• 検索結果がありません。

グローバル社会における会計システムの役割に関する研究

A  Study on the Roles of the Accounting System in a Global  Society

      研究グループ代表者

       

新  茂則

(SHIN SHIGENORI)流通科学部・教授

      共同研究者

       

日野 修造

(HINO SHUZO)流通科学部・准教授

       

水島多美也

(MIZUSHIMA TAMIYA)流通科学部・准教授

       

中川 宏道

(NAKAGAWA HIROMICHI)流通科学部・講師(平成 24 年度)

※単年度のみの参加者については、括弧内に参加年度を示す。

研究成果の概要

 IFRS(International Financial Reporting Standards)とのコンバージェンスあるいはそのアドプション(以下、これ らを総称して IFRS 導入と略称する。)は、従来の企業経営の在り方に変革をもたらすことになった。我が国においても、

これまでのコンバージェンス作業の結果、日本の会計基準は国際的に見てもほぼ遜色のないレベルに到達した。しかし、

アドプションについては、H23 年 6 月に金融庁が IFRS のアドプションの延期を発表し、静観している状況にある。米 国はエンドースメント(自国基準への IFRS の取り込み)の方向にある。このように実施時期の延期や対応に相違はあ るものの、世界の IFRS 導入への潮流は依然として続いている。IFRS 導入の問題は、従来の原価基準から公正価値基準 へと測定基準の変更をもたらす結果を誘発した。その結果、会計システムは大きく変わり資本市場に大きなインパクト を与えることとなった。このような視点から4つの研究課題を設定し調査研究を行った。次に各研究課題とそれぞれの 成果の概略を記す。

研究課題 (1):不動産業を中心とした会計システムと企業評価に関する研究  研究成果a:セミストロング・フォームの効率的市場が裏付けられた。

 研究成果b:REIT の高配当のシステムとそのリスクについて斯界に意思決定情報として寄与した。

研究課題 (2):IFRS を中心とした会計システム変革に対する財務会計の対応に関する研究  研究成果a:公正価値開示手法について、一定の開示方法を提案できた。

 研究成果b:当期純利益と包括利益の双方を示す損益計算書体系を開発・提供することの重要性を明らかにした。

       また、非営利組織体においてはその対応が不十分であることも明らかにした。

研究課題 (3):IFRS を中心とした会計システム変革に対する管理会計の対応に関する研究

研究成果a:利益目標は、IFRS 基準で作成した数値となり、予算編成も IFRS 基準で作成することになるという結論 を得た。

研究成果b:包括利益計算書の作成がもたらす利益の違いからの業績評価指標への影響等を明らかにすることができた。

研究課題 (4):IFRS 強制適用による小売業のポイントサービスの会計に関する研究 研究成果a:発行ポイントを負債計上する必要性を明確にした。

研究成果b:効果的なポイントプログラム開発が求められている実態を明確にした。

      また、以上4つの研究課題解決を通して得られた各研究成果を踏まえた会計教育を実践することの重要 性が、浮き彫りとなった。さらには、簿記検定に対する適切な対応と今後の出題傾向予測に有用な情報 を得ることができた。

研究分野:会計学

キーワード:(1) IFRS    (2) FASB    (3) コンバージェンス  (4) 公正価値  (5) 包括利益  (6) 管理会計          (7) 賃貸不動産の時価開示  (8) J-REIT  (9) ポイント会計

1.研究開始当初の背景

 マーケットメカニズムは、市場の需給によりコンバー ジェンスしながら均衡価格が形成される。資本主義経済 の特徴である見込み生産は、予測を誤ると過大投資、在 庫過多、資金循環の滞り、リストラに伴う解雇といった 過程を経る。予測経済では好況時に資本投下して設備投 資を行い、生産量の増加を図るが、一旦需要が天井に達 し需要が落ち込み始めると景気は下降する。同様に株式 市場はインカムゲインとキャピタルゲインの投資収益率 が投資意思決定の基準となり、その動向で株価や債券が 変動する。株式市場では、株価の変動はファンダメンタ ルズによる様々な経済要因で動くことが指摘できるが、

個別的には企業業績に左右される。業績が上向くと予想 されれば株価は上がり、反対に業績が低迷すれば、下降 現象が起こる。したがって投資家にとって企業業績の情 報が投資の意思決定で最も基礎的で重要な指標となる。

IFRS の適用が国際的に始まり我が国も会計基準のコン バージェンスが進み、任意適用も開始されるに至った。

これに伴い資産・負債・収益・費用の認識・測定、及び ディクロージャーの内容と方法についてこれまでに見ら れない大きな変化を余儀なくされた。つまり IFRS 導入 が世界の金融資本市場に大きなインパクトを与えたこと により、金融商品価格のボラティリティは不確定要素が 大きくなった。こういった背景から企業会計の実務には もちろんのこと、簿記会計教育も取得原価主義会計から 公正価値を部分的に取り入れた会計へと大変革が行われ ている。以上のようなダイナミックな会計ビックバンの 流れとして会計への測定、評価に着目して会計システム の役割について考察することにした。

2.研究目的

 本研究は、「グローバル社会における会計システムの 役割に関する研究」を行う。具体的には、会計情報、財 務会計、管理会計の 3 つの会計領域の分野から会計基 準の国際化に対応した会計教育の在り方と、その根底に ある会計理論・構造を探ることを目的として研究を行う。

3.研究実施計画・方法

研究実施計画・方法は次の 3 点である。

①国際会計基準および国際財務報告基準の概要をレ ビューし主として、ディスクロージャーの視点から調 査研究を行う。

② ASBJ、FASB および IASB の動向を調査し、我が国の 会計基準がどのように変容したか、あるいは変容しつ つあるかについて調査研究を行う。日商の簿記検定は、

財務会計分野と管理会計分野の2つの領域から出題さ

れるため、この2つの領域の教授方法について会計基 準の国際化に即応した内容の検討を行う。また、それ らの内容を教授する際には、実例を交えて行うことが 有効と考えられるため、会計情報システム、および小 売業におけるポイント会計に関連する事例研究を行 う。

③ IFRS 導入が進展する中で、管理会計研究がどのよう な変革期を迎えているかについて調査研究を行う。

4.研究成果

 上述した視点から次の4点に焦点を絞り研究を行なっ た。すなわち、⑴不動産業を中心とした会計システム と企業評価に関する研究、(2)IFRS を中心とした会計シ ステム変革に対する財務会計の対応に関する研究、(3) IFRS を中心とした会計システム変革に対する管理会計 の対応に関する研究、 (4)IFRS 強制適用による小売業の ポイントサービスの会計に関する研究である。

⑴については、不動産業を中心とした会計システムと企 業評価を2側面から行った。1 つは、「賃貸不動産の 時価開示」(IAS40 号)が企業価値評価に及ぼす影響 に鑑み効率的市場仮説の実証分析を行い、セミストロ ング・フォームの効率的市場が裏付けられた。2 つ目 は、低迷する金融の流通市場を背景に賃貸不動産ビジ ネスの J-REIT のシステムについて研究した。これに より今後注目される REIT の高配当のシステムとその リスクについて斯界に意思決定情報として寄与した。

⑵については、会計基準の国際化への対応にともなう各 種財務会計に関する書物において今後改訂を余儀なく される箇所を抽出し、如何に対処すべきかについて検 討を行なった。最も大きな影響は公正価値と包括利益 の導入であった。公正価値については決算整理事項で 調整するような会計手法を取り入れることが最良であ るという結論を得た。包括利益については、当期純利 益と包括利益の双方を示す損益計算書体系を開発・提 供することが重要だという結論を得た。また、非営利 組織体の分野に関する IASC の取り組み状況も調査し た。結果として、未だ未整備だという事が分かったた め、FASB 等の取り組みをもとに今後の方向性など新 しい提言を行った。

⑶については、予算管理における企業グループの年度計 画や中期経営計画における利益目標は、連結上の数値 であるために、IFRS 基準で作成した数値になり、予 算編成も IFRS 基準で作成することになるという結論 を得た。さらに、包括利益計算書の作成がもたらす利 益の違いからの業過評価指標への影響あるいは財政状 態計算書の作成がもたらす資産・負債の評価への影響 といった管理会計上重要な問題点も考慮する必要性を 認識するに至った。前者においては、包括利益か当期

純利益のどちらを業績評価指標として使うのか、また 後者においては、公正価値による資本の評価から生ず る資本額の相違点の問題をあげられる。

⑷については、IFRS 導入による小売業の企業会計、特 に小売業のポイントサービスの会計の仕組みの変化に ついて検討をおこなった。会計基準の国際化にとも なって発行ポイントを負債計上する必要があり、その ために小売業がポイント発行数を控える必要性に迫ら れていることを確認し、そのための効果的なポイント プログラム開発が求められている実態があることを明 らかにした。

  最後に、今後の会計教育において取得原価と公正価 値、当期純利益と包括利益に関する概念整理を明確に する必要があることを明らかにした。そして、検定試 験等においても、これらの内容に関する出題がなされ ており、今後の出題傾向予測に有用な情報源となった。

5.主な発表論文等

〔雑誌論文〕(計7件)

①新 茂則、馬 駿、候 紹卿、「IAS-IFRS  のコンバー ジェンスによる不動産の時価開示が流通市場に与える 影響」−会計情報による不動産株価の効率的市場仮説

−、『中村学園大学・中村学園大学短期大学部 研究紀 要』、第 45 号、pp.95-105、2013 年、査読有

②新 茂則、馬 駿、「不動産の時価開示が株価に与え る影響」−日中不動産企業の実証分析−、『日本商業 教育学会九州部会論集』、第 10 号、pp.27-40、2012 年、査読無

③日野修造、「非営利組織体の資金調達と財務報告」、『會 計』、第 181 巻第 2 号、pp.57-69、2012 年、査読無

④日野修造、「非営利組織体における純資産の維持と会 計処理」、『公会計研究』、第 13 巻第 2 号、pp.1-17、

2012 年、査読有

⑤日野修造、「非営利組織体会計における一時拘束純資 産の負債性の検討」、『流通科学研究』、第 12 巻第 2 号、

pp.73-82、査読有

⑥水島多美也、「時間からみた管理会計の検討―戦略 の視点も考慮に入れて―」、『會計』、第 181 巻 6 号、

pp.41-55, 2012 年、査読無

⑦中川宏道・守口剛、「日本の小売企業における協働 MD の革新性〜サンキュードラッグ潜在需要発掘研究 会の事例を通じて〜」『季刊マーケティング・ジャー ナル』32 巻 2 号、97-120 ページ、2012 年、査読無

〔学会発表〕(計 14 件)

①新 茂則、「賃貸等不動産企業の時価開示による株式 市場による株価の推移」、H24 年度第3回日本組織会 計学会研究会、2012 年 12 月 23 日、 学習院大学

②新 茂則、斉 宝和、「J−REITのシステムと投 資リスクの分析」、H24 年度第 2 回日本産業科学学会 九州部会、2012 年 11 月 23 日、長崎県立大学

③新 茂則、馬 駿「不動産の時価開示が流通市場に 与える影響」、第 18 回日本産業科学学会全国大会、

2012 年 8 月 26 日、芦屋大学

④新 茂則、「不動産企業の時価情報開示と株価」−賃 貸等不動産の時価等の開示に関する会計基準の適用に よる株価の影響−、第 37 回日本管理会計学会九州部 会、2012 年年7月 28 日、西南学院大学

⑤新 茂則、馬 駿、「IFRS のアドプションが株価に与 える影響について」−不動産業界の業績評価−、日本 商業教育学会、2012 年 1 月 7 日、香蘭女子短期大学

⑥新 茂則、候 紹卿、「IFRS のアドプションが流通市 場に与える影響について」−東証第一部上場不動産業 界の業績分析−、H24 年度第 2 回日本産業科学学会 九州部会、2012 年 12 月 10 日、九州産業大学

⑦日野修造、「非営利組織体における純資産の維持と会 計処理」、国際公会計学会九州部会大会、2011 年 7 月 16 日、九州産業大学

⑧日野修造、「非営利組織体の資金調達と財務報告」、日 本会計研究学会第 70 回全国大会、2011 年9月 19 日、

久留米大学

⑨日野修造、「非営利組織体会計における一時拘束純資 産の負債性の検討」、国際公会計学会九州部会大会、

2012 年 11 月 10 日、都久志会館

⑩水島多美也、「時間からみた管理会計の検討―戦略の 視点を考慮に入れて―」、日本会計研究学会第70回 全国大会 2011 年 9 月 19 日、久留米大学

⑪水島多美也、「時間と管理会計技法に関する一考察」

第 38 回日本管理会計学会九州部会 2012 年 11 月 24 日、中村学園大学

⑫中川宏道、「100 人に 1 人がタダはなぜ魅力的なのか?

−確率型プロモーションにおけるフレーミング効果の 検証−」日本消費者行動研究学会第 44 回消費者行動 研究コンファレンス、2012 年 6 月 3 日、関西学院大 学

⑬中川宏道、「ポイントと値引きはどちらが得か? 〜ポ イントに関する消費者行動の研究〜」日本消費者行動 研究学会第 45 回消費者行動研究コンファレンス  2012 年 10 月 27 日、慶應義塾大学

⑭中川宏道、「確率型プロモーションにおけるフレーミ ング効果の検証」行動経済学会第 6 回大会 2012 年 12 月 9 日、青山学院大学

〔図書〕(計2件)

①新 茂則著、『「生きる力」を育む株式投資教育と金融 経済リテラシー』、ISBN978-4-931363-70-0、中川書 店、2011 年、185 頁