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前章では、グラジオラスに有望な2種の弱毒ウイルス株の作出と選抜を示した。本章では、弱 毒ウイルスを評価する項目のなかで最も重要な、干渉効果の評価を検討する。

グラジオラスのような栄養繁殖植物の場合、弱毒ウイルスを接種していても一旦強毒ウイルス が感染すれば後代にそのウイルスが維持される可能性が高く、このような個体の後代では弱毒ウ イルスの防除効果は保証されない。したがって、グラジオラスにおける弱毒ウイルスの干渉効果 は、強毒ウイルスの感染を完全に阻止する程度に強力なものである必要がある。しかし、それを 判定するには、弱毒ウイルスと強毒ウイルスとを正確に識別し、高感度に両ウイルスを検出でき る方法が必要となる。近年、遺伝子診断法は、干渉効果の判定に利用され、その有用性が報告さ れている (Kurihara et al., 2003; Letschert et al., 2002; Rizos et al., 1992)。そこで、本研究で作出した2 種弱毒ウイルスと強毒ウイルスの塩基配列の相違に着目し、遺伝子診断法による高感度な識別検 出法の確立を行った。

また、ウイルスの干渉効果の有無は、その相手となるウイルスの種や系統などの近縁性に関連 する。前章で選抜した 2種の弱毒ウイルス株については、対象のグラジオラス強毒ウイルス株に 対する干渉効果は明らかではない。さらに、BYMVを含むPotyvirus属には多くの種が含まれ、種 や系統の分類は必ずしも整ってはいない。したがって、干渉効果を正しく評価するためには、遺 伝子情報による種や系統の位置づけが正しく確認されたウイルス株の利用が必要である。

そこで、BYMV弱毒株M11については、使用するBYMV強毒ウイルス株のウイルスゲノムの 塩基配列を決定し、これを用いた干渉効果の試験を行うことにより、干渉効果の程度と遺伝子情 報との関連性を調べた。CMV弱毒株CM95については、グラジオラス由来のCMV強毒ウイルス

3.1 弱毒ウイルス株 BYMV-M11 の干渉効果 3.1.1 材料と方法

3.1.1.1 ウイルス

BYMV弱毒株M11の干渉効果を評価するため、対象ウイルス株にモザイク症状を呈したグラジ オラスから分離された3株、IbG、Gla (Sasaya et al., 1998)、G1 (Sasaya et et al., 1998)とソラマメ (Vicia faba) から分離された90-2 (Sasaya et al., 1997), ホワイトクローバ (Trifolium repens) から分離され た92-1 (Sasaya et al., 1998)ならびにCS (久米ら, 1970) の合計6株のBYMV 強毒ウイルス株と、

BYMVとの類似性は高いが別種であるClYVV -No30 (Takahashi et al., 1997)、および同じPotyvirus 属でBYMV との類似性が低いカボチャモザイクウイルス (Watermelon mosaic virus : WMV) -Pk (Ali et al., 2006) を用いた (表 3-1)。全ての株について、C. quinoaにおいて単病斑を分離した後、

ソラマメ (ミンポー) 苗 (第3, 4展開葉期) に接種した。病徴の認められた上位葉を採取し、以下 の実験に使用するまで-70°C で保存した。

干渉効 果試験に用 いたウイルス株 の由来植物、 ゲノム塩基 配列のアク セッショ ン番号および RT -PC R 識別検 マーの配列と PC R 増 幅領域

由来植物a Accession No.プライマー増幅領域 Gladiolus sp. AB079886Forward: 5′-CTMCARATGGAGAAYCCYGC-3′1370-1697 Reverse: 5′-GATATGCTCTTTGGCCCCAAAT-3′ Gladiolus sp. AB079887Forward: 5′-CTCCAAATGGAGAACCCCGC-3′1370-1697 Reverse: 5′-GATAAGCTCTTTGCCCCCAAAC -3′ Gladiolus sp. AB439729Forward: 5′-GGAGCTAGCGATTGGTAGACTC-3′1792-1973 Reverse: 5′-AGTCTGATATAACTGCCGTT-3′ Gladiolus sp. AB439730Forward: 5′-GTTAGCTATAGGAAGATTGATC-3′1795-1973 Reverse: 5′-AGTCTGATATGACTGCCGTC-3′ Vicia fabaAB439731Forward: 5′-GGAATTGCGGTTTTATCTGAC-3′1952-2304 Reverse: 5′-TGCATTGTGCCGAGTTTGTGG-3′ Trifolium repensAB439732Forward: 5′-GTTAGCAATTGGTAGGCTCA-3′1795-1973 Reverse: 5′-AATCTGATATAACTGCCGTC-3′ Trifolium repens⋅⋅⋅Forward: 5′-ACTTGCCACAGGACGTCTGATAG-3′1795-1973 Reverse: 5′-AATCTGACAGAATAGCTGTC-3′ Phaseolus vulgarisAB011819Forward: 5′-TCGTGAGCGTTTAAGTATGG-3′1399-1789 Reverse: 5′-CCTTCAGATGGATCAATCAC-3′ Cucumis melo AB218280Forward: 5′-GGCAGCAGCAATTAGTCAATC-3′1582-1863 Reverse: 5′-GTATCTGCAGCATATGTGTGC-3′ めて分離された植物

3.1.1.2 ウイルスゲノム塩基配列の決定と系統解析

感染葉からRNeasy plant mini kitにより抽出したRNAをFirst-Strand cDNA Synthesis kitとランダ ムプライマーを用いて42°C、30分間の処理でcDNAを合成した (第1章)。既報のBYMV2株の 塩基配列 (D83749, U47033) を参考にしてプライマーを設計し、PCRにより5′末端非翻訳領域か

ら 3′末端非翻訳領域にかけて 5 断片の重複する領域を得た。PCR 増幅産物は QIAquick PCR

purification kit (Qiagen) により精製した後、BigDye Terminator v1.1 cycle sequencing kit (Applied Biosystems) を用いてダイレクトシークエンス反応を行いApplied Biosystems 3130/3130xl Genetic

Analyzer (Applied Biosystems) により塩基配列を解読した。得られた結果を基にプライマーを設計

し、それによって更に塩基配列の決定領域を伸長させた。決定した塩基配列はGENETIX-WIN ver.

6.1 (Software Development) ソフトにより結合し、塩基配列のアライメント解析は CLUSTAL W

(version 1.83;により行った。系統解析はCLUSTAL W のneighbor-joining

法 (Saitou and Nei, 1987) を 用 い て 、 系 統 樹 は Tree View (Win32;

により作成した。なお、BYMV-CS の塩基配列の情 報は北海道大学の上田一郎博士より提供頂いた。さらに、 アメリカで塩基配列が決定されている グラジオラス由来の BYMV-GDD の塩基配列 (AY192568) を解析に加え、ClYVV-No30 の塩基配 列 (AB011819) は、系統解析時のアウトグループとした。

3.1.1.3 識別検出法

3.1.1.3.1 ウェスタンブロット法

既報 (Fujii et al., 2003) に従って感染葉より全タンパク質を抽出し、12% SDSポリアクリルアミ ドゲル (sodium dodecyl sulfate-polyacrylamide gel) により電気泳動を行った。これをナイロンメン

1997) (1000倍希釈)、ならびWMVの検出にはWMV-9 (M) に対する ポリクローナル抗体 (岩崎 ら, 1996) (1000倍希釈) を使用した。2次抗体は、1次抗体がポリクローナル抗体の場合は、ヤギ

-ウサギIgG (GE Healthcare Bio-Sciences) (2000倍希釈)、モノクローナル抗体の場合はヤギ-マウ ス IgG (GE Healthcare Bio-Sciences) (3000 倍希釈) を用いた。バンドの可視化は、nitro blue tetrazolium / 5-bromo-4-chliro-3-indolyl phosphateによった。

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