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Academic year: 2024

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数学 IB No.6

11月13日配布 担当: 戸松 玲治

8 選択公理

 これから数学を勉強していく上で必要になる所は, これまでの回でほぼ終わっている(写像と集合 の包含さえ扱えれば,あとは根性で何とかなると思う). 必要になったら各自本やネットで調べてその 都度覚えていけばよい. しかし集合論で最後に「エチケット」として知っておくべきなのが,選択公 理である.

8.1 直積集合をもう一度

 Λを集合として, Λを添え字にもつ空でない集合族Aλが与えられているとき,直積集合とは次の ものであった.

λΛ

Aλ= {

f |f: Λ

λΛ

Aλ, f(λ)∈Aλ

} .

つまり各λ∈Λに対して, 1つだけ元f(λ)∈Aλを選び出してくるものの集合である. しかしこの直 積集合は本当に空集合ではないだろうか. Λが有限集合の時は,一つづつ元を適当に取り出してくれ ば,いつかは終わるのでよい. しかしΛが無限集合であったり, Aλが複雑な集合のときはどうであ ろうか. 素朴に考えれば,λ∈Λの元に対して逐一Aλの元を選んでくればよいと思うかもしれない がここが落とし穴であり, Λが無限集合の時はこれはいつまでたっても終わらないので困ってしまう.

一体どうしたら良いだろうか.

8.2 公理系 ZF と選択公理

 実は今までやってきた集合論は「素朴集合論」(naive set theory)と呼ばれていて,昔Cantorが創 始したものである. 集合論をやるには集合とは何かを決めなければならないが,講義では何と教わっ たであろうか. おそらく「何かの集まり」とされたのではないだろうか. これを「ふうん」と軽く受 け止める人もいるだろうし,何かの集まりって結局なんなの?と不審に思う人もいるだろう. 実際には ものの集まりといっても何でもかんでも集合とはならない(Russelのパラドックスを調べてみよう).

そこで素朴集合論をあいまいさ抜きにした公理系ZFがZermeloとFraenkelによって構築された.

公理というのは,数学をやっていく上でのルールである. たとえばZF公理系の中には,二つの集合は 一方の元が必ず他方の元になっているとき等しい,とかいつもやっているルールが決められている.

そこでさっきの問題に戻り,次のようにその性質を定式化しよう.

公理 1 (選択公理, Axiom of Choice) 集合族 {Aλ|λ∈Λ}6=) に対し, 任意の λ∈Λ につ いてAλ6= とすると,

λΛ

Aλ6=

である.

 我々は今ZF公理系を使っているから,選択公理がZFから出てくるかということが気になるとこ ろである. 実は,選択公理(ACとよく略す)はZFから導出できないばかりか,選択公理が間違ってい ることもZFから証明できないことがG¨odelとCohenにより示された. こういう状況を「選択公理

はZFと独立(independent)」であるという. つまり両者の間には関係が全くないということである.

http://www.ma.noda.tus.ac.jp/u/rto/sched.html

(2)

 よって例えば, ZFに「ACの否定」をプラスした公理系を使っても数学ができるのである. そうな のであるが,我々普通の人はZFに選択公理をつけ加えた公理系ZFCを使って数学をやる(数学基礎 論が好みな人ごめんなさい). ここではZFを理解しろとは言わないので,普段何気なくやってる数学 もちゃんとした土台(ZFC)があるんだなと心に留めておいてほしい.

8.3 超絶技巧 選択公理

 さてもうちょっと選択公理の話題を続けよう. Λ =Nの時に,選択公理を使わなくても直積集合が 空でないことを示せた,と一瞬錯覚してしまう証明を紹介しよう.

「Λ =Nの場合」A16= なのでa1∈A1 なるa1 が取れる. 列a1, a2, . . . , an (ai∈Ai)が取れたと する. An+16= なのでan+1∈An+1 なるan+1 が取れる. したがって数学的帰納法によって,すべ ての自然数 nに対してan が選べる. 故に列(an)n=1 が存在することになるから,

n=1

An6=が証

明された.

どこがおかしいのであろうか?実はこの「証明」中では欲しい結論を導いておらず,任意の自然数n に対して

n

k=1

Ak 6=であることしか示せていないのである. こういう限界を選択公理でずばっと切 り抜けられるのである. 同様に次の「論法」にも,欠陥がある:

論理 1 順序集合(X, <)において,任意の x∈X に対してx < y となる y∈X が存在するとすれ ば,数学的帰納法によって

x1< x2<· · ·< xn<· · · (8.1)

なるX 内の無限列 (xn)n=1 が取れる.

 「論法」の数学的帰納法が示しているのは,各 nに対してxn< xn+1 となるxn+1 があることだ けである. 問題はすべてのnに対して同時にx1< x2<· · ·< xn<· · · となる元を取り出せるか,と いうことにある(これができなければ,有限時間に生きる我々には議論を終えることができない). 言 い換えるなら,上記(8.1)を満たすような唯1つに定まる写像f:N→X (n7→xn)が我々にとれる のであろうか?このように,「無限列を作る」という操作は一見簡単に見えて,実は難しい.

 無限回の操作の困難さを表すもう1つ例を挙げよう. A,B が非可算集合の場合を想定して以下の

「証明」を眺めれば,おかしいことは明白だろう:

定理 8.1 濃度比較定理

2つの集合A,B が与えられたとすると,これらは互いに対等であるか,あるいは一方が他方の部分 集合と対等である.

「証明」a1∈Aを任意に取り,任意に取ったb1∈B と対応させる. 次に,a2∈Aを任意に取り,任意 に取ったb2∈B と対応させる. さらにまたa3∈Aを任意に取り,任意に取ったb3∈Bと対応させ る... 以下このようにしていけば,最終的にはどちらかの集合のすべての元が,他方の元と対応づけら

れる.

 選択公理とは,このような無限回の操作が可能であることを認める公理であるといえる. 我々には 不可能であるが, 当然のことのように思えるものだから,公理として認めようというものである. つ まり選択公理は超絶技巧なのであり,その武器を使用することを許したのである .

いわば,「平行線は絶対に交わらない」を公理に認めるようなものである.当然,認めない立場もあるし,歴史的にも導入には強い批判が 起こった.しかし,感覚的には受け入れやすいものであるし,導入した方が数学体系としては豊富で広がりをもつものになると多くの人が考え ている. Λ =Nの場合の選択公理ぐらいは認めないと,まともな数学にならないであろう. まあ,これからもっと出遭うであろう無限に関する 不思議さの一端だと思っておいてほしい.

(3)

 選択公理の意味するところは,次のような選択関数が存在することである.

定理 8.2 X を空でない集合とすると,写像Φ :P(X)\ {∅} →X, Φ(A)∈A for anyA∈P(X)\ {∅}

となるものが存在する.

証明選択公理より, ∏

AP(X)\{∅}

A6= だから,X の空でない各部分集合Aから元aがとれる. この とき, Φ(A) :=aと定めれば,これが求める写像となる.

注 逆にこの定理から選択公理が導かれる. 実際,X := ∪

λΛ

Aλ とおけば, Aλ ∈P(X)\ {∅} である.

よって定理8.2の選択関数ΦによってΦ(Aλ) =aλ とおけば, (aλ)λΛ は ∏

λΛ

Aλ の元となり,選択 公理が成り立つ.

 この定理8.2から,上記の「論法」を正当化してみる:

X に関する選択関数をΦとする. すなわち, Φ :P(X)\ {∅} →X であってΦ(A)∈Aを満たす写像 とする. xn+1xn+1:= Φ({y|xn < y})で定めれば, x1< x2<· · ·< xn<· · · を満たす(xn)n=1 がとれる. (この操作は既に存在が示されている写像Φ を使うので, 有限に生きる我々であっても

(y=f(x) =x3 と同じようにすべての値を実際に確かめなくても)ちゃんと元が定まっていることが

わかる)

 濃度の比較定理8.1については,選択公理と同値な定理である「整列可能定理」から導かれるので, その節でとりあげることにしよう. 選択公理を使わなくても,具体的な形の直積については無限直積 が空でないことは明らかだったりする. たとえば,

λN

R

などであったら, 任意のλ∈Nに対してf(λ) = 0と定めればf はその直積集合の元なので, この直 積集合は空でないことが分かる.

 選択公理の超絶たるゆえんは,空でないどんな変な集合たちを,どんなに多くの直積をとっても空 集合とはならないことを断言してしまうからである.

* * *

 選択公理 ⇐⇒ Zornの補題 ⇐⇒ 整列可能定理という定理に少し触れて,次回かその次ぐらいで 素朴集合論を終えたい.

参考文献

[1] 松村英之 『集合論入門』 朝倉書店

より厳密な集合論を,丁寧に解説したもの.とはいっても難しいことには変わりないから,自分がうまく理解できなかっ た定義やあいまいな理解になっている部分を補う形で,個々を参照するとよいと思う.

[2] 森田茂之 『集合と位相空間』 朝倉書店

参照

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