卒業論文
木材工学 本宮 由美子
目次
1 緒言
2 研究目的 3 試験方法 4 試験結果
5 FEM 解析
6 まとめ
7 謝辞
8 参考文献
1 緒言
北海道内でも CLT(直交集成板)が製造できるようになり、今後の需要創出が必要とさ れている。2019年3月には林産試験場にCLTを用いた、CLT性能評価実験棟が建てられ
た(写真 1)。CLT に関する技術開発は主に建築構造を対象としているのが現状であるが、
一般的な建設資材と比較してCLTは軽量であり、輸送面や施工面での優位性から土木分野 での需要も期待される。土木分野におけるCLTの用途としては、秋田県において橋梁の床 版用途を念頭に置いた、ラッピング処理等によるスギCLTの高耐久化の検討がなされてい る1) (写真2)。
写真1 林産試験場CLT性能評価実験棟
写真2 秋田県内に設置されたCLTを床版に用いた橋梁
2 研究目的
本研究では、今後、北海道内で製造が見込まれるトドマツCLTの土木分野での用途拡大 を目的として、各種の被覆処理による CLT の耐水性評価に関する実験的検討を行った。
CLT を屋外環境で利用する上で懸念されるのは、含水率変動に伴う寸法変化や湿潤環境下 における腐朽劣化である。
本研究では、各種の被覆処理を施したトドマツCLTの小試験体(写真3)を用いて乾湿 繰り返し試験を行い、各種の被覆処理と重量や寸法変化の関係、含水率を調査した。また、
各種の被覆処理を施したトドマツCLTの小試験体を用いて浸漬試験を行い、含水率の変化 を調査した。
写真3 FRPによる被覆を行った試験体
3 試験方法
3.1 試験体作成
乾湿繰り返し試験には、トドマツCLTを用いた。CLTは3層3プライとし、幅300mm、
長さ300mm、厚さ60mm で製作し、145×145×60mmの試験体を切り出して試験に供し
た。ラミナの積層接着、幅はぎ接着には水性高分子イソシアネート系樹脂接着剤を用いた。
被覆処理には、ポリウレア、ウレタン塗料、FRPシートを用い、幅はぎ接着の有無について それぞれ2体ずつ、各処理計4体の試験体を製作した(写真4,5,6)。また、コントロー ルとして無処理のCLTを幅はぎ接着の有無で各1体用いた。被覆材料の塗膜のみの試験体 も各処理1体ずつ用いた(写真7)。
写真4 ポリウレアで被覆した試験体 写真5 ウレタン塗料で被覆した試験体
写真6 FRPで被覆した試験体 写真7 塗膜の試験体
3.2 試験方法
被覆を施した試験体、無処理試験体を、恒温恒湿器内において 40℃95%および 50℃40%
の設定条件で2週間毎に繰り返し、試験体の寸法及び重量を定期的に測定した(写真8、写
真9)。またその後、湿潤状態の恒温恒湿器に2週間入れ、試験体を1cmの厚さで切り出し
含水率を測定した(写真10,11)。浸漬試験には同様にして製作したトドマツCLTを用い、
これらの試験体を水槽内に浸漬し、定期的に重量を測定した(写真12)。
写真8 乾湿繰り返し試験1 写真9 乾湿繰り返し試験2
写真10 試験体の切断 写真11試験体乾燥
写真12 浸漬試験
4 試験結果
4.1 乾湿繰り返し試験
図 1 に乾湿繰り返し試験における無処理および各処理の試験体の重量変化率の変動を示 す。なお、重量変化率は(1)式より求めた。ここで、W:試験体重量、W0:試験開始前重量。
また、無処理の試験体に関しては試験開始時の初期含水率11.4%より推定含水率も求めた。
𝑊−𝑊0
𝑊0 × 100 (%) (1)
湿度の変化に対応するように推定含水率は変動し、湿潤時は約 24%、乾燥時は約 9%で あった(図1)。本研究の温湿度設定における平衡含水率は22%、8%であるため、ほぼ平衡 含水率に近い値になっていることが分かる。ポリウレア及びウレタン塗料で被覆した試験 体は何れも湿潤過程でわずかに重量が増加し、約2%程度の重量変化を示した。乾燥過程で は重量が減少したが、初期重量よりも減少することはなかった。FRP シートでラッピング した試験体は重量変化が認められなかった。ポリウレアやウレタン塗料は水と馴染みやす い性質があり、本研究では塗膜の厚み(約2mm)で防水効果を高めているが、塗膜中で水 蒸気が出入りし重量が変動していることが示唆された。
図 2 に乾湿繰り返し試験における無処理(幅はぎなし)及びポリウレア処理の厚さ及び 外層と内層の幅、長さの寸法変化率の変動を示す。なお、寸法変化率は{(𝑙 − 𝑙0) 𝑙⁄ } × 1000 (%)
より求めた。ここで、l:試験体寸法、l0:試験開始前寸法。図中の凡例の外層幅及び内層長 さはラミナの繊維直交方向を、外層長さ及び内層幅は繊維方向をそれぞれ示している。無処 理の試験体では、厚さの寸法変化が3%と最も大きく、次いで外層幅、内層長さ(何れも繊 維直交方向)で1%程度の寸法変化が確認された。被覆処理を施した試験体でも同様の寸法 変化の傾向が認められたが、無処理に比べてその量は小さかった。
表 1 に無処理のそれぞれの繊維方向についての推定寸法変化率を示す。なお、推定寸法 変化率はトドマツの含水率 1%の変化に対する平均収縮率 2) を用いて、無処理の推定含水 率から求めた。測定した無処理の寸法変化率は厚さが約 3%で推定寸法変化率の R,T 平均 値とほぼ同じ値となっているが、外層幅の寸法変化率は約1.5%で推定寸法変化率のR,T平 均値よりも小さい値となっており、ラミナの層間の積層接着で寸法変化が抑えられるとい うCLTの特徴が現れている。
図 3 にポリウレアの寸法変化率を示す。何れも寸法変化率は外層幅が最も大きく、次い で内層長さ、外層長さ、内層幅となっている。幅はぎ接着なしの試験体の外層幅では約1%
の寸法変化が確認されたのに対し、幅はぎ接着ありの試験体の外層幅では約0.4%の寸法変 化で、幅はぎ接着によって寸法変化が抑えられた。
図 4 にポリウレアとポリウレア塗膜の寸法変化量を示す。寸法変化量は試験開始時から の寸法の変化した長さである。ポリウレアの寸法変化量は外層幅が1mmと最も大きく、次
いで厚さ、内層長さ、外層長さ、内層幅となっている。ポリウレア塗膜の寸法変化量は0.1mm よりも小さくなっている。この塗膜はポリウレアに施した処理の厚さとほぼ同じ厚さで、
CLTの上下面を考慮し、塗膜のデータを2倍しても、ポリウレアの寸法変化はそれを大き く上回る値となり、塗膜を透過して内部のCLTまで水分が伝わっていることが示唆された。
図 5 にウレタン塗料とウレタン塗料塗膜の寸法変化量を示す。ポリウレアと同様に、ウレ タン塗料で被覆したCLTの試験体の寸法変化量はウレタン塗料塗膜の寸法変化量を倍した 値を大きく上回るため、内部の木材まで水分が伝わっていることが示唆された。
表 2に各試験体を湿潤状態に2週間置いた後の含水率を示す。直交方向、繊維方向は外 層が直交方向の面もしくは繊維方向の面で切断されたことを意味している。含水率はいず れも直交面より繊維方向の方が大きくなっている。FRP で最も含水率が小さく、ポリウレ アとウレタン塗料の含水率に違いはほとんど認められなかった。
図1 乾湿繰り返し試験における重量変化率及び無処理の推定含水率 0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0
-3.0 0.0 3.0 6.0 9.0 12.0
0 7 14 21 28 35 42 49 56
推定含水率(%)
重量変化率(%)
経過日数(日)
ポリウレア ウレタン FRP 無処理 推定含水率
図2 乾湿繰り返し試験における寸法変化率(上:ポリウレア、下:無処理)
表1 無処理の推定寸法変化率
0 1 2 3 4
0 7 14 21 28 35 42 49 56
寸法変化率(%)
経過日数(日)
厚さ 外層幅 外層長さ 内層幅 内層長さ
0 1 2 3 4
0 7 14 21 28 35 42 49 56
寸法変化率(%)
経過日数(日)
厚さ 外層幅 外層長さ 内層幅 内層長さ
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 7 14 21 28 35 42 49 56
寸法変化率(%)
経過日数(日)
外層幅 外層長さ 内層幅 内層長さ
推定寸法変化率(%)
長さL 半径R 接線T R,T平均
Start 0 0 0 0
Max 0.424 1.69 4.24 2.96
Min. -0.0875 -0.35 -0.875 -0.612
図3 乾湿繰り返し試験におけるポリウレアの寸法変化率
(上:幅はぎあり、下:幅はぎなし)
図4 ポリウレアの寸法変化量(上:被覆したCLT、下:塗膜)
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 7 14 21 28 35 42 49 56
寸法変化率(%)
経過日数(日)
外層幅 外層長さ 内層幅 内層長さ
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 7 14 21 28 35 42 49 56
寸法変化量(mm)
経過日数
外層幅 外層長さ 内層幅 内層長さ 厚さ
0 0.2 0.4 0.6 0.8 1
0 7 14 21 28 35 42 49 56
寸法変化量(mm)
経過日数
ポリウレア ポリウレア×2
図5 ウレタン塗料の寸法変化量(上:被覆したCLT、下:塗膜)
表2 湿潤状態での含水率(%)
直交方向 繊維方向 ポリウレア 11.6 12.3 ウレタン塗料 11.5 11.7
FRP 8.13 8.31
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 7 14 21 28 35 42 49 56
寸法変化量(mm)
経過日数
外層幅 外層長さ 内層幅 内層長さ 厚さ
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5
0 7 14 21 28 35 42 49
寸法変化量(mm)
経過日数 ウレタン ウレタン×2
4.2 浸漬試験
図6に浸漬試験における被覆処理を施した試験体の推定含水率の変動を示す。50日間浸 漬した状態で無処理試験体の推定含水率は約90%であることが分かる。また被覆処理を施 した試験体の含水率は4%以下であり、被覆処理により含水率の変動は抑えられているこ とが分かる。ポリウレア・ウレタン塗料の試験体では日数が経過するにつれて含水率が増 加している。しかし、FRPで被覆した試験体については含水率はほとんど変化しなかっ た。
表 3 に各試験体を水槽中に浸漬させた後の含水率を示す。無処理の試験体では、含水率
は100%を超えていることが分かる。被覆処理を行った試験体の含水率は 10%前後である
ことから、被覆処理を行うことにより、処理材料によって効果に大小あるが、防水効果が見 られた。
図6 浸漬試験における被覆処理を施した試験体の推定含水率
(上:無処理を含む、下:無処理を除いた被覆した試験体)
表3 ウレタン塗料処理の含水率(%)
直交方向 繊維方向 無処理 128 116
ポリウレア 11.7 12.5 ウレタン塗料 11.3 12.0
FRP 8.56 8.16
0 20 40 60 80 100
0 10 20 30 40 50
重量変化率(%)
経過日数
ポリウレアA ポリウレアD ウレタンC ウレタンE 無処理A 無処理D
FRP C FRP F
0 0.5 1 1.5 2 2.5 3 3.5
0 10 20 30 40 50
重量変化率(%)
経過日数 ポリウレアA ポリウレアD ウレタンC ウレタンE
FRP C FRP F
5 FEM 解析
CLT は寸法安定性が高いことが知られているが、本試験の結果より含水率の変化による ラミナ幅の膨潤・収縮が生じることが分かる(写真13)。
本研究では、この寸法変化の挙動をシミュレーションすることを目的としてFEM(有限 要素法)解析を試みた。無処理の試験体のラミナ(20×75×150mm)をモデル化し、乾湿 繰り返し試験で得られた推定含水率の最大変動幅(膨潤時12.1%,乾燥時9%)とトドマツ の接線方向の平均収縮率(0.35%)からラミナのひずみ量を求めた。これに接線方向のヤン グ係数(0.4GPa)を乗じた値を引張応力及び圧縮応力と仮定して線形解析を行った結果、
幅方向の最大変形量は膨潤時1.3mm、乾燥時-0.19mmであった(図7)。試験体のCLT1 層のラミナは幅方向に2枚並んでいるので、幅方向の最大変形量は湿潤時:1.3×2=2.6mm、
乾燥時:-0.19×2=-0.38mmとなる。これに対して、無処理試験体(幅はぎなし)の乾湿 繰り返し試験での外層幅の寸法変化量は、湿潤時2.07mm、乾燥時0.07mmであり(図8)、
FEM 解析から求められた最大変形量は、湿潤時で実験値よりも 25%大きくなった。また、
乾燥時の収縮量が実験値ではマイナスになっていないのは、幅はぎしていないラミナ間側 の収縮が大きくなって、測定値に現れなかったことが考えられる。今後は、3層3プライの 解析モデル化を作成し、より詳細な挙動の解明を行う必要がある。
写真13 湿潤時の無処理試験体
図7 FEM解析によるラミナの変位量(上:湿潤時、下:乾燥時)
図8 無処理試験体の寸法変化量 -0.5
0 0.5 1 1.5 2 2.5
0 7 14 21 28 35 42 49 56
寸法変化量(mm)
経過日数
外層幅 外層長さ 内層幅 内層長さ 厚さ
6 まとめ
処理材料によって性能に違いはあるが、被覆処理による耐湿・耐水効果を確認することが 出来た。
本研究では乾湿繰り返し試験・浸漬試験両方でFRPが最も質量変化が小さかった。しか しFRPは伸び縮みできない材料のため、施工ミス等で内部に水分が入ってしまうと、木材 の膨張により割れが入ってしまうリスクがある(写真13)。
また FRP、ポリウレアはウレタン塗料と比較して高価であり、コストを抑えられる材料
を見つける必要がある。
写真14 CLTをFRPで被覆した農道の木橋 写真15 北大の医学部百年記念館内のCLT階段
7 謝辞
本研究を行うにあたり沢山の方のご協力を頂きました。実験や解析について多大なるご 指導頂いた佐々木貴信教授、研究について様々ご指導頂いた澤田圭講師、実験でお世話にな った佐々木義久技術職員、試験測定・アドバイスなど下さった木材工学研究室の方々に、心 より御礼申し上げます。
8 参考文献
1)佐々木貴信,山内秀文,足立幸司,林 知行:ラッピング等で処理した CLT の耐水性
評価,木材保存協会,第35回年次大会研究発表論文集,p.136-137,2018.
2)農林省林業試験場,丸善株式会社:木材工業ハンドブック,p.232,1973