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9月に再開されたイスラエル・パレスチナ直接和

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はじめに

米誌『アトランティック』2010年

9月号は「来年 7

月までにイスラエルがイランの核関連 施設を軍事攻撃する可能性は50%以上」という分析記事を掲載し(1)、話題を呼んだ。これ以 外にもイスラエルによる軍事攻撃の可能性を検討した報告書や論文が多数出されている(2)。 実際に軍事攻撃が行なわれるか否か予測はできないが、イスラエルが軍事オプションを保 持していることは事実だ。だが攻撃が実行されれば、ムハンマド・エルバラダイ国際原子 力機関(IAEA)事務局長(当時)が2009年に述べたように、「中東は巨大な火の玉と化して しまう」恐れすらある。

1979年のイラン・イスラーム革命後、イスラエルとイラン関係は完全な敵対関係に陥っ

た。イラン革命の指導者ルーホッラー・ホメイニー師が、イスラエルは「ムスリムを抑圧 し、搾取するため」に帝国主義者によって作られ支えられてきたと述べたように(3)、革命後 のイランでは、イスラエルの存在そのものを否定する言説が繰り返されてきた。さらにイ スラエルからみれば、イランはイスラエルに対しレバノンのシーア派組織ヒズブッラーな どの「手先」を使ってテロ攻撃を行ない、核兵器の開発・製造に邁進している。それだけ にイランはイスラエルの存在そのものを脅かす「実存的脅威」なのである。

2010年 6月に国際連合安全保障理事会で新たな対イラン制裁決議が成立し、かつ米国やヨ

ーロッパ連合(EU)、日本などがそれぞれ対イラン追加制裁を発動した結果、イランの脅威 を国際社会と共有するというイスラエルの外交目的は一定程度達成された。しかし、イラ ンが核開発を断念する可能性はほとんどなく、イスラエルの脅威認識はますます高まって いる。他方、イランの核問題がクローズアップされるに従い、イスラエルの核問題にも焦 点が当たり始め、イスラエルは厳しいジレンマに直面している。また、イランの核問題と それに対するイスラエルの対応は、2010年

9月に再開されたイスラエル・パレスチナ直接和

平交渉の行方とも密接に結びついている。

以下ではイスラエルのイランに対する脅威認識、イスラエルによる軍事攻撃の可能性や その危険性、イランの核問題と切り離すことができないイスラエルの核問題に関する米政 府の動きや国際社会の認識を検討する。

(2)

1

イスラエルとイランの基本的関係

イスラエルと革命前のイランは一定程度密接な関係をもっていた。両国は1950年代初頭 に事実上の外交関係をもち、1960年代にはイスラエルの情報機関モサド要員がイランの情 報機関SAVAK要員の訓練に当たるなど、両国の協力関係は治安や安全保障面にまで及んで いた(4)。敵対するアラブ諸国への対抗上、周辺地域の非アラブ諸国との関係強化を図ってい たイスラエルにとって、産油国であり米国と同盟関係にあったイランとの安全保障面での 協力は価値のあるものだった。他方、イランも一部アラブ諸国と対立関係にあったことな どを背景に、イスラエルとの関係を戦略的に重視していた。

両国関係は

1979年のイラン・イスラーム革命によって一変した。革命政権は発足直後の

1979年 2

18

日に、早くもイスラエルとの外交関係を断絶した。その一方で、イラン新政

府は前日の

17

日に当時イスラエルや米国が「テロ組織」とみなしていたパレスチナ解放機 構(PLO)のヤーセル・アラファト執行委員会議長をテヘランに招き、PLOは

19日にテヘラ

ン事務所を開設している。ただ、1990年代に

PLO

がイスラエルと和平交渉を開始すると、

イラン・PLO関係は悪化した。

イスラエルと革命後のイランが実際に敵対した最初の舞台は内戦中のレバノンだった。

イランがレバノンのシーア派を支援し、ヒズブッラーの組織化や訓練を積極的に推進した ことは、イスラエルの対レバノン政策にまったく新しい要素を加えることになった。イス ラエルは1982年

6月に、南部レバノンを拠点とするパレスチナ・ゲリラ組織からの脅威を排

除するとして、大規模軍事進攻を行なった(第1次レバノン戦争)。しかし、イスラエルの占 領が長期化すると、南部レバノンのシーア派住民は反イスラエル武力闘争を開始し、こう した武装組織のいくつかを糾合したものがヒズブッラーである。発足当初からイランの支 援を受けていたヒズブッラーはその後も勢力を拡大し、1980年代末になると、イスラエル 軍への攻撃(イスラエル側は「テロ行為」としている)の主体は、パレスチナ・ゲリラからヒ ズブッラーに移行している。

2 3

つの「イランの脅威」

イラン・イラク戦争が終了し1990年代に入ると、イスラエルはイランからの脅威を3つの 局面でいっそう深刻に捉えるようになった。第1は核の問題であり、これについては後述す る。

第2はテロの脅威である。イスラエルは自国の在外公館や第三国にあるユダヤ関連施設に 対する爆弾テロの背後にイランがいると繰り返し主張してきた。例えば、1992年にブエノ スアイレスで起きたイスラエル大使館爆破事件や、1994年にやはりブエノスアイレスで発 生したユダヤ・コミュニティーセンター爆破事件は、イランの指示を受けたイスラーム過 激組織が行なったと非難している(5)

第3は上記のテロの問題と重複しているが、イスラエルが「テロ組織」とみなすヒズブッ ラーやパレスチナのイスラーム組織ハマースへ、イランが武器供与などの支援を行なって

(3)

いることである。かつてイスラエルにとって「レバノン問題」とは、南部レバノンを拠点 としたパレスチナ・ゲリラによる越境攻撃だった。しかし前節で触れたように、1980年代 末以降はヒズブッラーがイスラエル軍への攻撃の中心となり、そのヒズブッラーを支援し ているイランもまた、イスラエルにとっていっそう重大な脅威となったのである。

ヒズブッラーの攻撃を受け続けたイスラエル軍は2000年に南部レバノンから一方的に撤 退したが、ヒズブッラーはレバノンの一部が依然としてイスラエルの占領下にあるとして、

イスラエルへの攻撃を正当化している。一方、イスラエル軍部はヒズブッラーを「イラン 革命防衛隊の前線コマンド部隊」とみなし(6)、イランがヒズブッラーへ大量のロケットやミ サイルを供与していると警戒を強めていた。そうしたなかで起きたのが、2006年

7

月のヒズ ブッラーによるイスラエル兵士拉致事件だった。イスラエルはヒズブッラーに対し約1ヵ月 にわたり激しい軍事攻撃を加え、ヒズブッラーはこれに対抗して約4000発のロケットやミ サイルをイスラエル北部に撃ち込んだのである(第

2

次レバノン戦争)。

ヒズブッラーはイスラエルが言うような「イランの代理人」ではなく、自己の利益に基 づいて行動している。しかし、第2次レバノン戦争はイスラエルの安全保障に関し、2つの 関連した問題を顕在化させた。第1はヒズブッラーによるロケットやミサイル攻撃によって、

イスラエルの国内防衛がいかに脆弱であるかが明らかになったことである。第2は、ヒズブ ッラーのようなイスラエルに隣接する地域を拠点とする武装組織への支援を通じ、イラン は間接的にでも上記の脆弱性を衝いたイスラエル攻撃を行なうことが可能となったことで ある(7)。この

2

つの問題は現在も解決されていない。イスラエルは第

2次レバノン戦争後も、

イランがヒズブッラーにミサイルなどの武器を提供していると警戒を強めており、ヒズブ ッラーとの再度の軍事衝突は不可避とみている。

一方、ハマースについてもイスラエルはイランとの関係を強く疑い、「ハマースの背後に はイランがいる」と主張している。実際、幹部がたびたびイランを訪問するなど、ハマー スがイランと一定の関係をもっていることは確かだが、軍事や資金面の関係はヒズブッラ ーに比べそれほど明確ではない。しかし、イスラエルは

2008

年末から

2009

年初めのガザ攻 撃の際、ハマースがイランから入手したミサイルを発射したとしている。また、イスラエ ル軍は2009年1月、スーダンを空爆した。その標的はイランからスーダンに陸揚げされたガ ザ向けの武器を運搬中の密輸団のコンボイだったと言われる。イスラエルからみればハマ ースの存在もまたヒズブッラーと同様、ロケット攻撃に対する国内防衛の脆弱性と、それ を利用したイランからの脅威と映るのである。

3

イランの核開発とイスラエル

イスラエルは

1990年代初頭からイランが核兵器開発を行なっていると主張し、その運搬

手段であるミサイルの開発・配備とともに、「核の脅威」を強調してきた。2002年にイラン の反体制組織が

IAEA

に無申告の核関連施設がイラン国内にあると暴露して以降、IAEAの 査察などによりイランの核開発に対する疑惑が深まると、イスラエルの脅威認識は次第に 国際社会で共有されるようになった。それでもイスラエルからすると、2006年2月に

IAEA

(4)

がイラン問題を安保理に付託し、国連安保理が段階的に対イラン制裁を強化しても、その 動きはきわめて遅くかつ不十分なものでしかなかった。

その意味でIAEAが

2010

年2月に、イランの核開発が兵器化の道を歩んでいる可能性を指 摘した事務局長報告を発表したことは、イスラエルからみてもある種の転機だった。これ を受けて同年6月に国連安保理がより厳しい対イラン追加制裁を盛り込んだ決議1929号を採 択し、さらに米国やEU、カナダ、日本などが個別に対イラン制裁を強化したことを、イス ラエルは高く評価している。決議

1929

号に関しては、「(ウラン濃縮停止など)国際社会の要 求にイランを従わせるための重要なステップである」との外務省声明を発表している。

米国のバラク・オバマ政権との関係で言えば、オバマ大統領が就任直後にイランとの対 話の可能性を探ったことで、イスラエルは米国の対イラン政策に強い危惧の念をもってい た。しかし対話の可能性がなくなり、オバマ政権がイランに対し厳しい姿勢を示すように なった

2009

年末ごろから、両国間の対イラン認識に大きなギャップはないようにみえる。

特に米国が安保理決議1929号の成立に力を注ぎ、かつ6月には独自の対イラン金融制裁を強 化し、7月にイラン包括制裁法を成立させたことを歓迎している。同制裁法はイランにガソ リンなどの石油精製品を供給した企業などを米国の市場から締め出すことなどを目標とし ている。7月初めに訪米したネタニヤフ = イスラエル首相は、オバマ大統領との首脳会談後 の共同記者会見で、決議

1929

号を含め対イラン制裁が強化されたことをオバマ大統領の

「指導力の賜物」と賞賛した。

イスラエルがこれほどイランの核兵器保有の可能性とミサイル配備を危険視するのはも ちろん、イランがイスラエルに対し核攻撃をするのではないかという強い危惧の念をもっ ているからにほかならない。イランがイスラエルに対し敵対的な言動を繰り返してきたこ とは事実だ。特にマフムード・アフマディネジャード = イラン大統領の「イスラエルは地図 上から抹殺されるべきだ」という発言はその真意は別として、イスラエルの脅威認識をい っそう強めた。

加えてイランが核兵器を保有すれば、イスラエル在住のユダヤ人人口が減少するとの危 惧をイスラエル政治指導者はもっている。例えば国防相エフード・バラクは、もしイスラ エルが核攻撃の危険に曝されれば、「最も優秀な若者たちは国外に住むことを選択するだろ う」と述べている(8)。人口動態からみて近い将来、パレスチナ人人口がユダヤ人人口を上回 ることは確実視されている。そのうえに、核に対する恐怖からユダヤ人が国外流出すれば、

「ユダヤ人国家」イスラエルでユダヤ人が少数派に転じる時期はさらに早まることになる。

2009年に行なわれた意識調査によると、イスラエル在住ユダヤ人回答者の 80%

は、イラン

が核兵器をもっても生活は変化しないと答えている一方、11%は国外移住を考えると回答し ている(9)

4

軍事攻撃をめぐる問題

そのバラク国防相は

7

月末の米テレビとのインタビューで、制裁の効果について「彼ら

(イラン指導者)は核兵器能力を手に入れると決意している。それ故、制裁は効果をもたらさ

(5)

ないだろう」と悲観的な見方を表明した。そのうえでバラクは「あらゆる選択肢を除外す べきではない」と述べている(10)。「あらゆる選択肢」に軍事オプションが含まれていること は言うまでもない。

イスラエルは「中東における核の独占」を安全保障政策の根幹のひとつとしており、過 去にも2回、他国の核開発を実力で阻止している。

1981

年のイラクのオシラク原子炉空爆と、

2007年 9月のシリア北部の軍事施設に対する空爆である。後者の対シリア攻撃に関して、イ

スラエル政府は依然として沈黙を守っている。しかし米政府は2008年4月、イスラエルの空 爆で破壊されたシリア北部の軍事施設は、北朝鮮の協力で建設中の軍事目的用原子炉だっ たとする声明を発表した。また、IAEAもシリアが何らかの核開発を行なっていた可能性が あるとの報告を何回か行ない、シリアの非協力を批判している。他方、シリア政府は空爆 された施設は核関連施設ではなく、核開発は行なっていないと繰り返し表明している。

イランに対するイスラエルの軍事攻撃が行なわれるとすれば、ナタンツ(核研究センター、

ウラン濃縮施設)、アラク(重水製造プラント、および将来のプルトニウム生産拠点)、イスファ ハン(ウラン転換施設)の

3

ヵ所を空爆するとの見方が一般的だ。イスラエルが保有する弾 道ミサイル「ジェリコ

3」による攻撃も可能だとする見方もあり、場合によっては潜水艦か

らの攻撃を含めた複合的な作戦になるとの指摘もある。

では、イスラエルは軍事的手段でイランの核関連施設を破壊することができるのだろう か。これについても見解は分かれている。イランの核問題と軍事攻撃の可能性に関しいく つかの報告書を出している

A・トゥーカンと A・コーデスマンは 2010年 3月に出した報告書

で、イスラエルの軍事攻撃は可能だとの結論を出している(11)。一方、イスラエル国防軍の元 参謀総長で空軍出身のダン・ハルーツは2010年

2

月に、「われわれは身分不相応の重荷を背 負うべきではない」と述べ、軍事攻撃の成功に疑問を投げかけた(12)

また、攻撃は可能だとする見方でも、ほとんどが作戦遂行上、きわめて多くの困難や問 題点を抱えていると指摘している。特に問題とされているのは、①ルートの問題(いかなる 場合も第三国の領空を通過するため、外交上の反発を招くことは不可避で、かつ通過する国の防 空システムによって察知・攻撃される可能性がある)、②距離(往復で

4000キロメートル前後と

いう長距離作戦となるため、空中給油が不可欠で、どこで行なうかが問題)、③情報の確実性

(攻撃目標の情報収集が不十分との指摘)、④イランによる迎撃と報復、などである。また、ナ タンツのウラン濃縮施設は地下にあり厚いコンクリートの壁で覆われていることから、バ ンカーバスターなど特殊な爆弾を投下しても、完全に破壊することは困難という見方もあ る。

加えて米国の明示的ないし暗示的な「青信号」は不可欠とみられている。軍事技術や情 報面での協力だけでなく、米軍がコントロールしているイラク空域を通過する必要性が高 いうえ、たとえイスラエルが単独で軍事攻撃を実行したとしてもイランが米国の権益に対 しても報復を行なう可能性がきわめて高いことなどからだ。これに関連しイスラエル紙

『ハアレツ』は、2008年

5

月にイスラエルのエフード・オルメルト首相がジョージ・

W

・ブ ッシュ米大統領に、イラン攻撃に必要とされる特殊な爆弾やイラク上空の通過許可などの
(6)

提供を求めたが、ブッシュ政権は要請を拒否したと報じている(13)。他方、米中央軍はイスラ エル空軍機がイラク上空を通過することを黙認することにしているとの報道もある(14)

いずれにしてもイスラエルがイランに対し軍事攻撃を敢行すれば、アフガニスタンとイ ラクの問題を抱える米国の置かれた状況はきわめて厳しいものになる。『ニューヨーク・タ イムズ』紙は2010年

8月、オバマ政権がイスラエルに対し、遠心分離機の不調などイランの

核施設でトラブルが続いていることから、イランが核兵器化の段階に到達するにはまだ

1年

かそれ以上かかるとの見方を伝え、イスラエルもおおむねこの見方を受け入れたと報じた。

その結果、オバマ政権は今後1年以内にイスラエルがイランを軍事攻撃する可能性は減少し たと考えているという(15)

軍事攻撃に伴う問題としてさらに指摘されているのは、たとえ攻撃が成功したとしても、

イランの核開発のスピードを数年間遅らせるだけで、核兵器を開発・製造するというイラ ンの決意をさらに強固にしてしまう恐れが強いことだ。加えてイランによる報復の結果、

中東がきわめて不安定な状態に陥る危険だ。例えばブラッドフォード大学のP・ロジャーズ は「イランに対するイスラエルの軍事攻撃は、長期にわたる紛争の開始を意味し、結果的 にイランが核兵器を保有することを阻止できないばかりか、保有するよう奨励するような ものだ」と警鐘を鳴らしている(16)

5

イスラエルの核曖昧政策に疑念

イランの核問題が焦点になりつつあるなか、米・イスラエル関係にも変化が出ており、

イスラエルの核問題にも波及しつつある。

イスラエルは長年にわたり米国との「特殊な関係」による利益を享受してきた。しかし オバマ政権発足以降、イラン問題を含めその両国関係には微妙な変化がみられる。特にイ スラエルの入植活動をめぐっては、オバマ政権とネタニヤフ政権の間で何回か摩擦が生じ ている。また、2010年

3

月の上院軍事委員会の証言で米中央軍司令官(当時)のデイビッ ド・ペトレイアスが、イスラエル・パレスチナ紛争がアラブ世界の反米感情を煽り、イラ ンがアラブ諸国に影響力を拡大する背景となっているなどと述べ、大いに注目された。ま た、オバマ大統領自身も

4月の記者会見で、アラブ・イスラエル紛争は米国に「人的にも財

政的にもコストを強いている」と述べ、紛争解決は「死活的な国家安全保障上の利益であ る」と発言した。

オバマ政権がパレスチナ問題に対するネタニヤフ政権の姿勢にかなりの苛立ちを感じて いることは明らかだ。その背後にあるのはオバマ政権とネタニヤフ政権の中東の現状に関 する認識の相違だ。これについて元駐イスラエル米国大使マーティン・インディックは、

ネタニヤフ政権はイランの核開発問題とパレスチナ問題への取り組みとは無関係との立場 をとっているが、オバマ政権は歴代の米政権と異なり2つの問題を同じコインの両面とみな し、イランの核開発を阻止するためにはパレスチナ問題が解決に向かうことが不可欠であ ると考えていると論じている(17)。またやはり駐イスラエル米国大使を務めたダニエル・カー ツアーもペトレイアス発言の背景にあるのは、イランの核兵器保有阻止を含む中東におけ

(7)

る米国の国益実現と、アラブ・イスラエル紛争の解決が互いに結びついているというオバ マ政権の認識であるとコメントしている(18)

イスラエルの核問題についてもオバマ政権が、従来の歴代政権とはいくぶん異なる姿勢 を示していることは、こうした文脈で考えるべきだろう。その最たるものは2010年

5月に開

催された核拡散防止条約(NPT)再検討会議で、米、英、ロシアが主催する中東非核・非大 量破壊兵器地帯設置に関する中東国際会議を

2012年に開催するとの決議を盛り込んだ最終

文書(行動計画)が採択されたことだ。イスラエルはこのことに大きな衝撃を受けた。前回

(2005年)の再検討会議にも同様の案が出されたが、ブッシュ政権が強力に反対し採択を回 避したからである。イスラエル外務省は直ちに、最終文書を「中東の現実を無視したもの」

と批判し、2012年会議に参加しないとの声明を発表した。また『ハアレツ』紙によれば、

イスラエル政府高官はオバマ政権の対応を「圧力に屈したもの」と批判したという(19)。 その一方でオバマ大統領は2009年5月の首脳会談でネタニヤフ首相に対し、米国はイスラ エルに核問題に関する情報の開示や

NPT

への加盟を求めないという両国間の従来からの了 解を遵守すると約束したと言われる(20)。この了解は

1969

年に、リチャード・ニクソン大統 領とイスラエルのゴルダ・メイヤ首相との間で合意されたもので、それ以降、米国はイス ラエルの核問題に対しいわば「見て見ぬふり」をしてきたとされる。また、ジェームズ・

ジョーンズ大統領補佐官(国家安全保障担当)は、2012年の国際会議開催に関し米国として は「重大な留保がある」とし、中東和平の達成と中東域内のすべての国が軍備管理・拡散 防止のための義務を遵守することが、会議に先行する必要があると述べている(21)

そのためイスラエルの核問題に関するオバマ政権の政策にはまったく変更がないとの見 方もある。だがオバマ政権が発足して以降、IAEAでもイスラエルのNPT未加盟問題がたび たび取り上げられ、最近では天野之弥

IAEA事務局長が 8

月末にイスラエルを訪問し、NPT に加盟するよう呼びかけたと報じられている。これらの動きを勘案すると、オバマ政権が 中東非核地帯構想やIAEAのイスラエルへの

NPT

加盟呼びかけの動きに、一定の柔軟性を示 しているのは事実だろう。そこにはパレスチナ問題とイランの核問題に同時に取り組むた めには、イスラエルの核問題をまったく等閑にすることはできないというオバマ政権の認 識が垣間見える。

その意味でイスラエルの核に関する曖昧政策ないし不透明政策は限界にきているとの議 論も多い。モントルー国際問題研究所の

A・コーヘンらは、パレスチナ問題が未解決のまま

であることからイスラエルの核不透明政策に対する国際社会の信頼はすでに減退しつつあ り、国際社会がイランの核問題に一致して対処するためにも、イスラエルは不透明政策を 見直し緩和する必要があると述べている(22)

結  び

現在、イスラエルは外交・軍事面をめぐり

3つの大きな問題でジレンマに直面している。

ひとつは本稿で検討してきたイランの核問題である。イスラエル人の多くが悲観的にみて いるように、制裁強化によってもイランの核開発を止める可能性が低いとすれば、イスラ

(8)

エルは最終的に軍事攻撃という選択肢をとるのだろうか。しかしその場合、中東全域が決 定的に不安定化することは必至で、かつイランの核開発能力を根絶することはできず、イ スラエルも大きな犠牲を払うことになる。

第2はパレスチナ問題への取り組みである。2010年

9

月、イスラエルとPLO(23)は米国の仲 介で、直接和平交渉を開始した。オバマ政権は1年間ですべての問題に決着をつけると強い 意欲を示しているが、交渉は多くの困難を抱えている。特に問題となるのはイスラエルの 出方である。領土問題その他でイスラエルが大きく妥協しない限り紛争解決がありえない ことは明白だ。他方、ネタニヤフ政権の政治基盤の中軸はパレスチナ独立国家の樹立に否 定的な右派であり、ネタニヤフ政権側からの譲歩は決して容易ではない。だがその一方で、

ユダヤ人とパレスチナ人の人口比率を含め現状を放置することは不可能な状況になりつつ あることも明らかだ。ネタニヤフ政権はどのような道を歩むのだろうか。

第3はイスラエルの核問題である。2012年には中東非核地帯構想を検討する中東会議の開 催が決まっている。米国は重大な留保をつけているが、会議そのものの開催を阻止するこ とはできないだろう。またイスラエルが参加を拒否しても、イスラエルの核問題が最大の 議題となることは回避できない。加えて、IAEAではイスラエルのNPT加盟問題が今後さら に議論されるだろう。イスラエルの核に関する曖昧政策、不透明政策は近い将来、重大な 変更を迫られるかもしれない。このことは中東の核を含む大量破壊兵器の拡散問題に重大 な影響を与える。

本稿で検討したように、これら3つの問題は分かちがたく結びついている。イスラエルは この3元連立方程式の解をどのようにしてみつけるのだろうか。最悪の解がイランへの軍事 攻撃であることは間違いない。そうなれば国際社会も甚大な被害を受けることになる。

1 Jeffrey Goldberg, “The Point of No Return,” The Atlantic, September 2010(http://www.theatlantic.com/

magazine/archive/2010/09/the-point-of-no-return/8186/、2010年8月12日アクセス).

2) 最近のものだけでも以下のようなものがある。Abdullar Toukan and Anthony H. Cordesman, Study on a Possible Israeli Strike on Iran’s Nuclear Development Facilities, Washington, D.C.: Center for Strategic and International Studies(CSIS), March 14, 2009; Steven Simon, An Israeli Strike on Iran, New York: Council on Foreign Relations, November 2009; Anthony Cordesman, Iran as a Nuclear Weapons Power, CSIS, December 15, 2009; Abdullar Toukan and Anthony H. Cordesman, Options in Dealing with Iran’s Nuclear Program, CSIS, March 2010; Ron Tira, “A Military Attack on Iran? Considerations for Israeli Decision Making,” Strategic Assessment, Vol. 13, No. 1, July 2010, pp. 45–59; Paul Rogers, “Military Action Against Iran: Impact and Effects,” Oxford Research Group Briefing Paper, July 2010.

3 David Menashri, “Iran, Israel and the Middle East Conflict,” Israel Affairs, Vol. 12, No. 1, January 2006, p. 110.

4 Mark J. Gasiorowski, U.S. Foreign Policy and the Shah: Building a Client State in Iran, Ithaca; Cornell University Press, 1991, pp. 124, 208.

5) イランはどちらの事件にもまったく関係していないと主張している。

6 Ze’ev Schiff, “Israel’s War With Iran,” Foreign Affairs, Vol. 85, No. 6, November/December 2006, p. 23.

7 Amos Harel and Avi Issacharoff, 34 Days: Israel, Hezbollah, and the War in Lebanon, New York: Palgrave Macmillan, 2008, pp. 258–260.

8 Goldberg, op. cit.

(9)

9 “Most Israelis could live with a nuclear Iran: Poll,” Reuters, 14 June 2009.

(10) “Israel Skeptical on Iran sanctions,” AFP, 30 July 2010.

(11) A. Toukan and A. H. Cordesman, Options in Dealing with Iran’s Nuclear Program, p. 14.

(12) “Ex-IDF Chief: Israel can’t handle nuclear Iran alone,” Haaretz, 14 February 2010.

(13) Aluf Benn, “U.S. rebuffs Israeli request for arms geared toward Iran strike,” Haaretz, 13 August 2008; Amos Harel and Aluf Benn, “U.S.: No to ‘bunker-busters,’ Iraq flyover rights for Israel,” Haaretz, 11 September 2008.

(14) Goldberg, op. cit.

(15) Mark Mazzetti and David E. Sanger, “U.S. Assures Israel That Iran Threat Is Not Imminent,” New York Times, 19 August 2010.

(16) P. Rogers, op. cit., p. 12.

(17) Martin Indyk, “When your best friend gets angry,” International Herald Tribune, 20 April 2010.

(18) Daniel Kurtzer, “We need to take this seriously,” Bitterlemons, 15 April 2010.

(19) “Netanyahu to ask Obama to block measures over Israel’s nuclear program,” Haaretz, 30 May 2010.

(20) Eli Lake, “Exclusive: Obama agrees to keep Israel’s nukes secret,” The Washington Times, 2 October 2009.

(21) “Nations reaffirm nuclear pact,” International Herald Tribune, 31 May 2010.

(22) Avner Cohen and Marvin Miller, “Bringing Israel’s Bomb Out of the Basement: Has Nuclear Ambiguity Outlived Its Shelf Life?” Foreign Affairs, Vol. 89, No. 5, September/October 2010, pp. 30–44.

(23) パレスチナ側の交渉主体はPLOとなっているが、実際上はPLO主流派のファタハであり、かつ ヨルダン川西岸を支配しているパレスチナ自治政府である。

たてやま・りょうじ 防衛大学校教授 [email protected]

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