154 化学と生物 Vol. 54, No. 3, 2016
高度 RNS 耐性菌の NO 耐性化遺伝子
NO ストレスに対する TCA 回路の新たな役割
活性窒素種(reactive nitrogen species; RNS)は,一 酸化窒素(NO)やペルオキシナイトライト(ONOO−) などの反応性の高い窒素酸化物の総称である.これらは 活性酸素種と同様に,DNA,タンパク質,膜などに酸 化傷害を与え,強い細胞毒性を引き起こす(1).微生物で は,NOは嫌気呼吸(脱窒)の中間体として生産される とともに,硝化や脱窒反応の中間体として生産された亜 硝酸塩(NO−2)がプロトンと化学反応することによっ ても生じる(2).一方,高等動物はシグナル伝達物質お よび病原性細菌を殺す武器としてNOを産生する(1). ONOO−は,NOとスーパーオキシドが化学的に反応し て生じる(1).したがって,脱窒菌や硝化細菌などは内因 性のNOから,病原性細菌などは外因性のNOから自身 を守らなければならない.細菌のNO応答に関する研究 は1990年代から活発に行われ,好気的なNO解毒酵素 としてフラボヘモグロビン(Hmp)が同定された(3). 2000年以降,さまざまな細菌のゲノムDNA配列が解読 され,多くの細菌がHmpのオルソログを有しているこ とが明らかになった.その一方で,NOの解毒とは異な るメカニズムによるNO耐性化についてはほとんど着目 されてこなかった.
わ れ わ れ が 単 離 し た 高 度RNS耐 性 細 菌
お よ び の 生
育のNO耐性は,大腸菌や緑膿菌のそれらよりも明らか に高かった(4, 5).ところが, は大腸菌や 緑膿菌と同様にゲノムDNAに 遺伝子を一つしか有 しておらず, にいたっては 遺伝子を有 していない.このことは,これらの細菌はHmpによる NOの解毒以外にも何らかのNO耐性化機構を有してい ることを強く示唆した.そこでわれわれは,トランスポ ゾンを用いて のNO感受性変異株を取 得・解析することで,新たなNO耐性化遺伝子を同定す ることを試みた.興味深いことに,この手法では,RNS の解毒酵素や酸化ストレス応答性の酵素遺伝子は全く見 い だ さ れ ず,ピ ル ビ ン 酸 デ ヒ ド ロ ゲ ナ ー ゼ 複 合 体
(Pdh)のE1コンポーネント(EC 1.2.4.1)とアコニター ゼ(Acn, EC 4.2.1.3) の ア イ ソ ザ イ ム の 一 つ で あ る AcnA3をコードする遺伝子が見いだされた(5).Pdhは
TCA回路に基質を供給し,AcnはTCA回路を担う酵素 である.そこでTCA回路を担う酵素遺伝子に着目した ところ,NOにさらされた はTCA回路 を担う酵素遺伝子全般の発現量を顕著に増加させること が明らかになった(5).これらの結果は,中央代謝系であ るTCA回路がNOストレスへの応答と耐性化に重要な 役割を担っていること示した.TCA回路には,還元力
(NADHやFADH2)を生産する異化代謝と生体構成物 質(アミノ酸など)の生合成を司る同化代謝としての役割 が あ る.NOへ の 暴 露 は, の 細 胞 内 NADH/NAD+比およびATP量を著しく低下させ,そ の影響は および 変異株でより顕著であっ
た(5, 6).また, および 変異株は,NO以外の内
因性の酸化ストレス誘発剤に対しても感受性を示し
た(5, 6).このことから,本菌はTCA回路の異化代謝を活
性化させることによってNADHの生産量を増加させ,
NOによって引き起こされる酸化ストレスに耐性化する と考えられた(図1).
では,PdhとAcnはどのようなメカニズムでTCA回 路の異化代謝の活性化に貢献するのだろうか? Pdhは ピルビン酸からアセチルCoAを生産する(図1).アセ チルCoAはクエン酸シンターゼがオキサロ酢酸をクエ ン酸に変換するために必要であるが, 変異株はピル ビン酸から十分なアセチルCoAを生産することができ ない(5).酢酸塩の添加によって, 変異株のNO感受 性は大幅に低下し,さらに野生株のNO耐性も大きく向 上した(5).酢酸は,酢酸‒CoAリガーゼによってアセチ ルCoAに変換されることが知られる.これらのことか ら,PdhはTCA回路にアセチル‒CoAを供給すること によってTCA回路の代謝を活性化させることが示され た.Acnは活性中心に鉄硫黄クラスター(Fe‒S)を有 しており,TCA回路においてクエン酸のイソクエン酸 への異性化反応を触媒する(図1).大腸菌は,AcnAと AcnBの2つのタイプのAcnを有し,構成的に発現して いるAcnBのFe‒Sは酸化ストレスに極めて脆弱である ことが知られる.一方,AcnAのFe‒Sは酸化に対して 比較的耐性であり,酸化ストレス下で発現誘導されるこ とによってAcnBの機能を代替する. の
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AcnA3は,その他の細菌のAcnAと比較して2〜3倍強 い比活性を示し,そのFe‒Sは酸素やNOに対して高い 安定性を示した(6).また, の 遺伝 子はNOの存在とは無関係に対数増殖期中期から後期に 発現が強くなり,細胞内には常に一定量のAcnA3が見 いだされた(6).つまり,本菌は,高活性・高抗酸化性を 示すAcnA3を構成的に生産することによって,外界か らのNOストレスに素早く応答し,TCA回路の異化代 謝を維持・活性化できると考えられる.このように,わ れわれは高度RNS耐性菌のNO耐性化遺伝子の解析を 通して,TCA回路に「NOストレス耐性化機構」とい うの新たな役割を見いだした.しかしながら,見いださ れたNO耐性化遺伝子の半数はその機能や役割が未知で あり,それらは今後の解析によって順次明らかになって いくと考えている.
1) D. A. Wink & J. B. Mitchell: , 25, 4 (1998).
2) A. Samouilov, P. Kuppusamy & J. L. Zweier:
, 357, 1 (1998).
3) R. K. Poole & M. N. Hughes: , 36, 4 (2000).
4) Y. Doi, N. Takaya & N. Takizawa:
, 75, 16 (2009).
5) Y. Doi, M. Shimizu, T. Fujita, A. Nakamura, N. Takizawa
& N. Takaya: , 80, 6 (2014).
6) Y. Doi & N. Takaya: , 290, 3 (2015).
(土肥裕希,岡山理科大学工学部バイオ応用化学科)
プロフィール
土肥 裕希(Yuki DOI)
<略歴>2006年岡山理科大学工学部応用 化学科卒業/2008年同大学大学院工学研 究科応用化学専攻修士課程修了/2011年 筑波大学大学院生命環境科学科生物機能科 学科博士後期課程修了/同年同大学大学院 生命環境科学科博士特別研究員/2012年 岡山理科大学工学部研究員,現在に至る
<研究テーマと抱負>微生物のストレス応 答と耐性化機構.乳酸菌のグリセロール代 謝とそれを利用したものづくり<趣味>熱 帯魚の飼育と観賞,模型作り
Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.154 図1■TCA回路を介したNOストレス耐性 化機構
TCA回路の異化代謝を活性化することに よって,RNSによって酸化されたNAD(P)+ を再びNAD(P)Hに還元する.生産された NAD(P)Hは,ATPの 生 産(代 謝) やRNS の解毒に利用される.
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