第 2 章 曳山祭と住民
5. まとめと考察
西町、上新町、東町3町の調査結果の報告は以上である。最後に、この3町の調査結 果を比較して、曳山祭の特徴といえる共通点を抽出したり、町による違いを明らかにし たりすることを試みたい。さらに、これまで町ごとに記述してきた住民たちの祭に対す る認識をまとめてみたい。
八尾曳山祭の特徴―3町の比較から
ここでは今までみてきた町ごとの報告から3町を比較し、八尾曳山祭の特徴について まとめる。
おおまかな祭の進行はどの町も共通しているが、町ごとに多少の違いがみられた。例 えば行事中の町の人の服装が挙げられる。5月1日の神前囃子では、東町の囃子方は東 町の法被を着用していたのに対し、西町と上新町では囃子方は紋付袴を着用していた。
このように西町と上新町では囃子方も紋付袴を着用することによって儀式の厳粛さが 増しているように感じた。また、祭当日の服装では、昔は総代とともに警護頭も紋付袴 を着用していた町がいくつかあったそうだが、現在では警護頭の人が紋付袴を着用して いる町はほとんどなく、今年上新町も東町も着用していなかった。これに対し西町の警 護頭は今年も紋付袴を着用していた。西町は昔からこのスタイルをやめたことがないよ うで、昔ながらの形式を守り続けているようだ。また、女性の祭への参加についても町 ごとに違いがみられる。前でも何回かみてきたように、曳山祭は女人禁制であり女性は 曳山に触れてはならないとされてきた。しかし、現在では少子化の影響で男の子が少な くなったことにより、曳山に女の子を乗せる町もみられる。例えば上新町と東町は小学 生までの女の子に限って曳山の上に乗ることができる。一方、西町は年齢に限らず曳山 の上に女の子を乗せることは現在でも許されていない。
以上から、上新町と東町は祭の変化に対して柔軟に対応している一方で、西町は形式 を重んじる傾向が強いといえる。
このように、町ごとにそれぞれ特徴をもっていることが分かった。一方、各町共通し て祭という伝統を継承しようという姿勢もみられる。それは多少の変化はあるが、行事 の進行や内容に大きな変化はなく、現在も昔ながらの形式で儀式が行われていることや、
各町に保存会があり曳山の保存に努めていることからも分かる。また、上新町のように、
若い人に対する曳山の組み立て講習会が開かれたり、どの町でも若い人たちが多く祭に 参加していたりと、町の人が伝統の継承に積極的である様子からもいえる。
このように形式をできるだけ継承しようとする共通の認識を持ちつつも、変化への対 応に町ごとの個性が現れているが、町ごとの個性が見えることには、町単位で祭が成り 立っている町人の祭という基本的な伝統が今なお息づいているからだと考えられる。
89 曳山祭に対する認識―3町の住民の語りから
最後に、各町で記した3町の住民の祭についての語りから、祭に関わる人たちが曳山 祭に対してどういう認識を持っているのかを考察する。
まず、どの町の人も自分たちの町の曳山が1番だと考えており、自分の町の曳山に誇 りを持っている。このように自分の町の曳山に誇りを持つのは、他の町との競争意識が 働いているということもあるだろうが、小さな頃から祭に参加し自分の町の曳山に愛着 を感じているからだともいえるだろう。
また、町の人は自分の町の曳山に誇りを持っているだけでなく、全体としての「八尾 の曳山」にも特別な思いを持っている。八尾はかつて交通の要衝として、あるいは養蚕 や和紙制作などの地場産業で栄えた町人の町であり、曳山祭はその繁栄を今に伝えてい る行事だということが、このような意識の底にあると推測される。「このような曳山を 作ろうと思うと相当なお金がかかるため現在ではとうてい作ることはできない」といっ た語りをどの町でも聞いたが、曳山祭は、八尾旧町の住民にとって、自分たちの町が誇 るに足る歴史を持っていることを思い起こさせる象徴なのだといえる。
さらに、祭に参加することで、それぞれの町で世代を越えたつながりが維持されたり、
強化されたりすると住民たちは意識している。若い世代と中年以上の世代の男性が祭を とおして協力することで、町の連帯が生まれたり、維持されたりするのである。このこ とを住民たちは強く認識しているし、そのようにして生まれた連帯感があるからこそ、
進学や就職で八尾を離れている人たちも祭の時期になるとわざわざ八尾に帰ってきて 祭に参加するのだろう。
つまり、祭に関わる八尾旧町の住民たちにとって、町がさまざまな変貌を遂げた現在 においても、曳山祭りは住民の間の連帯を強める行事であり、同時に「八尾の町民」と してのアイデンティティを再確認する機会なのである。
謝辞
調査を行うにあたって、八尾曳山保存会長である宮田紘郎様をはじめ、八尾壮年団団 長である井山裕之様、八尾壮年団の皆様には、総会に参加させていただくなど様々な便 宜をはかっていただきました。さらに、西町曳山総代である池畑忠寿様、上新町曳山総 代である栃山仁一様、東町曳山総代である冨士原尚文様をはじめ、西町、上新町、東町 のたくさんの皆様には貴重なお話を聞かせていただき、多大なご好意をたまわりました。
また調査を行う際に、西町の渡辺様には無償で宿を提供していただきました。
皆様に心から御礼申し上げます。本当にありがとうございました。
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