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臨購21第鵜4拙鴛〉
中枢神経症状を伴った網膜色素線条症
東京女子医科大学眼科三教室(主任 加藤金吉教授)
亀山 和子・大学院学生 名倉 靖子・講師 山中 妙子
カメヤマ カズ= ナクヲ ヤスコ ヤマナカ タエコ
(受付 昭和44年1月31日)
1・緒 言
網膜色素線条症は1889年Doyneによって発見 され,一連の弾力線維を含む器官をおかす系統的 疾患の一症候群である.1892年にKnaPPによっ て Angioid Streaks と命名された.これにし ぼしぼ合併する皮膚の病変に関しては,1929年 G16nbladおよびStrandbergによってpseudoxant−
homa elasticumの合併する症例が明らかにされ,
両者の合併したものはG16nblad−Strandberg症候 群といわれるに至った.現在までに多数の報告が なされているが,今回G16nblad−Strandberg症候 群にうつ血乳頭を合併した2例,Angioid Streaks にてんかんを合併した1例を経験したので報告す
る.
皿・症 例 症例1.
患者=亀○秀○,57才,主婦。
初診=昭和41年12月27日
脳腫瘍の疑いで神経科より眼底検査を依頼された.
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴1小児期より頭痛があり,2ヵ月前より強くな り,時々複視が出た。7年前より高血圧.
初診時所見:眼科的所見;視力右1.5(1.5×
十〇.25D),左1.5(1.5×十〇.5D).瞳孔正円同 大,瞳孔反応正常,眼球運動正常,複視(一).前 眼部透光体異常なし.視野はマリオット盲点拡大 を認めるが,周辺視野正常.眼底所見(写真1,
2)右乳頭境界不鮮明,発赤腫脹し,2Dの突出あ り,うっの血乳頭の所見である.乳頭周囲に灰黒
写真1.症例1.初診時の眼底(右)うつ血 乳頭と網膜色素線条.
写真2.症例1.初診時の眼底(左)うつ血 乳頭と網膜色素線条.
褐色の線条が6条網膜血管の下を放射状に走り,
1条は黄斑部へおよんでいる.中心窩は正常.乳 頭上方に出血斑,点状出血の散在,動脈の狭細,
反射充進を認め,静脈の拡張蛇行をみとめる.左 Kazuko KAMEYAMA, Yasuko NAKURA, Taeko YmmAKA (Department of Ophthalmology, Tokyo
Women s Medical College): Angioid streaks with complication of central nervous system.
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乳頭の所見は右に同じ.乳頭周囲から放射する線 条は4条で,左眼は黄斑部へはおよんでいない.
血管その他の所見は右と同様.
皮膚所見;右側頚部に米粒大の丘疹が3個.
全身所見;血圧160/80㎜㎏.脳波,頭部X線 像,脳動脈撮影,超短波検査齢すべて異常はなか
った.
経過:昭和43年5月30日,視力障害を訴えて再 び当科受診.この時の所見は
眼科的所見:視力右0.2(矯正不能),左30㎝指 数弁,瞳孔正円同大,瞳孔反応正常,眼圧正常,
眼球運動正常.視野は右強度に同心狭窄を示し,
左測定不能.眼底所見(写真3,4)両眼とも乳
写真3.症例1.初診から17ヵ月後の右眼底.
写:真4.症例1.初診から17ヵ月後の左眼底.
頭は軽い隆起を残したまま蒼白で視神経萎縮を示 し,左眼の方がより蒼白であった.動脈硬化,高 血圧性変化はつよく,網膜の色素線条も前年と同 様の所見であったが,赤道部から周辺にかけて眼 底全体が粗造で梨子地状を呈している.
皮膚所見:前年同様の丘疹があり,皮膚科で臨 床的および病理組織学的に弾力線維性仮性黄色腫
と診断された.
全身所見:血圧180/110皿H9,血液一般,血清「
化学,尿,心電図延すべて異常はない.胸部X 線像にて心肥大を認める.Caの沈着等の所見は.
ない.自律神経機能はアドレナリン試験にて正 常.脳神経症状は認められない.
写:真5.症例1.螢光眼底撮影所見(左)
蛍光眼底所見(写真5):動脈期に乳頭周囲の ヒトデ様の線条の部に一致して蛍光の出現が見ら れ,時間とともにやや増強し,かなり長時間残存
していた.黄斑部には特に変化はみられない.
症例2.
患者:相○八○,42期目主婦.
初診:昭和33年6月5日.
主訴:両眼眼験下垂.
家族歴:特記すべきことなし.
既往歴=小児期にはやり目に罹患,血圧正常.
初診時所見:眼科的所見;視力右0.9(1.Ox
−0.5D),左0.5(矯正不能),瞳孔正円形同大,
瞳孔反応正常,両眼険やや下垂,両眼角膜に角膜 片雲を認める.眼球運動は上内側にやや不充分で ある.眼底所見は右乳頭境界鮮明,発赤腫脹を認 めず,乳頭を囲んで青灰色の色素輪があり,ここ から放射状に4条の色素線条が網膜血管の下を走 っている.特に鼻側上方に長く,その赤道部では 網膜に斑状黒灰色の色素の散在を認める.網膜全 体に粗造で,黄斑部に色素沈着と著明な萎縮様変 一319一
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性を認める.血管には特に変化はない.左も右と ほぼ同様である.視野は左右とも周辺部の外側に 狭窄があり,左のマリオット盲点がやや拡大して
いる.
皮膚所見:両上肢および左側頚部に小腫瘍を認 め,臨床的に弾力線維性仮性黄色腫と思われる が,病理的検索は行なっていない.
経過:約1ヵ月後に複視を訴え,眼球運動は下 方に制限され,眼瞼下垂は軽度に認められた.原 因不明のままステロイド療法施行.6ヵ月後に強 い頭痛を訴え,右眼の完全な動眼神経麻痺が現わ れ,眼球は外転とわずかに上下転を示すのみで,
瞳孔は極度に散大した.眼底t/こは両眼ともうつ血 乳頭を認めた.約1週間後に脳出血をおこし,意 識不明となったが,その後の経過は不明である.
症例3.
患者:滝○正○,δ,48才,会社員.
初診:昭和43年7月23日.
原因不明のてんかん発作があるため神経科より眼底 検査を依頼された。
家族歴;特記すべきことなし.
既往歴:昭和43年3月よりDepression,6月よりMa・
nie,6月15日と6月16日の2回Epilepsyの大発作.
初診時所見:眼科的所見;視力右1.0×一2.5 D,左1.2×一2.5D,瞳孔正円同大,瞳孔反応
=正常,眼圧正常,眼球運動正常,前眼部透光体
、異常なし.眼底所見は両眼とも乳頭境界鮮明,発 赤腫脹なし,乳頭周囲に輪状に萎縮巣あり,ここ から色素線状が1条うすく単側へ1乳頭径ほどの びている.周辺部にDruseの散在があり梨子地 状を呈している.血管には動脈硬化,高血圧の変 化はみられない.
皮膚所見;皮膚科にて特に異常なし.
全身所見;血圧128/80nllnlig,神経科にて脳 波,頭部X線像,脳動脈撮影,脳脊髄液検査,す
べて正常.
:蛍光眼底撮影所見は症例1と同様の所見を示し
:た.
Ill・考 按
網膜色素線条症の発症は20才代,30才代の青年 期以後に多く,統計上,欧米では男女間の差はほ
とんどみられていない.日本人の統計Dでは,網 膜色素線条症全体としては男女比は3:2であ り,合併症の有無によってその比はまた異ってい る.遺伝関係では,劣性遺伝と言われ,川上2)の 報告では32例中11例32%セこ血族結婚が証明され る.著者らの例ではすべて家族的に同様な疾患を 指摘されたものはない.
眼底所見としての特微は,乳頭をとりまく薄墨 色の平野があり,それからヒトデ様に黒褐色の線 条がジグザグに周辺部に向って放射状にのびて 行く,この線条は病理組織学的にBruch氏膜の Lamina elasticaの肥厚,断裂の結果,二次的に色 素上皮細胞の増殖をきたすものとされている.
Wildiは病変を次の3期に分類している.第1期 は色素線条のみのもので,黄斑その他に異常の ないもの.第∬期は黄斑の変化を主として,変 視があり,急激に網膜下野出物,出血があらわ れ,網膜剥離をおこすもの.第皿期は黄斑部の退 行変性,結合織増殖がおこり,視力障害高度のも
の.
GIδnblad−Strandberg症候群の皮膚に見られる 弾力線維性仮性黄色腫3)については,一種の皮膚 萎縮説,腫瘍説,母斑説,先天性皮膚栄養障害説 等があるが,皮膚における変化が眼底における変 化と一致するものであり,弾力線維の系統的変性 に,基くものと考えられる。
清水4)は皮膚に仮性黄色腫を有し,眼底に色素 線条が認められず,その代りに特徴あるびまん性 の穎粒状色素変化がしぼしぼ共存することから,
この頼粒性色素変化のある梨子地状眼底と網膜色 素線条症,仮性黄色腫との三者に密接な関係があ
ると推i許している.
眼合併症として,屈折異常,結膜その他の炎 症,視束炎,脈絡膜欠損があげられている.全身 的合併症として,Duke−ElderはCardiovascular
lesion, Senile elastosis of skin, Fibrodysplasia,
Paget s disease, Sickle cell anemia, Diffuse lipomatosis, Acromegaly, Pituitary tumor, Epil−
epsy, Lead poisoningをあげている.さらに本邦 において肥伴性性器発育不全症6),糖尿病等の合 併した例が報告されている.
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著者らの症例は,すべてWildiの分類する第 1期に属するものであり,網膜は粗造で,いわゆ る梨子地状眼底を示していた.症例1の高度な視 力障害は黄斑の変性が明らかでないことから,
視神経萎縮によるものであろう.この視神経萎縮 は何によるものであろうか?.初診時より高血圧 および動脈硬化を合併し,それと同時にうつ血 乳頭がみられ,強い頭痛を訴えていた.しかし 神経科的の諸検査で原因が不明であった.1年半 後には両眼とも乳頭は萎縮に移行した.文献の剖 検例7)に仮性球麻痺,錐体徴候を欠くコルサコフ 症候群,動脈硬化,腎硬変,本態性高血圧,脳・出 血,クモ膜炎等を合併した報告もみられる.症例
1の視神経萎縮は全身の弾力線維が変性をおこし たための脳血管系の出血等により,うつ血乳頭が おこり,のちに徐々に視神経萎縮へ移行するとい
う経過をとったのではないかと推測する.
症例2では,急激な経過でうつ血乳頭を両眼 に生じ,更に右の動眼神経麻痺を起こしたことか ら,脳血管系の障害,脳腫瘍,脳出血が考えられ るが,この時に特に検査を行なえず,約1週間後 に意識不明になっていることから,脳出1血であっ たと思われる.
症例3では,Epilepsyの大発作を2回おこし たが,特に原因は発見されない.特発性てんかん はほとんどが10才以前に初回の発作をおこすもの であり,本例では成人以後の発作であるため特発 性とは考え難い、視神経鞘に生じたmeningioma によってEpilepsyの発作をおこした例8)もある が,本例ではそれらしい所見はなく,症例1と同 様に,血管壁の変性から生ずる一時的な血流の障 害によっておこったものであろう.
以上3例の神経症状は,中枢に偶発的に起こっ た異常ということも否定はできない.しかし,本 症の特徴である系統的な弾力線維の脆弱にもとづ
くlesionが一次的にあり,それによつで二次的 に中枢がおかされたという可能性が大きいと思わ
れる.
高橋3)のいう.血清Ca, K,コレステリンの増加 や,富永9)のいう交感神経緊張症候を症例1で検 索してみたが,異常はみられなかった.
最後に蛍光眼底撮影を行なった結果では,網膜 のヒトデ様の線条は動脈期にすでに蛍光が出現し し,網膜血管から蛍光が消失してからも残存し,
それは網膜の血管とは関係なく,SI℃ithlo)神島,11>
福田12)の報告と同様の所見を示した.
1V・結 語
網膜色素線条症に中枢神経症状を合併した比較 的まれな症例を3例経験したので,諸検査を行な い,その結果を報告した.
稿を終るに臨み,御指導,御校閲を賜わった加藤教 授,内田助教授に感謝致します.
文 献
1)清水弘一:眼臨 549!1(1960)
2)川上理一:日眼全書皿 第1版金原出版 東 京(1957)211頁
3)高橋博・管原光雄:綜臨62218(!957)
4) 清フ」く弓ムー:目艮臣嘉 54 503 (1960)
5) Duke−Elder: System of Ophthalmology IX Ist edkien. Henry K{mptQn. London (1966)
p. 721
6)米山高道・米山杏子・清原頼子:臨眼17.389
(!963)
7)吉田義治:高眼全書XXII第2冊 金原出版
東京 (ユ961) 176頁
8) Frank, B. Walsh : Clinical neuroophthal−
mology 2 nd Edition. Baltimore (!957) p.
ユ128
9)富永文次:皮尿誌3679(1934)
10) Smith, T・L.: Brit J Ophth.,/」48 517 (1964)
11)神鳥文雄・渡辺猛・松浦啓之:臨眼 221ユ83 (1968)
12)福田雅俊・林恵美:臨眼221483(1968)
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