第1節 スクールソーシャルワークの定義と本稿における定義
Ⅰ.スクールソーシャルワークの定義
スクールソーシャルワークに関して、我が国で閲覧可能ないくつかの社会福祉学辞典等 に記載された説明を引用してみる。
学校ソーシャルワーク
社会福祉用語辞典六訂版 中央法規出版、p71、2012
学校において実践されるソーシャルワークの総称。不登校、いじめ、校内暴力など学校 における問題が顕在化し、また家庭内暴力や児童虐待など家庭内の問題が学校に持ち込ま れることが多くなったことを背景として、学校ソーシャルワーカーの重要性が指摘される ようになった。子どもに焦点を当てるだけでなく、子どもを家庭や地域と密接な関係を持 つ存在として捉えて援助する点に特徴がある。アメリカではソーシャルワークの一分野と して発達してきたが、日本では教育現場に十分に根づいた実践にまでは至っていない。
スクールソーシャルワーク
21世紀の現代社会福祉用語辞典 学文社、p79 2013
学校で行われるソーシャルワークのことを指す。児童生徒のいじめ等の問題行動や不登 校に適切に対応するために、子どもたちの悩みや不安を受け止め相談に当たることや子ど もたちがおかれている環境問題に働きかけるという役割を持っている。学校ソーシャルワ ークは、「無力あるいは非力な子どもを大人が指導し、教育する」という従来の学校の対応 の枠組みと異なった面をもっている。問題解決を、児童生徒の可能性を引き出し、自らの 力によって解決できるような条件作りに参加するというスタンスを取り、また、問題を個 人の病理として捉えるのではなく、「環境との不適合状態」としてとらえている。学校にお ける児童虐待の問題に対しての課題対応策として期待されている。
スクールソーシャルワーク
ソーシャルワーク基本用語辞典、 川島書店、p33、2013
学校の場で用いられるソーシャルワーク。この分野は、20世紀初頭の米国における「訪問 教師」活動実践を萌芽としている。登校拒否などの学生生活に適応していない児童を対象と し、教師、学校の友人、そして家族との調整を図りながら、当該児童自らが問題解決でき るように援助する。近年ではより広い概念で、教育ソーシャルワークという用語も用いら れる。
27 スクールソーシャルワーク
社会福祉用語辞典(第9版)ミネルヴァ書房、 p.222、2017
学校の場で実践されるソーシャルワークの一分野。アメリカでは、学校や教育委員会にス クールソーシャルワーカーを置き、長期欠席児童、・被虐待児等の問題解決に当たっている。
わが国では、まず、スクールカウンセラー、教育相談員が学校や教育委員会に配置された が、近年、各地でスクールソーシャルワーク実践が行われるようになり、スクールソーシ ャルワーカーが配置されてきている。児童・生徒の不登校、校内暴力、いじめ、自殺、家 庭内暴力などが社会問題になっている今日、学校と家庭・地域社会との調整を図り、それ らの連携によって、児童・生徒がいきいきと生活し、学ぶことができるよう援助していく ソーシャルワーク機能が教育現場に定着していくことが求められる。
Ⅱ.本論文におけるスクールソーシャルワークの定義
各種辞典などを通覧し、スクールソーシャルワークは、学校において実践されるソーシ ャルワークの総称であり、その支援対象と機能は、小異はあるが、家庭内暴力や児童虐待 など家庭内の問題が学校に持ち込まれることが多くなったことにより必要性が認識され、
子どもに焦点を当てるだけでなく、子どもを家庭や地域と密接な関係を持つ存在として捉 えて援助すること(社会福祉用語辞典六訂版、2013)とまとめることができる。また、学 校ソーシャルワークは、「無力あるいは非力な子どもを大人が指導し、教育する」という従 来の学校の対応の枠組みと異なった面をもっている。問題解決を、児童生徒の可能性を引 き出し、自らの力によって解決できるような条件作りに参加するというスタンスを取るこ と(21世紀の現代社会福祉用語辞典、2013)も重要なポイントに数えられるであろう。
日本スクールソーシャルワーク協会の定款に記載されている目的の項を引用してみると 以下のようである。
・・・この法人は広く一般市民を対象に、子どもと学校、家庭、地域との関係を再構築す るため、スクールソーシャルワークの基本理念(子どもたちの成長を阻害する障壁を取り 除くことにより、一人一人が個として尊重され十分に可能性を発揮できるようにする)に 基づき、子どもたち及び家庭に対する相談事業、学校・家庭・地域社会など子どもを取り 巻く人々や社会環境における研修事業等の働きかけを行い、もって子どもたちの健全育成 に寄与することを目的とする。
ここに、スクールソーシャルワークの基本理念として記載されている。「子どもたちの成 長を阻害する障壁を取り除くことにより、一人一人が個として尊重され十分に可能性を発 揮できるようにする」ことが上記の説明の端的な表現となろう。
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また、山野(2010)は、スクールソーシャルワークとは何かについて、「スクールソーシ ャルワークとは、ソーシャルワークを学校にベースに展開することである。虐待などの事 例について、具体的に、なぜこのようになったのか、起きている現象にとらわれずに、さ まざまな環境を含めて検討する。これを教師とともに考えることが重要である。この作業 であるアセスメント(見立て)、そして、その後のプランニング(手立て)、モニタリング
(見直し)という社会福祉援助技術プロセスに基づいて実践を行う。社会福祉援助の範囲 として、ミクロ、メゾ、マクロレベルが存在し、学校領域にあわせると、個別事例への環 境を視野に入れた取り組み、校内体制作りや変革への取り組み、制度・政策立案などシス テム作りに関わる取り組みといえよう。それぞれのシステムサイズに合わせた援助理論に 基づいた実践を展開する」と説明している。
ここに述べられている、社会福祉援助技術プロセスに基づいた実践ということが理念を 実現するための専門性ということになろう。
本稿では、こうした理念と実践アプローチを確認しつつ、現在のスクールソーシャルワ ーク活動がのちに紹介する文部科学省のスクールソーシャルワーク活用事業の要綱にした がって展開されていることに鑑み、現実の問題として、要綱に記載された業務内容に対し、
もっぱら社会福祉援助技術を駆使して担っていく活動と定義しておきたい。
Ⅲ.スクールカウンセリングとスクールソーシャルワークの相違点
日本での心理的なカウンセリングの歴史は 50 年を超えていて、1960 年代頃から生徒指 導の一環として教育相談が行われてきた。この当時のカウンセリングは教師が行い、方法 もロジャーズの提唱した非指示的カウンセリングと呼ばれるものが中心だった。しかし、
1990年頃から、不登校の著しい増加やいじめなど、学校の課題が非行問題から心の問題と 捉えられるものに変化する一方で、社会的には臨床心理士が資格として定着し、高い社会 的信用を得るようになった。そのような状況下で、文部科学省は1995年に、スクールカウ ンセラー活用調査委託事業を開始し、初年度は各県わずか 3 校にスクールカウンセラー配 置から開始され、その後拡大を続け、2001年にはスクールカウンセラー活用事業補助とい う形で安定的な事業へ移行し、現在では一部未配置校はあるものの、ほぼすべての中学校 でスクールカウンセラーが活用できるようになっており、また小学校への配置も始まって いる。
(図3-1参照)
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図3-1 スクールカウンセラーの配置状況
出典:文部科学省.初等中等教育局.チームとしての学校・教職員の在り方に関する作業 部会 配布資料(2015年3月9日)
スクールカウンセラーの具体的な役割としては、児童生徒に対する相談・助言、保護者 や教職員に対する相談(カウンセリング、コンサルテーション)、校内会議等への参加、教 職員や児童生徒への研修や講話、相談者への心理的な見立てや対応、ストレスチェックや ストレスマネジメントなどの予防的対応、事件・事故等の緊急対応における被害児童生徒 の心のケアなどが挙げられる。
スクールカウンセラーとソーシャルワーカーはそれぞれ、臨床心理学と社会福祉援助と いう異なった専門性をもつ者であって、違いは明確であると言える。しかし、学校には先 にスクールカウンセラーが入っていて、すでに定着した活動を行っている一方で、スクー ルソーシャルワーカーの業務はまだまだその内容が知られていないのが現状と言える。両 者は学校において、何らかの理由で困っている人を支援する人というイメージは共通であ っても、方法の違いがイメージしにくいということがある。違いを明確化するなら、それ ぞれの基礎とする学問の志向性から、スクールカウンセラーは児童生徒の心理に関心を向