4-1 スカム発生確率を高めるリスク因子 4-1-1 ピアソン相関係数
ロジスティック回帰分析を行う上で使用したデータは,図3-2-3の赤枠の範囲 つまりスカム発生イベントが 10%を超える期間(2017年 8 月1 日―8月 30 日,2018 年4月18日―4月30日,6月14日―2018年7月22日,8月16日―9月16日)に限 定した.これは 2017 年6月 25 日から 2018年 10 月17 日までの全期間で,スカム未 発生のデータ数がスカム発生データ数の4倍以上の差があることから,統計結果に偏 りを減らすために行ったことである.
使用する変数間の相関解析の結果を表4-1-1に示す.ほとんどの変数間の相関 係数は0.3未満であった.0.3以上は,DOと水温の-0.30,降雨とChl-aの0.33,Chl-a と SSC の 0.73 であった.スカムと各パラメータの相関係数は DO が一番高く-0.21,
次に水位の-0.12 であった.水温,塩分,Chl-a,SSC,降雨については相関係数が 0.1 未満であった.
表4-1-1 ピアソン単相関解析
スカム 水温 塩分 DO Chl-a SSC 水位 降雨 スカム 1.00
水温 -0.003 1.00
塩分 -0.03 0.07 1.00
DO -0.21 -0.30 -0.21 1.00
Chl-a 0.03 -0.17 -0.03 0.03 1.00 SSC -0.01 -0.02 -0.09 0.15 0.73 1.00 水位 -0.12 0.23 0.02 -0.03 0.05 0.09 1.00 降雨 -0.03 -0.07 0.004 0.10 0.33 0.28 0.06 1.00
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4-1-2 オッズ比
本研究のロジスティック回帰分析では二章に述べたように,スカムの2値データ(ス カムあり:1,スカムなし:0)と標準化された各変数を用い,最尤法によってモデル 式を導いた.
式4-1のように 1変数ごとにロジスティック回帰モデルを計算し,各変数とスカ ム発生の関係性を調べた(表4-1-2).これは変数間の交絡を調整することなく,
スカムと各変数のありのままの関係性を示す.回帰係数の有意性は Wald-square 検定 を用いて,帰無仮説として「回帰係数は0である」,対立仮説として「回帰係数は0で ない」とした.P値が0.05以下でスカム発生リスクに有意だと判断されたパラメータ は水温,DO,SSC,水位だった.オッズ比は水温が0.859,DOが0.297,SSCが0.814,
水位が 0.661とオッズ比 1 を下回っているため,これらは変数が減少すると発生リス
クが増加するという結果となった.一方,塩分は0.956,Chl-aは1.075,降雨は0.918 とオッズ比が1付近であり,スカム発生に対しては有意ではない.
続いて式4-2を用いて,7つの変数を用いてロジスティック回帰モデルを計算し,
スカム発生のリスク因子を解析した(表4-1-3).これは変数相互の交絡の影響を 調整したモデルの結果である.P値が0.05以下でスカム発生リスクに有意だと判断さ れたパラメータは水温,塩分,DO,水位だった.オッズ比は水温が0.543,塩分が0.693,
DOが0.202,水位が0.641とオッズ比1を下回っているため,変数が減少すると発生
リスクが増加するという結果となった.一方,Chl-a は 1.049,SSC は 0.955,降雨は
1.007とオッズ比が1付近であり,スカム発生に対しては有意ではなかった.有意であ
る変数のうち,オッズ比の低い順から,DO,水温,水位,塩分であった.これはスカ ム発生リスクへの寄与度が大きい順であることを意味する.
調整しないオッズ比と調整したオッズ比を比較すると,調整後スカム発生リスクに 対して,塩分が有意なパラメータに,SSCが有意でないパラメータにそれぞれ変化し た.塩分に関しては単変量解析時に DO が交絡因子としてスカムに対して相関係数
-0.21,塩分に対して-0.21と効いていたと考えられ,フルモデルでスカムと塩分の関係
log
(ݔ)
1 − (ݔ) = ߚݔ + ߚ
log
(ݔ)
1 − (ݔ) = ߚ
ଵݔ
ଵ+ ߚ
ଶݔ
ଶ⋯ ߚ
ݔ
+ ߚ
式4-1
式4-2
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性が調整されたと読み取れる.SSCに関しては単変量解析時に降雨が交絡因子として スカムに対し相関係数-0.03,SSC に対して 0.28 と効いており,スカムと SSC の関係 が調整されたと考えられる.
なお,調整に関わらず,スカム発生のリスク因子として降雨の有意性は見られな かった.これは降雨量とスカム発生には直接的な関係はないことを示す.しかし,ス カムの構成物質と考えられる有機物の流入量や蓄積量,河床のせん断力は降雨と密接 に関係があり,将来これら降雨による間接的な情報と水質リスク因子を取り入れた解 析を行うことが必要と考える.
表4-1-2 調整しないオッズ比(単変量解析)
表4-1-3 調整したオッズ比(フルモデル)
下限値 上限値
水温 -0.152 0.057 0.859 7.3E-03 <0.05 0.769 0.960
塩分 -0.045 0.061 0.956 4.7E-01 0.849 1.078
DO -1.213 0.074 0.297 2.1E-60 <0.05 0.257 0.344
Chl-a 0.073 0.054 1.075 1.8E-01 0.966 1.196
SSC -0.206 0.072 0.814 4.4E-03 <0.05 0.707 0.938
水位 -0.414 0.059 0.661 3.3E-12 <0.05 0.588 0.743
降雨 -0.085 0.073 0.918 2.5E-01 0.795 1.060
回帰係数 標準誤差 オッズ比 p値 オッズ比 : 95%
下限値 上限値
水温 -0.611 0.086 0.543 1.2E-12 <0.05 0.458 0.642
塩分 -0.366 0.088 0.693 2.9E-05 <0.05 0.584 0.823
DO -1.598 0.094 0.202 1.1E-64 <0.05 0.168 0.243
Chl-a 0.048 0.108 1.049 6.6E-01 0.849 1.297
SSC -0.046 0.117 0.955 6.9E-01 0.759 1.201
水位 -0.445 0.073 0.641 8.5E-10 <0.05 0.556 0.739
降雨 0.007 0.087 1.007 9.3E-01 0.849 1.196
定数項 -1.330 0.081 0.264 1.5E-60 <0.05 0.226 0.310
回帰係数 標準誤差 オッズ比 p値 オッズ比 : 95%
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4-1-3 リスク因子の考察
4-1-2の結果より,スカム発生におけるリスク因子はDO,塩分,水位,水温で あることが明らかとなった.以下に各パラメータが与えるスカム発生メカニズムにつ いて考察した.
(1) DO
オッズ比は 0.202 であり,DO が減少するとスカム発生リスクが上昇することを示 した.汽水域の還元状態において自然界での二大嫌気的生物代謝である硫酸還元菌に よる硫化水素の発生とメタン生成菌によるメタン発生が起こる.硫化水素は微量でも 悪臭の原因となる物質ではあるが,溶解性が極めて高い.一方メタンは無臭だが,溶 解性が低い物質である.Cappenberg(1974)はEh が-100~-150mVである時,硫酸還 元菌数のピークを示し,メタン生成菌数はEhが-250~-300mVとより還元状態が発達 した場合においてピークを示すことを報告している.また,三浦ら(2017)はスカム に含まれている嫌気性ガスは60%以上がメタンであることを実験から明らかにしてい る.したがって強還元状態のメタン生成菌の活発な活動が有機物の浮上つまりスカム の発生を促進させていると考えられる.
(2) 塩分
塩分のオッズ比は 0.693 であり,塩分が減少するとスカム発生リスクが上昇するこ とを示した.塩水遡上時など海水が流入する際,汽水域には多量の硫酸イオンが供給 される.牛久保ら(1993)は硫酸イオンの増加に伴い,硫酸還元菌の活動が活発にな り,硫化物の生成量が増加すること,それに伴いメタン生成反応が抑制されることを 示した.したがって高塩分時にスカム発生が少ないのは,発生する硫化水素の水溶性 が高く,メタンの生成も抑制されるため,有機物を浮上させるだけの浮力が十分でな いことが影響していると考えられる.
(3) 水位
水位のオッズ比 0.641 においても,水位が減少するとスカム発生リスクが上昇する 傾向を示した.堀田ら(2002)は潮位と嫌気性ガスの関係性について室内実験とシミ ュレーションを用いて調べ,その結果底泥中に蓄積された嫌気性ガスが潮位の低下に 伴って放出する様子を再現した.したがって水位の低下によって底層部の圧力が低下 し,底泥中に存在する嫌気性ガスの気泡が増大することによって,浮力の増したスカ ムが浮上すると考えられる.
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(4) 水温
水温も同じく,オッズ比が 0.543と 1 を下回り,水温が減少するとスカム発生リス クが上昇する傾向を示した.これは 2017 年 6月 25 日から 2019 年11月 11日のデー タを使用した平均水温とスカムの発生確率のプロットからも同様の関係がみられる
(図4-1-1).底層の水温は深夜1時に最高気温20.5℃に達し,明け方にかけて下 がり,13時で最低気温19.9℃になる.一方スカムの発生確率は午前中に高く,午前9
時に32.5%とピークに達した.その後,発生確率は徐々に下がり始め,17時で13.7%
となっている.石神井川下流域は停滞性が強く,昼間に表層が温められ水温躍層がで きやすい(寺島,2019).そして夜間にかけて成層が崩れ,鉛直一様になる.したがっ て日中の水温躍層がスカム発生に何らかの影響をもたらしているのではないかと考え られる.しかし,貯留温度が高ければ高いほどスカム厚は増え,37℃で生成速度がピ ークになる(本多,1962)という実験結果もあり,その明確な関係性については明ら かになっていない.今後,スカムの動態監視を冬季や夜間も行い,水温とスカムの関 係について深く調べていく必要がある.
図4-1-1 底層平均水温とスカム発生確率の関係
0 3 6 9 12 15 18 21 24
19.8 20 20.2 20.4 20.6
0 5 10 15 20 25 30 35 40
時間
水温 (℃) スカム発生確率 (%)
水温(底層) スカム発生確率
100
4-2 スカム発生確率モデル 4-2―1 変数選択
ロジスティック回帰では通常,よりよい統計モデルを構築するために,変数選択を 行う.この基本的な考え方は,発生に寄与する因子のみをモデルに含め,余計な変数 を省くことだ.本研究では,変数選択をステップワイズ法の中の変数減少法を用いて 最適なモデルを選択した.
表4-1-3の結果より,有意な4つの変数(DO,水温,水位,塩分)に絞り,ロ ジスティック回帰モデル A を作った(表4-2-1).その結果全ての変数において 有意性が保たれていた.次に,3 つの変数の組み合わせによって作られたモデル B, モデルC,モデル D,モデルEの結果を示す(表4-2-2,表4-2-3,表4-
2-4,表4-2-5).モデルの選択にあたっては,正確度が高いこととAIC(赤池 情報処理基準)が最小となるモデルが最適だと仮定したところ,モデルA がベストモ デルとして選択された(式4-3).モデルの精度指標(管,2017)の意味については 以下にまとめた.
・正答率:全体の正答率
統計学的基準はないが,0.75以上あれば予測に適応できるといわれている
・相関比:目的変数(2値データ)と数量データの関連性
定量的な基準はないが,0.5を上回ると予測に適応できるといわれている
・AIC(赤池情報処理基準):モデルの選択基準
明確な基準はなく,小さいほど望ましいとされる
・寄与率:寄与率が高いほど判別精度がよいといえる
・モデル適合情報:モデルは観測データの判別に適しているか P値が0.05以下で有意と判断できる
・ピアソン残差:目的変数と判別スコアの残差 P値が0.05以上で有意と判断できる
(式4-3)
ここで,p:確率,T:水温,Sal:塩分,H:水位
log݁ (ݐ)
1 − (ݐ)= −0.63ܶ(ݐ) − 0.36݈ܵܽ(ݐ) − 1.61ܦܱ(ݐ) − 0.44ܪ(ݐ) − 1.33