本章では、スクールソーシャルワーク活用事業に携わるスクールソーシャルワーカーに 対してアンケート調査を実施し、そのプロフィールや現状認識について明らかにしておき たい。
第1節 スクールソーシャルワーカーのプロフィール
Ⅰ.調査の目的
全国のスクールソーシャルワーク活用事業に関与しているスクールソーシャルワーカー について、その所有する資格、事業種別、勤務形態、年間勤務日数、現場経験、勤務年数 などの基本属性を明らかにすると同時に、スクールソーシャルワーカーとして、様々な学 校が抱える問題に関してどのような認識を持っているのかを明らかにすることを目的とし てアンケート調査をする。
Ⅱ.研究方法 1.調査対象
スクールソーシャルワーカー自身の基本属性に関する質問の他、都道府県、指定都市、
中核市、市町村の 147 教育委員会担当者に 1217 部調査票を郵送し、勤務しているスクール ソーシャルワーカーに配布してもらうように依頼した。回収は、回答者から郵送にて返送 する形をとった。
2.調査方法
スクールソーシャルワーカー自身の基本属性に関する質問の他、スクールソーシャルワ ーカーに対して、学校が直面している課題に関する 10 の質問に対して、5 件法[5:かなり そう思う4:少しはそう思う3:どちらともいえない2:あまりそう思わない1:全くそ う思わない]によりそれぞれ回答を求めた。各質問項目に 1 点~5 点を与え加算して項目平 均点を算出した。
1. 様々な理由から学校が介入することが難しい事例が増加している
2. 複雑な問題を抱えている事例では他機関と連携する 3. 相談機関につなげたい事例ほど、相談に結びついていかない 4. 精神疾患を患っている保護者の場合、支援に結びつかない 5. 非行事例の家庭の場合、保護者の問題意識が薄い 6. 貧困家庭の場合、子どもの問題よりも家庭で抱えている問題が大きい 7. 非行や暴力の問題を抱えている事例では発達障害と診断されていることが多い 8. 発達障害と診断されている事例では医療機関と連携することは少ない
48
9. 学校と家庭との関係が悪化している事例の場合、関係修復を行う 10. 活動している地域で常に連携できる機関や人がいることが強みだと感じる
アンケート票は、147 教育委員会に 1217 部を送付した。調査期間は 2015 年 11 月 1 日~
2015 年 12 月 18 日。分析には統計解析ソフト、IBM SPSS Statistics 22 を用いた。統計学 的有意水準は 5%とした。
3.倫理的配慮
本調査においては、調査への協力は本人の自由意思によるものであり、協力しないこと により不利益を受けることは一切ないことを紙面で伝えた。以下、1)アンケートは無記名 で行い、回答は主として統計的に処理をする。2)文章で回答する部分についても、個人が 特定されないように配慮をする。3)集計が完了した調査票については即日シュレッダーに て破棄を行う、について同意を求め、アンケートの返還をもって同意が得られたとした。
Ⅲ 結果 1.基本属性
回収されたのは、266 票(21.8%)で、うち有効回答 246 票について分析を行った。
対象者の基本属性を表 4-1 に示した。所有する資格は社会福祉士が最も多く 110 名
(44.7%)、教員免許 72 名(29.3%)、精神保健福祉士と資格なしがそれぞれ 21 名(8.5%)、 その他 16 名(6.5%)、臨床心理士 6 名(2.4%)の順となっていた。性別は男性 71 名(28.9%)、 女性 175 名(71.1%)となっていた。年齢の平均は 52.2 歳で、最年少は 24 歳、最年長は 76 歳であった。事業種別は文部科学省補助事業 74.8%となり、都県市町村単独事業 25.2%
を大きく上回った。勤務形態は非常勤が 6 割を超え 164 名(66.7%)、次いで嘱託 78 名(31.
7%)を合わせると 9 割を超える割合が非正規雇用であり、常勤は僅か 4 名(1.6%)であ った。年間勤務日数は、「50 日から 100 日未満」が最も多く 85 名(34.6%)、次が「150 日 から 200 日未満」58 名(23.6%)となる。200 日以上 21 名(8.5%)が 1 割に満たないこ とからも限られた勤務日数の中でソーシャルワーク実践をしていることがわかる。現場経 験は、社会福祉現場 105 名(42.7%)が教育現場 81 名(32.9%)を上回っていた。次いで、
医療現場 39 名(15.9%)、その他 11 名(4.5%)、現場経験なし 10 名(4.1%)の順となっ た。勤務年数については、最少 0 年、最大 11 年、平均勤務年数は 3.01 年だった。
49 表 4-1 基本属性
N % N %
性別 資格
男性 71 28.9 社会福祉士 110 44.7
女性 175 71.1 精神保健福祉士 21 8.5
臨床心理士 6 2.4
年齢 教員免許 72 29.3
20歳~29歳 8 3.3 資格なし 21 8.5
30歳~39歳 35 14.2 その他 16 6.5
40歳~49歳 51 20.7
50歳~59歳 63 25.6 年間勤務日数
60歳~69歳 76 30.9 50日未満 28 11.4 70歳以上 13 5.3 50日から100日未満 85 34.6 100日から150日未満 54 22.0
事業種別 150日から200日未満 58 23.6
文部科学省 補助事業 184 74.8 200日以上 21 8.5 都道府県市町村 単独事業 62 25.2
現場経験
勤務形態 社会福祉現場 105 42.7
常勤 4 1.6 教育現場 81 32.9
非常勤 164 66.7 医療現場 39 15.9
嘱託 78 31.7 なし 10 4.1
その他 11 4.5
2.学校が直面している課題に対する現状認識
スクールソーシャルワーカーに対して、学校が直面している課題に関する質問 10 個に対 して、[5:かなりそう思う 4:少しはそう思う 3:どちらともいえない 2:あ まりそう思わない1:全くそう思わない]のいずれかで回答する、5 件法で行った。各質問 項目に 1 点~5 点を与え加算して項目平均点を算出した。
表 4-2 にあるように、平均値が 4.0 を超えている項目は「様々な理由から学校が介入す ることが難しい事例が増加している」「複雑な問題を抱えている事例では他機関と連携す る」「貧困家庭の場合、子どもの問題よりも家庭で抱えている問題が大きい」「学校と家庭 との関係が悪化している事例の場合、関係修復を行う」「活動している地域で常に連携でき る機関や人がいることが強みだと感じる」の 5 つであった。一方で平均値が 3.0 を下回っ たのは「発達障害と診断されている事例では医療機関と連携することは少ない」であった。
50 表 4-2 機関連携に関する項目の結果(平均値)
平均値 標準偏差
A01_様々な理由から学校が介入することが難しい事例が増加している 4.26 .850 A02_複雑な問題を抱えている事例では他機関と連携する 4.76 .536 A03_相談機関につなげたい事例ほど、相談に結びついていかない 3.72 .977 A04_精神疾患を患っている保護者の場合、支援に結びつかない 3.33 1.070 A05_非行事例の家庭の場合、保護者の問題意識が薄い 3.65 1.091 A06_貧困家庭の場合、子どもの問題よりも家庭で抱えている問題が大きい 4.48 .754 A07_非行や暴力の問題を抱えている事例では発達障害と診断されていることが多い 3.39 .904 A08_発達障害と診断されている事例では医療機関と連携することは少ない 2.72 .981 A09_学校と家庭との関係が悪化している事例の場合、関係修復を行う 4.29 .764 A10_活動している地域で常に連携できる機関や人がいることが強みだと感じる 4.67 .619
Ⅳ.考察
スクールソーシャルワーカーの基本属性については、所有する資格は、社会福祉士が最 も多く(44.7%)、次いで教員免許(29.3%)となった。勤務状況は非常勤、嘱託が9割を 占めた。年間勤務日数も50日未満(11.4%)、50日から100日未満(34.6%)と合わせる と約4割となり、勤務日数にも制限があることがわかる。スクールソーシャルワーカーは、
学校で発生する多様化する問題に対して、問題を抱えている子どもを取り巻く環境にアプ ローチすることが求められているが、保護者と連絡を取り、児童生徒の学校での問題解決 のため、場合によっては家庭が抱えている問題にも介入する可能性があることや、様々な 関係機関と十分に連携を図っていく必要があることを勘案すると、この勤務日数はまだ万 全とは言えない。
スクールソーシャルワーカーの学校での問題に関する認識については、「様々な理由から 学校が介入することが難しい事例が増加している」(4.26)、「学校と家庭との関係が悪化し ている事例の場合、関係修復を行う」(4.29)の設問で平均値が高いことを見ても、スクー ルソーシャルワーカーは、地域によらず、複雑な事例、家庭と学校の関係修復を求められ ていることがわかる。このように、学校だけでは解決が難しい事例が増加してはいるにも かかわらず、勤務形態(非常勤66.7%、嘱託31.7%)、年間勤務日数(50日未満11.4%、
100日未満34.6%)と対比した場合、十分な活動を行うことを可能にする勤務体制が整備
されているとは言えない。但し「活動している地域で常に連携できる機関や人がいること が強みだと感じる」(4.67)の結果からは、限られた人員や勤務時間を有効に活用し、人と
51
人、機関と機関を繋ぐソーシャルワークが標榜されていることが確認される。前述したよ うに学校はこれまで、独特の文化を持ち、学校だからこそ実践できる教育モデルを基盤に 様々な課題を乗り越えてきた。しかし、昨今、学校内で全ての問題の解決を図る、時に閉 鎖的とも言われてきた、この教育モデルだけでは解決することが難しい課題に関して、新 たに制度化されたスクールソーシャルワークが期待されていること、スクールソーシャル ワーカーも、そうした期待に応えるべくソーシャルワークを実践していることがこの調査 から推測された。
また、これまでのスクールソーシャルワークに関する文献(山野、2014)では、現在の スクールソーシャルワーカーの中に、ソーシャルワーク経験がない、もしくは福祉系の資 格を持たない者が少なからずいる実態も明らかとなっている。本調査においても、所持し ている資格は社会福祉士、精神保健福祉士と合わせ 5 割となる一方、残りは教員免許など の資格であった。ここから、2008年から実施をしてきている各自治体のワーカー全てが、
ソーシャルワークの理念に沿って支援を展開しているかどうかについては、なお疑問が残 るところである。
前述した、文部科学省(2010)の掲げるスクールソーシャルワーカーの職務内容につい ても触れると、以下のようである。
(ア) 問題を抱える児童生徒が置かれた環境への働き掛け (イ) 関係機関等とのネットワークの構築、連携、・調整 (ウ) 学校内におけるチーム体制の構築・支援
(エ) 保護者、教職員等に対する支援・相談・情報提供 (オ) 教職員等への研修活動
スクールソーシャルワーク実践の根幹は、(ア)(イ)に示されるような、ソーシャルワ ークを展開することと言える。しかし、現実には全てのワーカーがそのような実践を展開 できているとは言えない可能性がある。なぜなら、社会福祉士、精神保健福祉士などの福 祉資格を所持している、もしくは福祉現場での経験があると回答した者以外は、ソーシャ ルワークの基本姿勢や理念を熟知していない可能性やソーシャルワークの援助技術を十分 習得していない可能性があるからである。たとえば、本論のテーマである発達障害やその 疑いがある児童生徒の支援についても、特別支援教育と通常学級の棲み分けを決定するた めの医療機関受診を急がすことが役割であると考えてしまえば、保護者や本人の意思とは かけ離れた、ソーシャルワークの実践とは異なる支援となってしまう。ソーシャルワーク の実践において望まれるアプローチは、まずその子どもの置かれた状況をアセスメントし、
何が症状の悪化の要因となっているのかに関し、学校環境、家庭環境、その他を総合して、
じっくりと見定めていく必要がある。学校が問題解決を急ぐ動きに同調しすぎることによ って、その活動の本質がソーシャルワークではなくなってしまうこともありうる。特に、