Menu Costs and Price Change Distribution:
Evidence from Japanese Scanner Data
富士通総研 一橋大学 齊藤(梅野)有希子 渡辺 努
2007年12月2日
問題意識
価格粘着性の生じるメカニズム
• Menu Cost (State dependent) 仮説
価格改定には取引コスト(Menu Cost)が存在し、理想 的な価格(Target Price)と実際の価格との乖離が inactive rangeを上回った場合に価格改定を行う。
価格改定は状態に依存している。
• Time dependent 仮説
価格改定は外性的に決められ、ランダムまたは周期 的に行う。次回価格改定まで、Target Price と実際 の価格との乖離が生じる。価格改定は状態に依存 せず、時間に依存する
問題意識
両仮説から考えられる価格変動特性
• 価格改定頻度からのアプローチ(ハザード関数)
• 価格変化幅からのアプローチ(小さな価格変動の有無)
Menu Cost Time dependent ハザード関数 改定しない期間が
長いほど改定確率 は高い(右上がり)
改定しない期間と 無相関(横ばい)、
周期的なピーク 小さな価格変動 inactive range以下
の価格変動はない
小さな価格変動も 存在する
既存研究の結果
• ハザード関数
多くの商品で、ハザード関数は右下がり。
(Alvalez et al.(2005), Campbell and Eden(2006), Higo and Saita(2007))
→ Menu Cost、Time dependent の両仮説と非整合
(ただし、サービスなどの特定価格で、周期性を観測。)
• なぜ、ハザード関数は右下がりなのか?
異質な財または時期から形成された可能性がある。
→ しかしながら、個別商品ごとに観測しても、ハザード 関数の右下がりは、根強く残っている。
既存研究の結果と本研究の目的
• 小さな価格変動
小さな価格変動を観測。(Carlton(1986),
Kashyap(1995), Lach and Tsiddon (2005), Midrigan(2006))
小さな価格変動は最近増えている。
(Kackmeister(2005))
• 本研究の目的
小さな価格変動は、異質な財や時期が混在するために 観測された可能性がある。同質な時期や商品を抽出 することにより、inactive rangeの観測を試みる。
用いるデータベース
• 日経POSデータ
日経デジタルメディア社の提供するスキャナーデータ
(スーパーのレジで記録される価格データ)
店舗数は273(全期間存在する店舗数は17) 期間は1988年3月-2005年12月
商品数は約20万個(商品はバーコード単位で区別)
店舗×日数×商品の延べ約30億個の価格データ
店舗コード 年月日 商品コード 世代番号 販売金額 販売個数 2 19880302 2100061530 1 480 2 2 19880302 2100061550 1 2086 7 2 19880302 6184129293 1 550 1 日次の販売価格 = 販売金額 / 販売個数
通常価格( Regular Price )の定義
実際の日次販売価格(P*t=販売金額 / 販売個数)には、
セール価格が混在している。セール価格を取り除いた 通常価格(Pt)を定義し、通常価格を用いて分析する。
通常価格はd日間最高価格とする。
Pt = max(P*t, P*t-1, …, P*t-d+1), d=5
価格変化の例
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500
19910113 19910313 19910506 19910705 19910914 19911212 19920226 19920613 19920828 19921127 19930214 19930522 19931031 19950611 19951001
Actual Price Regular Price
異質性について
• 価格改定頻度
価格改定頻度Pr(Pt≠Pt-d)から異質性を評価する。
観測する年度、店舗、商品によって改定頻度は異なる。
(同一商品でも異なる店舗の商品は別商品と扱う。)
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
-1/512 1/512- 1/256
1/256- 1/128
1/128- 1/64
1/64- 1/32
1/32- 1/16
1/16- 1/8
1/8- 1/4
1/4- 1/2
1/2-
year shop product
年度による異質性
価格改定頻度は、ゆるやかに高くなり、2004, 2005年 で、急激に高くなる。異質な時期であると考えられる。
また、価格変化の幅も非常に小さくなっている。
本研究では、異質な時期を排除し、比較的同質な時期
(2002年まで)のデータを分析する。
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35
198 8
1990 1992
1994 1996
1998 2000
2002 2004
All outlets 17 outlets
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25 0.3 0.35 0.4
0.72 0.77 0.83 0.89 0.95 1.02 1.09 1.17 1.25 1.34
1988 1990 1993 1996 1999 2002 2005
価格改定頻度 改定時変化率
全期間存在する 店舗は17店舗。
商品による異質性
• 価格改定頻度によって、商品の異質性を識別。
商品を10のグループに分類する。
Gn: 改定頻度=[2**(-n-1), 2**(-n)) n=0,…8 G9: 改定頻度=[0, 2**(-9)]
0.E+00 5.E+05 1.E+06 2.E+06 2.E+06 3.E+06
G0 G1 G2 G3 G4 G5 G6 G7 G8 G9
10グループの商品数
改定頻度が低くなる
商品による異質性
商品の異質性を考慮する際に、商品カテゴリ別に分析すること も可能だが、同一の商品カテゴリにおいても、価格改定頻度 からみたばらつきは大きく、異質な財が混在している。
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7
G0 G1 G2 G3 G4 G5 G6 G7 G8 G9
豆腐・納豆・コンニャク 漬物・惣菜
水産練り製品・チルド半製品 畜肉加工品
乳製品・豆乳類 チルドデザード 飲料
乾物・めん類 調味料・甘味料 即席食品 缶詰・瓶詰 パン・もち
ジャム・スプレッド・プレミックス コーヒー・紅茶・緑茶 菓子
酒類
ベビーフード・穀類・その他 冷凍食品
アイスクリーム・氷
バスボディ・オーラルケア・衛生用品・洗剤 化粧品・フレグランス
医療関連品・雑貨 キッチン消耗品 ステーショナリー
ペットフード・サニタリー・カー用品 消耗家庭用品ギフトセット
商品カテゴリ別のグループ構成比
価格改定頻度からみた異質性
• Menu Cost の大きさの違い
Menu Cost が小さいほど改定頻度が高い。
• Target Price の分散の違い
Target Price の分散が大きいほど改定頻度が高い。
当面、Target Price の分散の異質性はないとして、
Menu Cost の大きさの違いのみが、価格改定頻度
の違いに反映されると考える。
価格改定頻度の高い商品 = Menu Cost が小さい 価格改定頻度の低い商品 = Menu Cost が大きい
改定時の価格変化率
改定頻度が最も高いグループG0(改定頻度(1/2,1])で は、小さな価格変化が多く、inactive range は観測 されない。Menu Costは非常に小さいと考えられる。
改定頻度(1/16,1/8] (約1-2ヶ月に一回)のグループで は、小さな変化率は少なく、 inactive rangeを観測。
Menu Cost 仮説と整合的な結果が観測された。
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
0.72 0.77 0.83 0.89 0.95 1.02 1.09 1.17 1.25 1.34
G0 G3
改定時価格変化率
Target Price の変化の形状
Target Price の変化を直接観測 できないが、大きな価格変化の 形状(累積密度分布)から、ベキ 分布に従うと推測される。
Target Price の変化の形状との 乖離が、inactive range を反映。
-2 -1.8 -1.6 -1.4 -1.2 -1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0
0.72 0.74 0.77 0.80 0.83 0.86 0.89 0.92 0.95 0.98
G0 G3
-2 -1.8 -1.6 -1.4 -1.2 -1 -0.8 -0.6 -0.4 -0.2 0
1.02 1.05 1.09 1.13 1.17 1.21 1.25 1.30 1.34 1.39
G0 G3
G3
0 0.02 0.04 0.06 0.08 0.1 0.12 0.14 0.16
0.72 0.77
0.83 0.89 0.95 1.02 1.09 1.17 1.25 1.34
Actual Estimated
累積密度分布(両対数表示)
改定時の価格変化率
さらに改定頻度の低いグループでは、小さな価格変化 が再び増え始める。
価格改定頻度からみた異質性をMenu Costの異質性 の仮定することの限界を意味している。
Target Priceの分散の異質性をどの様に捉えるのか。
0 0.05 0.1 0.15 0.2 0.25
0.72 0.77
0.83 0.89 0.95
1.02 1.09 1.17 1.25 1.34
G0 G3 G6
-0.400 -0.300 -0.200 -0.100 0.000 0.100 0.200 0.300 0.400 0.500 0.600 0.700
G0 G1 G2 G3 G4 G5 G6 G7 G8 G9
- +
Target Priceからの乖離 改定時価格変化率
価格改定の季節性
価格改定の季節性の存在は、 Time dependent による価格改定の存在を示唆している。価格 改定頻度の低いグループほど、価格改定の 季節性が強くなっている。
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
G0 G2 G4 G6 G8
月別改定頻度
0 0.5 1 1.5 2 2.5
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31
G0 G2 G4 G6 G8
日別改定頻度
Target Price の分散の異質性
異なるTarget Price の分散が混在することを確認する。
同一のグループにおいて、 Menu Costの小さいと 考えられる商品のTarget Price の分散は小さいか、
Target Price の分散の大きいと考えられる商品の Menu Costは大きいのか。G6の混在が大きい。
0.000 0.050 0.100 0.150 0.200 0.250 0.300 0.350 0.400
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19
all
最小価格変化で条件付 最大価格変化で条件付
0.000 0.050 0.100 0.150 0.200 0.250 0.300 0.350 0.400
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19
all
最小価格変化で条件付 最大価格変化で条件付
G6
Menu Cost 小 = 最小価格変化 小
Target Price の分散 大 = 最大価格変化 大 G3
今後の研究課題
• Target Priceの分散の異質性の考慮
同一の改定頻度のグループにおいても、Target Price の分散の異なる商品が混在する。Target Price の 分散を識別する方法の検討。
• 価格改定頻度との関係
ハザード関数の右下がりとの整合性を検討する。価格 改定しない期間が長くなるほど改定時価格変化率 が大きくなる傾向が観測されるが、そのメカニズム を考える。
さらなる研究課題
• 最近( 2004年以降)では、価格改定頻度が急激に上昇し、
変化幅も極端に小さくなった。異なるメカニズムで価格改定 を行っている可能性がある。
• 短期的な価格変動では、価格上昇と下落の変化率は対称的 だが、長期的には非対称である。90年代初めは上昇傾向、
90年代後半以降は下落傾向である。短期的価格変動と長期 的価格変動の関係の分析を試みる。
• 過去の価格改定の履歴(価格改定しない期間)と価格変動 の関係には、価格上昇と下落の非対称性が見られている。
価格上昇と下落の非対称性も、価格改定メカニズムを探る 上で重要である。