第1節 結論
本研究は、著者のスクールソーシャルワークを通じた実践から、二つの仮説を立てた。
それは、一つ目は、学校の不適切な働きかけが、発達障害の症状を悪化させるきっかけと なることを認識し、本人の現状を把握した上で、肯定的な評価を引き出し、自信を回復する ように支援していくことが有効ではないか、二つ目は、発達障害が疑われる児童生徒の支援 において、無理やりに受診を勧めるのではなく、必要に応じて受診させ、適切な連携関係 を構築することが大切ではないか、ということであった。序章から 9 章までの研究成果に ついて、図9-1にまとめた。
また、スクールソーシャルワーカーが支援した発達障害やそのおそれのある児童生徒の 支援において、どのような点が改善につながったのかを明らかにするというリサーチクエ スチョンを立てた。
その結果、まず、第一の仮説に対しては、スクールソーシャルワーカーが児童生徒本人、
保護者、教員それぞれに対し、その気持ちを受容し、支持的に接することを事例と経験豊 富な他のスクールソーシャルワーカーのインタビュー調査によって示し、その有効性を確 認した。また、その際、これまで学校では、ともすると、学級運営が優先され、事例化した 児童生徒の問題行動を排除することに注目が集まる結果、問題を起こしている児童生徒の 状況を悪化させる悪循環の構造が起こりやすくなっていたことを指摘した。
第二の仮説に対しては、発達障害の診断をつけることを急ぐのではなく、校内で行える 教育的支援を展開しながら、必要で、本人や保護者が受け入れるタイミングをはかって受 診することが大切であることを、事例及び経験豊富な他のスクールソーシャルワーカーの アンケート調査によって確認した。同様に、性急な受診の促しが、保護者の反発を招き、受 診後の情報交換という連携の本質的な意義を損なう結果になることについても確認した。
さらに、スクールソーシャルワーカーの支援のうち、有効とされる援助技術を事例から 収集した結果、1)傾聴と非審判的姿勢、2)ストレングス視点、3)心理教育的面接、4)
連携と協働、5)事例の的確な把握に基づく時宜を得た適切な支援、が抽出された。
特に、発達障害やそのおそれのある児童生徒の支援に関して、5)事例の的確な把握に 基づく時宜を得た適切な支援の具体的な着眼ポイントとして、1)受診のタイミングをは かること、2)医療機関との連携、3)学校への働きかけ、4)家庭との連携が抽出された。
この4つの点について、発達障害支援の着眼点が経験豊富なスクールソーシャルワーカー にも共通するという結果が得られた。
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図9-1 研究成果と新たな知見
第2節 今後の課題と展望
本研究では、発達障害とスクールソーシャルワークについて、現状を変えるための二つ の仮説の検証と、ベストプラクティスを生み出すスクールソーシャルワーカーの援助技術 を抽出することができたが、いまだ十分な事例によって検討されたとは言えないため、今 後は、地域を拡大し、さまざまな対象事例に対する支援の経過を振り返って検討することを 通じて、今回得られた結果の定着をはかっていく、より実証的研究を進めていきたいと考え ている。教員や保護者への調査で、実際にどのような学校の変化が症状の改善に繋がって いったかを明らかにすることで、学校で行うことが可能な、生活する環境に着目した発達 障害支援についてのモデルを提唱していくことを目指したい。
本研究で取り上げた実践や理論は学校が抱える問題のほんの一部でしかない。さらに、
研究で支援の対象とした発達障害が疑われる、もしくは診断された子どもたちは、いずれ 成人し、就労に向かっていくことになる。支援される側の子どもや保護者の成長に応じた 課題について、継続して聞き取りを行うことで、生活の中で生じる問題と向き合うことが できる。窪田(1981)の指摘する内的な、いわゆる重層性をしっかりと把握することもで
154 きると考える。
また、スクールソーシャルワーカーの行う「いいところ探し」の有効性について、著書 の実践と経験豊富なワーカーのインタビュー調査から実証することができた。今後は、虐 待等の家族が抱える複合的な課題に対して、教師だからこそできる教育的アプローチをよ り効果的に行うために、本論でも取り上げた「ペアレント・プログラム」について教員養 成の展望として実証していきたいと考えている。
最後に、スクールソーシャルワーカーと発達障害に関する実践に基づいた研究は極めて 少ない。本論文で得られたことを普遍化するためには、学校と協働しながら実践に基づく 研究をより深めていくことが、学校現場で求められていると確信している。
155 付記
先日、著者がスクールソーシャルワーカーとして勤務していた教育委員会の当時の指導 主事から、手紙が届いた。その内容は「自分が若い頃は、理論と実践といったら、迷わず 実践が大事に決まっていると思っていました。でも、実践に基づいた理論の構築は現場の 者にはとても有効で説得力が違います。特に、人の一生を左右する局面や命に関わること はしっかりとした理論のもとに実践を積み上げていかないと大変なことになってしまいま す。さらに、現場では年々、これは教育の問題じゃない、医療だろという事案が多くなっ てきています。そんな現場の状況を改善できる“現場の道しるべ”となる研究が一層進め られることを大いに期待しています」との励ましの言葉で結ばれていた。
この手紙からわかるように、スクールソーシャルワークにしても学校で起こっている事 柄について外部からの支援や新たな教育相談の体制整備などは、問題の後を追いかける形 で制度化されることが常である。学校という現場は、常に流動的に動き続けている。その スピードについていくことに必死になってしまうと、実践だけが先歩きしてしまい、理論 が抜けてしまう。その結果として、教師自体が負担を感じ、心も体も疲弊し休職してしま うことにもなる。
著者も含めて、子どもを中心に置いたソーシャルワークを実践すると同時に、現場の教 師も救いたいと思い活動しているワーカーは少なくないだろう。その救いの手を差し伸べ るためには、何で困っていて、何をして欲しいかを正確に見極める必要がある。そのよう な調査がなされた時に初めて、本当の意味での教師のための指標となる「道しるべ」が理 論として示され、その土台をもとに安心した教育現場でもできるソーシャルワークが実践 されるのでないかと思う。
発達障害と診断される割合が増加し、クラスには必ずそのタイプの児童生徒が在籍をし ていると言われている。全く根拠のない持論となるかもしれないが、教師側が以前のよう な余裕のある学級経営ができたなら、発達障害傾向の子どもは目立つことなく、「ちょっと 癖があるけど、いい子」で終わってしまうのかもしれない。著者の実践から、「子どもが変 わったのではなく、学校が変わったから、問題を抱えた子どもは回復し、どこにいるかわ からないくらい落ち着いた、それは担任の先生の頑張り以外何者でもない」と教師側を褒 め称えた場面を今、回想している。あの時、苦楽を共にし、一人の子どもとそれを取り巻 く家族に多くの時間を費やしたことも思い出される。教師側も変わりたい、適切な支援を したいと思う気持ちは強い。そんな不安に隣で支え、真横で伴走するスクールソーシャル ワーカーは教師にとって最も身近で安心し、連携できる存在であるのかもしれない。
156 謝辞
本研究にあたり、大変多くの方々のご協力ならびにご指導をいただきましたことを心か ら感謝申し上げます。
調査協力者としてご理解をいただき、質問紙調査及びインタビュー調査にご協力いただ きました、スクールソーシャルワーカー、教員の皆様に心から御礼申し上げます。
そして、博士学位請求論文執筆にあたり、東洋大学大学院に在籍させていただき、中間 発表では、多くの先生方からご指導いただきましたことで本研究をまとめるにあたり、多 くの示唆を得ることができました。心から感謝申し上げます。最後に、常に適切なご助言 と励ましをし続けてくださいました指導教授の東洋大学大学院 白石弘巳先生に大変お世 話になりました。博士の学位を取得することを諦めて挫折しようとした2017年2月に温か い励ましの言葉をいただき、踏みとどまったことで、今があります。これまでの院生と比 べ、研究を進めるスピードも遅く、大変ご迷惑をおかけしたかと思いますが、なんとかこ こまで進んでくることができました。白石先生からの助言を胸に、今後は日本の学校教育 において、ほんの少しでもお役に立てる研究を進めていくことができるよう精進していく 所存です。