数学 IB No.2
10月9日配布 担当:戸松 玲治∗
3 集合と写像
3.1 写像
前回は集合の間の基本的な演算(合併,共通部分, 差集合,補集合)について学んだ. 今回は二つの 集合の間の写像について学ぼう. XとY を集合とする. Xの各元xに対して, Y のある元f(x)を対 応させる規則f のことをXからY への写像(map)といって,
f: X→Y と書く. また元を使って書く方法もある:
X 3x7→f(x)∈Y.
ここで二種類の矢印→と7→が出てきたが混同しないようにすること. 7→は元の対応を表す.
集合Xをfの定義域(domain),集合Y をfの終域(target),Yの部分集合f(X)をfの値域(range) と呼ぶ†,ここで
f(X) :={f(x)|x∈X}.
f はX の全ての元をY の中に移すが, Y 全体へ移すとはいっていないので注意すること. つまり f(X)⊂Y は等号ではないかもしれない. また,終域Y がRなどの数の場合は,写像f:X →Y を特 に関数(function)ともよぶ.
空集合についての注意をしておく. 集合Xか集合Y が空集合であるとき,写像f: X→Y の有無 を以下のように決める.
• X=∅,Y =∅のとき,∅の恒等写像とよばれる写像id∅:∅ → ∅が唯一つの写像である.
• X =∅, Y 6=∅のとき,X =∅から部分集合∅ ⊂Y への包含写像とよばれる写像が唯一つの写 像である.
• X6=∅,Y =∅のときは,XからY への写像は存在しない.
問題 11 (各1pt) 次のRからRへの「対応」f は写像か否か判定せよ.
(1) 実数t∈Rをt2∈Rに対応させる.
(2) 実数t∈Rを二つの数1と0に対応させる.
(3) 実数t∈Rをlog(1 +|t|)に対応させる.
(4) 実数t∈Rをt6= 0なら1/tに,t= 0ならば二つの数1と2に対応させる.
(5) 実数t∈Rをt∈Qならば0に,t /∈Qならば1に対応させる.
写像f:X→Y が与えられているとする. A⊂Xを部分集合とする. このときY の部分集合 f(A) :={f(a)|a∈A}
∗http://www.ma.noda.tus.ac.jp/u/rto/sched.html
†この辺りの用語は本によって異なってくるので注意.例えばここでの終域を値域と呼んだりすることもある.
をAのf による像とよぶ. Aをfで送ったもののことである. 空集合の像は空集合であると定める, つまりf(∅) =∅. 次はY の部分集合B⊂Y を取る. このときXの部分集合
f−1(B) :={a∈X |f(a)∈B}
をBのf による逆像(inverse image)とよぶ. X の元のうちf で送るとBに入るものの集まりであ る. ここのf−1は単に記号で後でやる逆写像の意味ではない. 空集合の逆像は空集合であると定め る,つまりf−1(∅) =∅.
問題 12 (各1pt.) 問題11の関数 f に対して, 閉区間[0,1]の像f([0,1]) と, 区間 [0,∞)の逆像 f−1([0,∞))を求めよ.
次の問題はしばしば使われる写像と合併, 共通部分そして補集合との重要な関係である.
問題 13 (各2pt.) f:X →Y を写像とする. A1, A2をXの部分集合,B1, B2をY の部分集合とす るとき,次を示せ.
(1). f(A1∪A2) =f(A1)∪f(A2), (2). f−1(B1∪B2) =f−1(B1)∪f−1(B2).
問題 14 (各2pt.) f:X →Y を写像とする. A1, A2をXの部分集合,B1, B2をY の部分集合とす るとき,次を示せ.
(1). f(A1∩A2)⊂f(A1)∩f(A2), (2). f−1(B1∩B2) =f−1(B1)∩f−1(B2).
問題 15 (1pt.) 問題14(1)で, 等号が成り立たない例をあげよ.
問題 16 (2pt.) f:X →Y を写像とする. BをY の部分集合とするとき,次を示せ:
f−1(Bc) =f−1(B)c
問題 17 (2pt.) f:X →Y を写像とする. AをXの部分集合とする. このときf(Ac)とf(A)cと の間に一般に成立する包含関係はないことを具体例をあげて示せ.
包含関係については次が成り立つ.
問題 18 (各1pt.) 写像f:X →Y に対して,次を示せ:
(1) A1,A2がXの部分集合であってA1⊂A2ならば,f(A1)⊂f(A2).
(2) B1,B2がY の部分集合であってB1⊂B2ならば,f−1(B1)⊂f−1(B2).
次に写像の合成を定めよう. 二つの写像f:X →Y, g:Y →Zがあるとする. このとき各x∈X に対して, Z の元g(f(x)) ∈ Z を対応させる写像をf とgの合成写像(composed map)といって, g◦f:X→Zと書く.
問題 19 (各1pt.) 次の写像f:R→(0,∞)とg: (0,∞)→Rの合成写像g◦f を求めよ:
(1) f(x) = exp(x),g(y) = log(y), (2) f(x) =x2+ 1,g(y) = exp(y), (3) f(x) =|x|+ 2,g(y) =y+ 2.
(4) f(x) =x3,g(y) = 1.
(5) f(x) = 1,g(y) = log(y).
3.2 単射 , 全射 , 全単射
さて写像の性質をいくつか定めよう.
定義 3.1 写像f:X →Y に対して次の性質を定める:
• Xの異なる2元x, x0に対して,常にf(a)6=f(a0)となるとき,f は単射(injective, injection) である‡という.
• fの値域がY と一致するとき,つまりf(X) =Y であるとき,fは全射(surjective, surjection) であるという.
• fが単射かつ全射ならば,f は全単射(bijective, bijection)であるという.
問題 20 (各1pt.) 写像f:X →Y に対して,次を示せ:
(1) fは単射である⇔もしx, x0 ∈Xがf(x) =f(x0)をみたせば,x=x0.
(2) fは全射である⇔全てのy∈Y に対して,f(x) =yとなるx∈X が存在する.
全単射f:X →Y があるとする. 全射性から各y∈Y に対して,x∈Xでf(x) =yをみたすもの が存在し,単射性からそうなるxは1つしかない. よってこの対応y7→xは写像を定める. この写像 をf の逆写像(inverse map)という.
問題 21 (各1pt.) 問題19のfについて,単射性,全射性そして全単射性を調べよ.
問題 22 (各1pt.) f :Z→Zに対して,次の例を挙げよ.
(1) 全射であるが単射でない例.
(2) 単射であるが全射でない例.
ここで全単射を作るときによくやる重要なトリックを学ぼう.
問題 23 (2pt.) xをある集合の元とする. Nにxをあわせてできる集合{x} ∪NとNとの間に全単 射を構成せよ.
次の結果は定理として憶えよう. XがNを含むぐらい大きければ,X から有限個の元を除いても 始めの集合Xと「濃度」(後でやる)が同じということである.
問題 24 (各2pt.) Xを集合,A⊂Xを部分集合で全単射f:A→Nが存在するものとする.
(1) x∈X を任意に取る. XとX\ {x}に全単射を構成せよ(Hint: 問題23).
(2) k個の元x1, . . . , xkを取る. XとX\ {x1, . . . , xk}に全単射を構成せよ.
問題 25 ((1):1pt, (2),(3):2pt.) 次の集合X,Y の間に全単射を構成せよ((2), (3)については問題 24参照.).
(1). X= (0,1), Y = (2,4), (2). X = (0,1), Y = (0,1], (3). X= (0,1), Y = [0,1].
問題 26 (3pt.) R2の単位円をS1と書く,つまりS1:={(x, y)∈R2|x2+y2= 1}. 全単射S1→R を構成せよ.
問題 27 (1pt.) 自然数kに対して,Nの部分集合Ik :={n∈N|1≤n≤k}を定める. k, `が自然 数のとき,全単射Ik →I`が存在するための必要十分条件を求めよ.
‡全射や全単射と同じく,「単射」を形容詞(injective)としても使うし名詞(injection)としても使う.
これまでにいろいろ全単射を構成してきたが,構成できるための必要十分条件は集合の元の「個数」
が等しいことであると理解できるであろう. そして無限個の元を持つ集合の間には全単射を構成しや すいことも分かったであろう. しかしNとRの間には全単射ができるであろうか. 各自よく考えて みよう. 答えはまた後でやることにする.
問題 28 ((1):2pt, (2):1pt.) Nk:={(n1, n2, . . . , nk)∈R2|n1, . . . , nk∈N}とおく.
(1) 全単射N→N2を構成せよ.
(2) 全単射N→Nkを構成せよ(kは自然数).
問題 29 (1pt.) f:Q→N を次のように定める:x∈Q に対し,nx∈Zとなる最小のn∈Nをと り,このnをf(x)とする. この写像は全射であることを示せ.
集合Xの各元x∈Xをx∈Xに対応させる写像をidX:X →Xと書き, Xの恒等写像とよぶ.
これを使うと単射,全射を写像の言葉で次のように特徴づけられる.
問題 30 (各2pt.) 写像f:X →Y に対して,次がなりたつことを示せ:
(1) fは単射である⇔写像g:Y →X がg◦f = idXとなるように存在する.
(2) fは全射である⇐写像g:Y →X がf ◦g= idY となるように存在する§.
(3) fは全単射である⇔写像g:Y →Xがg◦f = idXかつf◦g= idY となるように存在する¶. 問題 31 (各2pt.) 集合X と写像h:X →Xに対して,
h2=h◦h, hn=h◦hn−1 (n= 3,4,5, . . .) とおく. 次の問に答えよ.
(1) Xが有限集合k であれば,あるn∈Nがあって,hn:X →Xが固定点をもつことを示せ∗∗: (2) Xが有限集合でないとき, (1)の反例をあげよ.
問題 32 (2pt.) 集合Xの要素の個数はn+ 1個,集合Y の要素の個数はnとし,全射f:X→Y が あるとする. このときただ一つのy ∈Y に対して,その逆像f−1({y})の要素の個数は2になり, 残 りのy0 ∈Y の逆像の要素の個数は1であることを示せ.
「数学は 無限遠点 恋う心(加藤)
恋うて焦がれて 遙かな旅路(臼井)」
...臼井三平さんという立派な方がいらっしゃって、6年くらい共同研究してたんです。...いろいろやりとりがありましてね。
この方、川柳がお得意なんです。これは臼井さんとのやりとりなんです。方程式で描かれた図形の一番彼方のところに無限遠 点というのがあって、そこの様子をどういう風に理解したらいいのかというのが、いろいろな問題で重要になってくるんです よね。この気持ちを「数学は…」と送ったんです。そうしたら向こうから「恋うて焦がれて…」と返事が来た。これはうまい こと決まったなと思って、この川柳を論文に載せたんです。で、欧文論文なので、フランスの方に説明して訳してもらうこと にしたんです。日本の和歌というのは、寂しげな悲しげな気持ちがどうしてもいつでもメロディーに既に入っているんだ、と 一生懸命説明したんです。人間というのは有限の存在だから無限の彼方にはたどり着くことはできないんだけれども、無限の 彼方に憧れて数学を研究していくんだ、その辺の悲しげな雰囲気も出してくれませんかと。
...警察官に捕まったこともあるんです。これは、大学院生のときでした。修士論文が書けるかどうかの瀬戸際で、普通の人 でもおかしくなるかもしれませんが、私はもともとおかしいもんですから、特におかしくなっていたんです。東京の吉祥寺に 綺麗な駅ビルがあるんですけど、そこを私は歩いていましたら、右と左から警察官がやってきて私の両脇を吊り上げて、つっ つっつーと交番に連れて行くんです。「自分の格好を見てみなさい」と、おっしゃる。見てみると、ほとんど裸だったんです。
うん、でもどうして裸になったのか、わからないんですよね(笑)。
加藤和也「素数の歌はとんからり…」
http://www.s-coop.net/lifestage/backnumber/2004/2004 11/pdf/0411 02-03.pdf
§選択公理を認めれば同値.
¶このときもちろんg=f−1である.
k要素の「個数」が有限であるということ.
∗∗元x∈Xが写像f:X→Xの固定点であるとは,f(x) =xのときにいう.