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tRNAを標的とするリボヌクレアーゼ - J-Stage

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化学と生物 Vol. 52, No. 5, 2014

tRNA を標的とするリボヌクレアーゼ

tRNA の切断は毒か薬か?

トランスファー RNA(tRNA)は,mRNA上のコド ンで指定されたアミノ酸をリボソームへと運搬する低分 子RNAである.クローバーリーフ状の特徴的な二次構 造をもち,これが折り畳まれてコンパクトなL字型構造 を形成する.このL字構造の両末端に,アミノ酸と結合 するアクセプターステムおよびアンチコドンループが位 置する.アンチコドンループは,tRNAの機能上,極め て重要である反面,外部へ露出しているためヌクレアー ゼによる分解を受けやすい.このtRNAの アキレス 腱 とも言えるアンチコドンループを標的としたリボヌ クレアーゼが見つかってきた.本稿では,これらの紹介 を通して,tRNAを切断することの生物学的意義につい て議論したい.

大腸菌に作用してタンパク質合成を阻害するコリシン E5,コリシンDは,感受性菌の特定のtRNAを標的とす る.コリシンE5は大腸菌のtRNATyr, tRNAHis, tRNAAsn,  tRNAAspのアンチコドン一文字目と二文字目の間を特異 的に切断する(1).一方,コリシンDは,大腸菌がもつ4 種類のtRNAArgをすべてアンチコドンループの3′末端で 切断する(2)(図1.tRNAを切断する毒素は,酵母の世 界にも存在する.酵母が生産し,ほかの感受性酵母を殺 す因子をキラー毒素と呼ぶ.zymocinは

が,PaTは が生産するキラー毒素で あり,感受性酵母の細胞周期を特異的なフェーズで停止 させる.zymocinは,出芽酵母tRNAGluUUC, tRNALysUUU,  tRNAGlnUUGに作用し,特にtRNAGluUUCを最も効率良く 切断する(3).また,PaTの標的はtRNAGlnUUGである(4). いずれのキラー毒素も,標的tRNAのアンチコドン一文 字目に存在する修飾塩基mcm5s2U(5‒methoxycarbon- ylmethyl-2‒thiouridine)の3′側を切断する(図1).出 芽酵母tRNAの一部の前駆体は,アンチコドンループ内 にイントロンをもつ.tRNAイントロンのスプライシン グ反応の後半を担うTrl1pは,イントロンが切りだされ たtRNAの切断末端を修復し,再結合する活性をもつ.

zymocinは,このTrl1pが修復できない部位を巧みに選 択してtRNAを切断すると考えられる(5)

このユニークなリボヌクレアーゼは,生物毒の外から も発見されている.原核生物には,toxin‒antitoxin sys-

tem(TA system)と呼ばれる遺伝子セットが存在し,

細胞増殖を阻害するtoxin(毒素)と,toxinの特異的イ ン ヒ ビ タ ー で あ るantitoxin(解 毒 剤) を 発 現 す る.

元々は,プラスミドの安定化機構として見つかってきた が,近年,ストレス応答への関与も報告されている.

は広く存在するTA systemであり,toxinである VapCとantitoxinであるVapBを発現する.このうち,

 2aお よ び  serovar  Typhimurium LT12が発現するVapCは,宿主細胞の開 始tRNAであるtRNAfMetを特異的に切断する(6).切断 部位は,コリシンDと同様アンチコドンループの3′末端 である.また, 遺伝子座をもつ大腸菌が発現する PrrCは,自分自身のtRNALysをアンチコドン一文字目 の5′端 で 切 断 す る(7)(図1).PrrCは,I型 制 限 修 飾 系 Iの構成因子と結合して不活性だが,感染したT4 ファージの作るStpペプチドにより活性化する.Stpペ プチドは, 大腸菌の制限修飾系を阻害することか ら,元々はファージゲノムを分解から守るためのものと 考えられる.こうしてtRNAが切断された大腸菌が 自 殺 することで,ファージの増殖を抑制すると考えられ ている.蛇足ではあるが,T4ファージのほうでは,T4

anticodon loop acceptor stem

図1tRNA特異的リボヌクレアーゼの切断の様子

左図:tRNAの切断部位(▲)およびイントロンの挿入部位(△)

を示した.アンチコドンループ内の数字はアンチコドンの文字番 号を表す.右図:コリシンE5の活性ドメイン(E5-CRD)と,最 小基質ジヌクレオチドのアナログ(dGpdUp)との共結晶構造に 基づいてtRNAの構造を重ね合せた.コンパクトなE5-CRDがア ンチコドンループを取り巻くようにtRNAと結合する.

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今日の話題

282 化学と生物 Vol. 52, No. 5, 2014

ポリヌクレオチドキナーゼとT4 RNAリガーゼを用い て切断されたtRNALysを修復し,感染を続けようとする イタチごっこを繰り広げる.

ところで,tRNA切断は細胞にとってすべて 有害 なのであろうか? これを考えるうえで重要な実験を紹 介したい.前述のVapCを大腸菌内で異所発現させる と,細胞内のtRNAfMetがほぼすべて切断され,速やか に生育が停止する.面白いことに,切断されたtRNA断 片は分解されずに細胞内に安定してとどまる.これに VapBを共発現すると,切断されたtRNA断片は消失 し,正常なtRNAfMet量が回復して再度増殖を開始す る(6).このことから,少なくともVapCによるtRNA切 断は静菌的に生育を阻害する.つまり,tRNAの切断が 速やかに細胞死をもたらすとは限らないと言える.これ を踏まえると,前述のPrrCは宿主大腸菌を自殺ではな く 休眠 させて,ファージの感染をやり過ごしている とも考えられる.さらに踏み込めば,tRNA切断は,ス トレス応答の手段であるかもしれない.すでに述べたと おり,TA systemはストレス応答の面から見直されて いるが,実際 を破壊した菌が温度感受性になる 例が報告されている.また,切断によりtRNAfMet量が 減少すると,開始コドンに依存しない翻訳が活性化す る(6).ACA配列を認識,切断するリボヌクレアーゼ MazFは,MazEとともにTA systemを構成する.MazF は,ス ト レ ス に 応 答 し て 一 部mRNAのSD配 列 を,

ACA配列依存的に切り落とす(leaderless mRNA).同 時に,16S-rRNAのanti-SD配列を欠失した stress-ribo- some を 作 出 し,こ れ を 用 い てleaderless mRNAに コードされたタンパク質を選択的に翻訳させる(8)

VapCのtRNAfMet切断も,開始コドン非依存的翻訳によ り,タンパク質の発現パターンを ストレス対応型 に 変化させることが目的かもしれない.こうしてみると,

tRNAを切断するという行為は,増殖の制御やストレス 応答など,実に多彩な可能性を秘めると期待されるが,

その研究は緒についたばかりである.今後,さらなる tRNA特異的リボヌクレアーゼの発見を通して,全容が 解明されることを期待したい.

  1) T. Ogawa, K. Tomita, T. Ueda, K. Watanabe, T. Uozumi 

& H. Masaki : , 283, 2097 (1999).

  2) K.  Tomita,  T.  Ogawa,  T.  Uozumi,  K.  Watanabe  &  H. 

Masaki : , 97, 8278 (2000).

  3) J. Lu, B. Huang, A. Esberg, M. J. O. Johansson & A. S. 

Byström : , 11, 1648 (2005).

  4) R.  Klassen,  J.  P.  Paluszynski,  S.  Wemhoff,  A.  Pfeiffer,  J. 

Fricke & F. Meinhardt : , 69, 681 (2008).

  5) J. Nandakumar, B. Schwer, R. Schaffrath & S. Shuman :   , 31, 278 (2008).

  6) K. S. Winther & K. Gerdes : , 

108, 7403 (2011).

  7) G. Kaufmann : , 25, 70 (2000).

  8) O. Vesper, S. Amitai, M. Belitsky, K. Byrgazov, A. C. Ka- berdina,  H.  Engelberg-Kulka  &  I.  Moll : , 147,  147 

(2011).

(小川哲弘,東京大学大学院農学生命科学研究科)

プロフィル

小川 哲弘(Tetsuhiro OGAWA)   

<略歴>2000年東京大学大学院農学生命 科学研究科博士課程中退/同年同大学大 学院農学生命科学研究科助手/2003年博 士(農学)取得(東京大学)/2007年東京 大学大学院農学生命科学研究科助教<研究 テーマと抱負>リボヌクレアーゼを介した ストレス適応機構の解明<趣味>息子との ボール遊び

参照

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