エンパワメント理論が、ソーシヤノレワークにパラダイムシフトを要求した、ワーカーの役割、対象 者観、ワーカーとクライエントとの関係は、前章の調査においても実践を支える重要な要素とし て抽出された。特にエンパワメント理論においても、中核として霊会見されていたPSW‑クライエン ト関係は、当事者とエキスパート PSW双方から見ても、実践を支える要素であることが明らかに なったOさらに、エンパワメント理論を待つまで、もなく、ソーシャルワークはその始まりから、援助 関係を実践の要と捉えてきており、効果的ソーシャルワークの鍵だ、としてきた(Applegate2004)。 その重要性は、クライエントの視点を調査した結果(Ribner&ぬlei‑Paz2002; Mason et a .l2004; Smith et a .l2004・Blandet a. l2006など)からも、関係が支援結果に大きな影響を与えるとし、う調 査結果(Frank1990; Gehrs & Goering 1994; Calsyn et a .l2004; Calsyn et a .l2006など)からも、
明らかになっている。
そこで、本章では、関係が今まで、のソーシャルワークの歴史の中で、いかに説明されてきたか概 観する。さらに、パラダイムシフトが求められた PSWの役割については、質的調査では「あり方」
品、う、より広範な概念として抽出された。しかし知識や技術から、経験、人間観まで含めた「あり 方」としりた広範な概念を指標によって可視化することも、測定することも難しい。したがって「あ り方」の中の一部にはなるが、パラダイムに引き寄せて役割に特化し、PSWが自らの役割をし、か に認識しているかとし、う「自己規定Jという概念に焦点づけしてレビューする。また対象者観はエ キスパートインタビューにおいて、「関係性Jの村鴻旦みの中で抽出され、FGIからは語りの中で抽 出されたものである。そしてそれぞれが関係性に影響することは推測できる。これらの要素がソ ーシヤルワーク理論史においていかに扱われてきたか、関係性との関連を説明できるかを探求 する。
加えて、エンパワメントとパターナリズムの両方のアブ。ローチが存在する、精神保健福祉領域 のソーシヤノレワーク実践において、関係性がどのように概念化され、 PSWのあり方と対象者観は、
そのアフ。ローチの違いによる影響を受けてしものかをレピ、ューするO
ここで「関係jと「関係性」の区別を明確にしたい。「関係Jとは、ワーカーとクライエントとの間の 相互作用を指す。その相互作用の内容、質、状態を「関係性jと呼ぶ。つまり関係はそこに何ら かのつながりがあることを指し、関係性はそのつながりの性質を表わす用語として使用する。た だ英語ではいずれも
r
relationJあるいはr
relationship Jと表記されており、五換可能の用語として 使われている。そこで、レピ、ューに際しては上記の区別によって訳を使い分けることとする。I
.ソーシャルワー力一一クライエント関係の概念形成カウンセリング領域で Gelso(1994)は、関係性を「カウンセリングの参加者が相互に向ける感情 や態度、そしてその表現され方」としたが、本論では「感情」ではなく、「役割jや「力Jの強弱や方 向性に注目する。ソーシャルワークにおいては、クライエントの家族との関係、多職種との関係、
関係諸機関との関係なども重要な課題ではあるが、本論で、はソーシャルワーク実践の基礎とな るケースワークの要とされるワーカーとクライエントとの関係、に焦点を絞る。専門的援助関係は、
合意に基づく目的と一定の時間枠があり、ワーカーがクライエントの利益のために専心し、専門 知識の権限を行使し、職業倫理と専門的技術が伴う関係(Johnsonet al.ご2004:257)と定義づけ られている。しかし関係性については、精神分析理論を継承しつつも、ポストモダン、社会構成 主義、フェミニストの視点が包含されるようになって(Shattell2007)きており、その中身は変容して きている。
しかし、ソーシャルワークの歴史を通して、ソーシャルワーカ一一クライエント関係の重要性は 主張され続けてきた。関係に注目するのは、それが適切な援助には不可欠で、中途半端な関 わりでは達成できなし、ソーシャルワーク過程において、媒介・手段になるからである。それはポ ストモダンの考え方においても重視されており、変革、支援の基礎であり、実存的確認、ナラティ ブによって構築される意味の創造の基礎で、ある(Blom2002)とされる。
そこで、歴史的変遷を追いつつ、ワーカーの態度と関係性とを分けて検討する。さらに、関係性 については、その構成要素を探求した研究と、状態を描写した研究とをレピュ…し、関係性の全 体像に迫ることとする。
1 .関係として説明されるワーカーの態度
Richmondは友情に近しものとし、友愛訪問を貧困家庭の喜び、悲しみ、考え、感情など生活 全体についての深し怖断売的知識と共感を伴うものとした(悶c加lOnd1969ご1899)。そのワーカー とクライエントの接点については、転移、共感やラポールとしウ心理学用語で鞘教が説明されて きたが、 1930年からf関係Jとし1う用語がつかわれるようになった(Brandell
&
Ringel 2004; Biestek 1957; Robinson 1930) 0 Robinson(1930)は、クライエントが情緒的関係を求め、それを受 け入れるための共通の条件として、ワーカー側の理解と共感の態度があるとした。 Hamilton(1951: 29)は、ワーカーを友人ではなく、専門的訓練を受けた専門職であるとした。そして関係 を、クライエントの心理社会的ニーズを理解し、それに応えるために統制されたものとした。「クラ イエント中心療法jを打ち出したRogersは、カウンセリングについて、「カウンセラー側の受容の
温かさと、強制や個人的圧力のなさが、クライエントの感情、態度、問題の最大限の表現を許容 する(沢ogers1942: 114) Jとした。それまでの研究の蓄積をレビューしたBiestekは、関係を「全て のケースワークプロセスの経路であり、そこを還って介入、調査、診断、治療の技術は流れる (Biestek 1957: 4)Jものとし、 fクライエントと環境とのより良い適応を助ける目的をもってなされる、
ケースワーカーとクライエントの問の、態度と情緒のダイナミックな相互作用で、ある(Biestek 1957: 12) Jと定義づけた。この定義にあるように、「経路Jを通って流れる調査も診断も、ワーカー 側からクライエントへ向かうもので、相互作用としつつも、一方向的な関係と捉えていることがう かがえる。 Biestekにとって関係は、偶人の変容や適応のための道具で、あった(Trevithick2003)。 その目的のための、個別化、意図的な感情表出、統制された情緒的関与、受容、非審判的態度、
クライエントの自己決定、守秘義務の7原則なのである。
以上のように、初期のソーシャルワークにおいて関係は、ほとんどがワーカー側の態度に特化 した概念で、あったOニ者関係であるにも関わらず、専門職側の要件のみがテーマとなるのは、
パターナリスティックな援助関係を前提とした場合に成立する議論で、あろう。専門職が、専門職と して、より効果的に支援を遂行するための要件であり、そこにはクライエント側の要素が勘案され ていなし、。良いサービスを受ける対象で、あるクライエントは、ただ可号者jであり、関係を共に構築 する相手ではなく、専門職のサービスの受け手としてのみ、みなされていたことが理解できる。
このワーカー側の態度要件は、「関係Jそのものではないが、関係形成にとって重要で、あり、現 在に至るまで様々な形で挙げられている。例えば利用者を対象にした質的調査から、効果的な 関係に必要なワーカーの要件を探る試みがある。 Blandらは、クライエントに対する敬意と誠実さ を示すこと、一緒
l
ごいる時聞を割くこと、真実の関心、共感、思いやりと理解、忍耐、信頼性、非 難をしない態度など、クライエントグループ。による差はあるがワーカーの態度や業務に対する 姿勢の重要性を明らかにしている(Blandet a .l2006)。また悶rshらは、クライエントの物の見方に 対して非審判的、共感、承認、自信を与えるような態度、アクセシピリティ、理解、共有・受容・思 いやり、クライエントを信じること、励ましと楽観的な見通しを持つこと、目的をもった相互作用、洞察を作り出すこと、助言者か役割モデルになること、挑戦を提供することなどを挙げている (悶rsh& Tate 2006)0 Scheyetらは、関係形成のためには、ワーカーに、コミュエケーション技能、
コンシューマーを本当に穂く能力、尊重を伝える能力が必要で、希望的観測とコンシューマー の能力への信頼を伝えること、コンシューマーを仕事の対象として見ない態度が重要であること を提示した(Scheyett& Diehl 2004)。さらに悶bnerらは、関係における2つの重要な領域として、
愛、友情、公正としりた言葉で、表現される平等の感覚と、相性、還、時間や場所の制限なく連絡
が取れるとし1った柔軟性を明らかにした(Ribner& 胎lei‑Paz2002)。クライエントはワーカーを専 門家品、うより友のように感じ、非公式な会話スタイノレから誠実な雰囲気を感じ、レッテノレから解 放されることが示され、社会福祉構造から高針した存在としてのあり様が重視されていた。
以上のことから、共感、思いやり、理解、受容、非審判的態度などは不変の要件品、えるだろう。
ただ、個々の態度要件として提示された用語の中身については、時代と共に、あるいは論者に よって差異がみられるO例えば共感について、Rogers(1957)は、治療者がクライエントの私的な 世界をあたカも自分自身のように感じることとした。Keefe(1976)は4段階の行動、すなわち①クラ イエントのゲ、シュタルトを正確に知覚する、②直接引き起こされるワーカーの感情反応を認める、
③ワーカーの適切な、あるいはゆがんだ認識プロセスを一旦停止する、④ワーカー自身の感情 とクライエントと共有した感情とを分離する、として詳述し、最後にクライエントへフィードパックで きたときに共感は完成するとした。このようにワーカーが注意深く聴き、クライエントが感じ考えて いることを理解し、それをまたクライエントへ伝えることが共感だとされてきたが、現在では、ただ クライエントの問題や痛みを理解すること以上に、他者の情緒的状態や考えに気づき、瑚卒し、
経験し、応えること、つまり他者の見方を引き受ける能力を共感とする(Freedberg2007)ようにな っている。さらに関係・文化的アプローチでは、二者がお互いに関心を持ち、情緒的に有用で、
反応性があり、理解しようとするときに起こる、双方向のプロセスである相互共感品、う概念を提 唱しており(Freedberg2007)、共感概念は発展を続けてしもとし1える。このように、関係形成のた めのワーカーの態度として挙げられる不変の要件と思われるような概念も、時代と立場によって 異なって理解がなされている。
一方、エンパワメントの文脈において、関係形成のためにワーカーに求められる態度は、イネ ーブラーとして、①情報・資源の提供、②耳を傾けること、③コンシューマーへの責任を真剣に 受け止めること、④カを分かち合うこと、⑤コンシューマーの決定を支持すること、⑥適応、成長 の時間を与えるこど、⑦個人として尊重すること、③その人に影響する全てに関わらせて話し合 うこと、⑨批判を受け入れ考えること、⑬人脈、書類、資源、情報への接触を容易に行えるように すること、⑪分かりゃすい言葉を使うこと、⑫見せかけ、過剰な保護につながる習慣を改めること、
⑬エンパワメントに焦点を合わせること、が期待される(Meagher=2000: 23‑24)。またワーカーだ けでなく、クライエントにも必要とされる能力や態度として、①役割認識、②ノミワーや地位に関す る価値や信念、③ワーカーとクライエントが相互の強さを認め、言判面する能力、④ワーカーとクラ イエントが多様性を受容し、尊重する能力、⑤お互いのうちに見出される弱さに関して非審判的 な態度をとる能力(和気 2005)が挙げられている。