2.1 はじめに
1980年代以降、開発における人間に対する関心が理論的裏づけと共にさらに高まる[’「])。
人川を}∬視した開発は、「もう 一つの発展(an alternative development)」という考えに結実 し、従来の経済成長「E視の「ゆがんだ発展(maldevelopment)」に対して、内発性(endogenous)
K’ 1’1 1/1性(self-help)を強調する「内発的づ呑展(endogenous development)」でもあったfu人
間の生活を}巨視する発展戦%が、経済発展の人間的側面への関心をいっそう喚起し、社会 開発を促すことになった2ノ.
1960年代からタイの政府が行った急速な工業化政策に伴い「2)、雇用機会、生活水準の 向ビや便利さを求ダ)て多くの人々が農村部からバンコクへ流入するようになり、新たに都 市貧困層コミュニティが急増した.1960年は、361コミュニティであるのに対し、2004年 には、1,754コミュニティ13である.こうした都市部にみられる都市貧困層コミュニティ の増加の背景に住宅不足が指摘されたntこの問題を解消していくため、1973年には、国家 住宅公社(NHA:National Housing Authority)の設立し、公共集合住宅の建設を開始し、1970 年代後’ドから80年代にかけて、サイト・アンド・サービス(Site and Service)や土地分有 事業(Land sharing)などの特徴的な事業iを取り入れられたが、公共主導の限界により根本 的なスラム問題の解決には至らなかった(4}。こうした背景を踏まえ、1980年代後半には 都市貧困層コミュニティに住民組織やNGOが参加する仕組みが作られ、公共主導のハー
ド整備重視から、住民参加による住環境整備におけるマイクロクレジソトの導入にみられ るようなインセンティブを活かしたエンパワーメント・イネーブル政策へという転換が見
られた。
1990年代に入ると、インフラ整備や公共集合住宅建設などハード整備を行ってきたNHA に加え、都市コミュニティ開発事務局(UCDO)による貯蓄グループを対象とした小規模 無担保融資事業が開始された。その後2000年、UCDOは農村コミュニティの開発基金と 併合しコミュニティ組織開発機構(CODI)へと発展的に改組され、個々の貯蓄グループ形 成やコミュニティ支援から、ネットワーク化への支援に活動を拡大しており、住宅建設や 住環境整備、生活自立支援などに向けた資金の貸付を行い、各種の情報の提供、訓練プロ グラムへの参加の促進を支援している。また、この時期はタイでも社会開発や運動論が活 発化し、第7次国家経済社会開発計Ptti(1992-96年)では、「人間開発」という言葉が開発 計画の中に初出しており、政策目標に掲げられるようになった.また、この時期はバンコ ク拡大首都圏(周辺5県を含む)0)都市人パ増大が顕著になってきており、近年のコミュ ニティを対象とする政策の増大と並行して、スラム以外のコミュニティに対する行政的関
心も高まってきている3),、
そこで本章では、既往文献レビューを中心に、タイの都市貧困層コミュニティの概況お よび都市貧困政策の歴如’1勺背景を明らかにし、住民参加によるコミュニティ開発の可能1生 と課題について考察をする,,
2.2 タイにおける都市貧困層コミュニティの概況と課題
2.2.1 コミュニティ (チュムチョン)の定義
広辞苑によると、コミュニティとは、…定の地域に居住し、共属感情を持っ人々の集団 とされている、また、都市計画国際用語研究会編(2003)4‘によると、コミュニティは、
戊C同体(Commune)から派生した用語で、もともと共通の目的や利害を持っ組織・団体を 指すため、地域社会以外にもビジネス社会(Business Communitv)や国際社会(lntemational CommUnity)など、広く社会組織の意味で使われる、
マッキーヴァー(1917)は、コミュニティをある地域において営まれる「共同生活
(community life)」と』31定しており、 ’定の地域の中に共住することであり、生活の共同 を通して共通の社会的特徴を示すとしている.コミュニティから生まれる社会的特徴とし てマッキーヴァーは、社会的類似性(social likeness)、共通する社会的観念(common social idea)、共通の慣習(common custom)、共属感情(sense ofbelonging together)と類型をして おり、このような特徴をもつ共同生活の一定の地域をコミュニティと呼んでいる「’、この ように、コミュニティは住む人々が利害や目的を共にし、政治、経済、文化などにおいて 結びっいている社会である.また、高橋一一男(2008)は、コミュニティには同じ空間に住 んでいるといった「地域性」や、日本の伝統社会である農村の例を挙げ、畑や田んぼに水 を引き込むための水路の共有と管理、田植えや収穫の祭りなど村民に共通する利害や目的 を通して、「我々意識」を強く共有し「地域社会感情」があることを示している61。
日本ではコミュニティといった場合、主に市町村などの地区など線引きされた町内会の ような地域社会を意味するが、 ’方で国家や国際的な連帯も「共同体」あるいは「コミュ ニティ」と呼ばれる。地域を越えた共同体と区別して、地域住民の相互性を強調する場合、
地域コミュニティという、,地域コミュニティには、都市における共同体も含まれる。地域 nl民が生活する場所に関わり合いながら、 fl三民相互の交流が行われている地域社二会、ある いはそのような住民の集団を指す、、アジアの大都市では、都市貧困層が担う露店の営業、
廃品川収などを生業とした都市インフォーマル部門を、住民の自律的努力として評価し、
住民の生活保障の基盤を、彼等の居住するコミュニティに求めるケースもある7}。
倉田和四生(1985)1ま、村落社会と異なる都市社会について、直接接触による人間関係
はうすれ、機能化し丁段化していると示している.、したがって、そこでは村落社会の人間 関係の中に含丈れていた社会統制の機能はなく、都市社会に秩序を確、」/:し規範を作川させ るためには、都市社会の中になんらかの形で第1次的な人間関イ系を生み出し、人々を地域 コミュニティに結びつけ連帯性を回復しなければならないわけである8)ft
’方、本研究で対象としたタイの都市貧困層コミュニティは、登録制(S’であり、その 多くが都市部にある.これまで、農村の稲作における水管理に見られるような共同社会と
しての性格が、マイクロクレジソトにみられる講で形式的でルーズな組織を形成するとい った貯蓄グループ活動オcど、 ・部のコミュニティを除き、形を変えながら都市の中のコミ ュニティで構築されていることが見ることができる、このように共同社会の中で相互扶助 にkり住環境改善してきた経緯があり、本研究では」二記のような住民が主体となって住環 境整備を実施している都市貧困層コミュニティを対象としている、
タイにおけるコミュニティ(チュムチョン)の定義は、行政機関によって異なる(6)が、
バンコク都コミュニティ開発局(1993年設置)による1980年代以降のコミュニティの定 義は次0)通りである(表2-1)、
‘①公団住宅コミュニティ(ケハ・チュムチョン)
公団住宅コミュニティは、NHAが供給している公団住宅地であるが、 BMAがインフ ラ整備を行っている地区もあるL
②分譲住宅コミュニティ(チュムチョン・バーンチャソサン)
一般に、民間会社によって開発された分譲住宅地のことを指す。
③郊外コミュニティ(チュムチョン・チャーンムアン)
郊外にあるため住宅は密集していないが、インフラ整備が必要である、
④都市コミュニティ(チュムチョン・ムアン)
人口密集コミュニティと郊外コミュニティの中間の密度(L600㎡あたり15家屋未満)
の居住地である。
⑤人日密集コミュニティ(チュムチョン・エアット)
密集している状態で、居住環境が劣悪で最低でも1,600㎡あたり15家屋以Eの地域の こど、加えて、第1革:でも既述の通り、本研究で対象としている都市貧困層コミュニ ティはこの人口密集コミュニティを指しており、L600 nfあたり15家屋以ヒある居住 地である、,
加えて、コミュニティの借地契約状況(1998年時点)にっいては、民間所有地61%、公 川地25%、両者にまたがるもの14%である。本研究で対象としたバンコクのボンガイ地区 とソンクラー県のガオセン地区に政府の公用地にコミュニティが立地している、表2-2は、
1998年時点の借地契約状況を表したもので、約’卜数に近い48%のスラムにおいてなんらか の法的契約があるが、21%のスラムは不法占拠地区である。
表2-1バンコク都(BMA)によるコミュニティの分類
コミュニティの分類 居住環境の状況(定義)
① 公団住宅コミュニティ
ike-ha chumchon) NHAによるごみ収集や排水,道路整備あり
② 分譲住宅コミュニティimu-baan chatsan) 民間によるごみ収集や排水,道路整備あり
③ 郊外コミュニティ
ichumchon chanmuan) 郊外区で低密度だが居住環境整備が必要
④ 都市コミュニティ
ichumchon muan) 1ライ(1,600r㎡)あたり15軒に満たないもの
⑤ 人口密集コミュニティ
ichumchon eeat) 1ライ(t600㎡)あたり15軒以上が目安、居住環境が悪い
⑥ その他 上記以外でBMAがコミュニティと認めたもの
出典:松薗祐子(1999)、p.1369)、秦辰也(2004)、 p.17010)
表2-2都市貧困層コミュニティ(スラム)の借地状況(1998)
バンコク都 周辺県 大バンコク都
スラム地区 % スラム地区 % スラム地区 %
法的契約あり 494 48 174 42 668 46
法的契約なし 220 21 87 21 307 21
契約期限切れ
73 7 4 1 77 5不明 245 23 145 35 390 27
合計
輻032 100 410 100 1,442 100出典:新津晃一(1998)、p.261ii)
注:周辺県は、ノンタブリー、バトゥムタニ、サムットプラカーンの3県を示している。
大バンコク都は、バンコク都+周辺3県(ノンタブリー、バトゥムタニ、サムットプラカーン)である。