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第 5 章 InGaP/GaAs HPT の特性及び信頼性評価

5.2 InGaP/GaAs HPT の温度特性

5.2.1 HPTの電気特性とエミッタレッジパッシベーションの効果

図5.1、図5.2は、それぞれ暗状態、光照射状態でのHPTのエミッタ接地電流-電圧特性を示

す。入力としてベース電流IBを10、20、30、40、50 μAと変化させ、各IBを固定してコレクタ・

エミッタ間の電圧VCEを0から1.5 Vに変化させ、VCEに対するコレクタ電流ICを測定した結果 である。電流利得βは、図5.3に示すようにベース電流に依存する。HPTの場合、後で述べるよ うにベース電流は固定されても光照射によりHPT内部のベース電流が増加するため、光照射時に は電流利得βが定義されず、暗状態でのみ電流利得βは定義される。

図5.1 暗状態でのN-HPTとL-HPTの電気特性

図5.2 光照射状態でのN-HPTとL-HPTの電気特性

図5.3 暗状態でのHPTの電流利得βのベース電流IB依存性

L-HPTは全てのベース電流でN-HPTよりも電流利得βが高く、N-HPTに比べるとL-HPTで

は、ベース電流が増加するにつれ電流利得がより大きく増加することが分かる。エミッタレッジ パッシベーションのInGaP/GaAs HBTへの影響の詳細は、楊らにより述べられている[5.1]。高 濃度カーボンドープされた GaAs表面では表面準位密度が高く再結合が生じやすい。作製された HPTは前述のようにエミッタの周辺長が長く、高濃度のGaAsベース層が露出した表面が空乏層 内に含まれるため再結合電流が生じ、電流利得 β が低ベース電流と低エミッタ・ベース順バイア スでは低下する。一般には、エミッタ・ベース接合での再結合電流は順バイアスが大きくなると、

拡散電流に比べて小さくなるため、電流利得は上昇する。

光照射時のコレクタ電流の解析に図5.4のTanらのHPTの三端子等価回路を用いる[5.10]。

I I

I

C

IC

ph

I I

I I

I

B

ph

B

ph

ph

  ( ) [ ]

I I I

I I I

I

I

C

B

ph

B

ph

B

B

ph

  ( ) [ ]  ( )

I I

I I I

I I

I

B

ph

B

B

B

ph

ph

ph

 [  ( )  ( )]  ( )

図5.4 ベースに電流源を用いる三端子HBT/HPTの等価回路[5.10]

ここで、REはエミッタ抵抗、RBはベース抵抗、RCはコレクタ抵抗、ICは内部コレクタ電流、

Iphはベース・コレクタ間の空乏層に生成された光電流である。暗状態と光照射状態でIBはREを 通し流れる。光照射状態でベース・コレクタ間の空乏層に生成された光電流 Iphは B’点に流れ込 み、その後REとRBに分けられるが、電流源の場合、Iph2は0となり、光電流Iphとの全てがベー ス電流 IBとともにエミッタ・ベース接合に流れ込む。したがって、光照射状態では、HPT のベ ース電流はベース電流とベース・コレクタ間の空乏層に生成された光電流Iphの和となり、光照射 時のコレクタ電流ICと光照射によるコレクタ電流の増加分ΔICは次の式で与えられることになる。

式(5-1)、(5-2)のβ(IB + Iph)、β(IB)は、それぞれがIB + Iph、IBの値のときの暗状態でのβである。

図5.3よりベース電流の増加とともに電流利得βは増加するので、式(5-2)の第1項は正となる。

したがって、式(5-1)より、電流源により流すベース電流は、光照射状態も暗状態も同じであるが、

光照射時にはベース・コレクタpn接合で生成される光電流に加えて、[β(IB + Iph)-β(IB)]×IB + β(IB

+ Iph)×Iphの電流がコレクタ電流として暗状態より余分に得られることが分かる。フォトダイオー ドの場合の光電流 Iphよりはるかに大きい光照射による電流がHPTでは得られることは明らかで ある。

各ベース電流IBでコレクタ電流ICがコレクタ・エミッタ間の電圧VCEに依存せず、飽和する領 域で測定されたΔ 及び を図 に示す。

(5-2) (5-1)

図5.5 HPTのΔIC及びSのベース電流IB依存性

ベース電流IBが増加するにつれ、ΔICは増加する。L-HPTのΔICは、ベース電流50 μAでN-HPT の4倍近い。ベース・コレクタの空乏層で生成される光電流は、L-HPTもN-HPTも同じである としても、コレクタに流れる全電流は、L-HPTの方が大きく、式(5-2)の第1、2項がN-HPTよ り大きいことによる。興味深いのは、暗状態のL-HPTの電流利得βはベース電流10 μAのとき は、N-HPTのベース電流50 μAの電流利得βより小さいが、L-HPTのΔICは、ベース電流10 μA

でもN-HPTのベース電流50 μAのΔICより2倍以上になっている点である。すなわち、HBT以

上に、HPTでは、エミッタレッジパッシベーションが大変有効である。

5.2.2 HPTの温度特性

両HPTの温度特性について解析する。まず、暗状態で300から400 Kの温度範囲でHPTの VCEを1.5 Vに固定し、ベース電流IBを10、20、30、40、50 μAと変化させ、各温度でのコレク タ電流ICを測定した。VCEが1.5 Vのときは、いずれの温度でも各ベース電流IBでコレクタ電流 ICがコレクタ・エミッタ間の電圧VCEに依存せず、飽和する領域である。また、いずれの温度で も電流利得βはベース電流IBが増加するとともに増加したので、温度変化については、最小と最 大のベース電流IB、すなわち10と50 μAの場合の結果のみを図5.6に示す。

図5.6 暗状態でHPTでの電流利得の温度特性

L-HPT、N-HPT ともに温度の上昇とともに電流利得βは減少するが、380K以上では両HPT

の電流利得βは温度にあまり依存しない。ベース電流IBが大きいほど温度の上昇に対する減少は 大きく、N-HPTのベース電流IB 50 μAの電流利得βは300 Kでは、L-HPTのベース電流10 μA の電流利得βより大きいが、380 Kでは、L-HPTのベース電流10 μAの電流利得βと同じになっ てしまう。InGaP/GaAs HBTの電流利得βの温度上昇に対する減少は、これまでにも報告されて おり[5.1], [5.2]、高温になるとエミッタ・ベース接合での価電子帯オフセットを超えてエミッタに 注入される正孔が増え、エミッタ注入効率が低くなるからである[5.3]。しかし、同じベース電流 では、全ての温度で、L-HPTの電流利得βはN-HPTの電流利得βより高くなっており、エミッ タレッジパッシベーションは高温での HPT の動作においても電流-電圧特性を改善するのにも 有効であることが分かった。Linら[5.3]は温度の上昇とともに、AlGaAs/GaAs HBT、InGaP/GaAs HBT共に電流利得βが減少すると報告した。InGaP/GaAs HBTの電流利得βの熱係数は-0.126/K であり、AlGaAs/GaAs HBTの電流利得βの熱係数-0.345/Kより小さい。

ベース電流IB 10と50 μAの両HPTのΔIC及びSの温度依存性を図5.7に示す。

図5.7 HPTのΔICの温度特性及び受光感度S

図の全ての曲線においてΔICは320 Kまで増加し、その後減少し、また380 Kになると再び増 加する傾向がある。温度が上昇すると、少数キャリアの寿命が長くなるのでコレクタ空乏領域外 で生成されたキャリアも光電流となる。したがって、式(5-1)の Iph が増加する。しかし、温度の 上昇とともに暗状態での電流利得βが減少するが、Iphの増加はΔICを増加させる。320Kまでは、

Iphの増加が、電流利得βの減少を上回り、ΔICが増加するが、それ以上の温度では、Iphの増加が 少なく電流利得βによる減少がIphの増加を上回ると考えられる。また、380 Kでは、図5.6に見 られるように電流利得βはあまり変化しないため、Iphの増加がΔICを若干増加させる。しかしな がら、温度上昇によりΔICが減少しても全ての温度でエミッタレッジパッシベーションは高いΔIC

を保つのに有効であることは、図5.7から明らかである。