第 4 章 中国の小売チェーンにおけるフランチャイズによる店舗網の展開に関する研究
5.4 おわりに
以上,本研究では,大手靴チェーンである意爾康を事例として,フランチャイズ方式によ る販売網拡大の背景,地域代理商を通した加盟店管理の仕組みがどのように構築されてい るのかという点について検討した.
調査の結果,意爾康本部は加盟店に対して他の靴メーカーの製品を取り扱うことを禁止 したり,高い売上目標を設定し,その達成を義務付けたりして厳しいノルマを課す一方で,
販売実績があり信頼できるオーナーには,その経営・生活実態を考慮し,新規出店資金の支 援や販売スタッフの派遣,売上高に応じた奨励金の支給,掛払いでの商品供給を行う等の経 済的な支援に加えて,店舗運営のためのノウハウ等の情報を提供して教育を行うことで,
元々は独自の販売網を持たなかったメーカーであったにもかかわらず,全国的な販売網を
急速に拡大したことが明らかになった.同社では2010年までの中国市場の急速な拡大を反
映して,日本等の成熟市場のように売上額に対する利益率を高めるのではなく,掛払いであ っても加盟店に積極的に製品を供給し,売上額自体を伸ばすことで,製品の生産コストを下
げて利益を確保するという方針を採っていた.結果的には,フランチャイズ方式を導入して
15年程度で,全国に4,000店もの店舗網を形成できた点は特徴的である.
以上で検討してきたチェーンの店舗展開の手法は,日本や他の国々の小売チェーンでも
みられた手法でもあるが(土橋2002a,b),2000年代の中国の事業環境を考慮すれば,ある 程度の妥当性がある拡大手法であったと考えられる.同社が,以上のような店舗展開の手法
を採ってきた背景として,特に2010年頃までは中国の市場規模自体が拡大してきた点や大
規模小売業者を通した販売ではリベートや手数料,販促費の負担が大きい点に加えて,中国 では自ら企業や店舗等を起業する自営業者が多い点が挙げられる.同社では,このような自 営業者たちを加盟店オーナーとして取り込むことでチェーンを拡大してきたといえるが,
創業初期にはそれほど多くの資金を持たず,教育レベルも高くない人が多い.そのため,同 社のように,個々のオーナーの支払い能力や意志を見極めながら,売掛金の支払いに柔軟に 対応する等して加盟店への経済的な支援を手厚くすることで,店舗網の拡大を目指してい たと考えられる.
とりわけ加盟店に掛払いを認めることは,売上高を短期間で伸ばせる反面,貸し倒れのリ スクも背負うことになるため,支払い意志と能力のある加盟店オーナーを見極める方法と して,過去の取引履歴を参考にすると同時に,同じ温州地域出身の同郷者に地域代理商とし て権限と責任を与え,その判断を尊重している点が指摘できる.
その一方で,意爾康のチェーン展開の手法には利益配分の面で課題もある.同社では,加 盟店オーナーに手厚い経済的支援を行っている上に,同郷者である地域代理商に省レベル での商標使用権・製品販売権を与え,加盟店オーナーの選定も一任しているため,彼らにも
ある程度の利益を配分せざるを得ず,店舗数や売上額は多くても,本部が得られる利益率は 低い水準に留まっているとみられる.理論的には,同郷者である地域代理商に権限を委譲す ることで加盟店に対するモニタリング・コストを低減させることができるものの,結果的に は,本部が得られる利益も少なくなっているのが実状だといえよう.
そのため近年では,このような加盟店管理と店舗展開のあり方には,変化の兆しもみられ る.具体的には,チェーン全体の売上高の伸びが鈍化する中で本部による加盟店への支援が 縮小している上に,本部の加盟店への管理は強化される傾向がみられる.
同社が現在でもフランチャイズ方式を維持している要因としては,創業者の経営理念・方 針や加盟店に売上の拡大を依存してきた歴史的経緯の影響が大きい.同社はフランチャイ ズ方式による店舗展開を積極的に進めており,代理商や加盟店と良好な関係を構築するこ とで,彼らの支持を集め,経営を安定させている.インターネット通販の影響で売上額の増 加が頭打ちになる問題に対して,前章でも論じたように,近年需要が高まっているカジュア ル靴等,商品のラインナップを増やしているほか,中小規模都市や農村部の市場に力を入 れ,強化した社員研修と各加盟店への経営指導で顧客サービスの向上を図っている.売掛金 の回収等の管理問題に対しては,「連営」という新しい運営手法で緩和している.この手法 で加盟店へのコントロール力が高まり,代理商と本部の管理が一層高まっている.同社は創 業者の経営理念を徹底する中で,より適性のいい経営方法を模索しつつある段階にあると は言えよう.
最後に,先行研究で示したイトーヨーカ堂等の外資系企業の事例も含め,巨大市場である 中国において成功するチェーンは2つのパターンに分類することができる.すなわち,1つ
目は全国展開を指向せず,立地戦略やブランド戦略を確立しつつ自社の戦略にマッチした
市場のみでビジネスを展開するもの,2つ目はチェーンの統合度を高めず,各地域市場の特 徴を把握した地域代理商等を重要視し,本部と店舗の中間機能の権限を強くすることで,地
域性に適応しながら全国展開しているもの,の2パターンが考えられる.②の場合,日本で もみられるエリアフランチャイズつまり中国における地域代理もが重要な存在となってい ると考えられる.