-公益法人税制の現状と問題点-18
1 本章の問題意 識
わが国の経済 社会にお いて、社会を とりまく 経済状況の悪 化、価値 観やニー ズの多様化が 進むなか 、「民間が担 う公共」 の領域である 民間非営 利法人等に よる民間の社 会貢献意 欲 が高まって きており 、それを 最大 限に生か すことが日 本社会の活性 化のため に有効である とされる 。 他方で、公 益法人等 の事業活動 が拡大・多様 化し、各 種分野で規制 緩和が進 展する中、営 利法人と の課税のバ ランスを考慮 して、公 益法人等に対 する課税 の適正化が強 く求めら れるように なっている。 公益法人 課税の問題を 明らかに するためには 、公益法 人の実態を 明らかにして おけなけ ればならない 。
本章では、こ の公益法 人課税改革論 議につい て、定性的な 議論を取 り上げ、
公益法人の実 態を明ら かにし、今後 の公益法 人課税改革の 方向性を 探る。
2 公益法人とは 2.1 公益法人の 定義
公益法人とは、民法 34条「祭祀、宗教、慈 善、学術、技芸其他 公 益ニ関スル 社団又ハ財団 ニシテ営 利ヲ目的トセ サルモノ 」で規定され る社団法 人又は財団 法人のことで あり、そ の設立には① 公益に関 する事業を行 うこと、 ②営利を目 的としないこ と、③法 人の事業を所 管する官 庁19の許可が必 要なこと である。
2.2 公益法人の 定性 的議論
今後わが国 社会にお いて非営利法 人活動が 果たすべき役 割はます ます重要と なるが、公益 法人はこ れら非営利法 人活動を 担う代表的な ものであ る。公益法 人の活動内容 は極めて 多種多様であ るが、そ の多くは、政 府にも営 利法人にも
18 本章は、2006年度時 点の公益法人 税制につ いて書かれて いる論文 で、新公 益 法人税制は平 成 20年 12 月 1 日から施行 さ れている。
19 ⅰ内閣府及び 10 省、 ⅱ内閣府の外 局である 大臣庁(金融 庁など) 、ⅲ地方 支分部局の長 (法務省 、財務省、国 道交通省 など)、ⅳ都 道府県知 事 、ⅴ都道 府県教育委員 会。
33
基本的にはな じまない 分野で、広く 社会全般 の利益に資す る様々な 活動を展開 していると考 えられる 。一方で 、わが国の 公 益法人制度は 、明 治 29年民法制定 以来 100 年以上のに わたる歴史が あるが、 この間、基本 的な変更 はされず20、 公益法人のあ り方に対 する批判や問 題点の指 摘が存在する のも事実 である。
現在、公益 法人は、主 務官庁の自由 裁量によ る許可主義を 採用して いるため 、 法人設立が簡 便でなく 、また公益性 の判断基 準が不明確で あり、「 公益」に関 する事業を行 うはずの 公益法人が、 国民の眼 から見て 、必 ずしも 「 公益」とは 言い難い事業 を行って いるものもあ る。近年 、不適切な運 営に起因 する不祥事 が明るみにで てきてい る。また、公 益の内容 は多種多様で あり、全 国統一的な 基準を設けた りするの は現実的に難 しくなっ てきている ( 表 1 参照 )。
問題点として は、 公益 法人への公務 員の「天 下り」が多く 、そ の公 益法人へ 仕事が委託等 されるこ とに より、個 人や営利 法人の活動が 阻害され ている こと があげられる 。また適 切な運営を確 保するた めの内部管理 機能が不 十分で 、そ の上、ディス クロージ ャーはインタ ーネット の活用等改善 なされて いるが、そ の内容はわか りにくく 、徹底されて いないな どの問題があ る。 公益 法人は、 公 益を目的とす る法人で あるにもかか わらず、 国民から見て 明らかと なっていな いものが多数 あり、営 利法人や中間 法人に分 類されるべき 性格のも の も混在し ている。
主務官庁によ る一般的 な指導監督を 背景に、 不祥事が発生 しており 、指導監 督が強化され てきたが 、公益法人を 監督する 立場の主務官 庁の体制 に比べて、
公益法人数が 増加傾向 にあり、こう した仕組 みが限界にき ているの ではない だ ろうか。
表 2-1は公益法人の 実態を表した もので、設立目的の大 項目が「 生活一般」、
「教育・学術 ・文化」 、「政治・行 政」 、「 産業」の 4 つあり、そ れぞれ小項 目に分けられ る。「生 活一般」の「 保険・衛 生・医療」の 法人数 が 3,714 と一 番多く、「政治・行政 」の「総合計画」の法 人数が 69と一番 少な い。全体的に
「政治・行政 」の法人 数が他の設立 目的と比 べて少ない。
20 平成 20年(2010)12月に「新公益 法人制 度」が施行さ れた。
34
表 2-1 公益法 人の実 態 (2005 年度)
出所)『平 成 17 年度 公益法人概 況調査表 』より作成。
法人数 常勤職員
数
年間収入合 計
寄付金収
入 補助金 正味財産額 正味財産
増減額
届出事業 収入額
家庭生活 160 585 63,944 519 2,626 39,724 492 5,274
保険・衛生・医療 3,714 182,817 3,500,000 36,814 87,704 2,300,000 100,000 1,000,000 体育・レクリエーション 1,534 29,820 620,000 18,988 72,450 570,000 6,380 230,000
保育 205 3,013 23,169 213 5,884 25,147 733 396
福祉・援護 1,467 14,891 1,100,000 45,946 24,617 360,000 26,986 150,000 職業・労働 1,819 20,006 750,000 4,172 75,075 630,000 -90,000 120,000 福利・共済 767 11,456 1,400,000 9,451 52,693 1,000,000 -30,000 260,000 移住・生活環境 830 19,495 870,000 1,067 15,472 620,000 19,153 310,000 安全 744 20,014 300,000 3,335 12,115 340,000 6,185 150,000
その他 414 4,772 210,000 2,816 9,500 310,000 32,859 58,800
教育 2,222 18,747 800,000 25,231 56,799 1,700,000 220,000 150,000 育英・奨学 1,132 3,175 260,000 12,536 7,572 980,000 -50,000 32,810 学術・研究 1,133 20,610 810,000 20,198 79,078 1,300,000 24,860 370,000 文化・芸術 1,299 15,346 510,000 13,057 58,648 790,000 1,995 130,000
報道・出版 121 4,021 130,000 141 1,283 150,000 785 67,618
宗教関係 170 864 14,517 1,648 310 67,652 124 7,231
国際交流 390 3,331 83,867 2,122 25,290 180,000 3,088 16,130
その他 514 4,033 160,000 13,127 5,286 150,000 17,607 25,009
政治・行政 158 1,999 55,737 767 5,495 62,701 -304 25,948
財政・経済 735 3,115 110,000 1,432 1,665 120,000 2,615 33,461
総合計画 69 1,209 34,094 29 694 48,199 730 21,009
地方行政 476 10,757 1,100,000 1,277 110,000 1,400,000 74,486 120,000
自然・環境 278 4,566 230,000 2,829 8,067 130,000 -266 66,026
国際関係 94 2,317 71,087 4,861 9,094 290,000 833 13,897
その他 81 1,075 45,466 167 6,006 89,890 282 7,759
金融・保険 158 2,275 850,000 2,298 7,001 1,400,000 -30,000 26,454 農林水産 1,719 14,047 1,400,000 6,137 240,000 1,300,000 6,712 180,000 通商産業 1,359 33,475 1,400,000 16,668 160,000 1,100,000 50,369 440,000 運輸・交通 443 14,222 410,000 6,940 32,592 570,000 18,579 200,000
建設 710 10,634 570,000 583 3,450 300,000 11,244 310,000
通信 111 1,484 140,000 516 30,061 250,000 8,519 60,077
情報 95 1,768 62,187 37 9,563 86,418 1,693 34,511
その他 196 3,354 180,000 209 23,235 530,000 21,487 61,812
25,317 483,293 18,264,068 256,134 1,239,325 19,189,732 458,227 4,684,222 単位:数、百万円
総 計 産業
設立目的
生活 一般
教育・
学術・
文化
政治・
行政
35 3 公益法人税制
3.1 公益法人と 課税 (公益法人非 営利課税 の根拠)
公益法人の税 制につい ては、寺社・ 墓地等に 対する地租の 取扱いに 端を発し ており、明治 32 年法 人所得税(第 1 種所 得 税)5 条 4 号において 、「営利ヲ目 的トセザル法 人ノ所得 」と、創設以来非 課税 とされてきた 。戦後 、シャウプ勧告 を受けて昭 和25 年改 正税法で、現行 の公益 法人課税制度 の原型、収益事業所得 等を除き、原 則として 非課税という 形がほぼ 完成した。
こ れ ら 公 益 法 人 等 に 対 す る 非 課 税 措 置 は 、そ の 公 益 活 動 に 対 す る 一 種 の 対 価 支 払 い で あ る と 考 え ら れ て い た が 、戦 後 イ ン フ レ に よ っ て 人 件 費 そ の 他 経 費 が 増 加 す る 反 面 、寄 付 金 収 入 も 思 う よ う に い か ず 、経 営 困 難 と な っ て き た こ と も あ り 、収 益 事 業 を 公 然 と し か も 大 々 的 に 行 う 公 益 法 人 も 目 立 つ よ う に な っ て き た 。ま た 、財 団 法 人 等 の 設 立 認 可 が 比 較 的 容 易 に 行 わ れ 、し か も 設 立 後 の 監 督 が 十 分 に 行 わ れ な い の で 、そ の 実 体 が 公 益 事 業 を 行 っ て い る か ど う か 疑 わ れ る も の も 少 な く な か っ た 。こ の よ う な 中 で 、国 民 全 般 が 相 当 重 い 税 負 担 に 耐 え て い る 状 況 か ら し て 宗 教 法 人 等 以 外 の 公 益 法 人 に 対 し て 全 面 的 に 税 を 非 課 税 と い う こ と は 問 題 で あ る と い う 議 論 が 高 ま っ て い た 。シ ャ ウ プ 勧 告 で は こ の 点 に 関 し 、法 人 税 を 免 除 し う る 公 益 法 人 の基 準 を 作 成 し 、そ の 基 準 に 該 当 す る 公 益 法 人 に 対 し て の み 事 業 内 容 調 査 の う え 免 税 証 明 書 を 交 付 す る こ と と し 、そ の 免 税 証 明 書 は3年 ご と に 審 査 し て 更 新 す る 制 度 を 設 け 、 免 税 証 明 に 値 し な い も の は 全 面 的 に 課 税 す べ き で あ る と の 勧 告 を 行 っ た 。 次 に 公 益 法 人 の 課 税 根 拠 に つ い て 、 池 部(2005)で は 、 「 わ が 国 の 税 制 は 、 基 本的にいわゆ るシャウ プの法人擬制 説的思考 を前提にして いる。法 人擬制説に よれば二重課 税が生ず るところから 、所 得税 法 92 条において 配当 所得の一定割 合を所得税額 から控除 する配当控除 制度が導 入され、二重 課税の配 慮がなされ ている。法人 擬制説に よれば、公益 法人等に は配当をうけ る持分株 主が存在せ ず、剰余金を 社員に分 配できないた め、所得 税の前払的存 在である 法人税を課 す 根 拠 が 曖 昧 で あ る 。 」21と 議 論 し て い る 。 ま た 「 法 人 擬 制 説 は 、 法 人 が そ の 所得を株主に 分配する かどうかが重 要となる 。法人が 所得を分 配し ないときは 、 利益を享受す る者がい ないのであり 、所得の 分配がない限 り公益法 人等には担
21 池部(2005)。
36
税力がないも のと考え る。また 、担 税力は自 由に処分でき る財産 を 有する状態 から発生する ところ、 公益法人等の 剰余金で あり分配でき ないもの は、使途が 拘束されて自 由に処分 できず利益を 享受でき ないものであ ることか らも担税力 はないと考え る。」22とし、課税の論 拠が曖昧 であるとして いる。
法 人 実 在 説 は 法 人 が 負 担 す る 法 人 税 を 消 費 者 や 従 業 員 に 転 嫁 で き る こ と が 前 提 に な る が 、公 益 法 人 等 の 本 来 事 業 に 付 い て は こ う し た 転 嫁 は き わ め て 困 難 な 状 況 に あ る 場 合 が 少 な く な い 。し た が っ て 、本 来 事 業 に お い て 、独 自 の 担 税 力 を 認 め るこ と は 困 難 で あ る と い わ な け れ ば な ら な い だ ろ う 。結 局 の と こ ろ 、法 人 実 在 説 も 公 益 法 人 等 や 人 格 の な い 社 団 等 の 本 来 事 業 に 対 す る 課 税 の 根 拠 と し て は 薄 弱 だ と 言 わ ざ る を 得 な い 。 し か し 収 益 事 業 に つ い て は 、 法 人 実 在 説 は 課 税 の 根 拠 と し て 成 立 す る 。
3.2 現行の公益 法人 税制
公益法人税制 は、法人 税法第 2 条 6で「公益 法人とは別表 第二に掲 げる法人 をいう」と規 定してい る 。またこれ らの公益 的事業を行う 法人は、 法人税法第 7 条で「内国 法人であ る公益法人等 又は人格 のない社団等 の各事業 年度の所得 のうち収益事 業から生 じた所得以外 の所得及 び清算所得に ついては 、第五条(内 国法人の課税 所得の範 囲 )の規定に かかわら ず、それぞれ 各事 業年 度の所得に 対する法人税 及び清算 所得に対する 法人税を 課さない。」 と定めて おり、これ によって公益 法人は法 人税等の納税 義務を負 わなくて良い とされて いる。また 法人税法 第 4 条で 、「 内国法人は、この法 律により 、法人税 を納 める義務があ る。ただし、 内国法人 である公益法 人等又は 人格のない社 団等につ いては、収 益事業を営む 場合又は 第八十四条第 一項(退 職年金等積立 金の額の 計算)に規 定する退職年 金業務等 を行う場合に 限る。」 とし、収益事 業につい ては法人税 法第 2条 13 項「 販売 業、製造業 その他の 政 令 で定める事 業で、継 続して事業場 を設けて営ま れるもの をいう。収益 事業は法 人税法施行令 第 5 条 第 1項各号に 列挙された一 定の事業 。」と規定さ れている 。
収益事業に係 る 法人税 率は 22%の軽減税 率(普通法人の基 本税率 は 30%)が
22 池部(2005)。