ファシリテーター 田村 浩介 (株式会社いきがいクリエーション)
上江洲 聖 (日赤安謝福祉複合施設)
籔脇 健司 (吉備国際大学)
二階 会議室3
1
老人保健施設における長期入所者の『やりたい』を引き出す方法 ーハレとケの概念を用いてポイントカードを活用した取り組みー介護老人保健施設 サンホームみずほ 山﨑 晃
2
環境を整える事で作業維持できるようになった事例-実践によるクライエントの変化と今後の課題-
老人保健施設 シルピス大磯 清水 一輝
3
諦めていた作業を獲得できパーキンソン病患者 鶴巻温泉病院佐藤 純一
4
作業が事例に「自分が健康だとおもってしまった」と語らせた ー美術の道に戻るまでーいきいき舎 秋本 大輔
5
脳梗塞発症から約9年ぶりの余暇活動を通じて役割再獲得に繋がった事 例 〜ADOCを用いて家族・他職種と目標共有を行った短時間デイケア 利用者との関わり〜介護老人保健施設 やわらぎ 鬼木 徳子
6
介護老人保健施設における作業に焦点を当てた作業療法の効果〜クラスター無作為化比較試験〜
神奈川県立保健福祉大学 長山 洋史
7
調理活動を用いた軽度認知症の方に対する支援 医療法人二期会小島病院 冨永 美紀8
訪問型作業療法におけるクリニカルリーズニング研究‐作業療法の流れと対応の概念化とその利用‐
ふれあい平塚ホスピタル 丸山 祥
9
当デイサービスにおける作業選択の傾向―作業選択意思決定支援ソフト(ADOC)を用いての検証―
デイサービス道夢 田原 将英
10
廃用症候群併発後,作業を通して自身の健康を促進することを 目指した事例日赤安謝福祉複合施設 久志 仁
11
介護老人福祉施設入居者に対する外出支援・屋外活動の試み 西九州大学大学院 井上 忠俊12
老年期でクライアントと「死」に向き合うということ―作業を通して絶望から統合へ―
よみうりランド慶友病院 鈴木 則世
13
「もんで欲しい」から主婦としての自分を再び-長期化した訪問リハビリ利用者・家族との協業-医療法人 健康会 嶋田病院 吉村 明訓
58
老人保健施設における長期入所者の『やりたい』を引き出す方法
―ハレとケの概念を用いてポイントカードを活用した取り組み―
山﨑晃
医療法人徳祐会 介護老人保健施設サンホームみずほ
【はじめに】
老人保健施設入所者は、施設という集団生活の中で、他職種や他利用者との微妙な人間関 係をとりながら生活をされている。その為、長期入所者になると、集団の中の個人という認 識が強くなり、日々の生活を受身的に過ごす事に慣れ、徐々に本人の『やりたい』を話され なくなっていく現状があった。そこで日本人は、昔からハレとケという概念のもと、仕事的 活動、余暇的活動を交互に組み合わせながら生活を営んできた点に注目し、施設内活動にポ イントカードを用いた関わりを行なった。結果、入所者の日々の生活の中で心の中に埋もれ ていた『やりたい』を引き出す事に繋がった為、以下に報告する。
【ポイントカード活用方法】
本人の希望を『ハレ』施設内活動を『ケ』と位置付けて行った。当施設で行っている、学 習プリント、カラオケ、集団作業、書道などの活動へ参加する事により、1ポイントを得る 事ができ、100ポイント貯まる事で、外出や食事などご本人の希望を一つ叶える事ができる と設定し実施した。
【実施結果】
・自らの努力で貯めたポイントであるので、個人的な『やりたい』を言いやすくなった。
・毎日の活動に対して、「暇だからやる」から「○○をしたいからやる」と目的を持って取 り組まれる人が増え、参加者自体も増加した。
・ポイントを他者と分け合える事にした事で、自分だけでは無く、他者の為に頑張るという 参加者も出てこられ、活動のもつ意味に幅が出た。
・認知症に伴い記憶障害がある方でも、ポイントカードだけは覚えている事が増えた。
・他職種にも、利用者の『やりたい』を実現させる取り組みを理解してもらい易くなった。
【考察】
作業療法士として、他施設で行っている施設内通貨を利用した取り組みは利用者の方の意 欲を引き出す上で非常に有効であると考えていたが、導入するには施設単位での大きな変革 が必要である為に、一歩踏み出せない状況であった。その為、ただ漫然と活動提供し、利用 者の方も只あるからやるという環境に陥っていた。そこで、個人でもすぐにできる仕組みと してポイントカードを導入した。導入後は、現在行っている活動が「ケ」という位置になり、
本人の『やりたい』が「ハレ」という馴染みのある構造へと変化した。この仕組みの導入は、
他職種や利用者にも理解されやすく、利用者の方の『やりたい』を引き出す上で良い土台作 りに繋がったのではないかと考える。今後、『ケ』の内容に改良を重ねながら、利用者にと って素晴らしい『ハレ』を実現できるように仕組みを充実させていきたい。
環境を整える事で作業維持できるようになった事例
−実践によるクライエントの変化と今後の課題−
清水一輝1)
1) 医療法人財団善常会 老人保健施設シルピス大磯
【はじめに】
意味のある作業をする事は健康関連QOLと関連がある(Clark et al,1997)とされている.
老人保健施設に入所している高齢者にとっても,意味のある作業を維持する事がより良い生 活に繋がると思われる.
【事例紹介】
事例は99歳の女性である.下肢骨折を機に約3年間当施設に入所しており,施設のスケ ジュールにそった活動に参加し,自室でテレビを見ながら過ごす事が多かった.面接では,
今まで墨彩画を行っていた事や描いた作品について活き活きと語った.墨彩画は「今でもや りたい」と話すも,「道具がないからできない」「描くモデルがないからだめ」と消極的であ った.作業維持は物理的な理由に基づく考えから生じる可能性がある(Ruth Zemke,2007)
とされているため,環境を整える事で作業を再開できるのではないかと考えた.
事例に対しては,研究の目的や個人が特定されない事を説明し書面にて同意を得た.
【介入経過】
環境を整えるために墨彩画の道具を探し,施設内に道具があったため事例と道具を確認し て「これなら墨彩画をやれそう」と事例が判断した.描く題材は花としたが,花を手に入れ る事が困難であったためタブレット端末で写真を見て描く方法を提案し,“南天”を1時間 程度集中して描いた.完成した作品に対し,「まあこんなもんだ」と笑いながら感想を話し ていた.作品を食堂に掲示すると,翌日には「飾ってみると色が薄いから直したい」と自ら 申し出があり,道具を準備し作業した.それ以降,季節ごとの題材やそれを作成する時期を 自ら考え,セラピストに道具の準備を依頼し,“朝顔”,“菊”など約1か月に1作品を描い ている.
【考察】
事例は環境が整ったことで作業が再開でき,徐々に墨彩画という作業に対して主体的に参 加するように変化した.健康で作業的な生活をするためには,事例の人生にとって意味のあ るテーマに沿った作業を行いながら,作業をコントロールしている感覚を維持する事が必要 である(Ruth Zemke,2007)と言われている.墨彩画をすることで作業をコントロールして いる感覚を得る事ができ,健康で作業的な生活に近づいたのではないかと考えられる.
【今後の課題】
事例は語りの中で,他者のために描いていたとも話した.事例にとって墨彩画に他者と繋 がるという意味があるのであれば,家族や友人,他入所者と繋がれるように環境を整えてい く必要があると考えられるため,事例にとっての墨彩画の意味をより明確にする必要がある.
諦めていた作業を獲得できたパーキンソン病患者に関する報告
佐藤純一1)
1)医療法人社団三喜会 鶴巻温泉病院 リハビリテーション部
【はじめに】
「他者を喜ばせる」という作業を諦めていた患者を担当した.役割獲得モデルを参考に介 入し,諦めていた作業を獲得する事が出来たため報告する.尚,本学会で発表する事に対し,
患者と家族の同意及び,当院臨床研究倫理審査委員会の承認を受けた.
【事例紹介】
70 歳代後半の女性.パーキンソン病を患い当院の神経難病リハビリセンターへ入院.当 院を終の住処とする方針.病前は子供や同僚に手作りの洋服や小物を渡し,他者に喜んでも らう事に喜びを感じていた.子供が成長し,仕事を辞めてからは,趣味として物作りを続け ていた.入院中,余暇時間は自室で編み物を行っていたがジスキネジアによる巧緻性の低下 と注意の分配性・持続性に低下が認められ,編み物を完成させる事は困難であった.また,
レクリエーションにて作成した品物をゴミ箱に捨てている様子を認めた.
【介入経過】(介入期間12か月)
物作りという作業の意味を評価するため,患者に対して面接を実施した.編み物は,病前 は他者を喜ばせる・趣味という2つの意味があったが,現在は前者の意味が消失し,それを 補完する作業は未獲得であった.作品を捨てる理由は「皆が欲しい物は作れない.買った方 が早い」ということであった.Heard は役割獲得モデルにおいて,人が役割行動を行う際,
自分が自分に対して抱く期待(内的期待)と周囲が自分に対して抱く期待(外的期待)の間 で葛藤し,意思決定をすると提示している.完成しない編み物を作り続ける姿を見て物作り は出来ない人であると病棟職員が認識している事から,外的期待が消失していると判断した.
面接から内的期待は失っていない事が分かった.まずは完成させる事が可能な物を作る事を 提案し,最初にマットを,次に籠を作る事にした.籠の完成後,病棟職員から「私のも作っ てくれ」と頼まれたと嬉しそうに話したり,同室者の誕生日に籠を渡していた.レクリエー ションで作成した品物をリハビリスタッフに渡す様子を認めた.
【考察】
患者と病棟職員は,他者を喜ばす物を作る事は出来ないと認識していた.外的期待が無く,
編み物を行う事がさらに外的期待の低下を助長する状況であった.患者にとって,内的期待 は他者を喜ばせる事であり,達成には外的期待が必要なため役割行動を行う事を諦めていた と推測される.課題の変更し,品物が完成した結果,患者と病棟職員は「作れる物がある」
と患者の能力に対する認識が変化し,作成した物を人に渡すという役割行動に結びついたと 考える.進行性疾患患者は,症状の進行により喪失した作業があり,現在獲得している作業 もいずれは出来なくなる事が予測される.作業の意味や喪失している原因を評価出来れば,
その人らしい生き方を再構成する新たな作業の機会を提供できると考える.