未利用道産材 の曲げ木への適用可能性
令和
2年度卒業論文
北海道大学農学部森林科学科 木材工学研究室
森川瑞穂
目次
1. 緒言 ... 1
1.1. 街路樹の現状 ... 1
1.2. 曲げ木 ... 2
1.3. 目的 ... 2
2. 本研究の流れ、曲げ木の適用性の評価法 ... 3
2.1. 本研究の流れ ... 3
2.2. 試験材の選定 ... 3
2.3. 曲げ木の適用性評価の視点 ... 4
2.3.1. 曲げ加工のコスト ... 4
2.3.2. 曲げ加工時の形態 ... 4
2.3.3. 曲げ加工後の利用 ... 4
2.4. 測定項目、試験方法 ... 5
3. 材料と試験方法 ... 6
3.1. 材料 ... 6
3.1.1. 3点曲げ試験、曲げ木試験 ... 6
3.1.2. 試験体中心部の温度上昇に要する時間の測定 ... 6
3.2. 試験方法 ... 6
3.2.1. 基礎材質の測定 ... 6
3.2.2. 試験体中心部の温度上昇に要する時間の測定 ... 6
3.2.3. 3点曲げ試験 ... 8
3.2.4. 曲げ木試験 ... 11
3.2.5. 破損形態の評価方法 ... 13
4. 結果 ... 15
4.1. 基礎材質 ... 15
4.2. 木材中心部の温度上昇に要する時間 ... 16
4.3. 水の浸透性 ... 17
4.4. 3点曲げ試験 ... 20
4.4.1. 3点曲げ試験結果表 ... 20
4.4.2. 荷重変位曲線 ... 21
4.5. 曲げ木試験 ... 22
4.5.1. 曲げ木試験結果表と試験体の様子 ... 22
4.6. 破損、しわ ... 24
5. 考察 ... 25
5.1. 簡易的な曲げ木の適用性評価としての3点曲げ試験の利用 ... 25
5.2. 曲げ木への適用可能性の評価 ... 27
6. まとめ ... 33
謝辞 ... 34
引用・参考文献 ... 35
付録 ... 36
1
1. 緒言
1.1. 街路樹の現状
現在、札幌市では、「第4次札幌市みどりの基本計画」1)に基づき、街路樹の診断や計画的な更新 により、街路樹の適正な維持管理が図られている。ニセアカシアやプラタナスなどの早生樹種につ いては、成長が早く剪定などの手間がかかる、危険木になりやすいといった管理上の問題から、樹 種転換が推進されている2)。
市では、樹種ごとに、街路樹としての適性を表にまとめている(表 1)。街路樹は、新規植栽しな い樹種(早生樹種・短命樹種)、注意を要する樹種、積極的に増やしたい樹種、その他の樹種に分類 され、新規植栽しない樹種が、前述した樹種転換が図られている種に当たる。
表 1 街路樹適性表(札幌市資料3)より作成)
新規植 栽しない樹種 (早生樹種・短命樹種)
注意を要する樹種 積極的に増やした い樹種
その他の樹種
樹種名 シ ダ レ ヤ ナ ギ,シ ン ジュ,ニセアカシア,プ ラタナス,ポプラ類,ネ グンドカエデ,セイヨ ウヤマハンノキ,シラ カンバ
アカナラ,イチョウ, イヌエンジュ,トチノ キ類,ナナカマド,ハ ルニレ,アズキナシ
アオダモ,シナノキ 類,ハクウンボク, ハシドイ,ヤマモミ ジ,ヤマボウシ
イ チ イ,ト ウ ヒ 類,マツ類,イタ ヤ カ エ デ,エ ゾ ヤ マ ザ ク ラ,カ ツ ラ,キ タ コ ブ シ,ヤチダモ 他
市は、街路樹の巡視点検、剪定、危険木処理などの維持管理を造園業者に委託して行っている。
剪定は定期的に行われ、点検によって伐採の必要性があると診断された危険木については、伐採が 行われる。また、前述したような早生樹種は、樹種転換のため積極的に伐採されている現状にある。
市では、このようにして発生した剪定枝や伐採木の有効利用を目指している 4)。現状は、①有効 活用(マルチング材、肥料、土壌改良剤など)→②市民への無償配布→③一般廃棄物(再生)→④ 一般廃棄(焼却処理)というフローで処理されている。札幌市の区によっては、積極的に②の市民 配布が行われているところもある。西区がその例である。五天山公園駐車場(札幌市西区福井423)
に伐採木が運びこまれており、事前に申し込みをした市民に、その伐採木を無償配布している。
しかし、平成29年度時点で、13,507(t)の剪定枝・伐採木に対し、その約50%を占める6,811(t) が焼却処分されているというのが実情である(表 2 ,札幌市へのヒアリングを参考に作成)。
このような廃棄されている伐採木については、新たな需要の創出が求められていると考えられる。
表 2 街路樹・公園木の剪定枝、伐採木の処理状況
区分 清掃工場(焼却) 資源化工場 その他 計
H28年度 5,338 3,309 2,182 10,829
H29年度 6,811 4,786 1,910 13,507
※枯草含む
(単位:t)
2
1.2. 曲げ木
曲げ木は、木材の塑性加工の一種であり、家具の製作時によく用いられる技術である。ここで、
塑性加工とは、「木材の物性に影響の大きい水分と温度(熱)とが与えられた条件下で力を加えて比 較的大きな変形を与える加工のこと」5)である。
水分と熱により木材は軟化する。木材の細胞は、セルロースが束になって結晶化したミクロフィ ブリル部分と、ヘミセルロース、リグニンからなる非晶性のマトリックス部分の2つによって構成 される。このうち、ミクロフィブリルについては、含水率、温度の変化によって軟化することはな いが、ヘミセルロースは高含水率条件下で、リグニンについては高含水率・高温条件下で軟化する。
気乾状態における木材の繊維方向の最大ひずみは、引張で1%,圧縮で5%である。含水率30%,
100℃条件下では、前述したような軟化により、引張では2%だが、圧縮では 30%程度にまで増加
することが知られている 6)。このことは、高含水率・高温条件においては、圧縮方向のみの変形で あれば、木材を大きく変形させることが可能であることを示している。
この性質を利用して、木材の大きな曲げ加工を可能にしているのが、「ト―ネット法」である。
1850年頃にMichael Thonetによって発明されたこの技術では、高含水率・高温状態の木材と曲げ木
治具を用いる。治具の鋼板を木材の引張側に沿わせ、木材の端部を固定しながら曲げることで、繊 維方向への伸長を防ぐ(図 1)。それによって木材に圧縮応力のみが働くようにして、木材を大きく 曲げる技術である。
曲げ木に関しては様々な研究が行われているが、曲げ木に関係する要素として放射組織、結晶化 度などが考えられているものの、詳細は未だ不明である5)。
また、国内において、ブナが曲げ木によく用いられているが、良材の減少による材質の低下に伴 い、工場での曲げ加工時に破損してしまうような不良品が増えているという現状がある7)。
よって、現在は曲げ木に用いられていない未使用樹種から、曲げ木への適用性がある樹種を新た に発掘する必要があると考えられる。
図 1 左:拘束なしで木材を曲げた場合、右:曲げ木治具を用いた場合
1.3. 目的
本研究では、道産の木材を対象に、廃棄される伐採木のような活用されていない木材と、現在は 曲げ木には用いられていない木材の2つを未利用道産材と定義し、これらの木材の曲げ木への適用 可能性の評価を目的とし、3点曲げ試験や曲げ木試験を行った。
引張側
圧縮側
帯鉄 曲げ木治具
端部を拘束
3 2. 本研究の流れ、曲げ木の適用性の評価法 2.1. 本研究の流れ
本研究は、以下の流れで行う(図 2)。
まず、曲げ木への適用可能性を探求する試験材を選定する。その後、曲げ木の適用性評価の視点 を決め、その視点から適用性を評価するための測定項目や試験方法を決定する。最後に、測定結果 や試験結果から、曲げ木への適用可能性を評価する。
図 2 研究の流れ
2.2. 試験材の選定
材料は、札幌市による街路樹適性表の中にある樹種、もしくは、道産材の曲げ加工適性について の研究(輸入材と特産材の曲げ加工性に関する研究8))に用いられた樹種を選定した。
街路樹適性表(表 1)における、新規植栽しない樹種からシンジュ、ニセアカシア、ハンノキ、シ ラカンバの4樹種、注意を要する樹種からハルニレ、その他の樹種からイチイ(、イタヤカエデ)
を供した。
また、既往の研究8)により提案されている道産材の曲げ加工適性の順位(ヤチダモ>ハリギリ≒
ブ ナ≒ミズナラ>イタヤカエデ>マカンバ)の検討のため、ヤチダモはセイヨウトネリコ、で代用 することとし、セイヨウトネリコ、センノキ(=ハリギリ)、ブナ、ミズナラ、イタヤカエデ、ウダ イカンバを準備した。ブナ、ミズナラについては、現在曲げ木に用いられている樹種としての比較 の意味でも用いた。なお、ブナのみ、気乾材(人工乾燥材)と生材の2種用意した。
本研究の曲げ木適用性評価の視点の決定 試験材の選定
曲げ木適用性の評価
測定項目、試験方法の決定
4 2.3. 曲げ木の適用性評価の視点
本研究における、曲げ木の適用性評価の視点は以下の図の通りである(図 3)。
2.3.1. 曲げ加工のコスト
第一に、曲げ加工のコストを評価の視点とした。実際の曲げ加工の作業を想定した際に、加工コ ストが低い方が効率よく生産できることから、この視点を決定した。
今回は、コストが小さいこととして、少ない力で曲げられること、水分が木材に速く浸透するこ との2つを挙げ、曲げヤング率の測定によって曲げるために必要な力を、含水率の上昇に要する時 間の計測によって水の浸透性をそれぞれ調べ、評価することとした。
2.3.2. 曲げ加工時の形態
第二に、曲げ加工時の形態を評価の視点とした。曲げ木は、家具などの部材として用いられるた め、曲げ加工後に壊れていたり、外観に変化があったりした場合、商品として販売することができ ない。
これについては、試験時、もしくは試験後の、圧縮側・引張側の破損や、しわといった形態を観 察することによって評価することとした。
2.3.3. 曲げ加工後の利用
最後に、加工後の利用を視点とした。前述したように、曲げ木は椅子などの家具の部材として利 用される。簡単に、そして破損なく曲げることが可能であっても、家具の部材として十分な強度を 有していなければ、実際に利用されることは不可能と考えられる。
この強度については、材の密度から評価することとした。
図 3 本研究における曲げ木の適用可能性評価の視点 ヤング率の測定
曲げるために必要な力
含水率の上昇に要する時間
水の浸透性
密度
試験時、試験後の形態観察
破損(引張側)
曲げ木に適しているとは
曲げ加工のコスト
・少ない力で曲げられる
・水が速く浸透する
曲げ加工時の形態
・壊れない
・外観に変化がない
曲げ加工後の利用
・部材としての強度がある
試験時、試験後の形態観察
破損(圧縮側)
試験時、試験後の形態観察
しわ
評価法
5 2.4. 測定項目、試験方法
前述の評価法から、曲げ木への適用可能性を評価するために、以下の流れで材質の測定や、3 点 曲げ試験、曲げ木試験を行った(図 4)。
3 点曲げ試験については、簡易的に曲げ木への適用可能性を評価する手法としての提案を目的と して行った。
図 4 実験の流れ
ヤング率の測定
曲げるために必要な力
含水率の上昇に要する時間
水の浸透性 密度
試験時、試験後の形態観察
破損(引張側) 曲げ加工のコスト
曲げ加工時の形態 曲げ加工後の利用
試験時、試験後の形態観察
破損(圧縮側)
試験時、試験後の形態観察
しわ 試験体の基礎材質の測定
含水率20%
1)に蒸煮
3点曲げ試験 曲げ木試験 曲げヤング率の測定
曲げ木適用性の
簡便な評価法の
提案
6 3. 材料と試験方法
3.1. 材料
3.1.1. 3点曲げ試験、曲げ木試験
前述のように、以下の12樹種の試験体を用いた。
シンジュ:Ailunthus altissima
ニセアカシア:Robinia pseudoacacia ハンノキ:Alnus japonica
シラカンバ:Betula platyphylla var. japonica ハルニレ:Ulmus davidiana var. japonica イチイ:Taxus cuspidata
セイヨウトネリコ:Fraxinus excelsior センノキ:Kalopanax pictus
ブナ:Fagus crenata ミズナラ:Quercus crispula イタヤカエデ:Acer pictum
ウダイカンバ:Betula maximowicziana
3.1.2. 試験体中心部の温度上昇に要する時間の測定
試験の詳細は後述するが、熱電対を用いた試験体の中心温度の測定に、シラカンバ(気乾材)、ブ ナ(生材)、イチイ(生材)の3樹種を各1体ずつ用いた。
3.2. 試験方法
3.2.1. 基礎材質の測定
試験体寸法は20mm×20mm×313mmとした。試験体を採材する際に、同一のロットから小試験 片を1個ずつ採り、寸法・重量を測定し、気乾密度を算出した。その後、乾燥機に入れ、105℃で重 量が減少しなくなるまで乾燥させた。乾燥後に重量を測定し、初期含水率を算出した。その値を用 いて、以後説明する実験時の推定含水率を求めた。また。平均年輪幅(ARW)の測定も行った。
試験体を用いて、縦振動試験によって動的ヤング率(Ed)、曲げ試験(スパン:280mm,3点曲げ,
荷重500Nまで)によって曲げヤング率(Es)を計測した。
3.2.2. 試験体中心部の温度上昇に要する時間の測定
木材の軟化に必要な条件である温度について、含水率や樹種との関係を確認するために、熱電対 を用いた温度上昇測定試験を行った。試験体(寸法:約 20×20×300mm)の中心部に穴を開け、
そこに熱電対(チノー製被覆熱電対:T熱電対GT3)を挿しこんだ。穴は、シリコーン材(セメダ イン製シリコーンシーラント:セメダイン8060プロ)で塞いだ(写真 1)。シリコーン材が十分に 硬化したことを確認後、試験を行った。
自作した蒸煮箱(24mm厚物合板製、外側寸法:幅350mm×奥行450mm×高さ158mm,内部寸
法:幅302mm×奥行426mm×高さ130mm)(写真 2 ,写真 3)にスチーマー(STEAM GENERATOR
SS77ROCUS,Earlex)を接続し、蒸気を送り込んだ(写真 4)。蒸煮箱に挿した温度計により蒸煮
7
箱内の温度を測定し、100 度に達したのを確認後、熱電対を挿入した試験体を蒸煮箱に入れ、試験 体中心部の温度推移を測定した。
写真 1 熱電対を挿入した試験体製作の様子
写真 2 蒸煮箱
写真 3 蒸煮箱内部(試験体が2段に分けて入るようになっている)
8
写真 4 スチーマーに接続した蒸煮箱
3.2.3. 3点曲げ試験
3点曲げ試験は、蒸煮、曲げヤング率の測定、蒸煮、曲げ試験という流れで行った。
3.2.3.1. 蒸煮
既出の蒸煮箱にスチーマーを接続し、蒸煮箱に試験体を入れて蒸煮した。既往の研究を参考に、
曲げ木に必要な軟化条件として、目標含水率を20%とした7)。蒸煮後の含水率は、前述の初期含水 率を用い、蒸煮した試験体の重量を測定することで推定した。
1日(短いもので約4時間、最大で6時間30分程度)蒸煮しても推定含水率が20%に至らなかっ たものについては、ラップで試験体を包んで含水率が下がらないようにし、後日、再度それを蒸煮 することで含水率を20%にした。
なお、今回使用したスチーマーと蒸煮箱において、蒸煮箱には6本~最大10本入れた。
3.2.3.2. 曲げヤング率の測定
曲げ試験(スパン:280mm、3点曲げ、荷重:250Nまで)により、含水率20%条件の試験体の 曲げヤング率を非破壊で算出した。
3.2.3.3. 3点曲げ試験
曲げヤング率測定後、軟化条件である高温、高含水率を満たすように再度スチーマーにて蒸煮し、
曲げ木治具に試験体をセットした状態で3点曲げ試験を行った。スパンは160mmとした。試験図、
試験時の写真を以下に示す(図 5 ,写真 5)。
9
図 5 3点曲げ試験図
写真 5 3点曲げ試験の様子
8 0 8 0
6 0
P 押し型
試験体
P
20
変位計
ロードセル 試験材
曲げ木治具
P
スパン L=160mm
R=60
曲げ木治具
10
蒸煮した試験体の重量を測定した後、曲げ木治具(写真 6)にはめ込み、曲げ試験機に設置した。
熱画像カメラ(FLIR製Cx-Series:FLIR C5)にて写真を撮影し(写真 7)、載荷した。載荷速度は、
約36mm/minであった。曲率半径60mmの押し型を用い、押し型に90度分試験体が接するまで荷
重を加えた。載荷時の試験体の変形の様子と荷重値が測定できるように試験の様子を動画で記録し、
試験体が90度に到達した際の荷重、もしくは、90度に到達する前に破損したものについては破損 時の荷重を測定した。また、破損せずに曲がった角度を、45度、60度、90度の3つで評価した(写 真 8)。試験終了後、試験体寸法を測定した。さらに、試験中、試験後の破損形態を記録した。
試験は各樹種3体ずつ行った(ブナについては、気乾材と生材につきそれぞれ3体行った)。
含水率20%条件で試験体が押し型に90度接する前に破損した樹種については、鍋で試験体を煮
沸することにより高含水率条件(曲げヤング率測定時点で約26~84%)にし、含水率が下がらない ようにラップで包んでおいた。後日、その試験体をスチーマーで蒸煮し、高温状態にして曲げヤン グ率を測定した。その後、再度蒸煮し、重量測定後、20%条件と同様の手順で3点曲げ試験を行い、
試験体の90度到達時もしくは破損時の荷重(P )、到達角度を測定し、試験中、試験後の破損形態を 観察した。
写真 6 曲げ木治具
写真 7 熱画像カメラで撮影した写真
11
写真 8 試験体が押し型に90度接した状態
3.2.4. 曲げ木試験
曲げ木試験は、蒸煮、曲げヤング率の測定、蒸煮、曲げ木という流れで行った。
3.2.4.1. 蒸煮
既出の蒸煮箱とスチーマーを用いて、3 点曲げ試験時と同様に、含水率 20%を目標に蒸煮した。
蒸煮した試験体の重量を測定し、含水率が20%程度になっていることを確認した。1日で含水率が 20%に至らなかったものについては、ラップで試験体を包んで含水率が下がらないようにし、後日、
再度それを蒸煮することで含水率を20%にした。
なお、今回使用したスチーマーと蒸煮箱において、蒸煮箱には最大10本入れた。
3.2.4.2. 曲げヤング率の測定
曲げ試験(スパン:280mm,3点荷重,荷重250N)により、非破壊で含水率20%条件の試験体 の曲げヤング率を算出した。
3.2.4.3. 曲げ木試験
曲げヤング率測定後、軟化条件である高温、高含水率を満たすように再度スチーマーにて蒸煮し、
曲げ木試験を行った。試験図、試験時の写真を以下に示す(図 6 ,写真 9)。
蒸煮した試験体の重量を測定し、自作した曲げ木試験装置に固定してある曲げ木治具に試験体を はめ込んだ。曲げ木治具、試験体、曲げ型をクランプで固定した。曲げ木治具と接続したパイプの 先を引っ張ることで曲げ木を行った。なお、パイプの先にはロードセルを取り付けることで、引張
荷重(P )を測定できるようにした。
曲げ型(3点曲げ試験と同様の、曲率半径60mmのもの)に、試験体が90度接するまで曲げ木 を行い、最大荷重(Pmax)、到達角度の測定、試験時・試験後の破損形態の観察を行った。また、試験 の様子は動画で記録した。
12
図 6 曲げ木試験図
写真 9 曲げ木試験の様子 0° 20
45°
90°
6 0
曲げ木治具 押し型
試験体
M
M
0°
45°
90°
試験材 曲げ木治具 単管パイプ
ロードセル
モーメントアーム:
L=1m荷重値
荷重:P
R=60
13
3.2.5. 破損形態の評価方法
試験時、試験後の破損形態については、破損、しわの2種に分類した。破損については、木材工 学9)を参考に、さらに詳細に分類して評価した。
3.2.5.1. 破損
破損の種類を以下の図に示す(図 7)。1.圧縮側の圧潰,2.圧縮側の座屈,3.剪断破損,4.引 張側の繊維に直交の割れ,5.引張側の割裂,6.引張側の破損,7.乾燥割れの7種に分類される。
本研究における試験では、4.引張側の繊維に直交の割れと、7.乾燥割れを除く5種の破損が生じ た(写真 10)。
図 7 曲げ加工による破損(木材工学9)より引用)
写真 10 本研究における破損形態(『木材工学』による破損形態の図における番号とこの番号は一 致しない)
1.圧縮側の圧潰
5.引張側の破損 4.引張側の割裂
2.圧縮側の座屈 3.剪断破損
14 3.2.5.2. しわ
上記の破損とは別の項目として、試験体を曲げた際に材面に生じた細かなしわを、「しわ」として 評価した(写真 11)。
写真 11 材面に生じたしわ(左:試験体側面、右:試験体圧縮側)
15
4. 結果
4.1. 基礎材質
本研究の3点曲げ試験、曲げ木試験に用いた試験体の基礎材質データを以下に示す(表 3)。各数 値は全て平均値である。
表 3 試験体の基礎材質
試験体数 気乾密度 (g/cm3)
ARW (mm)
初期含水率 (%)
Ed (GPa)
Es (GPa) ニセアカシア 9 791 5.75 9.3 19.8 14.0 ウダイカンバ 9 745 1.96 8.9 17.8 13.4 ミズナラ 9 718 7.29 9.8 13.8 10.8 イタヤカエデ 9 710 1.08 8.7 13.4 11.7 ブナ(生材) 6 689 3.09 11 10.4 8.93 セイヨウトネリコ 9 688 1.72 9.6 13.3 11.1 シンジュ 9 672 1.21 9.0 15.5 12.4 ブナ(気乾材) 9 655 7.35 8.1 15.5 12.3 イチイ 6 633 2.26 11 7.79 6.85 ハルニレ 9 608 2.91 8.4 12.6 9.81 シラカンバ 9 595 2.61 8.3 12.1 9.82 ハンノキ 9 594 2.67 10 12.0 9.91 センノキ 9 534 4.04 8.8 9.01 7.98
16 4.2. 木材中心部の温度上昇に要する時間
以下に、スチーマーによる蒸煮時間を横軸に、木材中心部の温度を縦軸にとったグラフを示す (図 8)。
図 8 蒸煮時間と木材中心部の温度推移
次に、温度推移の測定に用いた試験体の、試験前、試験後の含水率、気乾密度を以下に示す(表 4)。
表 4 試験体の含水率・気乾密度
グラフから、樹種、密度、含水率の違いに関わらず、おおむね10分前後で、材の中心部が100度 に達していることが分かる。このことから、本研究において使用するスチーマーと蒸煮箱の場合、
20×20×300(mm)程度の寸法の試験体は、蒸煮箱の中が100度に達してから10分以上蒸煮すれ
ば、内部が100度に到達するといえる。
0 20 40 60 80 100 120
0 5 10 15 20 25 30 35 40
温度(℃)
時間(分)
ブナ(生材) イチイ(生材) シラカンバ(気乾材)
試験前 試験後
ブナ(生材) 59 70 689 イチイ(生材) 31 36 580 シラカンバ(気乾材) 11 19 574
含水率(%) 気乾密度 (g/cm3)
17 4.3. 水の浸透性
含水率の上昇と蒸煮時間(t)の関係について、縦軸に含水率を、横軸に時間をとると、下図のよう な対数グラフの形を示す(図 9)。拡散現象は、時間や圧力の平方根に比例するため、時間の平方根 をとったものを横軸にすると、図 10のような直線のグラフとなる。つまり、図 9のグラフの横軸の 平方根をとったものが、図 10のグラフである。なお、便宜上0分を1分としてグラフを作成した。
図 9 蒸煮時間と含水率の関係(イタヤカエデ)
図 10 蒸煮時間の平方根と含水率の関係(イタヤカエデ)
3 点曲げ試験と曲げ木試験に用いた各樹種6体について、6体すべての蒸煮時間による含水率の 変化を同時にプロットしたグラフを以下に示す(図 11)。
図から分かるように、含水率が上昇しやすい樹種としては、シラカンバ、ブナ(生材)、セイヨウ トネリコ、ハルニレが挙げられる。シラカンバは、含水率が20%であることを確認して曲げヤング 率を計測し、再度蒸煮し3点試験や曲げ試験を行うと、含水率が30~40%程度まで上昇している場 合もあるなど、含水率の調整が困難であった。
反対に、含水率が上昇しにくかった樹種は、ニセアカシア、イチイであった。特に、ニセアカシ アについては、1日(約6時間)の蒸煮で含水率20%に到達することは無く、2日間の蒸煮が必要 であった。
y = 0.0245ln(x) + 0.0769
0%
5%
10%
15%
20%
25%
0 50 100 150 200 250 300
含水率
t(分)
含 水 率
t(分)
y = 0.0089x + 0.0777
0%
5%
10%
15%
20%
25%
0 5 10 15 20
含水率
√t
含 水 率
√t
18
図 11 蒸煮時間の平方根と含水率推移の関係
y = 0.0094x + 0.0595 R² = 0.8088
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
センノキ
y = 0.0092x + 0.0695 R² = 0.8615
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
ハンノキ y = 0.0123x + 0.0447
R² = 0.6137
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
シラカンバ
y = 0.0111x + 0.0595 R² = 0.5244
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
ハルニレ
y = 0.0058x + 0.0855 R² = 0.7808
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
イチイ
y = 0.0078x + 0.084 R² = 0.5136
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
ブナ(気乾材)
y = 0.0096x + 0.0608 R² = 0.7352
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
シンジュ
y = 0.0116x + 0.0423 R² = 0.7826
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
セイヨウトネリコ
y = 0.012x + 0.0458 R² = 0.7028
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
ブナ(生材)
y = 0.0088x + 0.079 R² = 0.6078
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
イタヤカエデ
y = 0.0088x + 0.0693 R² = 0.783
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
ミズナラ
y = 0.0052x + 0.0821 R² = 0.9196
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
ニセアカシア
y = 0.0083x + 0.066 R² = 0.8409
0%
10%
20%
30%
40%
50%
0 5 10 15 20 25 30 35
ウダイカンバ
ρ=791g/cm3 ρ=745g/cm3
ρ=608g/cm3
ρ=595g/cm3
ρ=655g/cm3 ρ=672g/cm3
ρ=633g/cm3
ρ=688g/cm3 ρ=689g/cm3
ρ=710g/cm3 ρ=718g/cm3
ρ=594g/cm3
ρ=534g/cm3
含 水率
√t
19
木材工業ハンドブックにおける、心材の浸透性による分類 10)(心材に1MPa 程度の圧力で水を 加圧注入した際の、得られた注入量による区分)(表 5)では、良好、やや良好、困難、極めて困難 の4つに浸透性を区分している。
本研究で浸透性が非常に低かったニセアカシアやイチイがこの分類に含まれていないため、十分 な検討をすることは難しいが、本研究に用いた樹種のうち、この表に記載されている樹種(表中の 太字下線)について図 11と比較する。グラフの傾きが大きいトネリコが、表中でも良好とされてい るなど、一致している部分もある。しかし、極めて困難に分類されているセンノキが、本研究では 比較的浸透性が高いという結果が得られたなど、相違のある部分も少なくない。
表 5 心材の浸透性による分類(木材工業ハンドブック10)より引用)
良好 やや良好 困難 極めて困難
樹種
ヒバ,エノキ,イタヤカ エデ,シデ類,チシャノ キ,ツバキ,トネリコ,
ハンノキ,ミズキ
アカマツ,クロマツ,
スギ,ツガ,ヒメコマツ,
モミ,アサダ,マカン バ,シオジ,ハルニレ,
ユズリハ
エゾマツ,トドマツ,トウ ヒ,ヒノキ,イスノキ,
クルミ,ケヤキ,コジイ,
ダケカンバ,ブナ,ネム ノキ,ミズメ,ヤマザクラ
カラマツ,カシワ,
カツラ,キハダ,クリ,
クヌギ,クスノキ,コナ ラ,センダン,セン,タ ブノキ,ミズナラ
20 4.4. 3点曲げ試験
4.4.1. 3点曲げ試験結果表
3点曲げ試験の結果を以下の表に示す(表 6)。
表 6 3点曲げ試験結果
気乾密度:3体の平均値
Es(曲げヤング率):3点曲げ試験前に非破壊で測定した、蒸煮した試験体の曲げヤング率(3体の 平均値
P(荷重):90度到達時の荷重、もしくは、90度到達前に破損したものについては破損時の荷重(3 体の平均値)
到達角度:試験体が破損なく到達した角度(3体の最小値)
<45は45度に到達する前に破損、〇-〇はその間の角度で破損 破損数、しわ数:3体のうち、破損、もしくはしわが生じた試験体数
含水率20%条件下では、ほとんどの試験体で破損が生じた(写真 12 左)。試験体3体全てにおい
て、破損なく90度に到達するまで載荷可能だったものは、ブナ(生材)(写真 12 右)、イチイのみ であった。その2樹種については、曲げヤング率が低い傾向が見られた。
高含水率条件は、含水率20%条件で破損が生じた10樹種について行った。含水率20%条件と比 較すると、到達角度が上昇した、もしくは破損した試験体数が減少した樹種が見られたものの、明 瞭な差は認められなかった。
写真 12 左:90 度に到達する前に破損したハンノキ、右:破損なく 90度に到達したブナ(生材)
気乾密度 (g/cm3)
Es
(GPa) P (N)
到達角度 (°)
破損 数
しわ 数
気乾密度 (g/cm3)
Es
(GPa) P (N)
到達角度 (°)
破損 数
しわ 数 ニセアカシア 796 4.71 2560 60 3 2 757 5.35 2770 60-90 3 3 ウダイカンバ 720 4.22 2290 60 3 3 745 3.78 2090 60 3 1
ミズナラ 740 3.80 1550 45 3 0 743 4.73 1900 45-60 3 0
イタヤカエデ 713 4.11 2420 45 3 0 694 4.61 2310 60-90 3 0 ブナ(生材) 703 2.34 2160 90 0 0
セイヨウトネリコ 687 4.08 2370 45 3 1 655 3.65 1810 60-90 3 2
シンジュ 666 4.28 1890 60 3 2 674 2.94 1800 60-90 2 2
ブナ(気乾材) 647 5.38 2020 45 3 0 652 4.56 1800 45 3 1 イチイ 646 2.60 2270 90 0 0
ハルニレ 561 3.54 1660 90 2 0 580 2.43 1710 90 0 1 シラカンバ 557 3.59 1890 60 2 3 558 2.82 1620 90 1 2 ハンノキ 602 4.40 1150 <45 3 0 593 3.29 1130 45 3 0
センノキ 527 2.69 1960 60 3 3 486 2.74 1290 60-90 3 3
含水率20%条件 高含水率条件
21
4.4.2. 荷重変位曲線
含水率20%条件下の3点曲げ試験における荷重変位曲線の1例を以下に示す(図 12)。
図の45度、60度、90度の線は、試験体が当該角度に到達した際に予想される変位量である。し かし、この予想値と、試験体が実際にその角度に到達した際に確認される変位量は一致しない場合 が多かった。多くの場合、予想値よりも、実際の変位量の値が大きかった。
これは、試験時に支点や荷重点(押し型)が試験体にめり込んでしまうこと、また、荷重が増大 するにつれ、試験機の支点が荷重に耐えられずに水平方向に開いてスパンが広がってしまうことな どの、実験上の要因によるものである。
図 12 荷重変位曲線(番号は試験体番号)
45°60° 90°
0 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500
0 10 20 30 40 50
Load (N)
Deflection (mm)
ハルニレ10 シラカンバ6 イタヤカエデ11 センノキ15 ミズナラ11 シンジュ10 トネリコ11 ハンノキ10 ウダイカンバ7 ブナ5 ニセアカシア5 イチイ10 90度 60度 45度
セイヨウトネリコ11
22 4.5. 曲げ木試験
4.5.1. 曲げ木試験結果表と試験体の様子
曲げ木試験の結果を以下の表に示す(表 7)。
表 7 曲げ木試験結果
気乾密度:3体の平均値
Es(曲げヤング率):3点曲げ試験前に非破壊で測定した、蒸煮した試験体の曲げヤング率(3体の 平均値)
Pmax(最大荷重):試験体を90度曲げ終わるまでの間の最大荷重(3体の平均値)
破損数、しわ数:3体のうち、破損、もしくはしわが生じた試験体数 気乾密度
(g/cm3)
Es (GPa)
Pmax (N)
破損 数
しわ 数 ニセアカシア 820 4.01 84.3 1 3 ウダイカンバ 753 5.77 88.8 3 3 ミズナラ 670 4.23 76.3 0 1 イタヤカエデ 724 3.52 93.0 0 0 ブナ(生材) 675 2.53 77.3 0 0 セイヨウトネリコ 722 4.79 91.6 0 2 シンジュ 677 5.02 93.0 0 3 ブナ(気乾材) 666 6.47 98.3 0 2 イチイ 621 2.97 72.5 0 1 ハルニレ 683 3.44 96.0 0 3 シラカンバ 671 3.95 68.7 3 1 ハンノキ 586 4.50 68.6 3 2 センノキ 587 2.42 61.3 3 2
23
曲げ木試験では、多くの樹種、試験体において、破損なく90度に到達するまで曲げ木が可能だっ た(写真 13)。
3点曲げ試験で破損することなく90度に到達するまで載荷が可能だったブナ(生材)、イチイに ついては、曲げヤング率が低い傾向があったが、曲げ木試験においては、曲げヤング率が高い樹種 でも破損なく曲げ加工できた。
破損が生じたもののうち、ニセアカシアを除くウダイカンバ、シラカンバ、ハンノキ、センノキ については、圧縮側の圧潰や座屈が生じた(写真 14)。これらの多くの場合、試験体の材質の欠点と なる箇所(目切れの部分など)で破損が生じており、欠点は認められないが破損したものはハンノ キのみであった。ニセアカシアについては、引張側で非常に小さな破損が生じていた。
写真 13 破損なく90度まで曲げ加工が可能だった試験体(セイヨウトネリコ)
写真 14 圧縮側での破損が生じた試験体(ウダイカンバ)
24 4.6. 破損、しわ
本試験における、破損、しわの内訳を以下に示す(表 8)。
表 8 破損形態、しわ
表中の破損形態別の数字は、その破損が生じた試験体の個数を示している。圧縮側の破損と引張 側の破損が同時に起こることは無いが、例えば、1 つの試験体に割裂としわが生じる、といったこ とは起こり得るため、破損数の合計と試験体数の合計は一致しない。
高含水率条件の3点曲げ試験では、圧縮側での破損数が見られなかった。
破損については、引張側でのものが多かった。割裂は、目切れの位置で多く見られた。
また、曲げ木試験では、破損数は3点曲げ試験よりも少ないが、しわの発生する試験体数は増加 した。
1.圧潰 2.座屈 4.割裂 5.破損
3点曲げ試験(含水率20%条件) 0 4 1 18 13 16 39 3点曲げ試験(高含水率条件) 0 0 0 20 7 14 33
曲げ木試験 7 5 0 1 0 23 39
計 7 9 1 39 20 53 111
圧縮側 3.剪断破損 引張側 破損
しわ 試験体数
25
5. 考察
5.1. 簡易的な曲げ木の適用性評価としての3点曲げ試験の利用
3 点曲げ試験では、ほとんどの試験体で破損が生じた。しかし、同一の試験体寸法・型の曲率半 径・含水率条件の曲げ木試験において多くの樹種で破損なく曲げ加工が可能であった。
3 点曲げ試験および曲げ木試験における荷重条件と最大荷重(Pmax)から求めた最大曲げモーメン
ト(Mmax)を以下に示す(表 9)。同表より、両試験において試験体に作用する曲げモーメントは等価
であることがわかる。このことから、曲げ木試験の荷重条件では、試験体にせん断力が作用しない のに対し、3 点曲げ試験の荷重条件ではせん断力が作用することが、破損数の多さの要因と考えら
える(図13)。
表 9 最大荷重(Pmax)と最大曲げモーメント(Mmax)
Pmax (N)
Mmax (N・m)
Pmax (N)
Mmax (N・m) ニセアカシア 2720 109 84.3 84.3 ウダイカンバ 2520 101 88.8 88.8 ミズナラ 1780 71.2 76.3 76.3 イタヤカエデ 2430 97.0 93.0 93.0 ブナ(生材) 2160 86.5 77.3 77.3 セイヨウトネリコ 2820 113 91.6 91.6 シンジュ 2400 95.8 93.0 93.0 ブナ(気乾材) 2020 80.7 98.3 98.3 イチイ 2270 90.8 72.5 72.5 ハルニレ 1780 71.4 96.0 96.0 シラカンバ 1890 75.4 68.7 68.7 ハンノキ 1150 46.0 68.6 68.6 センノキ 1960 78.4 61.3 61.3
3点曲げ試験(含水率20%) 曲げ木試験
26
図 13 各試験におけるせん断力図と曲げモーメント図
本研究では、材質の良くなかったウダイカンバ、シラカンバ、センノキを除き、3 点曲げ試験で 45度以上破損せずに載荷することができたものについては、曲げ木試験でも90度まで破損なく曲 げ加工が可能であった。ニセアカシアについては、曲げ木試験で引張側の割裂が生じたものが1体 あったが、その程度は非常に軽微であったため、曲げ木に適さないとは言えない。
したがって、今回の試験体寸法・曲げの曲率半径・含水率といった条件下では、3 点曲げ試験に おいて 45 度まで破損なく載荷することができれば、その樹種は曲げ木への適用性を有すると考え られる。
A B
P
L/2 L/2
C
VA VB
+
+
Q 図(せん断力図)
3点曲げ試験
A B
L
MA
+
MB
M 図(曲げモーメント図)
曲げ木試験
MA=MB
27 5.2. 曲げ木への適用可能性の評価
2章で述べた評価方法・視点(図 14)から、未利用道産樹種の曲げ木への適用可能性について評 価する。①曲げるために必要な力,②水の浸透性,③破損(引張側),④破損(圧縮側)としわ,⑤ 密度の5つの視点を用いる。
図 14 本研究における曲げ木への適用可能性の評価法
5つの視点を用いて樹種ごとにレーダーチャートを作成し、その比較をすることで総合的な評価 を行う。
以下、評価の視点について説明する。
①曲げるために必要な力
曲げヤング率を用いて評価する。これは、蒸煮時の曲げヤング率が低ければ、曲げ木の際に必要 な力も小さくて済むためである。しかし、曲げヤング率が低いことは、材の強度も低いということ を意味する。よって、本研究では、気乾時の曲げヤング率に対する蒸煮時の曲げヤング率の比を用 いることで、実際に部材として用いられる気乾時にはある程度の強度を有するが、蒸煮した際には、
曲げる力が小さくて済むように曲げヤング率が低くなることを、曲げ木への適用性があるとみなし、
以下の計算方法によって求めた値から評価することとした。
樹種ごとに、含水率20%条件(3点曲げ試験、曲げ木試験各3体分)における蒸煮時の曲げヤン グ率/気乾時の曲げヤング率の平均値を算出し、その中での最小値に対する比を計算する。そのよう にして算出した値の逆数をとり、100 をかけたもの(①式)が、レーダーチャートにおける①の項 目の値である。
なお、この評価視点においては、蒸煮時の曲げヤング率/気乾時の曲げヤング率の値が小さい(図 15中の回帰直線よりも下方に位置する)ほど、曲げ木への適用可能性があるといえるが、レーダー チャートでの評価を行うために、前述のように逆数をとることで、100に近いほど適用可能性があ ることを意味するように値を算出した。
ヤング率の測定
①曲げるために必要な力
含水率の上昇に要する時間
②水の浸透性
⑤密度
試験時、試験後の形態観察
③破損(引張側)
曲げ木に適しているとは
曲げ加工のコスト
・少ない力で曲げられる
・水が速く浸透する
曲げ加工時の形態
・壊れない
・外観に変化がない
曲げ加工後の利用
・部材としての強度がある
試験時、試験後の形態観察
④破損(圧縮側)
試験時、試験後の形態観察
④しわ
評価法
28 蒸煮時の曲げヤング率
気乾時の曲げヤング率の平均値の全樹種の最小値
当該樹種の蒸煮時の曲げヤング率
気乾時の曲げヤング率の平均値
× 100 ・・・①式
図 15 3点曲げ試験(含水率20%)と曲げ木試験における蒸煮前後のEs(曲げヤング率)
②水の浸透性
水の浸透性については、4章の図 11にあるように、縦軸に含水率を、横軸に蒸煮時間の平方根を とったグラフから求められる近似直線の傾きの値を用いた(3点曲げ試験、曲げ木試験各3体分)。 含水率は、速く上昇する方が浸水性は高く、曲げ木の工程において生産性が高いと言える。よって、
全樹種中で傾きが最大だった樹種に対する当該樹種の傾きの比をそれぞれ算出し 100 をかけ(② 式)、評価した。
当該樹種の傾き
全樹種中の傾きの最大値× 100 ・・・②式
y = 0.3227x + 0.4827 R² = 0.4618
0 1 2 3 4 5 6 7 8
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
蒸煮時Es(GPa)
気乾時Es(GPa) ニセアカシア
ハンノキ シンジュ ウダイカンバ ブナ気乾材 ミズナラ イタヤカエデ セイヨウトネリコ イチイ
シラカンバ ハルニレ センノキ ブナ生材 系列 線形(系列)
29
③破損(引張側)
引張側の破損の評価は、曲げ木試験において破損が生じた試験体数を用いた。全樹種中の破損な く曲げ加工が可能だった試験体数の最大値(3体)に対する、当該樹種の破損なく曲げ加工が可能で あった試験体数の比を算出し、それに100をかけた値(③式)によって評価した。
引張側で破損したものはニセアカシア1体のみであったため、この値については、その他の樹種 では全て100を示している。
試験体数(3体)−当該樹種において破損が生じた試験体数
全樹種中の、破損なく曲げ加工が可能だった試験体数の最大値(3体)× 100 ・・・③式
④破損(圧縮側)、しわ
圧縮側における破損は、程度の大きなしわのようなものであり、別々に評価することが困難であっ たため、圧縮側の破損としわについては総合して評価することとした。以後、この④の説明におい ては、圧縮側の破損、しわの2つを、しわと呼ぶこととする。
しわは、多数の試験体で生じている。よって、引張側の破損のように、評価にしわの生じた試験 体数を用いると、曲げ木に適しているとされるブナでさえも、レーダーチャートでの数値が0となっ てしまうため、それは適当でないと判断した。
したがって、しわの程度を加味することで評価することとした。商品として販売されるにあたっ ては、曲げ前後で外観に変化がない方が好ましいといえる。よって、しわがほとんど見られないも のを〇、しわは生じているがサンディングで削れる程度のものを△、サンディングで削れないよう な大きなしわが生じているものを×とし、そのそれぞれに100,50,0の値を与えた。
曲げ木試験に用いた各樹種3体の試験体それぞれを、前述の100,50,0の値で評価し、その平均値 を樹種ごとに算出した。そのようにして算出した値の、全樹種における最大値に対する比を計算し、
それに100を乗じた値を用いた(④式)。
当該樹種の、しわの程度を100,50,0で評価した平均値
全樹種中の、しわの程度を100,50,0で評価した平均値の最大値× 100 ・・・④式
30
⑤密度
気乾時の密度を用いて評価した。曲げ木が家具の部材として利用されるのに際し、十分な強度を 有する必要性がある。以下の図(図 16)に示すように、密度が高ければヤング率も高く、ヤング率 が高いことは強度が高いことを意味する。よって、密度が高ければ強度も高く、曲げ木への適用性 を有していると言える。
20%含水率条件の試験に用いた各樹種6体分の平均値を算出し、算出した全樹種の中での最大値
に対する比をそれぞれ計算し、100をかけたものを用いた(⑤式)。
図 16 気乾密度とEs(曲げヤング率)の関係
当該樹種の気乾密度の平均値
全樹種中の、気乾密度の平均値の最大値× 100 ・・・⑤式
以上の評価の観点から作成したレーダーチャートを、次頁に示す(図 17)。各項目の値が100に 近いほど、すなわち、図形の面積が大きいほど、曲げ木へ適用性があると見なせる。
y = 0.022x - 3.7644
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900
気乾時Es(GPa)
気乾密度(g/cm3)
ニセアカシア ハンノキ シンジュ ウダイカンバ ブナ(気乾材)
ミズナラ イタヤカエデ セイヨウトネリコ イチイ
シラカンバ ハルニレ センノキ ブナ(生材)
系列14 線形(系列14)
31
図 17 曲げ木の適用可能性の総合評価
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ イチイ
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ ミズナラ
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ トネリコ
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ ニセアカシア
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ ハンノキ
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ シンジュ
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤
ウダイカンバ
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤
イタヤカエデ
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ シラカンバ
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ センノキ
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ ブナ(生材)
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ ブナ(気乾材)
0 20 40 60 80 100
①
②
③
④
⑤ ハルニレ
32
上図のレーダーチャートのうち、曲げ木として用いられているのは、ブナ、ミズナラの2樹種で ある。イタヤカエデ、トネリコ、ハルニレについては、その2樹種と比較しても遜色ない曲げ木へ の適用性を有すると考えられる。
ニセアカシアは、②浸水性、③破損(引張側)においてグラフの凹みが目立つが、そのうち、H 損(引張側)については、非常に軽微な破損が1体に生じたのみであるため、曲げ木への適用可能 性は期待できると考えられる。
④破損(圧縮側)、しわ の凹みのあるウダイカンバ、ハンノキ、シラカンバ、センノキについて は、ハンノキを除いて、材質的な欠点が見られた。したがって、本研究において、ウダイカンバ、
シラカンバ、センノキに関しては、その曲げ木への適用性を十分に考察することは困難である。
ハンノキは、試験体に大きな欠点などが見られないが圧縮側での座屈などが多く生じたことから、
曲げ木への適用性が低いと考察される。
シンジュに関しては、しわの発生は目立ったが、その程度は比較的低かったため、サンディング などを用いれば、曲げ木に用いることは十分に可能であると考えられる。
イチイは、浸水性の低さは見られるものの、3点曲げ試験においても破損数が0であり、その破 損のしにくさ、軟らかさは特筆すべきものであった。
また、ブナの生材と気乾材(人工乾燥)で比較すると、レーダーチャートにおける面積は、生材 の方が大きくなっていることがわかる。生材は、3点曲げ試験においても破損数が0であるなど、
生材は曲げ木に適する、人工乾燥材は曲げ木に適さない、という通説が正しいことが示唆された。
曲げ木に関しては、適用性のある樹種を選定することも重要であるが、本研究の結果から、より 良質な材を用いることも重要であることが明らかとなった。
5.3. 道産材の曲げ加工適性の順位の評価
既往の研究8)における加工適性の順位(ヤチダモ>ハリギリ≒ブ ナ≒ミズナラ>イタヤカエデ>
マカンバ)について考察する。本研究では、2.2. 試験材の選定 で述べたように、ヤチダモをセイヨ ウトネリコで代用している。
センノキ(ハリギリ)とウダイカンバ(マカンバ)については、材質の問題により、今回の試験 結果からは十分な考察を行うことは困難である。
既往の研究では、ヤチダモの曲げ加工適性が、一般的に曲げ木に利用されているブナ、ミズナラ のそれよりも高いとしている。本研究の曲げ木試験結果や、5.2.のレーダーチャートを踏まえると、
高いと断定することはできないが、セイヨウトネリコは、ブナ、ミズナラと同等程度の曲げ加工適 性を有していると考えられる。
イタヤカエデは、それらの3樹種と比較し、曲げ加工適性が低いとされている。しかし、曲げ木 試験において、それらの3樹種ではしわが生じた試験体が見られたが、イタヤカエデには見られな かったことを考えると、低いとは言えない。
前述のように、試験体の材質の問題から、十分な比較をすることは困難であったが、以上のこと から、既往の研究における曲げ加工適性の順位と、本研究による曲げ加工適性は、必ずしも一致し なかった。
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6. まとめ
本研究では、伐採木や、曲げ木の材料としてまだ用いられていない樹種などの、未利用道産材の 曲げ木への適用性を評価することを目的とし、3点曲げ試験や曲げ木試験を行った。
試験を行った12樹種のうち、イタヤカエデ、トネリコ、ハルニレは、曲げ加工時の形態、水の浸 透性なども加味すると、ブナ、ミズナラと比較しても遜色ない曲げ木への適用性があると考えられ た。ニセアカシアについては、しわの発生、浸水性の低さといった難点はあるが、ごく軽微な破損 で曲げ木が可能であった。
以上のように、未利用道産材について、十分な曲げ木への適用可能性を見いだせたことは、未利 用道産材の有効利用、もしくは曲げ木の発展に、若干なりとも寄与できたものと考えられる。また、
3 点曲げ試験については、本研究の条件において、簡易的な曲げ木への適用性評価の手法として確 立することができたと考える。
なお、良材を準備することができなかった樹種について、十分な考察が不可能であったことから、
欠点のない材料の選定は今後の課題である。本研究では実施することができなかった縦圧縮試験や、
柾目や板目などの木取りといった他のパラメータについての評価などについても、今後検討してい く必要がある。
34 謝辞
本研究の実施に際しては、多くの方にご指導、ご協力をいただきました。
佐々木貴信教授には、研究、卒業論文の作成にあたり、多大なるご指導、ご指摘をいただきまし た。小泉章夫先生には、実験だけではなく、曲げ木を用いたスツールの製作に際しても、多くのご 助言をいただきました。澤田圭講師には、実験装置などに関しましてご助言をいただきました。佐々 木義久様には、実験の実施に際し、多くのご指導をいただきました。
また、札幌市の街路樹の伐採などに関しましては、札幌市建設局みどりの管理課の佐藤禎治様、
白鳥桂子様にお話を伺いました。街路樹の樹木医診断への同行、五天山公園での伐採木の調達に際 し、木材工学研究室卒業生である、札幌市西区土木部維持管理課の澤井美佳様にご協力いただきま した。街路樹診断の際には、樹木医の久野航様に同行させていただきました。
秋田県立大学木材高度加工研究所の足立幸司先生には、本研究にあたり、多大なるご助言をいた だきました。秋田県立大学生物資源科学部熊本隆人様には、データの共有や実験方法などにおいて、
ご協力、ご助言いただきました。
木材工学研究室のメンバーには、ゼミや普段の生活などでご助力いただきました。
卒業研究に関して、ご助言、ご協力いただき、そして、励まし合った友人たち、また、本人以上 に心配してくださった全ての方に、ここに感謝の意を表します。私1人では、何をすべきか分から ず、収拾がつかなくなっていたことと思います。皆様のおかげで、何とか卒業論文を完成させるこ とができました。ありがとうございました。
35 引用・参考文献
1) 札幌市:第4次札幌市みどりの基本計画(2020)
2) 同上,pp.90-91
https://www.city.sapporo.jp/ryokuka/keikaku/r1kihonkeikaku/documents/07rokusyou.pdf
(最終検索日:2021年3月15日)
3) 札幌市:街路樹適性表(2015年版)
https://www.city.sapporo.jp/ryokuka/midori/forest/dororyokuka/documents/gairojutekiseihyo2015 zentai.pdf
(最終検索日:2021年3月15日)
4) 札幌市:第4次札幌市みど