2012年10月24日 穂刈 享
需要と供給をめぐる不思議な現象を経済学で解明する
参考文献
• E. ラジアー『人事と組織の経済学』日本経済新聞社 (1998)
• D. クレプス『MBAのためのミクロ経済学入門II: ゲーム・情報と経営 戦略』東洋経済新報社 (2009)
• M. サンデル『それをお金で買いますか: 市場主義の限界』早川書房 (2012)
問題1 (ラジアー)
あなたはコンサルティング会社で働くコンサルタントです。ある会社の経営 者が次のような相談を持ってきました。
「われわれは大きな百貨店で、紳士用シャツはシンガポールの工場で生産し ています。労働者はミシンを使用する必要があり、1日5ドルの賃貸料がか かります。平均すると1日4着作れる熟練労働者あるいは1日6着作れる専 門職人を雇うことができます。熟練労働者の人件費は1時間5ドル、専門職 人の人件費は1時間8ドルです。どちらの労働者も1日8時間働きます。ミ シン会社は労働者1人当たりの生産性を2倍に増やす新型ミシンを賃貸して もよいといっていますが、この新型ミシンの賃貸料は1日60ドルです。そ こで2つの問題があります。第1に新型ミシンを借りるべきでしょうか?第 2にどちらの労働者を雇うべきでしょうか?」
問題2
ある大学では、学生は受講する授業ごとに授業料を支払うことになっており、
それぞれの授業に対して受講生の支払った授業料の半分がその授業を担当し た教員に報酬として支払われるという仕組みになっています。1つの授業あ たりの授業料と受講生の数(のべ人数)は、授業に対する需要曲線(右下が り)と授業の供給曲線(右上がり)の交点で決まっています。
授業料 需要 6400円 100人 5800円 150人 4000円 300人
授業料 供給 8000円 300人 6800円 150人 6400円 100人
さて、あるときこの大学の学長が何を思ったのか「学生は学期の終わりに自 分が受講していた授業の教員に1000 円のチップを直接渡さなければならな い」という通達を出しました。大変有難いことに、この1000 円のチップは まるまる教員のものとしてよいということでした。
この通達によって、実は、
• 学生はよりhappyになり、
• 教員もよりhappyになり、
• さらには大学の収入まで増えることになります。
一体何が起こっているのでしょうか?
問題3 (クレプス)
ある村では、11人の自宅所有者がまったく同じタイプの家を所有しており、
各持家の価値はそれぞれ80,000ドルであるとしよう。これらの家は火災が 起これば全焼するというリスクにさらされており、オールド・リライアブル・
インシュランス・カンパニー (ORIC) が火災保険を提供している。各自宅 所有者は自分の家で火災が発生する確率を知っているが、それはORICの知 るところではない。ORICが知っているのは、この11軒の家のうち1軒に ついては(どの家かは分からないが)火災発生確率が26%であり、その他の 10軒の家については火災発生確率が10%であるということである。
ORICは、2つの異なる保険プランを提供している。1つは火災が発生した場 合に保険金として80,000ドルを支払う完全カバーの保険で、保険料は11,600 ドルである。もう1つは、損失を部分的にカバーする保険であり、火災が発 生した場合に保険金として支払われる額は58,400ドル、保険料は5,900ド ルである。つまり、部分カバーの保険に加入した場合、火災が発生しなけれ ば、被保険者には5,900ドルの損失となるが、火災が発生した場合には、
58,400−5,900=52,500ドルの純受取となる。
この村の自宅保有者は全員が期待効用の最大化を図る主体であり、以下のよ うに表される、同じ形の効用関数を持っているとする。
U(x) = √
x + 10,000
ここで、xは事後における純資産を表し、火災が発生しなければ、家の資産 価値を含んだものとなる。たとえば、上述の部分カバーの保険に加入した場 合には、火災が発生しない場合の効用は√
10,000 + 80,000 − 5,900 =
√84,100 = 290 となり、火災が発生した場合の効用は
√10,000 + 58,400 − 5,900 = √
62,500 = 250となる。
さて、ORICに雇われている保険数理士(アクチュアリー)たちの計算による と、部分カバーの保険プランの販売からのORICの利益の期待値はプラスで あるが、完全カバーの保険プランの販売からのORICの利益の期待値はマイ ナスとなるということであった。
この計算結果を踏まえて、ORICの経営陣の1人は、完全カバーの保険プラ ンの販売を止めて、部分カバーの保険プランだけを販売することを提案した。
あなたがORICの経営陣のメンバーだとしたら、この提案に賛成しますか?
問題4 (サンデル)
イスラエルのいくつかの保育園はよくある問題に直面していた。ときどき、
親が子供を迎えにくるのが遅くなるのだ。親が遅れてやってくるまで、保育 士の一人が子供と一緒に居残らなければならなかった。この問題を解決する ため、保育所は迎えが遅れた場合に罰金をとることにした。すると、何が起 きたと思うだろうか。予想に反して、親が迎えに遅れるケースが増えてしまっ たのである。
この現象はどう解釈したらよいのか?