はじめに
昆虫は生物の中でも最も多様性に富んだグループと考 えられており,鮮やかな体色や斑紋は古くから多くの 人々の興味をひいてきた.種の認識,雌雄の認識,警戒 色,擬態,隠蔽,体温調節など,体色や斑紋の意義に関 しては多くの研究が行われてきた.しかし,体色の多様 性を作り出す分子基盤に関しては,現時点でも不明な点 が多く残されている.
10年ほど前までは,キイロショウジョウバエ
など一部のモデル生物を除き,遺伝子を網 羅的に解析することは非常に困難であった.ところが,
次世代シークエンサーの普及に伴い,ゲノム情報がなく ても特定の時期や組織のmRNAの情報を網羅的に解析 するRNA Sequencing(RNAseq)という手法が可能に なってきた.今回はRNAseq解析を行うことで明らか になった昆虫の色素合成と色覚に関する新知見に関し て,筆者らの研究成果を基に以下に紹介したい.
カイコの 変異体の原因遺伝子の同定から明らか になったオモクローム色素合成経路
1. オモクローム系色素とは
昆虫に存在する色素のうち,オモクローム系色素(赤 色,赤褐色,紫色など),メラニン色素(黒色,褐色な ど),プテリジン系色素(白色,黄色,赤色など)の3つ
は,ほとんどすべての昆虫で存在が確認されている(1, 2). オモクローム系色素は主に昆虫の複眼に存在するほか,
一部の昆虫では翅や体表の色素としても利用されてい る.オモクローム系色素は,トリプトファンから合成さ れた3-ヒドロキシキヌレニンの酸化縮合により生じた色 素と定義されており,アルカリの安定性からオマチンと オミンに大別される(1, 2).それぞれ複数種の色素が知ら れているが,モデル昆虫として研究が盛んなキイロショ ウジョウバエには,オマチンの一種キサントマチンのみ が存在すると考えられている.そのため,オモクローム 系色素の合成にかかわる遺伝子は,中間前駆体の3-ヒド ロキシキヌレニンの合成と細胞内の色素顆粒への取り込 みにかかわる段階までは明らかにされてきたものの,そ れ以降の多様なオモクローム系色素産生にかかわる分子 機構に関しては,キイロショウジョウバエからは解明で きないブラックボックスとなっていた.
2. 数多く存在するカイコのオモクローム系色素の未同 定の変異体
ショウジョウバエの仲間を除く大部分の昆虫では,複 眼にキサントマチンに加えてオミンも含まれている(1〜3). 多様なオモクローム系色素の合成にかかわる分子機構を 解明するにあたって,最も適する材料の一つと考えられ たのが,カイコ である.カイコは,卵が 紫色で複眼が黒く(図1左端),両方ともキサントマチ
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セミナー室
昆虫の科学-2RNAseqから明らかになった昆虫の色素合成と色覚の 新知見
二橋美瑞子 *
1,二橋 亮 *
2*1茨城大学理学部,*2産業技術総合研究所
ンとオミンを含む複数のオモクローム系色素が含まれて いることが知られており,さらに卵色や複眼色の変異系 統が複数存在している.これらのうち,卵と複眼が白色 になる変異体に関しては,3-ヒドロキシキヌレニンの合 成や取り込みにかかわるキイロショウジョウバエの相同 遺伝子が原因であることが報告されていたが,卵や複眼 が赤色や褐色になる変異体に関しては,原因遺伝子が全 く不明であった(2, 3).筆者らは近年,そのうちの一つ,
オミン合成に異常があり,卵と複眼が赤色になる劣性の
( ,赤卵)変異体に関して,原因遺伝子が新 規のトランスポーター遺伝子であることを発見した(4). 興味深いことに, の相同遺伝子は大部分の昆虫に存在 したが,例外的にショウジョウバエの仲間のゲノムには 存在しておらず,これらのグループでオミンが存在しな いことと関係していることが示唆された.筆者らは次 に,卵が白色〜淡赤色で複眼が淡赤色で,遺伝学的に
の上流に存在すると考えられていた劣性の (
,淡赤眼白卵)変異体(図1,左から二 番目)の原因遺伝子の同定を試みることにした.
3. RNAseqによる 候補遺伝子の絞り込み
古典的な連鎖解析の結果, 変異体の責任領域は258 kbに絞り込まれていた.この領域には予測遺伝子が17 個存在していたが,その中にほかの生物で色素合成にか かわることが知られている遺伝子は,解析を進めていた 時点では存在せず,RT-PCRでは野生型と変異型の間で 発現が明瞭に異なる遺伝子も確認できなかった.そこ で,一度のシークエンスで複数サンプルについてゲノム ワイドに遺伝子の配列と発現を解析できるRNAseqを 利用して の原因遺伝子を同定することを試みた.カ イコの卵(休眠卵)は,産卵後24時間から48時間の間 で着色し始めるので,卵の着色時期前後である産卵直 後,24時間後,48時間後,72時間後で野生型2系統と 1系統の卵を材料に,Hiseq2500を用いたRNAseqを 行った.その結果,17遺伝子のうち酵素遺伝子の一つ が,卵が着色する直前に発現が上昇しており, 変異 体では1カ所にアミノ酸変異があることが確認された.
さらに,筆者らがこの発見に気付く直前に,キイロショ
ウジョウバエの相同遺伝子が成虫の赤い複眼の着色が遅 延する(羽化直後は赤色ではなく黄朱色になる)
遺伝子の原因遺伝子であることが報告されていた(5). 以上の結果から,この 相同遺伝子が の原因 遺伝子である可能性が強く考えられた.ただし,カイコ の 変異体は,キイロショウジョウバエの と は異なり,羽化後に複眼の色が野生型に近づくことはな く,また変異体では1アミノ酸置換が見られただけで あったので,機能解析による証明が必要であった.
4. カイコで最近確立された機能解析法による 遺伝 子の同定
カイコのさまざまな変異体の原因遺伝子の同定にあた り,最も困難な点であったのが,遺伝子の機能解析で あった.カイコでは,胚発生の時期を除いてRNAiによ る遺伝子の機能阻害がほとんど成功しておらず,遺伝子 組換えを用いた遺伝子強制発現も手間がかかるうえにプ ロモーターの問題があるなど,簡便な機能解析法が長い 間確立されていなかった.ところが,RNAiに関して は,2013年にエレクトロポレーション法を用いること で,少なくとも体表の組織では局所的に成功させること が可能であるという論文が発表された(6).そこで,この 手法でカイコの 遺伝子のRNAiを行ったとこ ろ,エレクトロポレーションを行った片眼で変異体の表 現型が再現された(図1中央).また,同じ2013年にカ イコではTALENを用いた遺伝子ノックアウト法が非常 に有効であり,TALENを注入した世代(G0世代)で も高い個体でモザイク状に表現型が現れることが報告さ れた(7).そこで,TALENを用いて 遺伝子の遺 伝子ノックアウトを行ったところ,G0世代でモザイク 状に変異体の表現型が確認された(図1右から2番目). 以上の結果から, 遺伝子が 変異体の原因遺伝 子であることが強く示唆されたが,これだけの結果で は,絞り込み範囲内に存在する表現型のよく似た遺伝子
(原因遺伝子そのものではない)という可能性も否定で きない.そこで,TALENで 遺伝子を破壊した 個体と 変異体を交配させて相補性試験を行った.交 配によって生じる次世代はTALENによって破壊された 図1■カイコの野生型と 変異体,および 遺伝子解析個体の成虫複眼の比較
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遺伝子と 変異体由来の染色体を一つずつもっ ており,もし の原因が 以外の遺伝子である 場合は,遺伝子の機能が相補されて表現型は野生型にな る.交配によって生じた個体は,いずれも 変異体と 同じ表現型をもっていたことから(図1右端),
遺伝子自体が 変異体の原因遺伝子であることが直接 的に証明された(8).
5. 遺伝子の同定から明らかになったオモクローム系 色素合成の多様性
キイロショウジョウバエでは, 遺伝子は3-ヒ ドロキシキヌレニンからキサントマチンを合成する際に 機能する酵素遺伝子と考えられていた(5).なお,キイロ
ショウジョウバエでは変異体でも羽化数日後には表現型 が野生型と差がなくなることから, の機能欠損 下でも自動酸化により遅延してキサントマチンが合成さ れると考えられていた.前述のようにカイコの 変異 体は,キイロショウジョウバエの とは異なる表 現型を示す(キイロショウジョウバエでは変異体でも羽 化数日後には表現型が野生型と差がなくなる).この原 因を調べるため,カイコの野生型と 変異型のオモク ローム系色素の組成をLC-MSで解析した.その結果,
変異体では 変異体のようにオミンの量が著しく少 なく,さらに野生型で多く存在するオマチン(キサント マチンと脱炭酸型キサントマチン)の量も激減している ことが確認された.この結果から, 遺伝子はオ
図2■オモクローム色素合成経路とそれにかかわる遺伝子
イタリックはキイロショウジョウバエの遺伝子名,カギ括弧内にカイコの変異体名を示す.
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マチン,オミンの両方の合成に重要であることが確認さ れた(8)(図2).
野生型のカイコでは複眼と卵の色素の組成は基本的に 同じである.ところが, 変異体を観察すると,複眼 は必ず淡赤色になるが,卵は休眠に入った越年卵(年1 化になるように自然界を模倣して徐々に保管温度を下げ た卵)は白いのに対し,非休眠卵や浸酸処理で休眠を阻 止した卵を冷蔵した場合は淡赤色に着色する傾向が確認 された(8).さらに 変異体では,カイコの黒縞系統の幼 虫皮膚に存在する赤い斑紋が白くなることが明らかに なった(8).このような変異体の組織や状態における体色 の違いは,自動酸化による色素合成の程度の,組織間や 生理状態による違いを反映しているのかもしれない.
カイコには, や 以外にも原因遺伝子が未同定の 卵色や複眼色の変異体が残されている.筆者らは現在,
次世代シークエンサーを用いて,これらの遺伝子解析を 進めているところである.また,オモクローム系色素 は,一部のチョウ(タテハチョウ科)の翅の模様や,ア カトンボの体色などにも使用されている(2, 3).カイコか ら明らかにされたオモクローム系色素の遺伝子が,これ らのさまざまな昆虫の体色形成にどのように関与してい るのかに関しても,今後解明していきたい.
トンボの色覚とRNAseqを活用した多様なオプシ ン遺伝子の同定
1. トンボは視覚に頼る昆虫
トンボは,昆虫の中でもチョウに並んで体色の多様性 の著しいグループとして知られている.トンボの成虫 は,大部分の種が基本的に昼行性で,鼓膜器官をもた ず,触角が発達していないことから,聴覚や嗅覚にあま り依存していないと考えられている(9).代わりに頭部の 大部分を占める大きな複眼をもち,基本的に視覚で相手 を認識する.トンボの中には赤色,青色,緑色,黄色な ど鮮やかな体色をもつ種類が見られ,体色は雌雄や近縁 種間でもしばしば大きく異なる(9, 10).さらに,成虫に なった後に劇的に体色を変化させる種も多く知られてお り,たとえばアカトンボ(アキアカネ
など赤くなるトンボの総称)の仲間では,成熟過 程でオスが黄色から赤色へと変化するのに対してメスは 成熟後も黄色っぽい体色のままの種が多い.興味深いこ とに,アカトンボの体色変化には,前述のオモクローム 系色素であるキサントマチンと脱炭酸型キサントマチン の酸化還元反応により制御されている(11).アカトンボ では,基本的に成熟オスが鮮やかな赤色になることか ら,赤い体色は雌雄の認識や縄張り行動の際に重要であ
ると考えられている(9).ちなみに,キイロショウジョウ バエやセイヨウミツバチ など多くの昆虫 では赤色が認識できない(同じ明度の灰色と区別できな い)ことから(12),トンボの色覚はほかの昆虫とは異 なっている可能性が考えられた.
動物の色覚の多様性には,オプシン遺伝子が重要であ る(13).オプシン遺伝子産物であるオプシンタンパク質 は,眼の中にある光受容細胞で「光センサー」として機 能する.異なるオプシン遺伝子から異なる波長に感度の もつ複数の「光センサー」を用いることで,異なる波長 の光を異なる色として認識する「色覚」が生じる.私た ちヒトは,青色,緑色,赤色の3原色に対応したオプシ ン遺伝子をもつので,3原色を基に色を認識している
(図3上).一方でセイヨウミツバチでは紫外線,青色,
緑色に対応したオプシン遺伝子をもつので(ほかに単眼 で発現するオプシン遺伝子ももつ),ヒトには見えない 紫外線が見える代わりに赤色を認識できない(図3下). 大部分の動物は,2〜5種類のオプシン遺伝子が色覚に 関係していることが知られていた(13).しかし,トンボ の色覚にかかわる分子機構に関しては,ほとんど報告さ れていなかった.
2. RNAseq解析によるトンボのオプシン遺伝子の同定
昆虫のオプシン遺伝子は,アミノ酸配列の特徴から,
視覚型と非視覚型に分類され,前者は紫外線タイプ,短 波長(青色)タイプ,長波長(緑)タイプの3つに大別 することができる.トンボのオプシン遺伝子の同定にあ たり,当初はほかの昆虫から見つかったオプシン遺伝子 の配列を参考に,遺伝子のクローニングを試みたが,解 析は難航していた.そこで,次世代シークエンサー Illu- 図3■ヒトとセイヨウミツバチの3種類のオプシン遺伝子の分 光感度の比較
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mina Hiseq 2000を用いてアキアカネの複眼でRNAseq 解析を行い,Trinityで アセンブリによる遺伝 子配列の再構築を行った.すると,オプシン遺伝子と相 同性のある配列が60種類も得られた.ただし,RNAseq の問題点として,配列のよく似たパラログ遺伝子の配列 を正しく再構成できないということがわかり,実際に 60種類の配列を詳細に比較したところ,その多くはキ メラになっていることが判明した.そこで,Integrative Genomics Viewer(IGV)というソフトを用いて,ペア エンドの組み合わせの情報を参考に,マニュアルで遺伝 子配列を補正する作業を行った.この際に,HiSeq 2000 よりはリード数が少ないもののIllumina MiSeqを用い て300 bpのペアエンドで行った解析結果も活用した.
また,同時にプライマーを設計してRT-PCRによっても 配列の確認を行った.マニュアル・アセンブリによる補 正法に関しては,別報でも解説しているので,興味のあ る方はそちらをご覧いただきたい(14).このような作業 を繰り返した結果,アキアカネでは視覚型を中心に20 種類ものオプシン遺伝子が存在することが明らかになっ た(15)(図4A).これは,昆虫の中では文字どおり桁違 いに多いと言えそうである.さらに,トンボのオプシン 遺伝子の数が,トンボの種間でどのくらい異なるかを調 べるため,本州で見られる代表的な科を中心に11科12 種でトンボのオプシン遺伝子を調べたところ,合計では
15〜33種と異なる科間で特に視覚型オプシンの種数が 大きく異なっていることが明らかになった(図4B).
3. RNAseq解析から明らかになったオプシン遺伝子の
多様性
RNAseqの大きな利点としては,遺伝子配列に加え て,遺伝子の発現量のデータが同時に得られることが挙 げられる.12種類のトンボすべてについて,成虫複眼 背側(D),成虫複眼腹側(V),成虫単眼(O),幼虫頭 部(L)の4つのサンプルで遺伝子の発現比較を行った.
短波長オプシンと長波長オプシンの結果をヒートマップ でまとめたものが図5である.上にトンボの系統樹,左 に各遺伝子の分子系統樹を示した.各遺伝子の発現パ ターンを見ると,オプシン遺伝子は幼虫(L)と成虫
(D, V, O)で発現パターンが全く異なっており,成虫で は複眼背側(D),複眼腹側(V),単眼(O)の間でも 発現が全く異なることが明らかになった.また,分子系 統樹と発現パターンから,短波長オプシンを3つ(a, b, c),長波長オプシンを6つ(A, B, C, D, E, F)に分ける ことが可能であった.短波長オプシンのグループa, b, c はそれぞれ主に幼虫,複眼腹側,複眼背側で発現する傾 向が見られたが,イトトンボなど均翅亜目の仲間では背 腹の発現の違いは不明瞭であった.また,幼虫が河川の 砂地に潜るヤマサナエとオニヤンマ,幼虫が湿った斜面 に小さな洞穴を掘って生活するムカシヤンマでは,幼虫 で発現する短波長オプシン(グループa)が存在しない ことが明らかになった.一方で長波長オプシンは,すべ ての種が2種類のグループAをもち,一方が幼虫,他方 が成虫で発現しており,グループB, Cは主に幼虫,グ ループDは成虫の単眼,グループEは成虫の複眼背側,
グループFは複眼腹側で発現する傾向が見られた.ただ し,均翅亜目では,オプシン遺伝子全般で背腹の発現の 違いは不明瞭であった.また種によっては特定のグルー プが欠落していることがあり,単眼で発現するグループ Dのオプシン遺伝子をもたない種(ギンヤンマ,ヤマサ ナエ,オニヤンマ)では,グループCやEの遺伝子(の 一部)が単眼で発現するようになっていた.また,グ ループDに加えてグループFの遺伝子ももたないギンヤ ンマでは,グループEの遺伝子の一部が単眼や複眼腹側 で発現することで,従来のグループD, Fの機能を補完 していることが考えられた.
4. トンボの眼鏡は虹色メガネ?
以上のように,トンボのオプシン遺伝子は,従来想像 されていた以上に多様であることが明らかになった(15). 図4■昆虫(A)およびトンボ(B)におけるオプシン遺伝子数
の比較
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オプシン遺伝子の全体的な傾向を見ると,いずれの種で も①幼虫では少数のオプシン遺伝子が発現するのに対し て成虫では多くの種類のオプシン遺伝子が発現する,② 複眼背側では短波長オプシンが多く発現する,③複眼背 側では多くの種類の長波長オプシンが発現する,という 特徴が確認された.このように,トンボのオプシン遺伝 子が多様化した一つの理由は,①水中で使用する「幼虫 メガネ」,②短波長成分の多い空からの光を直接受け取 る「背側メガネ」,③地表からの反射光を主に認識する
「腹側メガネ」を異なる遺伝子を基に作り上げているこ とにあるのかもしれない.色鮮やかな体色や斑紋はチョ ウや一部のコウチュウでも見られるが,これらのグルー
プではオプシン遺伝子の数は少ない(たとえば視覚型オ プシンの数はアキアカネの16種に対して,カイコなど チョウの仲間では3〜4種,コウチュウのコクヌストモ ドキでは2種にすぎない,図4A).これは,チョウ目昆 虫(夜行性のガが大部分)やコウチュウ目昆虫の大半は 夜行性であることも関係しているかもしれない.われわ れヒトも哺乳類の祖先が夜行性であったため,ほかの脊 椎動物と比較するとオプシンの数が少なくなっているこ とが知られている(13).トンボのオプシン遺伝子が非常 に多様であることは,相手の認識を基本的に視覚で行っ ていることに加えて,現存するほぼすべての種が昼行性 であり,さらにほかの昆虫とは3.5億年以上前に分岐し 図5■トンボにおけるオプシン遺伝子の発現パターン
成虫複眼背側,成虫複眼腹側,成虫単眼,幼虫頭部を,それぞれD, V, O, Lで表す.トンボの系統樹を上に,オプシン遺伝子の系統樹を左 に示した.いずれも平均値に対する相対量.
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たことも関係しているように思われる(16).ヒトの眼で 見ても多彩なトンボの体色であるが,もしかすると「ト ンボのメガネ」を通して見ると,ヒトが想像する以上に 複雑な体色を表しているのかもしれない.
謝辞:なお,今回紹介した研究内容は,農業生物資源研究所および産業 技術総合研究所で主体的に行われたもので,RNAseq解析は,東京農業 大学との共同研究の成果である.共同研究者の方々に厚く御礼申し上げ る.
文献
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プロフィール
二 橋 美 瑞 子(Mizuko OSANAI-FUTA- HASHI)
<略歴>2001年東京大学農学部生物環境 科学課程卒業/2005年同大学大学院新領 域創成科学研究科助教/2010年同大学大 学院新領域創成科学研究科先端生命科学専 攻 博士(生命科学)取得/同年農業生物 資源研究所遺伝子組換えカイコ研究セン ター博士研究員/2012年日本学術振興会 特別研究員/2015年茨城大学理学部理学 科生物科学コース准教授,現在に至る<研 究テーマと抱負>昆虫の染色体および体色 形成の進化<趣味>100円ショップで研究 に使えそうなグッズを探すこと.クワガタ の眼色変異体の飼育
二 橋 亮(Ryo FUTAHASHI)
<略歴>2001年東京大学理学部生物学科 卒業/2006年同大学大学院新領域創成科 学研究科博士課程修了.博士(生命科学), 同博士研究員/2007年日本学術振興会特 別研究員/2009年産業技術総合研究所研 究員/2013年同主任研究員,現在に至る
<研究テーマと抱負>昆虫の形態・色彩・
構造に関する研究<趣味>トンボの生態写 真の撮影
Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.422
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