバウ・
オスト・プログラム」iiは、ドイツ再統一後、旧東ドイツ地域で顕在化したさまざま な構造的問題に緊急かつ総合的に対応しようとしたプログラムである。同プログラ ムは2002年から、連邦・州政府の共同プログラムとして開始し、当初は2009年ま での8年間の時限プログラムとして制定された。2009年、連邦議会はこのプログラ ムの2010年から2016年までの継続を決定したiii。連邦政府はこの間、21億ユーロの 予算を計上し、開始以来、410以上の市町村の900地区で同事業が実施されている。
(
2
)目的その大きな目的は1)住宅供給を減らし(撤去し)、住宅会社を破産から守る、
2)
傷んでいる住宅ストックを保全する、3)都市の規模を調整させ、人口縮小に対応 させる、ことであるiv。
シュタットウンバウ・オストの連邦政府補助金を取得するためには、「都市計画 発展コンセプト」(
INSEK
もしくはISEK
、SEKO
など。その名称は自治体によって異 なる。マスタープランと英訳される場合もある)を策定することが必要であったv。「都市計画発展コンセプト」とは、法的拘束力をもたない、インフォーマルな自治 体が策定する都市計画である。それは、自治体の都市計画の指針(コンセプト)を 示すものであるが、その後、変更も可能である。
F
プランを策定するうえでは、都 市計画発展コンセプトを策定していることが前提条件となっている。それと同じ文脈で、シュタットウンバウ・オスト・プログラムの補助金を得るためにも、この都 市計画発展コンセプトがつくられていることが必要となったのである。そこでは、
都市全体においてどこを、そして、どのように縮小させるかのビジョンを検討して いることが求められ、そのコンセプトを具体化させるための
10
年以上の長期にわた る実行プログラムを考えている必要があった。そして、その実行プログラムがうま く機能するためには、役所、議会、住宅会社、住民などの関係者を積極的に関与さ せることが求められた。なぜなら、都市縮小政策を実践するうえでは、人々が都市 を縮小していくという現実を受け入れることが前提となるからである。そして、シュタットウンバウ・オストとして連邦政府に認められるための、企画 コンペが実施された。コンペ案が承認されるためには、以下の条件がしっかりと満 たされることが望まれた。
・
政治的に議論を重ねること・
経験的な知見に基づくこと・
エコロジカルに対処すること・
社会的にやさしいこと・
文化的に協調していること(
3
)内容シュタットウムバウ・オスト・プログラムは、次の
4
つの内容から構成されるvi。 更新(2002
年から)撤去(
2002
年から)都市のインフラストラクチャーの改修(
2006
年から)古い建物の改修および保全(2006年から)
これらの内容について概説する。
「更新(
Aufwertung
:Upgrading
)」は、歴史のある都心部など、その都市のア イデンティティに関わる地区に存在する重要な建物を改修・保全することや、利用 されなくなった工場や軍用地跡地を再利用したり、公共空間のリデザインや、社会 インフラの改善などに適用されたりする。実際の事業費としても、また計画を策定 するための費用などにも使用することができるが、この事業は自治体が主体的に行 うと考えられるために、費用の1
/3
を連邦政府が、1
/3
を州政府が、そして残りの1
/3
を自治体が負担することになるvii。もう一つの事業は「撤去(
Rückbau: Demolition
)」とよばれ、その内容は建物を 壊すことである。撤去は、その自治体の持続可能性を高めることを目的として実施 する。撤去は他に状況を改善させる選択肢がない時の最終手段として捉えられるべ きであるが、空き家の多い団地を撤去することで、供給過多の住宅市場を改善し、その都市全体の持続可能性が高まる場合は、その実施を検討すべき事業である。歴 史的な建物がこの事業で撤去させられないように、撤去対象の建物は
1919
年以降に 建設されたものに限られている。撤去は基本的には、住宅だけでなく地域暖房や上下水道のネットワークなどの社 会インフラも利用しないで済むように、それらのネットワークを含めた区画単位で
することが望ましいが、実際は、そう簡単には実施できない。これは住宅の撤去に は、社会的な問題やまた技術的な問題が関わってくるからである。したがって、区 画の中の一つもしくは少数の建物だけを撤去するという手法が広く行われたり、ま た、建物の骨格を残し、階数だけを低くする減築なども行われたりしている。この 事業は基本的には住宅会社が実施することになるので、全費用の
1
/2
を連邦政府が、1
/2
を州政府が負担する。市は一切、費用の負担をしなくてもよいviii。l
都市のインフラストラクチャーの改修(2006
年から)
2002
年から上記の2
つのプログラムを実施し始めたが、都市インフラも建物の 撤去、地区の更新に合わせて再構築させることが必要であることが明らかとなった。そこで、これら都市インフラ(地域暖房、上下水道等)の撤去、もしくは改修、さ らには幼稚園や学校などの改修や転用などに関しての費用もシュタットウンバ ウ・オスト・プログラムの中から捻出できるようにした。これは、自治体もしくは、
公共事業会社が実施するので、場合によっては上限
3
割で自治体が費用負担をする。l
古い建物の改修および保全(2006年から)このプログラムは基本的には「更新」でのメニューを古い建物に特化させること を目的として、つくられたものである。自治体に積極的に取り組ませることを意図 しているので、この事業の自治体負担はゼロである。
(
4
)補助対象シュタットウムバウ・オスト・プログラムの補助対象は、人口減少によって都市 機能が脆弱化している自治体である。その概要に関しては、ドイツ連邦政府のビル ディング・コード(§
171b BauGB
)に記されている。(
1
)シュタットウムバウ・オスト・プログラムの対象地区は、自治体がそれを定 義する。自治体は、本補助事業が適切に遂行できる地理的範囲を指定する。(
2
)(1
)で記した対象地区の選定をする判断は、自治体のシュタットウムバウの コンセプト、目的と方法論に基づき、しっかりと明記されることが必要である。(
3
)§137
ixと139
xが、その準備と遂行においては適用される。(
4
)§164a
と§164b
がシュタットウムバウ・オスト・プログラム対象地区に適用される。
§
164a
は、シュタットウムバウ・オストがカバーできる事業内容について次のよ うに解説している。(
1
)都市再生を素早く遂行するうえで、かつ十二分な内容を網羅するためにも、それを実践するための費用を補填することを目的にシュタットウムバウ・オスト・
プログラムの予算は使用される。また、これに関する他の補助金プログラムに関し ては、それぞれの法律に則って供される。
(