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「平成不況」に見る日本経済

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「平成不況」に見る日本経済

有 泉    哲

1 出発点としての円高転換(ドル高是正)       ル高是正)である。

H 1980年代後半の長期ブームをもたらした要因     1985年9月G5プラザ合意を契機に急激に進展 皿 今回の不況の性格と要因       した円高・ドル安は,基本的には,80年代前半の IVおわりに       レーガノミクス に起因する為替レート・ミス

アラインメントの調整という性格のものであった 1991年春に始まった今回の長期不況も,1994年  が,その変動幅は,プラザ合意当時(85.9)1 に入って漸く回復過程を辿りつつある。今回の不   ドル=240円程度であったものが88年1月には120 況は,不況期間の長さ,落込み幅ともに戦後最大  円台に至るという大幅なものであった。

規模のものであった。不況の長さの点では,これ   この急激な円高に直面して,日本経済は1986年 まで最長の80年代初頭の不況(80.3〜83.2)に  の円高不況に陥ることとなる(3)。この不況は,円 次ぐ30か月の長さとなった。また,不況の深さの  高による輸出の停滞と競合輸入の急増によっても 点では,仮にこれを単年度の成長率で見て,1993  たらされたものであるが,とりわけ,輸出依存度 年度のゼロ成長は,これまで最も深刻であった第   の高い機械諸産業に対して,貿易摩擦の深刻化と 1次石油危機後の不況(74暦年一〇.8%)に次ぐ  も相侯って,輸出主導の成長が限界に直面したこ ものであった。しかも,その間,3次にわたり総   とを強く意識させることとなったω。

額30兆円に登る政府総合(緊急)経済対策の実施   同時に,この間の急激なドルの低落は,日銀の にかかわらず,景気回復に至らなかったことは,  金融政策に対する大きな制約となって,80年代後 今回の不況が上の数値が示す以上に深刻なもので   半の日本経済を特徴づける諸現象を生み出すこと あったことを示しているω。       となる。簡単に経緯を述べておけば,プラザ合意 本稿では,今回の不況が何故そのように深刻な   以降のドル低落の急激さは,政策当局者達の予想 ものとなったのかという点に焦点を当てて,今回   をはるかに上回るものであった。船橋(1988)に の不況のそれ自体としての性格と要因を検討して  よると,プラザ会議で配布された「ノン・ペーパー」

みたい。なお,今回の不況の持つ意味を考えると  にはドルの10〜12%の切下げが「管理可能」

き,これを1970年代半ば以降の日本経済の発展過   (manageable)と記載され,竹下蔵相(当時)は 程の中に位置づける作業が不可欠であり,また,  1ドル=200円のレートに言及したとされている それを,急速に進展しつつある東アジア諸国経済  が,現実の展開は,86年明けに1ドル=200円を のキャッチ・アップとの関連で検討することが必  示した後もドルは急落を続け,87年1月には150 要であるが,これらの点については,本稿と対を  円台に突入する。そして,2月のルーブル合意ま

なす別稿を参照されたいω。      でには,逆に,ドル価値の維持・安定が中心的な 課題とされるに至るのである。当時,「双子の赤 1.出発点としての円高転換(ドル高是正)    字」を続けるアメリカに対して,ドル価値への信

今回の不況に帰結することになった経済活動の  認の喪失がアメリカへの資本流入を停止させ,そ 出発点にあるものは,1985年以降の円高転換(ド  こから生ずる高金利がアメリカ経済を収縮させ

(2)

る㈲と同時に,更には,国際金融不安すら生じか  際金融情勢の下で, ドル暴落 を回避するため ねないとする「ハード・ランディング・シナリオ」  に一定の日米金利差を維持すべく,また,国内金 がしばしば論じられたがそのような危険が現実  利を低めに維持することを望むアメリカからの に存在しうることを示したものが87年10月のニュー  「政策協調」という名の圧力の下で,日本の国内 ヨーク株価暴落( ブラック・マンデイ )であっ  景気が本格的な回復を遂げた以降も,89年5月に た。実際,S.マリス(1987)によれば87年の  至るまで2年3か月の長きにわたって,2.5%の 年間を通じてのアメリカに対するネットの民間資  公定歩合(に示される金融緩和姿勢)を維持しつ 本流入は全く停滞しており,アメリカへの資本流  づけることとなる。この日銀の超金融緩和政策が 入を支えたものは,日本をはじめとする外国通貨   80年代後半の日本経済の展開を規定したもう1つ 当局のドル買い介入であった。      の基礎条件となっている〔6)。

このような中で,国内の円高不況対策とアメリ    ところで,円高不況は86年ll月に底を打った後 カからの「協調利下げ」圧力の下で,日銀は,87  87年には急速な景気回復を遂げ,日本経済は91年 年2月(ルーブル合意に先立って)公定歩合を過   4月まで続く長期ブームを経験することとなる。

去最低の2.5%まで下げていたが,上のような国  これは,その長さからすれば,「いさなぎ景気」

表1 主要経済指標の動向       期 間

?@目 1987年度 1988年度 1989年度 1990年度 1991年度 1992年度 1993年度

G 国   内   総   坐   産   (実 質 ) 4.7 6.0 4.3 5.3 3.6 0.4 O.0

D 国  民   総  生   産   (実 質 ) 4.9 6.0 4.5 5ユ 3.6 0.7 一〇,1

P う  ち  内  需  寄  与  度 5.8 7.1 5.2 51 2.4 一〇,3 0.6

民  需  寄  与  度 5.3 7つ 5.0 4.5 1.9 一 1.6 一〇.7

鉱    工    業    生    産 5.9 8.9 4.3 5.0 一〇.7 一6.3 一4.0 鉱    工    業    出    荷 5.6 8.5 4.6 5.2 一〇.3 一5.4 一3,6

鉱工業生産者製品在庫率(90年=100) * 91.4 85.6 101.2 104.1 113.7 114.6 ll27 製 造 工 業 稼 働 率(90年=100)* 97ユ 101.8 98.9 100.3 96.3 88.4 83.4

第  三  次  産  業  活  動 6.4 6.8 4.2 4.8 2.9 一〇、4 1.2

国   内   卸   売   物   価 一1.7 一〇.5 2.7 L2 0.4 一1.O 一1、8 消    費    者    物    価 0.5 0.8 2.9 3.3 2.8 1.6 1.2

民 間 最 終 消 費 支 出   (実 質 ) 4.1 5.5 3.7 3.6 2.6 1ユ 1.3

民 間 住 宅 投 資   ( 実 質 ) 26.3 4.9 1.0 4.9 一12.1 一3.6 6.0

民 間 企 業 設 備 投 資   (実 質 〉 8.6 16.8 14.3 11.4 3.5 一57 一9.o

公 的 固 定 資 本形 成  (実 質 ) 9.3 O.4 一〇.1 4.3 7.O 167 13.5 マネーサプライ (M、+CD> 平均残高 1L2 108 10.3 102 a6 0ユ 1.5

国債最長期流通利回り (期末値・%) 4.88 5.04 6.94 6.63 5.49 4.60 428 現   金   給   与   総   額 2.0 3.8 42 4.6 3.3 1.4 1.0

就      業      者      数 1.3 1.7 2ユ 1.9 1.8 0.7 O.3

有  効  求  人  倍  率  ( 倍  ) * 0.76 1.08 1.30 L43 1.34 LOO 0.71

完   全   失   業   率   * 2.8 2.4 2.2 2ユ 2ユ 2.2 2.6

輸出 (通関・数量ベース  90年=100) 1.1 5.9 2.6 6.3 18 0.6 一 1,9 貿 輸入 (通関・数量ベース  90年=100) 12.3 13.8 5.8 6.7 2.0 0.2 5.9

経常収支  (IMF方式, 億円) * 116,936 99,018 76,374 47,175 119β14 156,152 140,530      ( 百 万  ド ル 〉   *

相場 (銀行間中心相場平均値・円/ドル)

84,474

P3833

77,274 P28.27

53,398 P42.82

33,716 P41.30

90,222 P33.18

125,900 P24.80

130,491 P07.84 売上高経常利益率 (製造業・%〉 * 437 5.09 5.36 4.75 3.83 2.66 223

(備考) 1.*は水準自体,その他は前年度比増減率(%)。

2.国内総生産,民間最終消費支出,民間住宅投資,民間企業設備投資及び公的固定資本形成は経済企画庁

「国民経済計算」による。

3.鉱工業生産者製品在庫率指数は年度末の季節調整値。

4.輸出入の年度は試算値。

5.経常利益率(製造業)は大蔵省「法人企業統計」による。

(出所)平成4年版及び6年版経済白書。但し,『国民経計算年報』により一部訂正。

(3)

有泉:「平成不況」に見る日本経済       83

に次ぐ戦後第2の長期ブームであった。しかも,  指標を表1に示しておく。

このブームを主導したものは個人消費と設備投資

であった。この間の年平均GDP成長率は5.1%,  H.1980年代後半の長期ブームをもたらした要因 内需成長率は5.9%という高率であるが,それへ   今回の不況の性格と要因を理解するためには,

の寄与度を見ると,上の両者がそのほぼ半ばずつ   それに先立つ80年代後半の長期ブームをもたらし を説明することとなっている。第1次石油ショッ  た要因を検討しておかなければならない。

ク後の不況から輸出主導の回復を遂げて以来,日   そのような要因としてまず第1に挙げるべきも 本の景気循環の1つの特徴は輸出主導のブームと  のは,地価・株価の急騰(資産インフレーション)

いう点にあったのだが久々に内需主導の長期ブー   と バブル の影響である。図1は日経平均株価 ムを経験したことになる。なお,この点では,特   及び六大都市全用途平均市街地価格指数の推移を に設備投資の活発化が顕著であり,87〜90年の3  見たものだが,1985年を基準として,市街地価格 年間にわたる2桁の設備投資成長の結果,設備投   は90年9月のピークまでの問に,株価は89年12月 資比率(対GDP比)は高度成長期並みの(実質  のピークまでの間に,ともに約3倍という著しい 値ではそれを上回る)高さにまで上昇することと  価格の急騰を示している(%これがどれだけのキャ

なった。      ピタル・ゲインを生じたかという点について,

そこで,まず,このような内需主導の長期ブー  『国民経済計算年報』「ストック編」の調整勘定8)

ムをもたらした要因は何であったのか,という点  で見ておくと,土地については86〜90年の5年間 を考えてみたい。なお,87〜93年度の主要経済諸  累計で1,394兆円にも登り,特に87年には415兆

(円)       図1 株価・地価の動きとその背景         (1ggo年3月一100)

45,000

1 } … i i i ・ 廠.,i醐,)i l … 150

40ρ00 R5,000

R0,000

Q5,000

125

P00

V5 20,000

P5ρ00 P0,000

T,000

@ 0

@(%)

@ 6

@ 4

擁諭 誰1 ∴寧lll ll鰯準…呈還ll 50

Q5

O64

l       i      ・

2          I      I       I      I

2

0 1982     83      84      85      86      87      88      89      90      91      92  0X3(年)

(備考) 株価は日経平均株価,地価は市街地価格指数の六大都市全用途平均。

(出所)平成5年版経済白書。

(4)

円とその年のGDP(348兆円)を大幅に上回るキャ  出したものである。1つの参考として引用してお ピタル・ゲインが生じている。また,株式につい  きたいω。

ても86〜89年の4年間累計で569兆円という巨額        図2 利益割引モデル

である。      (単位・千円)      2  本稿にとっての問題は,そのような資産インフ   1.8レーションの実体経済に及ぼした効果にある訳だ   1.6

ェ,その検討に入る前に,まず,資産価格とバ   14       1.2ブルについて簡単に触れておこう。ここで教科    1書的な議論に従えば{9)バブルとは資産価格が   0.8

s場のファンダメンタルズによって決まる理論価   α6

        ズ・!

@      ヘノ P純平均株価

@ し 9 7ρ

  /1

格から乖離することを言う.上の齢価格を「ファ 1:1 層ψ.̲

ンダメンタルズ価格」と呼ぶことにすれば, バ 81  82  83  84  85  86  87  88  89  90  91  92  93(年)

ブル とは,資産価格(地価・株価)が,その上  (出所)浅子ほか(1994)。なお,DDMは理論株価を 昇を予想して行われる投機によって,ファンダメ     指す・

ンタルズ価格を上回って上昇する現象である,と   なお, バブル の大きさがどの程度であった 言い直しても良いであろう。ここでファンダメン  にせよ,この間の激しい資産インフレーションに

タルズ価格は,その資産から生ずる予想将来収益   最も重要な役割を果たしたものは,日銀の超金融 の割引現在価値に等しい。これは,他の資産との  緩和政策である。86年に入ってからの相次ぐ公定 裁定条件を定式化したものであるが,ここでの割  歩合の引下げに示される金融緩和の中で,長期国 引率は,安全資産(例えば国債)の利子率に,当   債利子率は,85年前半期には7%程度の水準であっ 該資産からの将来収益の不確実性に対して投資家   たものが,86年から88年にかけて4.5%程度の水 の要求するリスク・プレミアムを加えたものであ  準へと低下して推移している。上の式において,

る。これを株式について示せば,いま理論価格を  仮に,期待成長率gを4%,リスク・プレミアム P,企業収益をπ,長期国債利子率をi,リスク・  rを2%として計算すると,この間の長期利子率 プレミアムをrと書き,簡単化のため企業収益が  の低下が株価水準を2倍に引き上げたこととなる。

一定の率で成長すると仮定して,その予想成長率   もちろん,これはg,rについて仮定の数値に基 をgと書くと,      ついた議論であるが,長期金利の低下が大きな株

p=  π      価上昇をもたらしたことは確認できるであろう。

@  i十r−9       そして株価・地価急騰の過程に大量の投機資金を となる(1°}。そして,現実の資産価格と上の理論価  供給したものは,金融緩和の下で貸出先の確保に 格との乖離が バブル ということになる。    奔走した銀行であった。

但し,上のgの値は投資家達が将来について予   さて,問題は,このような資産インフレーショ 想する成長率であり,直接に観察可能な訳ではな   ンが実体経済に及ぼした影響である。先に,地価・

い。また,rについても同様であり,かつ,これ  株価上昇によるキャピタル・ゲインの大きさを示 が常に一定であるという保証もない。したがって,  した眠それらは実際に所得として実現した訳で

ファンダメンタルズ価格を厳密に計算することは  はない。しかし,そのような資産価値の増大が消 不可能に近く, バブル の厳密な検出も同様で   費支出を増大させる効果を持つことは,資産効果 ある。しかし,そうは言っても,おおよその目処   として知られているところである。近年の各年度 を立てることは可能である。図2は,浅子ほか  版経済白書がその大きさの推計を行っているので,

(1994)が,いくつかの仮定の下に理論株価を算   それを見ておこう。まず,平成元年版白書は,説

(5)

有泉:「平成不況」に見る日本経済       85

明変数(可処分所得,資産残高),被説明変数  の形で定式化されるが,この間の家計部門のネッ

(消費支出)ともに対数変換した消費関数の推定   トの土地売却に伴う実現されたキャピタル・ゲイ から,金融資産残高の10%の増大が消費支出を1.6  ンは,この式の中には登場してこない。年平均10

%増加させるという結果を導いている。1987〜89  兆円を超えるネットの土地売却益が,当時の「消 年の間の家計部門金融資産残高の伸び率は,それ  費の高級化・高額化」と言われた消費ブームに少 それ13.1%,14.1%,17.5%であるから,これは,  なからぬ役割を果たしたことは疑いを得ないとこ 各年の消費支出を2.1%〜2.7%上昇させたことと  ろであるが,通常の消費関数による資産効果の推

なる。次に,3年版白書は,各変数の対前年増加  計には,このような実現されたキャピタル・ゲイ 分をとって消費関数の推定を行い,その結果から,  ンからの消費支出増は,基本的に含まれていない 家計部門の純金融資産残高の増加が上の各年の消   のである。

費支出増に及ぼした効果を,それぞれ1.7%,1.6   このように考えると,資産インフレーションの

%,L8%と報告している。また,土地資産残高に  消費支出に及ぼした効果は,しばしば指摘される ついては,消費支出に対して有意な効果は及ぼし  ように「あまり大きくない」( 3)という訳ではない。

ていないとしている。更に,5年版白書は,平均   土地売却益からの消費支出増の大きさを確定でき 消費性向を被説明変数とする推定結果から,この  ないので数値をもって示すことはできないが,株 間の純金融資産残高の平均消費性向に及ぼした効  価・地価高騰のもたらした消費支出増は,他の諸 果について,これをそれぞれ1。0%,0.2%,0.4%  条件と結びついて,80年代後半のブームを起動す 引き上げる要因となったと報告しているω。なお,  るに十分な大きさであったと考えることができる。

この間の平均消費性向は85%前後で推移している  そして,起動されたブームが雇用と雇用者所得の ので,上の数値に1.2弱を乗じたものが消費支出  増大をもたらし,これが,事後的に,この間の消 に及ぼした効果ということになる。        費支出成長の基礎的な部分を説明することとなっ

このように資産効果の推計結果は,推定式の定   た,という関係にある。

式化の相違や推定期間等によってかなり幅のある    ところで,株価・地価高騰がマクロ経済に及ぼ 結果となっている。なお,土地資産残高について  す効果は,消費支出を通じた経路のみではない。

有意な結果が確認されないという点は,家計部門   1つに,この期の企業部門の資金調達の顕著な特 の保有する土地の大きな部分は居住用であり,そ  徴は,表2に示されるようにエクイティ・ファイ の評価額が上昇したからといって消費支出増に結  ナンスの急増である。伊東(1989)は,1987年株 びつくという性格のものではない,ということを  価上昇期待が高まる中で,ユーロ市場におけるワ 反映したものと考えられる。但し,家計部門のネッ  ラント債の発行と為替予約を結びつけることによっ トの土地売却額は87年以降著増しており,87〜90  て,実質マイナスの金利で資金調達を行うケース 年の4年間累計で53.4兆円にも登っている。そし  が頻発したことを報告しているが,これは極端な て,その大きな部分が地価高騰によってこの間に  ケースとしても,当時の株価急騰は,企業がエクィ 生じたキャピタル・ゲインの実現したものである。  ティ・ファイナンスを通じて低コスト資金を大量 このような資産売却益は,国民所得統計において  に調達することを可能とした。同表に見られるよ 資本勘定に計上されるものであり,可処分所得に  うに,調達資金の大きな部分は 財テク に運用 含まれる訳ではない(負の貯蓄に相応する)。ま  され, バブル の膨張に寄与することとなるが,

た,この売却益が資産残高に含まれないことは言   しかし,企業の実物投資額は内部資金を上回って うまでもない。一般に,消費関数は,       おり,この間の資金調達コストの低下が投資を促 C=αYd+βW+γ       進する方向に作用したと言うことはできる。2つ 但し,Yd:可処分所得, W:資産残高   に,平成6年版経済白書は企業の「リスク許容力」

(6)

表2 資金運用・調達動向(増加額ベース)     (単位 兆円,%)

全産業 62年度 構成比 63年度 構成比 元年度 構成比 2年度 前年度 構成比 3年度 前年度比 構成比

実 物 投 資A 10.5 58.2 13.4 56.9 19.0 54.5 22.2 17.0 93.3 23.4 5.2 100.1 設 備 投 資 9.8 54.2 11.2 47.5 15.7 45.2 17.9 13.9 75.3 19.8 10.3 84.7

在 庫 投 資 0.7 4.0 2.2 9.4 3.2 9.3 4.3 32.3 18.0 3.6 16.2 15.4 金 融 資 産B 9.1 50.2 11.6 49.4 17.9 51.4 3.2 △82.4 13.3 △0.7 △3.0 現  預  金 5.9 32.8 7.7 32.8 9.5 27.3 △5.8 △24.3 △4.9 21.2

短期所有有価証券 0.7 4.0 0.4 1.9 1.2 3.5 1.1 △8.1 4.7 1.1 1.5 4.9 投資有価証券 2.1 11.4 3.0 12.7 4.8 13.8 4.6 △4.3 19.4 2.1 54.7 9.0

関係会社分 L2 6.4 1.8 7.8 3.2 9.2 3.8 19.1 15.9 2.5 33.7 10.8

その他とも計 18.1 100.0 23.5 100.0 34.8 100.0 23.8 △3L6 100.0 23.3 △2.0 100.0 内 部 資 金C 9.7 53.4 11.0 46.6 14.3 40.9 15.0 5.3 63.0 15.4 2.6 66.0

減 価 償 却 7.4 40.8 7.7 32.9 10.4 29.7 !!.1 7.0 46.6 12.2 10.1 52.3 内 部 留 保 2.3 12.5 3.2 13.7 3.9 11.2 3.9 0.5 16.4 3.2 18.6 13.7

外 部 資 金D 8.4 46.6 12.6 53.4 20.6 59.1 8.8 △57.2 37.0 7.9 △9.9 34.0 借  入  金 1.3 7.3 3.5 15.0 3.8 11.0 3.7 △2.8 15.6 1.7 54.1 7.3

調 普 通 社 債 0.0 △0.1 △0.3 △1.2 △0.6 △L6 2.1 8.7 3.8 84.7 16.4 エクイティ・ファイナンス 7.1 39.4 9.3 39.7 17.3 49.7 3.0 △82.6 12.6 2.4 20.6 10.3 転 換 社 債 1.7 9.2 1.0 4.3 3.2 9.1 △0.1 △0.6 0.3 1.2

ワラント債 2.0 11.2 3.1 13.3 6.8 19.5 1.5 △77.5 6.4 1.5 △3.1 6.3

増    資 3.4 19.0 5.2 22.1 7.3 21.1 1.6 △78.0 6.8 0.6 61.2 2.7 参考       (注)  資金過不足(△)

△0、9(△0.3) △2.4(△0.8) △4.7(△1.4) △7.2(△2.0) △8.0(△2.2)

(注)1.資金過不足=貯蓄・投資差額(C−A)=金融資産・負債ネット増減額(B−D+企業間信用)

2.()内は対売上高比率。

(出所) 日本銀行(1992)。

に言及している。これは,企業保有の土地・株式  作用したことは間違いないが しかし,それが当 の価格上昇(含み益の増大)カ㍉新規事業等の投   時の設備投資活発化の主因だった訳ではないとい 資プロジェクトに伴う経営上のリスクに対するバッ  う点は,付言しておかなければならないω。

ファーとして機能することによって,企業のリス   80年代後半の内需主導のブームに帰結した第2 ク態度を積極化させることとなった,とする議論   の要因は「円高差益」である。先に,1985年から である。これを言い換えれば投資プロジェクト  88年にかけて急速な円高の進行したことを確認し を評価するに際して,同一のリスクに対して企業   たが円高は輸入品価格の低下を通じて国内実質 の要求するプレミアムが低下することによって,  所得(購買力)の上昇をもたらすこととなる。そ よりリスクの高いプロジェクトをも実施するに至っ  の大きさを,それぞれ前年と同一の輸入数量を購 たということになる。       入するのに必要な金額がどれだけ低下したかを計

但し,マクロの実証研究は,一般に,投資の利  算して示すと,86年には,9.5兆円,87年には1.6 子弾力性はあまり高くないことを示している。ま  兆円,88年には1兆円という額になる。これの消 た,「リスク許容力」の議論について言えば,事  費者への還元が十分であったかどうかは別として,

後的に見てリスクの高い事業に投資していたこと  これだけの国内実質所得増が生じている。但し,

は事実であるカ㍉当日毛現実にリスク態度の変化   この要因は円高不況からの回復過程には少なから が生じていたという点が実証されている訳ではな  ず寄与しているがその後のブームを主導した要 い(むしろ,リスク自体の過小評価があったよう  因という訳ではない個。

に思われる)。上の2点が投資を促進する方向に   80年代後半の長期ブームをもたらした第3の,

(7)

有泉:「平成不況」に見る日本経済      87

そして中心的な要因は,活発な民間企業の設備投   回ってかなり高い稼動率水準で推移したことが示 資である。これが70年代半ば以降の時期としては  されている。このような稼動率上昇の1つの基本 異例な高まりを示したことはすでに指摘した。こ  的要因は消費需要の拡大であり,それが加速度原 のような活発な設備投資をもたらした第1の要因  理を通じて投資の活発化を導いたという点が確認 は,上に述べたようにして始動された消費の拡大   できるであろう。

である。一般に,設備投資関数の推定において最    この期の設備投資を促進した第2の要因は,地 も説明力の高いものは加速度原理型の投資関数で  価・株価の高騰によって生じた資金コストの低下 あることは良く知られている点である。図3は製   と「リスク許容力」の増大である。これについて 造業稼動率指数の推移を示したものであるが,見   は,すでに触れたところである。

られるように,製造業全体として80年代前半を上   設備投資活発化の第3の,そして第1と並んで 中心的な要因は,企業の内需転換努力である。先

図3 稼働率指数の推移      にも指摘したように,1985年以降の円高転換は,

(85年≡100) 日本経済に対して70年代半ば以降の外需依存型成

115 110

       一  一  軸

@              、 長が限界に直面したことを示すものであったが,

アのことは,とりわけ輸出依存度の高い機械諸産

105 C 業において強く意識されたところであった。そし

諮職ノ/囚今㍉

N\》麟\       \し/躰財側轍㈱

て,企業は輸出市場に取って代わる国内市場の開 に本格的に取組むこととなる。そこでの取組み フ具体的な内容は,新商品開発(製品の多様化,

k@能化,高級化),新規事業分野進出,販売部 蛯フ強化・拡張の3点が中心であるが,これらが サれに伴う「自律的」投資の拡大を導びくことと 801H皿MH皿NIHmwlH皿MHmM皿Nlu皿M皿MH皿wI なる。そのような「自律的」投資の活発化は,表

Ll983」  L84 」  L 85 」  L86 」  L87 」  L 88 」  L89 」  LgO 」  Lg1 」  Lg2 (年)

3にその一端を見ることができる。そこでは,研 備考)1・通商産業省「通産統計」により作成。     究開発目的の設備投資のシェアが86年に急増し,

2.加工型業種は機械工業,素材型業種は製造       3年間にわたって高いシェアを維持しているが,工業から機械工業をウエイトで除いたもの。

R.資本財(除く輸送機械)は一般機械工業で   これは・当時の新商品開発の努力の大きさを示す 代表した。       ものである(16)。今日明らかとなっているように・

(出所)平成4年版経済白書。       この期の取組みが企業の高コスト体質化を押し進

表3 製造業設備投資の目的別内訳の推移(主要短観ベース)

(単位 %)

55年度 56年度 57年度 58年度 59年度 60年度 61年度 62年度 63年度 元年度 2年度 3年度 設備投資伸び率

@(前年度比) 28.8 10.6 L9 △8.2 13.4 13.2 △ll.9 △2.2 28.0 22.1 19.6 3.0 増産・拡販 31.3 30.2 26.3 27.9 32.6 30.6 25.7 27.6 33.9 37.1 36.5 35.0

合理化・省力化 21.7 22.3 25.3 26.9 23.9 22.3 23.2 22.6 20.5 19.4 19.7 19.7 研究・開発 14.0 14.7 17.4 18.7 19.7 21.8 25.7 25.6 23.6 21.6 21.7 21.6

そ  の  他 33.0 32.8 31.0 26.5 23.8 25.3 25.4 24.2 22.0 21.9 22.1 23.7

(出所)日本銀行(1992)。

(8)

め,新規事業分野進出の失敗と相侯って,今回の  年末のピークから92年8月のボトムにかけて63%

不況において企業収益を著しく圧迫することとな  の急落を示し,市街地価格は,90年9月のピーク るのだが,当時は バブル ・ブームとでも呼ぶ  から93年3月にかけて32%低落して,なお93年いっ べき消費需要成長の中で,これらはことごとく成   ぱい低落を続けている。このような資産価格の急 功を治めたように見えていた。      落は,先に述べたところと逆の経路を辿って,日

そして,以上に述べてきた諸要因によって起動  本経済を不況へと導くこととなった。

された長期ブームの中で,企業の期待成長率が高    ここで,逆資産効果等について,先に述べた経 まり,一層の投資拡大を導くこととなるのだが,  路を繰り返して述べる必要は無いであろう( 7)。こ その点については後述する。       こで触れておくべき新たな問題は企業の「バラン

スシート問題」である。先に表2で確認したよう 皿 今回の不況の性格と要因       に,  バブル ・ブーム期に企業は資産と負債を 以上,80年代後半の長期ブームをもたらした要  両建てで積み上げてきた訳だが,株価・地価の急 因について述べてきたが,そこで最も重要なもの  落と,更にはその一部の不良資産化によって,企 は,資産インフレーションと バブル である。  業部門のバランス・シートの悪化が生じている。

その直接の効果の大きさについては議論のあると  これは不動産業及び金融機関に特に顕著であるが,

ころであるが,しかし,それが消費ブームの起動  全体として企業の「リスク許容力」の低下をもた 因として果した役割を過小評価する訳には行かな  らし,投資を抑制する方向に作用している。

い。同時に,このように起動された消費ブームが,   なお,これを銀行部門について見れば,そこで 外需依存成長の限界に直面した企業に対して,内   の不良資産の堆積(18)が,BIS規制とも相侯って 需転換努力の表面的な成功に導き,それに伴う設    クレジット・クランチ を惹き起こしていると 備投資の活発化を惹き起こした。そして,このよ  する議論がある〔19)。そのような銀行の「貸渋り」

うな内需成長が,加速度原理を通じて一層の投資  が生じているとすれば,それは貸出金利と調達コ 成長を導いたというのが,そこでの基本的な構図  ストの差である利鞘に反映されることとなる。図 である。       4はこれを限界(新規実行/調達)ベースで見た

このように考えることは,すでに,そこに今回   ものである。見られる通り今回の金融緩和局面に の不況の性格と要因について一定の結論を含むも  おいてかなりの利鞘拡大が生じている。しかし,

のである。以下に,その点についていま少し敷術  その度合いは80年代初頭の金融緩和局面を若干下 して述べておきたい。       回る程度であって,今回,特に顕著な利鞘拡大が さて,80年代後半の長期ブームも91年春には終  生じているという訳ではない。このことは,銀行 焉し,今回の長期不況へと移行することとなる。  の「貸渋り」を否定するものではないが⑳,  この転換をもたらした直接の要因は89年5月から  レジット・クランチ が今回の深刻な不況の主因 翌年8月にかけて6.0%まで引き上げられた公定  であるといった主張は首肯できないことを示して 歩合に示される日銀の金融引締めである。金融引  いる。

締めが不況の契機となるという点は,戦後の景気   第2に,今回の不況の長期化・深刻化を直接に 循環に通常見られたパターンであるが,今回の場  規定しているものは企業部門の設備ストック調整 合,それに引き続いたものは戦後最大規模の不況   である。一般に設備投資循環の不況局面は通常の であった。      短期循環の不況局面に比べて長期化,深刻化する このような不況の長期化・深刻化をもたらした  ことが知られているが,今回の場合は特に,その 第一の要因は,  バブル の崩壊と資産デフレー  調整過程を深刻なものとする要因が作用している。

ションである。図1に見られるように,株価は89  すでに確認したように,1980年代後半の内需の急

(9)

有泉:「平成不況」に見る日本経済       89

図4 利鞘の推移

(%)

3.

2.5

2.

利鞘(都銀・地銀・地銀H)

L5

1.

経費率(全銀)

0.5

L55年一一56⊥57⊥58⊥59⊥60⊥61⊥62一一63−^一元一L2 3⊥−4−一5

(注)1.経費率=経費/預金・CD・債券平残

2.利鞘については,貸出金利(貸出約定平均金利く新規分全銀・総合〉)から調達コスト

(都銀・地銀・地銀∬合計〈除く経費率〉)を控除したもの。

(資料)日本銀行「経済統計月報」,全国銀行協会連合会「全国銀行財務諸表分析」

(出所)日本銀行(1993)。

(1前年比 %)  図5 資本ストック循環と期待成長率(全産業べ一ス)

35 \  \  〈5%成長〉        〈10%成長に相当する中期軸〉   、      、

       、

  、      、      、

\  、  \       66年度

・〈3%成長〉\  \      ・、、

、         、         、

q2%成長〉  \

、       、

@      、

@      、A      、      、

、      、

A         、         、 、    90      

、         、         、 、       、       、

10 、         、         、 A         、

A         、 A         、

、       、 W0、       ・、 、       、       、

、         、      、      、 A      、      、       、      、

5 @     、      、       、 A         、      、・     ・     、     \    91      、、・   83   、   ・、       、      、

0 、      、、      、      、      、、

、       、      、       、      、

̲     \、  77 \       ・       、

A      、    、

一5

、      、       、 A       、      、       、

A       、      、       、

\93/王 92 \      71

、       、      、      、

一10 、       、      、      、

、       、       、       、 A      、      、      、

・15

7     8     9     10    11    12     13    14     15    16     17     18     19

(1/K比率1期前 %)

(注)1は設備投資,Kは資本ストック。

(資料)経済企画庁『民間企業資本ストック統計』『国民所得統計』

(出所)日本銀行(1994)。

(10)

蹴獣鰹灘諜畿寺藻 (÷)*一(養)*+δ一(÷)・+γ+δ

要の高成長は長期的に持続可能なものではなかっ   となる。ここで,景気循環に応じて変動する現実 たことは明らかであるが,当時,それは企業の期  の投資率は,

蟹㌣鍬態細夢も騨惣ぞ  長渥一(1+劉七

バブル 的な需要の拡大に対応した過大な資本   と分解できるが,右辺の1+投資成長率と1/K ストックが形成された訳である。         比率が,上の(1/K)*を通る直角双曲線を軸

この点を日銀(1994)の示す図5によって確認   に循環することとなる。

しておこう。資本ストックをK,その除却率をδ,   以上を念頭において同図を見てみよう。高度成 投資を1,GDPをYと書くと,資本ストック成  長期には10%成長を軸に循環していた資本ストッ

1⊆=⊥_δ      て循環している。そして,80年代後半について見 K  K       れば,これが5%成長軸へと期待成長率のシフト となる。資本係数K/Yに上昇トレンドがあるの  が生じており,  バブル の崩壊とともに,その

で,これを一定と仮定してγで表わすと,     下方修正が生じていることが確認できるであろう。     ●      ●

K  Y       このように,過大な期待成長率の下方修正の生

『一一 γ

    K  Y       じていることが,設備ストック調整の幅をそれだ      ●となる。いま,中長期的な期待成長率(Y/  け大きくしており,今回の不況の長期化,深刻化

Y)eが与えられたとき,望ましい資本ストック  の基本的な要因となっている。     ●成長率を(K/K)*,これに対応する投資率を   第3に,以上に加えて,1993年春以来の円高の

(1/K)*と書くと,上の両式より,       影響がある。図6は,吉川(1992)第6章に基づ

(円/ドル)      図6 均衡為替レートの推移

100 均衡為替レート

(貿易財の購買力平価に基づく円ドルレート)

150

200

250

300

現実の為替レート

350

74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93(年)

(備考)経済企画庁「国民経済計算」,大蔵省「貿易統計⊥日本銀行「卸売物価指数」,米国商務省「Annual Survey of Manufactures」により作成。

(出所)平成6年版経済白書。

(11)

有泉:「平成不況」に見る日本経済      91

いて平成6年版経済白書の試算した貿易財の購買   り方を考えるとき,無視できない重要性も持つも 力平価である。見られるように,93年に入って,  のである。

日本の平均的な輸出産業の競争力を上回る水準へ   同時に,85年以降の円高転換の中で急増した日 の円高が生じている。このことが,すでに大幅な  本からの海外直接投資をも1つの重要な推進因と 悪化を示していた企業収益を更に圧迫すると同時   して,東アジア諸国経済の急速なキャッチ・アッ

に,国内生産の海外生産への代替,製品輸入の拡   プが進展している。93年春以来の円高が今回の不 大を通じて,不況の一層の長期化,深刻化をもた  況の一層の長期化・深刻化をもたらしたことの背 らすこととなったω。       後には,このような東アジア諸国経済のキャッチ・

アップの進展がある訳だが,そこで展開する国際

】V おわりに      的な比較優位構造(競争力構造)の変化が,「平 以上,1980年代後半の長期ブームをもたらした  成不況」後の日本経済のあり方を考えるとき,も 要因の検討を通じて今回の不況の性格と要因を考   う1つの重要な論点を提示する。

えてみた。上に述べたように今回の不況の長期化,   本稿では今回の不況の直接の要因と性格の検討 深刻化をもたらした要因は3点であり,それらが  にとどめ,これらの点については,稿を改めて検 今回の不況を性格付けることとなるが,そのうち  討することとしたい。

最も基本的なものはブーム期に積み上がった過大 な資本ストックの調整という点にある。そして,  注

そのような過大な資本ストックの積上りをもたら  (1)1992,93年度の経済成長に対する政府支出の寄与 したものは,株価・地価急騰を起動因とする言は    度は,それぞれ1.4%,1.3%であり,実現した成長 バブル 的な内需の急拡大であった。       率からこれを差し引くと,−1.0%,−1.3%の2年

これを,より長期的な視点から見れば,今回の    度にわたるマイナス成長となる。

経験の出発点となった1985年の円高転換は,日本     なお,景気の回復期に入りつつある94年2月に 経済に対して,70年代半ば以来の外需依存型成長    は,更に15兆円の総合経済対策が決定されている。

から内需主導型成長へとその構造転換の課題を提   (2)有泉(1995)。

起するものであった。そして,80年代後半の長期  (3)円高不況期には特に失業率の上昇が顕著であり,8 ブーム期は,日本経済がその課題を見事に成し遂    7年5月には3.1%(季調値)のピークを示してい げつつあるように見えた時代であった。当時,そ    る。

のような見解はしばしば表明されたところであり,  (4)なお,円高不況期のもう1つの特徴は,製造業に 例えば,昭和63年版経済白書は,その前文におい    おいてかなり深刻な不況であったにもかかわらず,

て「望ましい形の内需主導型経済が実現していま    非製造業は堅調に推移したという点にある。

す」㈱と述べ,「むすび」では「民間経済主体,と  (5)これは,累積する対外赤字に対する市場による強 りわけ企業の柔軟な適応力こそ,急速な景気上昇,    制的な解決策としての不況であり,このような資 内需主導型成長の基礎となっている」(23)と記して    本流入の停止と国内経済の圧縮とは,メキシコ,

いる。このような流れから見たとき上の検討が示    ブラジルといった重債務国に現実に生じたところ す今回の不況の持つ意味は,まず第一に,80代後    である。

半の内需主導のブームも,基本的に,一時的な要   (6)この経緯は,80年代前半の レーガノミクス 因によってもたらされたものであって,長期的に    日本において(後述する) バブル に帰結したこ 持続可能な内需主導型成長へと構造転換を成し遂    とを意味している。

げたものではない,という点を明らかにしたこと  (7)このうち,地価については,80年代の東京一極集 にある。このことは,今後の日本経済の発展のあ    中の動きの中で,都心3区のオフィス不足を反映

(12)

して,83年頃から都心商業地価格の上昇が始まり,    なお,平成6年版白書でも同様の推定を行ってお それが周辺へ波及する動きを示している。また,    り,そこでは推定された係数が5年版より小さく 後に図示するように,すでに83年頃から株価に    なっていることを反映して,0.46,0.42,0.54とや

バブル が生じていたとする見方もありうると    や小さな効果が報告されているが,しかし,88,

ころである。但し,地価・株価ともその急騰を示     89年の資産効果は87年と同程度か,これをやや上 すのは,日銀が金融緩和を押し進めた86年以降の     回る大きさとなっている。

ことである。      (1鋤 例えば,吉川(1993)24ページ

(8)これは統計上の不突合等の調整を含むものである   ⑳ なお,日銀の金融緩和による資産価格急騰の過程 が,その基本的な部分は価格変化による再評価に     で,もう1つ実体経済に少なからぬ影響を及ぼし 伴う調整額である。       たものは住宅建設である。87年には貸家建設を中

(9)株価が市場のファンダメンタルズによって決まる    心としてGDP成長に対して1.3%の寄与度を示し 理論的均衡価格を持つという議論について,これ    ている。また, バブル の崩壊によって,91年に が新古典派的な特殊な仮定に基づくものであると    はGDPを0,7%引き下げる要因として作用した。

いう点については,三輪(1990)に興味深い指摘   ㈲ 円高の進行に際して,輸出企業はそのすべてをド がある。但し,理論の検討を目的としていないこ    ル建価格に転稼することはできず,円建価格を切 こでは,その「便利さ」から教科書的な議論に従     り下げることとなる。これは交易条件を低下させ うこととする。       る要因であり,国内実質所得を減少させる方向に

㈹ ここでの理論的枠組の下では,πのすべてが配当    作用する。この大きさを同様にして計算すると,

される場合も,その一部が留保されて設備投資に    それぞれ5.4兆円,L9兆円,0.9兆円となり,目立っ 回る場合も(このとき,現在の配当が減少する分,    たネットの「円高差益」(国内実質所得増)の生じ 将来の配当が増大する),理論価格は同一である。     ているのは86年の4.1兆円のみとなる。なお,上の

(11)1990年の株価急落と91年以来の地価低落を経験し     計算は石油価格の低下をも「円高差益」に含めて た今日から見れば,当時の資産市場に バブル      いる点には注意が必要である。

の発生していたことはほぼ間違いないように思わ   (1⑤ 「新商品開発」と言っても,当時の焦点が全く新 れる。但し,研究者の間で全く意見が一致してい     しい製品の開発にあった訳ではない。「多品種少量 るという訳ではない。例えば舟岡(1990)は,企    生産」を一層押し進めることによる既存の製品の 業の保有する株式・土地の未実現のキャピタル・    多様化・差別化によって,あるいは,しばしば ゲインを含めて企業収益を調整すれば,株価上昇      オーバー・テクノロジー と言われたように既 は説明可能であるとする議論を行っている。また,    存の製品に様々な余剰な機能を付け加えることに 植田(1992)は,株価については バブル の発     よって,何とか新たな国内需要を開拓しようとし 生していた可能性が高く,地価については金利低     たのが,当時の「新商品開発」の基本的な内容で 下と賃貸料上昇率の上昇で説明できる,としてい    ある。

る。これに対して野口(1992)は,地価について   (1の 逆資産効果について言えば,先に言及した中では バブル の発生を主張している。      最も小さな資産効果を報告している平成5年版白

(1⇒ これは,平均消費性向を実質可処分所得成長率,    書でも,90〜92年の消費成長率を年平均0.7%引き 純金融資産残高の対可処分所得比及び「消費者の     さげる要因となったと報告している。また,企業

リスク態度」に回帰したものであるが,純金融資    のエクイティ・ファンナンスについて見れば,株 産残高対可処分所得比は,88,89年に,この結果     価急落はそれを停止させたばかりでなく,既発行 に示されるような低落を示している訳ではない。    の転換社債・ワラントの株式転換・引受権行使の 88,89年の数値に不整合があるように思われる。    不調を導き,そのより高い金利での乗換えを迫る

参照

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第 5

( 同様に、行為者には、一つの生命侵害の認識しか認められないため、一つの故意犯しか認められないことになると思われる。

 PCV内部調査時に、常設監視計器の設置に支障となる干渉物