-中小法人と大法人の限界実効税率の比較を中心に-
1 本章の問題意 識
租税原則で は、法人 課税によって 企業活動 が影響されな いことを 求めている 。 しかし、法人 税が投資 活動に影響を 及ぼすこ とはよく知ら れており 、これまで にも多くの研 究が 限界 実効税率の 計 測を通じ て、法人税が 投資に影 響すること を示唆してき た。ま た 、法人企業の 規模によ って適用され る税制は 異なってお り、限界実効 税率の格 差が投資活動 のみなら ず、法人企業 の規模や 組織形態に 影響を及ぼす 可能性が ある。この点 に関して は、アメリカ の研究で も検証され ている30。
本章では、個人・法人 の資本所得税 制を考慮 にいれた King=Fullerton(1984)
の限界実効税 率 に関す る理論的フレ ームワー クに依拠し、 そこに よ り日本 の税 制を取り込み 、日本型 モデルを構築 する。こ れまで日本に おいても 限界実効税 率の測定はさ れている が、 法人企業 の規模 の 違いはほとん ど考慮さ れていなか っ た 。 し か し 中 小 法 人 ・ 大 法 人31で は 、 法 人 税 率 、 交 際 費 の 課 税 ベ ー ス 算 入 金 額 、 留 保 金 課 税32な ど の さ ま ざ ま な 税 制 上 の 違 い が あ り 、 限 界 実 効 税 率 の モ デ ルは異なって くる。 そ こでここでは 中小法人 と大法人の税 制上の相 違を明示的 に組み込んだ 限界実効 税率の計測モ デルを構 築する。 そし てこのよ うなモデル の違いが、実 際に中小 法人、大法人 の 限界実 効税率 に差を 存在させ るの か、ど のような理論 的動きを するか考察す る。また 、その構築し た理論モ デルを使っ て実証分析を し、資本 コストに差が 存在する かを検証する 。
29 本章は財団法人 納税 協会主催の 第 3 回「税 に関する論文 」で 奨励 賞の入選し た同名論文を もとに執 筆されたもの である。
30 Goolsbee(1998)(2004),Gordon,MacKie -Mason(1994)
31 本論文での中小 法人 とは資本 金 1 億円未満 の法人で、大法 人は資 本金 1 億 円 以上の法人を いう。
32 『税務統計 からみた 法人企業の実 態』(2005)より、留保金課 税 の対象であ る同族会社の 占める割 合は、法人 の 94.6%である。また 、平成 19 年度税制改正 によって、同 族会社の 留保金課税制 度につ い て、適用対象 から中小 企業(資本 金等が 1億円 以下の会 社)が除外さ れた。
63 2 中小法人と大 法人 税制の違い
中 小法 人 は わ が国 の 企業の 98.4%33を占 め 、常 時雇 用 者の 58.8%34が働く な ど、わが国経 済におい て中心的な役 割を果た しており、わ が国の経 済・産業構 造の活性化に 向け ての 中小法人の役 割 は大き い。このよう な状況の 中で中小法 人を支援し、 活性化さ せ、景気回復 ・雇用拡 大を、より確 かなもの とするため に様々な支援 施策があ る。その中で 、中小法 人と大法人と の税制の 違いは大き く分けて 3 つ ある。
第一の税制の 違いは、 法人所得に対 する税率 が中小法人に は軽減税 率が適用 さ れ て い る こ と で あ る 。 表 3-1 よ り 、 大 法 人 の 財 務 省 型 実 効 税 率 は 1990 年
49.99%、1998 年46.37%、1999年以 降 40.87%であり、中小法人 は 1990年より
38.39%、1998 年 34.80%、1999 年以降 30.85%というように 軽減 税率となって
いる。
第 二 の 税 制 の 違 い は 、 同 族 会 社 へ の 留 保 金 課 税 で あ る 。 中 小 法 人 の
94.6%(2005年) すなわ ちその大半が 同族会社 である。留保 金課税制 度は、一定
額を超えて会 社が留保 した所得に対 しては、 株主レベルで の課税が なされなか った、あるい は税の軽 減をされたこ との代替 として、付加 的な法人 税を課すた め に 創 設 さ れ た 制 度 で あ る35。 制 度 と し て は 、 所 得 等 の 金 額 か ら 社 外 流 出 額 を 差し引いて留 保所得金 額を求め、こ れらから 法人税等を控 除し、当 期留保金額 を算出し、さ らに、こ れから留保控 除額を差 し引いて課税 留保金額 が算出され
る(図 3-1)。
留保金課税の 税率は 表 3-2に示した ように 、課税留保額 が 3000万円以下の場
合11.73%、3000万円 超 1億円以下 の場 合 17.595%、1 億円 超 23.46%である。
また平成19年度税制 改正で は、産 業競争力 を高め、中小 法人 の財 務基盤の強 化を図る観点 から、 留 保金課税の 見 直しが行 われた。具体 的には、 外部からの 資金調達が難 し い状況 にあるといっ た中小 法 人の特性を踏 まえ、こ の制度の適 用対象となる 特定同族 会社から、当 該事業年 度終了の時に おける資 本金の額が 1億円以下で ある会社 が除外された 。
33 国税庁『税務統 計か ら見た法人企 業の実態 』(2005)より。
34 総務省『事業所 ・企 業統計調査』(2004)より。
35 恣意的な配当抑 制は 、株主レベルで も節税 のために同族 会社でだ けなされ る であろうと、 前提がお かれている。
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表 3-1 法人税 の税率
出所)『財政 金融統計 月報』租税特 集各年度 、『図説日本 の税制』 各年度。
図 3-1 留保金 課税計 算の流れ
出所)川村文 彦・武田 茂(2002)『同族会社 』第 3版 p33.
単位:%
基本税率 中小法人
軽減税率 基本税率 中小法人
軽減税率 基本税率 中小法人 軽減税率
1億超 1億円以下 1億超 1億円以下 1億超 1億円以下
所 得 所得700万 円超
所得350-
700万円
所得800万 円超
所得400-
800万円
所得800万 円超
所得400-
800万円
法人税 37.5 28 34.5 25 30 22
道府県民税 5 5 5 5 5 5
市町村税 12.3 12.3 12.3 12.3 12.3 12.3
事業税 12 9 11 8.4 9.6 7.3
財務省型実効税率 49.99 38.39 46.37 34.80 40.87 30.85 資本金 1990年(平成2年) 1998年(平成10年) 1999年(平成11年)
課税留保金額 留保控除額
所 得 等 の 金 額
留 保 所 得 金 額 社外流出
当期留保金額 法人税等
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最後に、交際 費の損金 算入額がある 。 交際費 は企業の事業 遂行上、 広告宣伝 費と並んで不 可避の費 用で ある。し かしなが ら、 その費用 性は疑問 視され、 そ の支出の実態 及びこれ に対する社会 的批判の 高まりから 、1982年以降、大 法人 の交際費は全 額損金不 算入となって いる。と ころが、資本 金 1 億円 以下の中小 法人は租税特 別措置法 によって、交 際費の全 部あるいは一 部が損金 に算入 され る。表3-3 に示すよ う に、中小 法人は 年 間 400万円までの交 際費支 出額のうち 、 90%を損金に 算入でき るが、 上述の ように 大 法人は全額損 金不算入 である。
また平 成 19 年度税 制改正では、中 小法人 の交際費支出 額の範囲 から、一人当
たり 5,000円以下の 一 定の飲食費を 除外する ことができる ようにな った。
表 3-2 同族会 社の課 税留保金額に 対する税 率
表 3-3 交際費 の損金 不算入額
出所)『税務 ハンドブ ック』大阪・ 奈良税理 士協同組合。
単位:%
課税留保額 年3000万円以下 年3000万円超年
1億円以下 年1億円超
法人税 10 15 20
住民税 1.73 2.595 3.46
合 計 11.73 17.595 23.46
課税留保金額=当期集歩金額-留保控除額 留保控除額は次の①②③のうち最も多い額である。
①当期所得金額×35%
②年1500万円相当額
③(期末資本金額×25%)-期首利益積立金額 備考)『税務ハンドブック』大阪・奈良税理士共同組合。
期末資本金額 1億円以下 1億円超
損金不算入額
A=当期支出交際費等、B=400万円×(当期月数/12)
損金不算入額=(A-AまたはBいずれか少ない金額)×90%
A=損金不算入額
66 3 理論的フレー ムワ ーク
法人税の税 負担の尺 度には、平均 実効税率 と限界実効税 率という 2つの考え 方がある。前 者は、法 人企業が年度 内に生み 出した所得に 対してど れだけの税 負担をしてい るのかを 示すものであ る。後者 は、限界的な 所得(追 加的な投資 1 単位)に対 して法人 税率だけでな く、税務 上の減価償却 率や投資 税額控除、
交際費などを 考慮した 上で、限界的 な投資に どれだけの税 を負担 す るかを示す ものである。
本稿では 、法人 税制 における税務 上にかか わる全てのこ とを考慮 するために 、 King=Fullerton(1984)の 限界実効税率 の 理論的 フレームワー クを選択 した。そし
て King=Fullerton(1984)に依拠し36、より日 本 型税制を取り 入れたモ デルを構築
する37。2 で見て きたよ うに、法人税 制では中 小法人は大法 人と違い 、軽減税率 、 留保金課税、 交際費損 金算入制度が あり、そ れらの制度を 限界実効 税率のモデ ル の 中 に 反 映 す る 。 ま た 、 限 界 実 効 税 率 の 計 算 に あ た っ て は 、
King=Fullerton(1984)と 同様に、1 単位の投資 に対する収益 率と貯蓄 に対する 収
益率との間の ‘tax wedge’wを直接見積も る 方法で推計す る。
投 資 の 限 界 的 な 増 加 ( 一 単 位 に 対 す る 初 期 費 用 ) に 対 す る 粗 限 界 収 益 率 を MRRと表す。そして 資産の 減価償却 率は 一定の指 数関数
と仮定する。投 資 1 単位から得ら れる純収 益率 p、 p'は、(1) pM R R 大 法人モデル
(1‘) p'MRR' 中 小法人モデル
実質利子率をrとし、そ れに対応する 名目 利子 率をiとする。
がインフ レ率を表すとすれ ば、 次の ようになる。
(2)r i
は 大 法 人の 財 務 省 型 実 効 税 率 、'は中 小 法 人 の 財 務 省 型実 効 税 率 、 会 社 の
36 前提条件は①市 場は 完全競争②不 確実性は 存在しない③ 資本市場 において 、 資本の取引費 用は存在 しない④国際 間の資本 移動はしない ⑤企業及 び家計は静 学的期待を抱 き、各種 資本所得税率 、市場利 子率、インフ レ率は通 常的に一定 である。
37 大企業モデルの 理論 的フレームワ ークは、King=Fullerton(1984)に 基づく萩原
(1994)、高馬(1998)を参考にした。
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名目 割 引率 は、 固 定 資 産に 対 する 実 効税 率 を wc38、留 保 控除 額 およ び 損 金不 算 入 の社 外 流 出 を j、 留 保 課 税率 を Rと す る と 、 企 業 の新 規 投 資 に よ る 収 益 の 現在割引価値 の総和V 、V'は、
(3)
(1 )( ) (1 )( )0
)
( u c
c
w du MRR
e w MRR
V 大法人 モデ ル
(3’)V
MRR wc
MRR wc j
R
e udu0
) ( '
' '
'
' (1 )( ) (1 )( )
1 ' 1 R MRR' wc jR
中 小法人モ デル
(3”)V
MRR wc e udu0
) ( '
')( )
1
(
(1 ')(MRR wc)
中小法人 モデル(留保 金課税な し)
税の優遇措 置、税 負担 軽減措置に よる減 税額 を Aとすると 、 1 単位の 投資に 対する投資費 用C1、 '1
C は、
(4) C1 1A 大 法人モデル
(4’) C1' 1A' 中 小法人モデル
普通償却を 適用する 資産の比率を f1、特別 償 却を適用する 資産の比 率を f239、 引 当 金 ・ 準 備 金 の 積 立 率 をh、 税 額 控 除 率 を g、 交 際 費 比 率 をkと す る と 、 新 規投資に対す る税負担 軽減額 A、A'は、
(5) A f1Ad f2
hg 大法人モデ ル(5’) A' f1Ad f2 hg' k 中小法 人モデル
法人税制に おいては 、通常の減価 償却のほ かに租税特別 措置法に より特定の 要件を満たす 資産や企 業について特 別償却制 度があり、通 常の減価 償却以上に 償却費を計上 すること ができる。ま た各種引 当金や準備金 により税 金の繰延 べ が図れるほか 、税額控 除により法人 税を節税 することが可 能である 。
Ad、A'dは、通常の 減価償 却制度による 税負担軽 減額の割引現 在価値で ある。
38 わが国では課税 ベー スを算定する 場合、事 業税(固定 資産に対 す る実効税率 ) は損金算入さ れる。
39 f1 f2 1である。