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キャッシュ・フロー法人税の研究

-税率の試算と業種間の税負担率-

1 本章の問題意 識

わが国の法人 税の課税 ベースは、法 人所得で ある。現行法 人所得税 は、配当 所得への二重 課税、間 接金融の優遇 、キャピ タルゲイン、 減価償却 の評価、資 産価値の評価 等、法人 所得をと らえ ることが 困難で、その ことが課 税ベースを 歪め、課税の 中立性を 損なうことが 問題とさ れてきた。

そこ で 、 この よ う な問 題を 回 避 し、 企 業 の投 資に 対 し て中 立 的 で、 個人 所得 税と法人税と の間で生 じる二重課税 を排除で きる税制とし て、支出 税体系下の キャッシュ・フロー 法 人税42が、『 ミード報 告 』43で提唱さ れた。こ の キャッ シ ュ・フロー法 人税は、 企業における 資金の流 入と流出の差 を課税ベ ースとして おり、法人税 の課税ベ ースを再検討 する上で 欠かせないも のである 。

キャッシュ・フロー 法 人税に関する 主な実証 研究には、田近・油井(2000)、

宮田(2003)がある。

本章では、先行 研究に 倣い、投資や資 金調達 に対して中立 である キ ャッシュ・

フロー法人税 を導入 し たとき 、その 課税ベー スはどのよう に変化す るのか、ま た現行の法人 税収をキ ャッシュ・フ ロー法人 税によって徴 収すると した場合、

税率はどの程 度となる のか、その試 算を行う 。その際、先 行研究で は、キャッ シュ・フロー 課税ベー スが赤字であ る法人に 対する税の還 付を考慮 していない が、本章では 、赤字法 人の税の還付 も考慮し て計測する。 次に、試 算したキャ ッシュ・フロ ー税率で 個別企業のキ ャッシュ ・フロー税額 を業種ご と に合算し て税負担率を 推計し、 キャッシュ・ フロー法 人税を導入す れば、業 種間でどの ような税負担 率の違い があるのかを 検証する 。

42 キャッシュ・フ ロー 法人税は、『 ミード報 告』では“flow-of-funds based

corporation tax”と呼 ばれており、 その他の 名称として“Cash Flow Corporation

Tax”や「資金ベ ース 法人税」があ る。本 章 では、多くの 研究者が 使用してい る「キャッシ ュ・フロ ー法人税」を 使用する 。

43Meade, J. E., George Allen and Unwin [1978]

79 2 キャッシュ・ フロ ー法人税

2.1 キャッシュ ・フ ロー法人税と その仕組 み

『ミード報 告 』では 、所得を課税 ベースと する現行の法 人税に対 し、キャッ シュ・フロー 法人税が 提唱された。 キャッシ ュ・フロー法 人税は、 企業の担税 能力を、従来のよ うに 付加価値や利 潤といっ た収入ベース で捉える のではなく 、 企業における 資金の流 入から流出を 差し引い たネットの資 金流入、 すなわち、

キャッシュ・ フローを 課税ベース と するもの である。

現行の法人 税では、 配当所得への 二重課税 や、資金調達 の面での 非中立性と いう問題があ るが、こ れに対してキ ャッシュ ・フロー法人 税は、仕 組みが簡単 で、投資コス トの即時 償却を認める 一方で、 資金調達コス トの課税 ベースから の控除を認め ないこと により、法人 企業の資 金調達と投資 に対して 中立的で、

二重課税の問 題も排除 すると考えら れている 。

表 4-1 は、『ミード 報告 』で示さ れたキャ ッシュ・フロ ー課税ベ ースの考え 方である。キ ャッシュ ・フロー法人 税は、通 常、企業の収 入から支 出を控除し たものを課税 ベースと するが 、『ミ ード報告 』では、課税 ベースと して次の 3 形態に分類し ている44

第 1 は、 財・サービ スといった実 物取引か ら生ずるキャ ッシュ・ フローを対 象とする Rベース 、第 2は、実 物取引と 金 融取引(株 式関連取 引 きを除く)の 両方を考慮す る R+F ベース、第3 は、株式 取引から生ず るキャッ シュ・フロー を対象とす るS ベー ス である。

2.2 キャッシュ ・フ ロー法人税の 中立性

キャッシュ ・フロー 法人税が投資 に対して どのような影 響を及ぼ すのかを野 口(1985)にしたが って 述べる。

① 課税がない 場合の投 資基準

第1期に1単 位の投 資が限 界的に 追加され ると、第 2期におい て 限界的にrだ け の 収 益 が 増 加 す る と 仮 定 す る 。 こ の 投 資 の 減 価 償 却 率 はd で あ る と す る

0d1

。すなわち 第 2 期にお いて資本設備 を売却す れば1dの収入が 得られ

44 この他に税の還 付と いうことで、 税務当局 との税の取引 きがある 。

80 る。

この投資が 自己資本 でなされる 時 の基準は 、第 2 期に増 加する総 収入の現在 価値が 1を下 回らない ことである 。すなわ ち 、割引率をiとすれば 投 資基準は 、

r1d

  

/1i 1となり、

i d

r  (1)

によって与え られる。 ここで割引率 は、投資 の機会費用、 つまり自 己資本を他 の用途にあて た場合の 収益率を表す 。これは 、通常の場合 、市場利 子率によっ て代表される 。

次に投資が 借入 れに よって賄われ る場合を 考える。この 場合には 、第 2 期に おいて

 

1i の元利支払いが 必要となる。そ して、当初の自己資 金はゼロ であっ たのだから、 投資基準 は第 2期の純 受取りの 現在価値が非 負となる こと、

   

r 1d  1i

  

/1i 02)

によって与え られる。 これは(1)と同 じ条 件である。

したがって 、課税の ない場合の投 資基準は 、投資資金の 調達法に かかわりな く、「投資収 益率が利 子率と減価償 却率 の和 を下回らない こと」に よって与え られることが わかる。

② Rベース課税 の場合

この場合、 課税ベー スは、投資の 資金調 達 法に依存しな い。なぜ ならRベー スでは実物取 引のみが 考慮され、借 入金やそ の返済などの 金融取引 は考慮され ないからであ る。

そこで 第 1 期に 1単 位の投資が追 加される と 、第 1 期の 課税ベー スは 1 だけ 縮 小 す る 。 し た が っ て 、 こ の 投 資 以 外 の 法 人 活 動 に 関 わ る 法 人 税 がtだ け 節 約 されることに なる 。こ の投資のため に必要と される自己資 本もしく は借入 れは 、

 

1t でよいことに なる。

第 2 期 に お け る 課 税 ベ ー ス に は 、 実 物 資 本 の 売 却 収 入 も 含 ま れ る か ら 、

d

r 1 である。したが って、税率をtとすると、税引 後の受取りは、投資が 自 己資金で賄わ れる場合 には、

d

 

t r d

 

t



r d

r 1  1  1 1 3)

と な る 。 投 資 が 正 当 化 さ れ る た め の 条 件 は 、 こ の 割 引 現 在 価 値 が1tを 下 回 ら ないことであ る。これ は(1)と同じで ある 。

81

表4-1 法人企業のキャッシュ・フロー

資金流入 資金流出

実物取引(Rベース) R 売上

+実物資産売却収入

R

経常費用

+実物資産取得(投資)

金融取引(Fベース) F 借入

+金融資産の減少

+受取利子

F

借入金の返済

+金融資産の 増加

+支払利子 資本取引(Sベース) S

新株発行(増資)

+他社株の売却

+受取配当

S

自社株取得

+他社株式の 購入

+支払配当 租税取引(Tベース) T

租税の還付

T

租税の支払い 総取引 RFST RFST

投資が借入 で賄われ る場合には、 第 2 期の 税引後のネッ トの受取 りは、収益 プラス売却収 入マイナ ス税マイナス 元利支払 いであるから 、

d

 

t r d

 

t

 

i

r 1  1  1 1 (4)

と な る45。 投 資 が 正 当 化 さ れ る た め の 条 件 は 、 こ の 割 引 現 在 価 値 が 非 負 と な る ことである。 これは条 件(1)を導くこ とが 直ちにわかる 。

結局Rベー スの下で は、資金調達 法に 関わ りなく、課税 は投資決 定に中立的 であることが わかる。

③ R+Fベース課 税の場合

次に R+Fベース 課 税を検討する 。

まず、自己 資金で賄 われる場合、F エレメ ントは追加さ れないか ら、R ベー スの場合と全 く変わら ない。したが って、課 税に中立的で ある。

45 この場合、第一 期の 借入金が1tであったこと に注意。

82

つぎに、外 部資金の 場合を考える 。第 1 期 におけ る課税 ベースは 、投資によ って縮小する 一方で、 借入 れによっ て拡大す る。したがっ て、差し 引き変化が ない。第 2 期において は、 借入資金 の 元利合 計が控除でき るが減価 償却は考慮 されない。ま た、 資産 の売却収入は 課税対象 とされる。し たがって 課税ベース は、

 

i r d i d

r1  1    (5)

になり、税引 後のネッ トの受取りは 、

r d i

    

i t r d i

t d

r1     1  1   6)

である。投資 が正当化 されるための 条件は、 この割引現在 価値が非 負となるこ とであり、そ れは( 1 )と同じであ る(な お 、この結論は 次のよう に考えても 得られる。 第2 期にお ける元利合計 の控除は 、第 1 期での 借入控除 と同じであ る。すると課 税ベース は Rベー スの場合 と 同一である。 )。

このように、R+F ベ ースの場合に も、投資 資金の調達法 によらず 、課税は投 資決定に中立 的である46

2.3 キャッシュ ・フ ロー法人税と 現行法人 税の課税ベー スの違い

キャッシュ・ フロー法 人税を導入す ることに よって、現行 法人税制 とどのよ うな違いがで てくるの だろうか。キャ ッシュ・フロ ー法人税 を簡単 に述べると 、 減価償却制度 を廃止し て、投資額を 即時に全 額課税ベー ス から控除 し、借入金 の利子の控除 をせず、 資金流出や資 金流入が そのまま反映 されると いうことで ある。

現行法人税 と比べる と、キャッシ ュ・フロ ー法人税では 、投資が 多く行われ る企業や収益 率の低い 企業は、課税 ベースが 小さくなり、 投資があ まり行われ ていない企業 や収益率 が高い企業は 課税ベー スが大きくな る。

つまり、キャ ッシュ・ フロー法人税 は、大き な投資がある と税額は 低くなる か還付になり 、投資が 少ない、また は、利益 が 多く出た場 合は、税 額が大きく なる等、年度 間で大き く変動する税 である。 しかし長期に わたる税 負担を考え るなら、課税 ベースが 所得であろう が、キャ ッシュ・フロ ーであろ うと結果的

46 Sベースについ ては 、古田(1990)を参照さ れたい。

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