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HYBID(KIAA1199)が司る新規なヒアルロン酸分解機構

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(1)

ヒアルロン酸は,哺乳動物の細胞外マトリックスに広く存在 するグリコサミノグリカンの一つであり,その最大の特徴は 速い代謝回転にある.これまで組織におけるヒアルロン酸分 解機構として,HYAL/CD44依存的なヒアルロン酸分解モデ ル が 定 説 と な っ て い た が,こ の モ デ ル で は 生 体 内 の ダ イ ナ ミックなヒアルロン酸のターンオーバーを説明するには十分 ではなかった.そこで,皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸分解 を担う分子の包括的な探索により,新たに見いだされたヒト HYBIDKIAA1199) 依 存 的 な ヒ ア ル ロ ン 酸 分 解 機 構 に 関 し,その特性や調節機構も含め,生理的なヒアルロン酸代謝 や病態における過剰なヒアルロン酸分解へのかかわりなど最 近明らかになった知見をまとめて解説する.

はじめに

「ヒアルロン酸(hyaluronic acid=hyaluronan)」とい う名は,ウシの眼の硝子体から初めて単離された(1)こと に ち な み,「硝 子 体(hyaloid) に 由 来 す る ウ ロ ン 酸

(uronic acid)」という意味で命名された.それから80 年以上経った現在,その優れた保水性・粘弾性・膨潤性

や,生体適合性(安全性)の高さが注目され,化粧品だ けでなく,変形性膝関節症や肩関節周囲炎の治療を目的 とした関節内注射薬にも応用され,またシワの改善やリ フトアップを目的としたヒアルロン酸注入が美容医療分 野でも広く実施されていることから,近年その知名度は 老若男女を問わず高まっている.一方,元来ヒアルロン 酸は私たちの体の中で作られ,全身の細胞外マトリック スにおいて重要な機能を果たしていることから,各臓器 での代謝やその生理的機能,またさまざまな疾患とのか かわりなどについて脈々と研究が続けられてきた.しか しながら,今なおヒアルロン酸の本質は神秘のベールに 包まれており,たとえば生体内のヒアルロン酸代謝一つ にしても,基本的なヒアルロン酸の分解を担う分子実体 すら十分に明らかにされていないのが現状である.本総 説では,近年筆者らが発見したHYBID(KIAA1199)

が司る新規なヒアルロン酸分解機構の知見をまとめ,こ れまで立ち遅れていたヒアルロン酸分解研究の急展開に ついて紹介する.

日本農芸化学会

● 化学 と 生物 

【解説】

A Novel Hyaluronan-Degrading Machinery Mediated by HYBID  (KIAA1199): New Aspects of Hyaluronan Metabolism

Hiroyuki YOSHIDA, 花王株式会社生物科学研究所

HYBID(KIAA1199)が司る新規なヒアルロン酸分解機構

ヒアルロン酸代謝研究の新展開

吉田浩之

(2)

ヒアルロン酸の構造と機能

ヒアルロン酸はD-グルクロン酸と -アセチル-D-グル コサミンがβ結合で繰り返し連結された陰イオン性直鎖 状グリコサミノグリカンであり,その分子量は数百万に も及ぶ生体で最大の高分子ポリマーである(図1.こ のような構造はグリコサミノグリカンの中で最も単純で あり,分岐もなければ硫酸化などの修飾も受けず,唯一 の 例 外(SHAP: serum-derived hyaluronan-associated  proteins)を除いては共有結合でコアタンパク質と結合 することもない.生体内においてヒアルロン酸は細胞外 マトリックスの主要な構成成分として広く存在し,組織 マトリックス全体の構造化や安定性だけでなく,増殖や 分化といったさまざまな細胞機能にも寄与している.組 織のヒアルロン酸濃度は臍帯で最も高く,次いで関節 液,皮膚および硝子体に高濃度に存在する(2).一方,絶

対量としては皮膚に存在するヒアルロン酸が圧倒的に多 く,全身の約50%を占めている(2).またヒアルロン酸は 単純な構造をもつ分子にもかかわらず,生理的特徴は多 様であり,高分子ヒアルロン酸(分子量1,000 kDa以上)

は血管新生を抑制し,抗炎症作用や免疫抑制作用がある のに対し,低分子ヒアルロン酸(分子量数十kDa以下)

は血管新生を促進し,炎症の亢進活性,免疫刺激能,抗 アポトーシス活性をもつ(3)

ダイナミックなヒアルロン酸のターンオーバー ヒアルロン酸の最大の特徴はその速い代謝回転にあ る.体重70 kgの成人では全身の総ヒアルロン酸量は 15 g程度であり,毎日その約3分の1のヒアルロン酸が 置き換わっていると言われている(4).その全体像(図2 としては,まずは末梢の組織で合成された高分子ヒアル ロン酸(分子量1,000 kDa以上)が,組織の細胞によっ て中間サイズのヒアルロン酸(分子量10〜100 kDa)に 部分分解され,その大部分がリンパ管に入り,リンパ節 にてさらなる分解を受ける.実に,組織におけるヒアル ロン酸の代謝半減期は,軟骨中では2〜3週間,関節液 や皮膚では1日程度と驚くほど速い(4).そしてリンパ管 で分解されなかったヒアルロン酸(分子量10 kDa以下)

図1ヒアルロン酸の構造

図2全身のヒアルロン酸代謝の全体像

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シールドとしてのヒアルロン酸

ヒアルロン酸ゲルは外部からの物質の侵入を阻止 するシールドとしての働きも有している.たとえば 卵母細胞は,ヒアルロン酸に富む透明層と卵丘に包ま れているが,精子は受精の際にそれらのシールドを くぐり抜ける必要がある.そのために精子の先端に はヒアルロン酸分解酵素(SPAM1)が装備されてお り,ヒアルロン酸の層を分解していくことで卵母細胞 に到達する.精子ヒアルロン酸分解酵素の活性は受 精効率と関係するが,それはヒアルロン酸が卵母細胞 を保護しているだけでなく,機能的に欠陥のある精 子に対してはバリアーとして働いていることを示し ている.また,ヒアルロン酸分解酵素は「拡散因子

(spreading factor)」としても知られている.ハチや

ヘビ,トカゲ,クモなどの多くの毒液にはヒアルロ ン酸分解酵素が含まれているが,これは組織シール ドであるヒアルロン酸を分解して毒を拡散させるた めの知恵である.一方,ヒアルロン酸による組織の シールドを逆手に利用している病原体も存在する.

何種類かの細菌は組織と同じヒアルロン酸を合成し,

そのヒアルロン酸カプセルで自分自身を完全に囲う ことにより,宿主の免疫系から逃れている.

コ ラ ム

(3)

は血管に運ばれ,最終的には肝臓,腎臓および脾臓にお いてクリアランスされる(4).このように生体内のヒアル ロン酸は日々ダイナミックにターンオーバーしており,

活発な合成機構と分解機構のもとに維持されていること がうかがえる.

皮膚線維芽細胞におけるヒアルロン酸の合成機構と 分解機構

皮膚は最大の臓器であり,体の最外層から表皮,真 皮,皮下組織の3層で構成されている.真皮では細胞外 マトリックスがその大半を占め,これを足場に皮膚線維 芽細胞が散在している.真皮ヒアルロン酸の機能とし て,水分保持や弾力性の維持などの物理的役割のみなら ず,多様な皮膚生理にかかわると考えられている.また 上述のとおり,皮膚のヒアルロン酸の代謝半減期は1日 程度と極めて速く,活発な合成と分解のバランスの上に 成り立っているが,その主役を担っているのが皮膚線維 芽細胞である.

ヒアルロン酸合成を担うタンパク質HAS(hyaluro- nan synthase) の 遺 伝 子( ,  ,  ) は,

1996年に相次いでクローニングされた(5〜8).HAS1〜

HAS3はアミノ酸レベルで互いに64.9〜78.4%の高いホ モロジーをもち,いずれも6個の膜貫通ドメインと1個 の膜結合ドメインからなる.HASは細胞表面において,

UDP-グルクロン酸とUPD- -アセチルグルコサミンの2 つの糖ヌクレオチドを基質として,二糖の繰り返し配列 であるヒアルロン酸を細胞外に直接伸ばしていく.当研 究室では皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸合成を担う として,主に および あることを明ら かにした(9)

一方,皮膚線維芽細胞が培養系でヒアルロン酸分解活 性を有することは1990年にすでに報告されていた(10). 筆者らも,正常ヒト皮膚線維芽細胞Detroit 551株が外 的に添加した分子量1,000 kDa以上の高分子ヒアルロン 酸を旺盛に低分子化することを確認している.その特徴 として,ヒアルロン酸を細胞内でオリゴ糖にまで分解す るのではなく,10〜100 kDaに断片化された中間サイズ のヒアルロン酸を細胞外に放出させることが挙げられ る.しかしながら,この活性は極めて繊細であり,細胞 を破砕すると活性が完全に消失することが研究の進展を 阻み続け,これまで分解を担う分子実体を明らかにする ことは困難であった.

HYAL/CD44依存的ヒアルロン酸分解モデルの確 立とその矛盾点

そのようななか,1997年にヒアルロン酸分解酵素 HYAL1(hyaluronidase 1)遺伝子がクローニングされ たことがきっかけとなり(11),HYALに着目したヒアル ロン酸分解研究が一気に進展した.現在では,ヒトには 6つのヒアルロン酸分解酵素(様)遺伝子( 〜 , 

,  )が存在することが見いだされてい る(12).そのうち, は偽遺伝子であり,

は精巣など限られた臓器にしか発現していないことが報 告された(12).また, および もそれぞれ 精巣や胎盤など,一部の限られた臓器にしか発現してお らず(12),ヒアルロン酸分解活性も十分に確認されてい ない(13).そのため,全身の構成的なヒアルロン酸分解 には,より幅広い臓器で発現する と が 主要な役割を担っているとされ,ヒアルロン酸受容体 CD44とHYAL1およびHYAL2が共同的に働くヒアルロ ン酸分解仮説モデルが提唱された(14)(図3.本モデル では,カベオラリッチなラフトに集積したCD44が,高 分子ヒアルロン酸を細胞内に取り込んだ後,HYAL2が Na-H exchangerにより酸性化した細胞内の微小環境 にて,高分子ヒアルロン酸を中間サイズのヒアルロン酸 に分解し,最終的にHYAL1がリソソームにてオリゴ糖 にまで分解するとされている(14, 15).本モデルは現在で も有力であり,組織におけるヒアルロン酸分解機構は一 見解決したと多くの研究者は信じて疑わなかった.しか しながら,このモデルでは,生体内のダイナミックなヒ アルロン酸のターンオーバーを説明するには必ずしも十 分ではなかった.その理由として,まずヒアルロン酸を 多く含む脳にはHYAL1とHYAL2の発現が認められ

(12, 16),少なくとも脳にはHYAL以外の分子がヒアル

ロン酸の分解に関与している可能性がある.第二に,

HYAL1は細胞内でヒアルロン酸を0.8 kDaまでのオリゴ 糖に分解するため(13, 14),組織のヒアルロン酸分解産物

図3HYAL/CD44依存的ヒアルロン酸分解モデル 文献14を参考にした.

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の分子量(10〜100 kDa)(図2)とは一致しない.ま た,HYAL2によるヒアルロン酸分解産物の分子量は

〜20 kDaであり,組織のヒアルロン酸分解産物の分子 量と一致するが,HYAL2はヒアルロン酸分解活性を保 持しない,あるいは保持したとしても非常に弱いという 報 告 が あ る(17).第 三 に,HYAL1あ る い はHYAL2の ノックアウトマウスは,組織での顕著なヒアルロン酸の 蓄積が認められない(18, 19).最後に,本ヒアルロン酸分 解仮説モデルはがん細胞などで得られた知見に基づいて

おり(13, 15),線維芽細胞など正常細胞のヒアルロン酸分

解にこれらの分子が関与することを示すエビデンスは乏 しい.これらの理由により,CD44およびHYALが関与 しない新規なヒアルロン酸分解機構の存在も考えられ,

筆者らは正常皮膚線維芽細胞を用い,ヒアルロン酸分解 仮説モデルの検証を行うことにした.

KIAA1199依存的な新規ヒアルロン酸分解機構の 発見

ま ず は 皮 膚 線 維 芽 細 胞Detroit 551株 お け る ,  および の発現をRT-PCRで調べたとこ ろ, および は発現していたが,

の発現は認められなかった.次に,発現が認められた および についてsiRNAを用いて発現抑制 した結果,いずれの発現抑制においてもヒアルロン酸分 解には全く影響が認められなかった.これらのことか ら,筆者らが予見したとおり,皮膚線維芽細胞には CD44, HYAL1およびHYAL2が関与しない新規なヒア ルロン酸分解機構が存在すると考えられた.そこで,ヒ アルロン酸分解にかかわる未知の分子の同定を目的と し,線維芽細胞の培養系ヒアルロン酸分解活性と発現の 挙動が一致する遺伝子を包括的に探索した.まずはさま ざまな生理活性物質で線維芽細胞を刺激したところ,培 養系ヒアルロン酸分解活性はヒスタミンにより顕著に亢 進し,TGF-β1により顕著に抑制されることを見いだし た.次に,マイクロアレイ遺伝子発現解析により,ヒス タミンで発現が亢進し,かつTGF-β1により発現が抑制 される遺伝子を調べた結果,25の遺伝子が同定された.

そして,それらの遺伝子について,それぞれsiRNAで 発現抑制したところ,これまでに機能不明の難聴遺伝子 として報告されていた “KIAA1199” の発現抑制によ り,線維芽細胞のヒアルロン酸分解がほぼ完全に抑制さ れることを見いだした(20).一方,元々培養系でヒアル ロン酸を分解しないHEK293細胞に の全長 cDNAを導入した結果,線維芽細胞と同様のヒアルロン 酸分解活性を新たに獲得した(20).これらの結果から,

KIAA1199こそが皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸分解を 担う新規で必須の因子であると考えられた.また,

ハイブリダイゼーション法および免疫組織染色法に より,KIAA1199は正常ヒト皮膚の線維芽細胞において 恒常的に発現していたことから(20),KIAA1199は皮膚真 皮における生理的なヒアルロン酸分解において中心的な 役割を担う分子であると考えられた.

KIAA1199HYBID)依存的なヒアルロン酸分解 機構の特性

1.KIAA1199遺伝子の背景

遺 伝 子 は,か ず さcDNA配 列 決 定 プ ロ ジェクトで最初にクローニングされ,この名前は一時的 なシンボルとして付与された(図4.本遺伝子は1,361 のアミノ酸からなる分子量153 kDaのタンパク質をコー ドする4,083 bpのORFを含んでいるが(21),興味深いこ とに,そのアミノ酸配列はHYALを含むほかのタンパ ク質と相同性を示さない(12, 15).一方,KIAA1199には,

細胞外リガンドとの結合が推測されているG8ドメイ ン(22),高分子多糖の加水分解への関与が示唆されてい るPbH1ドメイン(23),および機能が不明のGGドメイ ン(24)が存在する(図4).また,KIAA1199は7つの推定 型糖鎖修飾部位を有し,疎水性の高いアミノ酸で構成 されているN末端の30残基はシグナル配列と予想され た(23)(図4).

2.KIAA1199依存的ヒアルロン酸分解機構の特性 筆 者 ら はKIAA1199を 安 定 的 に 発 現 す る 細 胞

(KIAA1199/HEK293細 胞)を 作 出し,KIAA1199依 存 的ヒアルロン酸分解機構の特性を調べた.まず基質特異 性を調べたところ,KIAA1199/HEK293細胞はほかのグ リコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸A, C, D, デル マタン硫酸,ヘパリン,ヘパラン硫酸)は分解せず,ヒ アルロン酸のみ選択的に分解した(20).また,KIAA1199/

図4推定される 遺伝子の構造

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HEK293細胞により分解されたヒアルロン酸の還元末端 糖および非還元末端糖は,それぞれ -アセチルグルコ サミンとグルクロン酸だった(20)(図5A).このことか ら,ヒアルロン酸の切断部位はβ-エンド- -アセチルグ ルコサミン結合であり,KIAA1199を介した分解様式 は,ヒアルロン酸に特異的なエンド- β- -アセチルグル コサミニダーゼ様式と考えられた.加えて,各種阻害剤 やRNA干渉法により細胞内におけるヒアルロン酸分解 の場を調べたところ,ヒアルロン酸はクラスリン経路を 介したベシクルエンドサイトーシスによって細胞内に取 り込まれた後,エンドソームとリソソームの融合前の酸 性区画,すなわちクラスリン被覆小胞もしくは初期エン ドソームで低分子化され,生じたヒアルロン酸断片(10

〜100 kDa)はリサイクリング経路により速やかに細胞 外に放出されることが示された(20)(図5B).

全 身 の ヒ ア ル ロ ン 酸 の タ ー ン オ ー バ ー に お け る KIAA1199の役割を考えた場合,10〜100 kDaのヒアル ロン酸分解産物を細胞外に放出する様式は,これまで考 えられていた組織における部分的なヒアルロン酸分解様 式(図2) と よ く 一 致 し た.ま た 興 味 深 い こ と に,

は,脳,肺,膵臓,精巣,卵巣を含む幅広 い臓器で発現しているものの,ヒアルロン酸のクリアラ ンスを担う肝臓,腎臓,脾臓では発現が認められず(25), 逆にこれらの臓器では や が高発現して

いる(12, 16).このことから,KIAA1199は発現が認められ

たいくつかの臓器における全身のターンオーバーの初発 的なヒアルロン酸分解において重要な役割を担っている 可能性がある一方,肝臓,腎臓,脾臓における最終的な ヒアルロン酸のクリアランスには関与せず,これらはむ

しろHYAL1やHYAL2が担っている可能性が考えられ る.実際に,HYAL1欠損によって引き起こされるIX型 ムコ多糖症患者や,HYAL2ノックアウトマウスの血清 においてはヒアルロン酸レベルが上昇することが報告さ

れている(16, 19).今後,各臓器や組織におけるKIAA1199

やHYALsの発現パターンを詳細に調べ,ヒアルロン酸 分解における両者の役割(分担)を明らかにすること で,全身のヒアルロン酸のターンオーバー像をより鮮明 に描くことができるであろう.

3.KIAA1199の分子機能

まず種々のグリコサミノグリカン(ヒアルロン酸,コ ンドロイチン硫酸A, C, D, デルマタン硫酸,ヘパリン,

ヘパラン硫酸)との結合試験を行った結果,少なくとも KIAA1199はヒアルロン酸と特異的に結合する能力を有 することを見いだした(20).一方,重要な課題として,

KIAA1199分子そのものが単独でヒアルロン酸分解活性 を有するかはいまだ解決されていない.これまでに,

KIAA1199を発現する細胞の溶解液ではヒアルロン酸分 解活性が消失してしまい,またコムギ胚芽無細胞タンパ ク質合成法により調製したリコンビナントKIAA1199 ではヒアルロン酸分解活性は認められなかった(20).こ のことから,KIAA1199を介したヒアルロン酸分解活性 には,細胞内の微小環境や,ほかの分子との結合による KIAA1199の立体構造の変化が必要である可能性が考え られる.一方で,KIAA1199が未知のヒアルロニダーゼ のアダプター分子である可能性も否定できない.また,

KIAA1199を介したヒアルロン酸分解はエンド-β- -アセ チルグルコサミニダーゼ様式であり(20),ヒアルロン酸 図5KIAA1199HYBID)依存的なヒアルロ ン酸分解様式

A. KIAA1199(HYBID)を介して分解されたヒア ルロン酸断片の構造.B. KIAA1199(HYBID)を 介したヒアルロン酸の分解経路.

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をランダムに分解するフリーラジカルとは分解様式が異 なるが(26),細胞を破砕した途端に活性が消失すること を考慮すると,KIAA1199を介したヒアルロン酸分解に フリーラジカルの関与も含めた検討も必要かもしれな い.このとおりKIAA1199分子の全容解明には課題が 山積みであるが,これまで明らかになった特徴に基づ き,筆者らはKIAA1199を ヒアルロン酸の分解を司る ヒアルロン酸結合タンパク質 として,HYBID( al- uronan  inding protein  nvolved in hyaluronan  epo- lymerization) と 名 づ け る こ と に し た(27)(以 下,

KIAA1199をHYBIDと記載).

4.HYBIDの細胞内局在制御

HYBIDを介したヒアルロン酸分解には,素早いベシ クルエンドサイトーシスとリサイクリング経路が介在し ていると考えられたため(図5),HYBIDの発現は原形 質膜付近と予想された.実際,抗HYBID抗体を用いた HYBID/HEK293細胞の免疫染色の結果,HYBIDのシ グナルは原形質膜付近のベシクルに観察された(28).そ こで,そのベシクルへのHYBIDの局在制御の仕組みを 明らかにするため,小胞体へのシグナル配列と予想され ていたN末端30アミノ酸に着目した検討を実施した.

全長のHYBIDと,あらかじめN末端30アミノ酸を欠失 させたHYBID(HYBID(Δ30aa))のcDNAを作出し,

HEK293細胞で発現させた結果,全長HYBIDを発現さ せた細胞ではヒアルロン酸分解能を有し,かつ機能的に 成熟したHYBIDはN末端30番目までのアミノ酸が切断 されていたのに対し,HYBID(Δ30aa)を発現させた細 胞ではヒアルロン酸分解能が全く認められなかった(28). このことから,HYBIDのN末端30アミノ酸残基は,細 胞がヒアルロン酸分解能を獲得するうえで重要な役割を 担っていることが示された.次にHYBIDの細胞内移行 にとって重要な手掛かりとなる 型糖鎖修飾について 検討した結果,機能的に成熟したHYBIDは 型糖鎖修 飾を受けていたのに対し,HYBID(Δ30aa)は一切修飾 を受けていなかった(28).通常 型糖鎖は小胞体にて付 与されることから,あらかじめN末端30アミノ酸を欠 失させることでHYBIDの小胞体への移行や,その後の 移行も正常に行われなかったと推測された.実際に,

HYBIDおよびHYBID(Δ30aa)の細胞内分布を調べた 結果,HYBIDは原形質膜付近のベシクルに加え,小胞 体やゴルジ体にも一部局在していたのに対し,HYBID

(Δ30aa)はサイトゾル全体に拡散している様子が観察 された(28).これらの結果から,HYBIDのN末端30アミ ノ酸はシグナル配列として機能し,HYBIDは翻訳時に

小胞体に移行後,N末端30アミノ酸の切断と 型糖鎖 修飾を受け,ゴルジ体を経由し,成熟したタンパク質と してヒアルロン酸分解に必須な原形質膜近傍のベシクル へ輸送されると考えられた(図6.以上の結果より,

HYBIDを介したヒアルロン酸分解活性の調節には,

遺 伝 子 の 転 写 レ ベ ル で の 制 御 だ け で な く,

HYBIDタンパク質の細胞内における空間的な局在制御 も考慮に入れることが重要である.

5. マウスKiaa1199遺伝子の特性

マウスにもヒト ( )とDNA配列 で86.8%,アミノ酸配列で91%の相同性を示す機能不明 のホモログ遺伝子( )が存在する(21).しか しながら,ヒト と同様,これまでその機能 は明らかにされていなかった.そこで, の cDNAを調製しHEK293細胞で発現させたところ,予想 どおりヒトKIAA1199と同等のヒアルロン酸分解能,す なわち,クラスリン経路依存的に高分子ヒアルロン酸を 細胞内に取り込んだ後,エンド-β- -アセチルグルコサ ミニダーゼ様式で分解し,分解産物(10〜100 kDa)を 細胞外に放出する能力を獲得することが示された(29). このように,ヒトKIAA1199とmKiaa1199は基本的な 機能を共有していたことから,今後,mKiaa1199のノッ クアウトマウスやトランスジェニックマウスは,生体内 でのヒアルロン酸分解におけるKIAA1199の役割を明 らかにするうえで有用なツールになりうることが期待さ れた.

HYBIDの疾病へのかかわり 1. 関節疾患とのかかわり

生体内において,ヒアルロン酸は皮膚だけでなく,関 節の関節液にも高濃度に含まれており,関節が滑らかに 図6HYBIDの細胞内局在

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動くための潤滑剤や,関節に加わる衝撃の吸収剤として の働きが予想されている.一方,関節炎おいてはヒアル ロン酸分解が亢進し,変形性関節炎(OA)や関節リウ マチ(RA)患者由来の関節液ではヒアルロン酸の平均 分子量が低下し,それが関節の潤滑性の低下や,滑膜の 炎症度と逆相関することなどが報告されている(30〜33). しかしながら,これまで関節におけるヒアルロン酸分解 機構は十分に解明されていない.そこで,筆者らは関節 液のヒアルロン酸代謝を担う滑膜細胞に着目し,関節炎 患 者 の 滑 膜 に お け る 過 剰 な ヒ ア ル ロ ン 酸 分 解 へ の HYBIDの関与について検討した(20).まず,培養ヒト滑 膜細胞のヒアルロン酸分解活性およびHYBIDの発現を 調べた結果,健常人由来細胞に比べ,OAおよびRA患 者由来細胞のHYBID分解活性は高く,その活性はHY- BID mRNAおよびタンパク質の発現レベルとよく一致 した(20).また,siRNAによるHYBIDの発現抑制によ り,いずれの細胞のヒアルロン酸分解活性もほぼ完全に 消失したことから(20),HYBIDは滑膜細胞のヒアルロン 酸分解においても必須の因子であることが示された.次 に,リアルタイムPCR解析では, 遺伝子の発現 は非炎症性関節疾患滑膜組織に比べ,OAおよびRA滑 膜組織で上昇していた(20).さらに, ハイブリダ イゼーション法および免疫組織染色法により,HYBID はRA滑膜組織において関節液と接する表層の滑膜細胞 で強く発現していることを見いだした(20).以上のこと から,関節炎患者の滑膜細胞におけるHYBIDの発現亢 進が,関節液におけるヒアルロン酸の過剰な分解に寄与 している可能性が示された.今後,関節炎において HYBIDが発現亢進するメカニズムを明らかにすること が,病態を理解するうえで重要な課題となるであろう.

2. 難聴とのかかわり

HYBIDは内耳で高発現しており,複数の非症候群性 難聴家系においてアミノ酸置換を伴う突然変異(ミスセ ンス突然変異)が見いだされたことから,難聴とのかか わりが考えられてきた(21).しかし,これまでHYBIDと 難聴との直接的なかかわりについては報告がない.そこ で筆者らは難聴患者のミスセンス突然変異がヒアルロン 酸分解活性に与える影響を調べた(20).野生型(全長)

に加え,4種の変異型 (R187C, R187H,  H783R, V1109I)のcDNAを作製し,それぞれHEK293 細胞で発現させた結果,R187CあるいはR187Hを発現 する細胞のヒアルロン酸分解は,野生型のそれより著し く低下していた(20).このことから,ミスセンス突然変 異によるヒアルロン酸分解能の低下が,聴力低下に影響

を及ぼしている可能性が推測された.これまでにヒアル ロン酸は細胞間の分子フィルターとして内耳にも存在す ること(34),またHYBIDは内耳液の恒常性維持に重要な 働きをする蝸牛管のらせん靱帯に強く発現することが知 られている(21).そのため,ヒアルロン酸分解の低下は 電解質と水の静的平衡に影響を与え,聴力を低下させて いるのかもしれない.また,HYBIDの187番目のアル ギニンは機能が不明のGGドメインに含まれていたた め,GGドメインの機能としてヒアルロン酸分解活性に 関与する可能性が示された.

成長因子による と の発現制御 組織マトリックスの恒常性維持や,発生・創傷治癒に おける組織の再構築において重要な役割を担うTGF-β1,  bFGF, EGF, PDGF-BBなどの成長因子は, の発現 誘導を介し,皮膚線維芽細胞のヒアルロン酸合成を高め ることが報告されている(9, 35〜37).そこで筆者らは,成 長因子によるヒアルロン酸代謝調節の理解を深めるた め,ヒアルロン酸の合成系(HAS)と分解系(HYBID)

への影響を同時に調べた(27).まず皮膚線維芽細胞を TGF-β1, bFGF, EGF, PDGF-BBで刺激し,合成系への 影 響 を 比 較 し た と こ ろ,bFGF, EGF, PDGF-BBは のみ発現誘導したのに対し,TGF-β1は と の両遺伝子を発現誘導し,ヒアルロン酸産生を最 も強力に促進した(27).一方,分解系に対しては,ヒア ルロン酸の産生を高めるうえで合目的なことに,TGF- β1, bFGF, EGF, PDGF-BBはいずれもHYBID発現とヒ アルロン酸分解を低下させ,なかでもTGF-β1が最も強 力に抑制した(27).次に,産生されるヒアルロン酸の分 子量分布を調べたところ,TGF-β1は高分子ヒアルロン 酸のみを産生促進したのに対し,bFGF, EGF, PDGF- BB刺激で産生されたヒアルロン酸は大部分が中間サイ ズに低分子化していた(27).HAS1/2が産生するヒアルロ ン酸は高分子のみであること,またbFGF, EGF, PDGF- BB刺激による低分子化ヒアルロン酸の産生は,RNA干 渉法による 遺伝子のノックダウンにより高分子 ヒアルロン酸の産生に変化したことから,中間サイズの ヒアルロン酸はHYBIDを介して低分子化されたもので あり,HYBIDの発現量は新しく産生されるヒアルロン 酸の分子量を決定づける因子と考えられた.なお,健常 人の生検皮膚から抽出したRNAを用い,TGF-βシグナ ルの律速因子として知られるII型TGF-β受容体遺伝子

( )の発現量と,その下流にある や の発現量との関係性を調べた結果, の発

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現量は の発現量と負に相関し,逆に の発 現量とは正に相関した(27).以上の結果から,正常な皮 膚真皮におけるヒアルロン酸の合成と分解のバランス は,TGF-βシグナルによって強く制御されていることが 示唆された.

一 方,興 味 深 い こ と に,同 じ 線 維 芽 細 胞(fibro- blasts) で も,滑 膜 細 胞(synovial fibroblasts) へ の TGF-β1の効果は,皮膚線維芽細胞(skin fibroblasts)

への効果と異なっていた.つまり,TGF-β1は,正常,

OA, RA由来滑膜細胞の 発現は誘導したものの,

HYBID発現およびヒアルロン酸分解には影響を及ぼさ なかった(27).先述のとおり,OA, RA由来滑膜細胞では HYBID発現が亢進していることから,TGF-β1刺激の結 果,分解の進んだ低分子ヒアルロン酸の産生が促進され る こ と が わ か っ た(27).OA, RA患 者 の 関 節 液 中 で は TGF-β1濃度が亢進していると報告されていることか ら(38),関節疾患患者の関節液における低分子ヒアルロ ン酸の蓄積に,TGF-β1が増悪因子として寄与している 可能性がある.今後,亢進したHYBIDの働きを抑制 し,ヒアルロン酸の合成と分解のバランスを元に戻すア プローチが,新しい治療法の開発につながると期待され る.

おわりに

冒頭で述べたとおり,今では ヒアルロン酸 という 言葉は良くも悪くも市民権を得たことから,残念ながら ヒアルロン酸研究 というとどこか俗物的というイ メージをもたれることも少なからずあるようである.し かしながら,本総説により,ヒアルロン酸は真にサイエ ンスに値する題材であり,ヒアルロン酸が発見されて 80年以上が経過した今もなお,多くの研究者を魅了し 続けるだけの輝きを失っていないことを少しでも感じて いただければ幸いである.筆者らもヒアルロン酸研究の 微熱のなか,幸運にもその分解を担う機能未知の遺伝子 に巡り合えた.しかしそれはまだヒアルロン酸代謝の全 体像の一端を垣間見たに過ぎず,今後さらなる発見によ り,その全貌が明らかにされていくだろう.

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プロフィール

吉田 浩之(Hiroyuki YOSHIDA)

<略歴>1996年京都大学農学部農芸化学 科卒業/1998年同大学大学院農学研究科 農芸化学専攻博士課程前期課程修了/同年 鐘紡株式会社/2014年花王株式会社,現 在 に 至 る<研 究 テ ー マ と 抱 負>HYBID

(KIAA1199)依存的ヒアルロン酸分解機 構の全容解明<趣味>80s邦楽,60s〜00s 洋楽,バンド

Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.119

日本農芸化学会

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参照

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