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曲げ木への適用可能性の評価

ドキュメント内 PDF 令和 2 年度卒業論文 - 北海道大学 (ページ 31-37)

5. 考察

5.2. 曲げ木への適用可能性の評価

2章で述べた評価方法・視点(図 14)から、未利用道産樹種の曲げ木への適用可能性について評 価する。①曲げるために必要な力,②水の浸透性,③破損(引張側),④破損(圧縮側)としわ,⑤ 密度の5つの視点を用いる。

図 14 本研究における曲げ木への適用可能性の評価法

5つの視点を用いて樹種ごとにレーダーチャートを作成し、その比較をすることで総合的な評価 を行う。

以下、評価の視点について説明する。

①曲げるために必要な力

曲げヤング率を用いて評価する。これは、蒸煮時の曲げヤング率が低ければ、曲げ木の際に必要 な力も小さくて済むためである。しかし、曲げヤング率が低いことは、材の強度も低いということ を意味する。よって、本研究では、気乾時の曲げヤング率に対する蒸煮時の曲げヤング率の比を用 いることで、実際に部材として用いられる気乾時にはある程度の強度を有するが、蒸煮した際には、

曲げる力が小さくて済むように曲げヤング率が低くなることを、曲げ木への適用性があるとみなし、

以下の計算方法によって求めた値から評価することとした。

樹種ごとに、含水率20%条件(3点曲げ試験、曲げ木試験各3体分)における蒸煮時の曲げヤン グ率/気乾時の曲げヤング率の平均値を算出し、その中での最小値に対する比を計算する。そのよう にして算出した値の逆数をとり、100 をかけたもの(①式)が、レーダーチャートにおける①の項 目の値である。

なお、この評価視点においては、蒸煮時の曲げヤング率/気乾時の曲げヤング率の値が小さい(図 15中の回帰直線よりも下方に位置する)ほど、曲げ木への適用可能性があるといえるが、レーダー チャートでの評価を行うために、前述のように逆数をとることで、100に近いほど適用可能性があ ることを意味するように値を算出した。

ヤング率の測定

①曲げるために必要な力

含水率の上昇に要する時間

②水の浸透性

⑤密度

試験時、試験後の形態観察

③破損(引張側)

曲げ木に適しているとは

曲げ加工のコスト

・少ない力で曲げられる

・水が速く浸透する

曲げ加工時の形態

・壊れない

・外観に変化がない

曲げ加工後の利用

・部材としての強度がある

試験時、試験後の形態観察

④破損(圧縮側)

試験時、試験後の形態観察

④しわ

評価法

28 蒸煮時の曲げヤング率

気乾時の曲げヤング率の平均値の全樹種の最小値

当該樹種の蒸煮時の曲げヤング率

気乾時の曲げヤング率の平均値

× 100 ・・・①式

図 15 3点曲げ試験(含水率20%)と曲げ木試験における蒸煮前後のEs(曲げヤング率)

②水の浸透性

水の浸透性については、4章の図 11にあるように、縦軸に含水率を、横軸に蒸煮時間の平方根を とったグラフから求められる近似直線の傾きの値を用いた(3点曲げ試験、曲げ木試験各3体分)。 含水率は、速く上昇する方が浸水性は高く、曲げ木の工程において生産性が高いと言える。よって、

全樹種中で傾きが最大だった樹種に対する当該樹種の傾きの比をそれぞれ算出し 100 をかけ(② 式)、評価した。

当該樹種の傾き

全樹種中の傾きの最大値× 100 ・・・②式

y = 0.3227x + 0.4827 R² = 0.4618

0 1 2 3 4 5 6 7 8

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

蒸煮時Es(GPa)

気乾時Es(GPa) ニセアカシア

ハンノキ シンジュ ウダイカンバ ブナ気乾材 ミズナラ イタヤカエデ セイヨウトネリコ イチイ

シラカンバ ハルニレ センノキ ブナ生材 系列 線形(系列)

29

③破損(引張側)

引張側の破損の評価は、曲げ木試験において破損が生じた試験体数を用いた。全樹種中の破損な く曲げ加工が可能だった試験体数の最大値(3体)に対する、当該樹種の破損なく曲げ加工が可能で あった試験体数の比を算出し、それに100をかけた値(③式)によって評価した。

引張側で破損したものはニセアカシア1体のみであったため、この値については、その他の樹種 では全て100を示している。

試験体数(3体)−当該樹種において破損が生じた試験体数

全樹種中の、破損なく曲げ加工が可能だった試験体数の最大値(3体)× 100 ・・・③式

④破損(圧縮側)、しわ

圧縮側における破損は、程度の大きなしわのようなものであり、別々に評価することが困難であっ たため、圧縮側の破損としわについては総合して評価することとした。以後、この④の説明におい ては、圧縮側の破損、しわの2つを、しわと呼ぶこととする。

しわは、多数の試験体で生じている。よって、引張側の破損のように、評価にしわの生じた試験 体数を用いると、曲げ木に適しているとされるブナでさえも、レーダーチャートでの数値が0となっ てしまうため、それは適当でないと判断した。

したがって、しわの程度を加味することで評価することとした。商品として販売されるにあたっ ては、曲げ前後で外観に変化がない方が好ましいといえる。よって、しわがほとんど見られないも のを〇、しわは生じているがサンディングで削れる程度のものを△、サンディングで削れないよう な大きなしわが生じているものを×とし、そのそれぞれに100,50,0の値を与えた。

曲げ木試験に用いた各樹種3体の試験体それぞれを、前述の100,50,0の値で評価し、その平均値 を樹種ごとに算出した。そのようにして算出した値の、全樹種における最大値に対する比を計算し、

それに100を乗じた値を用いた(④式)。

当該樹種の、しわの程度を100,50,0で評価した平均値

全樹種中の、しわの程度を100,50,0で評価した平均値の最大値× 100 ・・・④式

30

⑤密度

気乾時の密度を用いて評価した。曲げ木が家具の部材として利用されるのに際し、十分な強度を 有する必要性がある。以下の図(図 16)に示すように、密度が高ければヤング率も高く、ヤング率 が高いことは強度が高いことを意味する。よって、密度が高ければ強度も高く、曲げ木への適用性 を有していると言える。

20%含水率条件の試験に用いた各樹種6体分の平均値を算出し、算出した全樹種の中での最大値

に対する比をそれぞれ計算し、100をかけたものを用いた(⑤式)。

図 16 気乾密度とEs(曲げヤング率)の関係

当該樹種の気乾密度の平均値

全樹種中の、気乾密度の平均値の最大値× 100 ・・・⑤式

以上の評価の観点から作成したレーダーチャートを、次頁に示す(図 17)。各項目の値が100に 近いほど、すなわち、図形の面積が大きいほど、曲げ木へ適用性があると見なせる。

y = 0.022x - 3.7644

0 2 4 6 8 10 12 14 16 18

0 100 200 300 400 500 600 700 800 900

気乾時Es(GPa)

気乾密度(g/cm3)

ニセアカシア ハンノキ シンジュ ウダイカンバ ブナ(気乾材)

ミズナラ イタヤカエデ セイヨウトネリコ イチイ

シラカンバ ハルニレ センノキ ブナ(生材)

系列14 線形(系列14)

31

図 17 曲げ木の適用可能性の総合評価

0 20 40 60 80 100

⑤ イチイ

0 20 40 60 80 100

⑤ ミズナラ

0 20 40 60 80 100

⑤ トネリコ

0 20 40 60 80 100

⑤ ニセアカシア

0 20 40 60 80 100

⑤ ハンノキ

0 20 40 60 80 100

⑤ シンジュ

0 20 40 60 80 100

ウダイカンバ

0 20 40 60 80 100

イタヤカエデ

0 20 40 60 80 100

⑤ シラカンバ

0 20 40 60 80 100

⑤ センノキ

0 20 40 60 80 100

⑤ ブナ(生材)

0 20 40 60 80 100

⑤ ブナ(気乾材)

0 20 40 60 80 100

⑤ ハルニレ

32

上図のレーダーチャートのうち、曲げ木として用いられているのは、ブナ、ミズナラの2樹種で ある。イタヤカエデ、トネリコ、ハルニレについては、その2樹種と比較しても遜色ない曲げ木へ の適用性を有すると考えられる。

ニセアカシアは、②浸水性、③破損(引張側)においてグラフの凹みが目立つが、そのうち、H 損(引張側)については、非常に軽微な破損が1体に生じたのみであるため、曲げ木への適用可能 性は期待できると考えられる。

④破損(圧縮側)、しわ の凹みのあるウダイカンバ、ハンノキ、シラカンバ、センノキについて は、ハンノキを除いて、材質的な欠点が見られた。したがって、本研究において、ウダイカンバ、

シラカンバ、センノキに関しては、その曲げ木への適用性を十分に考察することは困難である。

ハンノキは、試験体に大きな欠点などが見られないが圧縮側での座屈などが多く生じたことから、

曲げ木への適用性が低いと考察される。

シンジュに関しては、しわの発生は目立ったが、その程度は比較的低かったため、サンディング などを用いれば、曲げ木に用いることは十分に可能であると考えられる。

イチイは、浸水性の低さは見られるものの、3点曲げ試験においても破損数が0であり、その破 損のしにくさ、軟らかさは特筆すべきものであった。

また、ブナの生材と気乾材(人工乾燥)で比較すると、レーダーチャートにおける面積は、生材 の方が大きくなっていることがわかる。生材は、3点曲げ試験においても破損数が0であるなど、

生材は曲げ木に適する、人工乾燥材は曲げ木に適さない、という通説が正しいことが示唆された。

曲げ木に関しては、適用性のある樹種を選定することも重要であるが、本研究の結果から、より 良質な材を用いることも重要であることが明らかとなった。

5.3. 道産材の曲げ加工適性の順位の評価

既往の研究8)における加工適性の順位(ヤチダモ>ハリギリ≒ブ ナ≒ミズナラ>イタヤカエデ>

マカンバ)について考察する。本研究では、2.2. 試験材の選定 で述べたように、ヤチダモをセイヨ ウトネリコで代用している。

センノキ(ハリギリ)とウダイカンバ(マカンバ)については、材質の問題により、今回の試験 結果からは十分な考察を行うことは困難である。

既往の研究では、ヤチダモの曲げ加工適性が、一般的に曲げ木に利用されているブナ、ミズナラ のそれよりも高いとしている。本研究の曲げ木試験結果や、5.2.のレーダーチャートを踏まえると、

高いと断定することはできないが、セイヨウトネリコは、ブナ、ミズナラと同等程度の曲げ加工適 性を有していると考えられる。

イタヤカエデは、それらの3樹種と比較し、曲げ加工適性が低いとされている。しかし、曲げ木 試験において、それらの3樹種ではしわが生じた試験体が見られたが、イタヤカエデには見られな かったことを考えると、低いとは言えない。

前述のように、試験体の材質の問題から、十分な比較をすることは困難であったが、以上のこと から、既往の研究における曲げ加工適性の順位と、本研究による曲げ加工適性は、必ずしも一致し なかった。

ドキュメント内 PDF 令和 2 年度卒業論文 - 北海道大学 (ページ 31-37)

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