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サン・デズィデリオ( San Desiderio )

ドキュメント内 イタリアの有機農業(要旨) (ページ 71-86)

サン・デズィデリオは、メルロ家が経営する畜産主体の農家およびアグリトゥーリズモ で、ピエモンテ州の在来種牛であるピエモンテーゼの繁殖から肥育、処理、肉の販売から レストランまでを手がけている。雄牛の一部は、クリスマスに4 歳から4歳半の去勢して いない牛を食べるピエモンテの習慣にそって飼育している。

豚を飼ってその肉でサラミを作っているほか、乗馬のための馬や家族連れのためのヤギ や羊も飼っている。動物に与える飼料は、ごく一部の材料を除いてほぼ自給で、栽培は動 物の排泄物を肥料に使用している。さらに、動物の排泄物を利用したバイオマスで発電す るという徹底ぶりである。3軒の独立したキッチン付きのアグリトゥーリズモも営んでいる。

しかし、有機農業の規則は、循環型農業であっても、このような多様な経営には向かな いようで、メルロ氏は「飼っている動物の数を考えると、土地の面積は有機の規則に合わ ないし、その他細かい規則を守っていると、やりたいような経営ができない」と有機認証 を求めない理由を説明する。

Ⅳ.イタリアの特徴的な動き

1.スローフード協会

(1)歴史と会員の推移

スローフード・イタリアの活動内容は「食」を切り口にして実に幅広く、国際的にも多 くの賛同者を獲得してきた。特にイタリアにおける影響力は増大しており、トスカーナ州 と協力して生物の多様性を守るプロジェクトの基金を創設するなど、州や県、市町村等の 自治体(特にチッタスロー14

1980年

)さらには農業関連団体と密接な関係を構築して、活発な運動 を繰り広げている。スローフード協会は、前身のアルチゴーラ(1986年創立)の活動を経 て、1989年にパリで国際的組織として誕生した。イタリア本部および国際本部をピエモン テ州の小さな町ブラに置き、ドイツ、スイス、米国、フランス、日本および英国(創設年 順)の各国本部と130カ国に会員を持つ組織に成長した。

スローフード協会の歴史を年代を追って簡単にたどると以下の通りである。

後のアルチゴーラ(Arcigola)創設メンバーによってブラ市に「バローロ友愛会」発 足

1986年 ピエモンテ州のランゲ地方にアルチゴーラ協会創立

1988年 トスカーナ州シエナ県でアルチゴーラの第1回全国会議開催

1989年 フランス・パリにて国際運動「スローフード」誕生、宣言文が採択される 1990年 ヴェネツィアにて国際運動スローフード協会の第1回会議開催

1992年 スローフード・ドイツが本部開設 1993年 スローフード・スイスが本部開設

1994年 ミラノにて食品見本市「ミラノ・ゴローザ」開催(後の「サローネ・デル・グスト」)

1996年 トリノにて第1回「サローネ・デル・グスト」開催

1997年 「語る・行う・味わう」会議において食育と味覚のプロジェクトの開始を決定 1998年 ブラ市郊外にある元サヴォイア王家の別宅を買取り、修復して、スローフードの哲学

に沿った文化的活動を展開するために「アジェンツィア・ディ・ポッレンツォ株式会 社」設立(ピエモンテ州、銀行や個人投資家等が出資)。敷地内部に「科学と食の大 学」、4ツ星ホテルやレストランなどの設立決定

第2回「サローネ・デル・グスト」開催(来訪者12万人)

1999年 スローフード協会、オルヴィエト市、グレーヴェ・イン・キアンティ市、ブラ市等が 共同で「チッタスロー」協会(スローフードの哲学を町づくりに活かすことが目的)

を立ち上げる

2000年 消滅の危険にさらされている小規模の職人的食品加工物の活性化および保護を目的 とする「プレシディオ」プロジェクト開始

スローフード・USA が本部開設

ボローニャにて第1回「生物の多様性を守るためのスローフード賞」開催。

第3回「サローネ・デル・グスト開催」(来訪者13万人、イタリアのプレシディオ9 1品目を紹介)

2001年 欧州での遺伝子組み換え葡萄のワイン流通反対のキャンペーン発表 大人を対象とした新しい味覚教育プロジェクト「マスター・オブ・フード」発表 2002年 第3回スローフード賞発表、第4回「サローネ・デル・グスト」開催(来訪者13万

8千人、世界のプレシディオ30品目を紹介)

2003年 トスカーナ州の援助を受けて、「生物の多様性のためのスローフード基金」創設、ス ローフード賞、プレシディオ、味の箱船の3プロジェクトの支えとなる

ナポリにて第4回スローフード賞発表および国際スローフード会議開催(50 カ国以 上から参加)。カルロ・ペトリーニ会長により食の生産者の世界会議(後の「テッラ・

マードレ」)開催を提唱

2004年 国連食料農業機関(FAO) が協調すべき非営利団体としてスローフード協会を承認 ジェノヴァにて維持可能な漁業推進を目的とした第1回「スロー・フィッシュ(Slow Fish)」開催

日本の湯布院で、スローフード・ジャパン設立のための会議開催 大学・科学研究省が、「科学と食の大学」を公認

第5回「サローネ・デル・グスト」開催(来訪者14万人)、同時に第1回「テッラ・

マードレ(地域に根ざした良質の食物を守る生産者の大会)」が開催され、世界から

約5,000の代表団が参加

2006年 スローフード・ジャパンにより第3回「ヨコハマ・スローフード・フェア」開催 第6回「サローネ・デル・グスト」(来訪者172,400人)、第2回「テッラ・マードレ」

(1600食品関係団体等が参加)開催 2007年 第3回「スロー・フィッシュ」開催。

メキシコのプエブラで第5回スローフード世界大会開催(世界の600団体が参加)、

将来を担う若者の活動の重要性が承認され、大学生、若手農業従事者、料理人、活動 家からなる「ユース・フード・ムーブメント」が設立される

スローフード協会の会員数は、2008年6月30日時点で7万2,241名である。2002年以 降の会員の推移をみると、2004年以降は本部会員数の伸びをその他の国の会員数の伸びが 上回っていることがわかる。2002年に全体の92%を占めていた本部会員数は、2007年に は 81%に下がっており、一方いわゆる開発途上国の会員数は、2002 年の 1.5%から 2007 年には5.7%に上昇している。特に大きく伸びたのは2006年で、この年は第2回「テッラ・

マードレ」で途上国から多くの参加者を迎えており、会期後に参加者やその関係者の多く が会員として登録している。2007年のメキシコでのスローフード世界大会開催時にも、多 くの途上国からの参加者が新規加入した。

図27 スローフード協会会員数の推移 (単位:人)

(注)本部会員数は、総会員数のうち本部のある7カ国を合計したもの

(出所)ALMACCO SLOW FOOD 2008

図28 会員の地域別分布

(出所)ALMANACCO Slowfood 2008

また、2003年時点で1,000人以上の会員を有するのは欧州諸国と米国および日本だけだ

ったが、2007年にはメキシコやオーストラリアなどで会員が1,000人を超えており、スロ ーフード運動は世界的な動きになりつつあるといえる。

図29 会員数1,000名以上の国(2007年) (単位:人)

(出所)ALMANACCO Slowfood 2008 東欧

南米 1%

3%

オセアニア 3%

北米 21%

西欧 28%

イタリア 40%

アジア 3%

アフリカ 1%

(2)「サローネ・デル・グスト」と「テッラ・マードレ」

スローフード協会は数多くのイベントを企画しているが、その中でも偶数年の10月下旬 に催される「サローネ・デル・グスト」と「テッラ・マードレ」は世界最大規模にまで成 長した。

「サローネ・デル・グスト」は、1994年にスローフード協会がミラノで開催した「ミラ ノ・ゴローザ」から発展した地方色豊かで高品質な食品の見本市である。1996年に名称と 開催地を変更し、新たにトリノで第 1 回「サローネ・デル・グスト」として出発した。偶 数年開催で定着し、年々出展者の数と来場者数が増加しており、世界中の注目を集めるよ うになった。

今やサローネ・デル・グストは、イタリアを発信地として、世界中の伝統的で高品質の 製品が集まる食の祭典となった。職人的な中小規模の生産者が作り出す製品が紹介される とともに、数多くのワークショップが催され、子供を対象とした食育イベントや世界のプ レシディオ(消滅の危険にさらされている小規模の職人による食品等)も紹介されている。

一方、「テッラ・マードレ」は、伝統的で良質な食の多様性を守る生産者と食に関わる人々 の交流の場である。2003年のナポリでのスローフード会議の折にカルロ・ペトリーニ会長 が提唱し、翌2004 年に「テッラ・マードレ(母なる大地)」の名で第1回大会が開催され た。初回はサローネ・デル・グストとは別々の時期に行われていたが、2006年の第2回大 会からは同時開催として、サローネ・デル・グストの会場(リンゴット見本市会場)に隣 接するカンファレンス施設オヴァーレで行われるようになった。当初は食の生産者の交流 の場として設定されたが、その後は食の生産から食卓まで、幅広い食の関係者が集るよう になり、互いの経験や問題点を発表し合い、交流する場に成長していった。

なお「サローネ・デル・グスト」は入場料を払えば誰でも参加できるが、「テッラ・マー ドレ」は招待された食品関係者のみの会議であり、一般参加はできない。

これら2つのイベントは世界的に注目されており、2004年には英国のチャールズ皇太子 が視察に訪れている。2006 年には開会式にイタリアの閣僚が参加するようになり、2008 年の開会式には農林政策省のルカ・ザイア大臣、ピエモンテ州知事やトリノ市長が参加し た。

サローネ・デル・グストは一時期、出展された食品の質が必ずしも納得いくものでない ことや、タバコの吸い殻や紙くずが通路に捨てられるなど清潔とはいいがたい状況にあり、

「サローネ・デル・グストの理念にかける」、「あまりにも一般の食品見本市のようだ」と いう批判もあった。しかし、2006年開催から会場全体が禁煙となったことで清潔感が増し、

2008年には廃棄された新聞や雑誌で作られた休憩用の椅子を配置するなどして「エコロジ

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