4 章 エントロピーの登場 — 熱力学第二法則 —
4.3 エントロピー
が導かれる。ここで、温度aはa> Hを満たす限りどんな温度をとっ てもよい。したがって、式(4.6)の右辺ではaは不必要な量であり、分子 と分母の函数f は実質的にそれぞれLあるいはH のみの関数である。
したがって
f .H; L/D f .L/
f .H/ (4.7)
となる。
このようにして得られる函数f . /は温度そのものを表すと考えること ができる。そこで、
T f . / (4.8)
で温度Tを定義する。これが熱力学温度である。この定義を用いると、式 (4.3)と(4.6)から
qL
qH D TL
TH
(4.9) となる。したがって、式(4.2)のカルノーサイクルの効率は
D1 TL
TH
(4.10) と表される。この式から、TLD0のとき最高の効率D1が得られるこ とが分かる。この温度が絶対零度である。以上からは温度の目盛方は決ま らないが、それは任意であるから摂氏温度と目盛り幅が同じになるように 決めることができる。このように定められたのが絶対温度である。単位は 提唱者に因んでケルヴィンが用いられる。記号はKである。
4.3 エントロピー
式(4.9)は可逆サイクル(可逆過程)に対して
qH
TH
qL
TL D0 (4.11)
を与える。
不可逆サイクルの効率0も可逆サイクルの場合と同様に定義できる。い ま、不可逆サイクルにおいて、系は外界の高温熱源(温度TH0 )から熱q0H
を吸収し、低温熱源(温度TL0)へ熱qL0 を放出するものとする。熱力学第 一法則は可逆過程か不可逆過程かに拘わらず成立するので、0は
0 D1 qL0
qH0 (4.12)
で表される。カルノーの原理によって、この0は可逆サイクルのより も小さい。そこで
qL0 q0H > qL
qH
(4.13) が成り立つ。この式の右辺に式(4.9)を用いると
q0L qH0 > TL0
TH0 (4.14)
の関係を得ることができる。ただし、不可逆過程では系の温度(TH およ びTL)は定義できないので、式(4.9)からのTH とTLは外界の高温熱源 あるいは低温熱源の温度であることを明示するため、それぞれTH0 、TL0 と
した。式(4.14)から、不可逆サイクル(不可逆過程)に対して
qH0 TH0
qL0
TL0 < 0 (4.15)
となることが解る。
ここまでの議論では系に出入りする熱(qH、qL、qH0 、qL0)は全て正の 値を持っているとしてきた。これ以降では、熱は系が吸収する場合正の値 を、系が放出する場合は負の値を持つものとする。この約束事を用いる と、式(4.11)と(4.15)はそれぞれ
qH
TH C qL
TL D0 (4.16)
qH0 TH0 C q0L
TL0 < 0 (4.17)
と表すことができる。
いま、図4.5に示すような一般の可逆サイクル(a !b !)を考える。
この可逆サイクルが囲む領域を多数の断熱線によって区切る。次に2つの
4.3 エントロピー 43
a
A Ti A’
B
b
C’ C D Ti+1
V
p
図4.5一般のサイクル;破線は全て断熱線
断熱線の対について、例えばA!Bの等温線、ならびにC!Dの等温線 を引く。このようにすると、A!B!C!D!Aの小さなカルノーサイク ルができる。このサイクルについて式(4.16)が成り立つ。続いて1つ右 寄りの断熱線の対に対して同様にすると、そこでの小さいカルノーサイク ルについても式(4.16)が成立する。断熱線の数は極めて多く、隣り合う 断熱線は限りなく近いとすると、例えばA!B!C!D!Aの小さなカル ノーサイクルは実質的にA!A0!C!C0!Aの小さなカルノーサイクル を表すと考えてよい。各断熱線間でのカルノーサイクルがにおいて系が温 度Tiで吸収する熱をqi、温度TiC1で放出する熱をqiC1とすると上に述 べたようにそれらに対して式(4.16)と同様の関係が成り立つ。全ての断 熱線の組み合わせに対するそれらの式を足し合わせると
X
i
qi
Ti D I ¶q
T D0 (4.18)
を得ることができる。
ここで、カルノーサイクルA!A0!C!C0!Aにおける準静的断熱膨 張過程A0!Cはすぐ次のカルノーサイクルにおける準静的断熱圧縮過程 C!A0と同じ断熱線を辿る逆向きの過程であることが図から分かる。し たがって、前者で系によって為される仕事は、後者で系が取り込む仕事で 完全に相殺される。このことから、最初の小さいカルノーサイクルにおけ
0
V 1
a 2
b
p
図4.6任意のサイクル
る準静的断熱圧縮過程と最後の小さいカルノーサイクルにおける準静的断 熱膨張過程とを除いて、それらの中間の断熱過程において系がやり取りす る仕事は全て消えることになる。そのようにして、無限個の微小カルノー サイクルについての和P
iqi=Tiは図4.5の実線で表すサイクルを1周し たものに対応することが分かる。つまり、式(4.18)の積分は可逆サイクル (a!b!)についての計算であるということになる。
図4.6に示す任意の可逆サイクルについて、平衡状態1と2間に対して 式(4.18)を適用すると
I ¶q T D
Z 2
1
¶q T C
Z 1
2
¶q
T D0 (4.19)
となる。この式から Z 2
1
¶q T
.1!a!2/ D Z 2
1
¶q T
.1!b!2/
(4.20) が得られる。この式は平衡状態1と2における何らかの量の変化(差)が、
平衡状態1から2への変化の経路に依らない事を示している。したがっ て、この何らかの量は状態量であることになる。この量をエントロピーと 名付け、記号Sで表す。このエントロピーの名付け親はクラウジュウスで ある。エントロピーS を用いると、式(4.20)から
S DS2 S1D Z 2
1
¶q
T (4.21)
4.3 エントロピー 45 を得ることができる。可逆サイクルについては
I dS D
I ¶q
T D0 (4.22)
である。微分形で表すと、
dSD ¶q
T (4.23)
という可逆過程に対して非常に有用な式が得られる。この式をクラウジュ ウスの等式という。
不可逆サイクルについても、微小サイクルに分割してそれぞれについて 成り立つ式(4.17)と同様の式を足し合わせることによって
I ¶q
T0 < 0 (4.24)
を得ることができる。この式と式(4.22)から I
dS >
I ¶q
T0 (4.25)
が成り立つことが分かる。したがって、不可逆過程に対して、微分形の式 dS >¶q
T0 (4.26)
を得ることができる。この式をクラウジュウスの不等式という。この式の 積分形は
S D Z 2
1
dS >
Z 2
1
¶q
T0 (4.27)
である。エントロピーSは(示量性)状態量であるので、不可逆過程にお いても最初の平衡状態および最終的に到達する平衡状態での量として用い ることができる。ただし、途中の非平衡状態ではエントロピーは定義でき ず、式(4.25)、(4.26)や(4.27)の右辺の計算はエントロピーSと直接的に は何の関係もないことに注意しなければならない。不可逆過程に対しては 不等式が与えられているのみであり、エントロピーS の変化は可逆過程
(準静的過程)についてしか求められない。