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地域社会における民俗の変容

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愛知淑徳大学現代社会学部詮集 創刊号 1996

89

地域社会における民俗の変容

一長野県木曾郡楢川村の正月行事一

谷 沢

1、調査研究の概要  はじめに

 本稿は、長野県木曾郡楢川村における正月行事の実態調査にもとづき、住民の属性により伝 統行事がどのように変容したかを考察するものである。本調査は、平成3年1月に、楢川村教 育委員会村誌編纂室の協力をえて実施したものである。調査対象は、村内居住1,153世帯の世 帯主の全数調査である。有効回答は、970件で84.1%に相当する。

 調査内容は、属性に関して居住地、居住時期、出身地、菩提寺、職業、年齢、家族構成の7 項目を、内容に関しては正月準備について(10問)、大晦日のすごしかた(8問)、大正月につ いて(10問)、小正月について(12問)の合計40設問を準備した。調査方法は、質問紙(巻末 資料参照)を配布し、回答を対象者自らが選択記入し、のちに質問紙を回収する形式である。

またアフターコーディングとして土地、家屋の所有形態を属性の1つに加え、40設問を8属性 ごとにクロス集計をおこない、正月行事をとおして地域社会における民俗の変容を明かにしよ うと試みた。

 なお本調査は、筆者の関わる『楢川村誌』民俗編編纂の基礎資料収集を第1の目的としてお こなわれたもので、集計結果の数値データ集を中間報告としてまとめた。しかし本稿のテーマ とする民俗の変容という観点からは考察をしていないため、今回、若干のまとめをおこなうも のとする。

 地域の概況

 楢川村は、長野県の南西部木曾郡の北端に位置し、東西8.5km、南北26.3km、総面積108.2k㎡

の山村である。村の大半は急峻な渓谷で、海抜は830−−2,296mと高く、可住面積は1.5k㎡と少 ない。気候は、四季をつうじて冷涼多雨で、降雪を10月中旬から5月初旬までみる風土条件で

ある。

 歴史的にみると、廃藩置県以前は尾張藩の領するところで、近世は中山道が村の中央を南北 にとおった。集落は、主として中山道に沿って発達し、日本海と太平洋の分水嶺である鳥居峠 のふもとに宿場の歴史をもつ奈良井が、奈良井の北方に木曾漆器の伝統産業をもつ平沢が、平 沢の北にやはり宿場として成立した賛川がある。また伊那から木曾薮原へぬける権兵衛街道が

(2)

蟄川地区 平沢地区

奈良井地区 23.7% 41.3% 35.0%

江戸時代 明治時代 大正時代 昭和戦前 昭和戦後

26.4% 19.0% 7.4% 10.3% 36.9%

楢川村 木曾郡内 長野県内 その他

76.3% 7.7% 11.9% 6.8%

村の南方をとおり、権兵衛峠から姥神峠のあいだにも小集落が点在する。

 産業は、奈良井の曲げ物細工、平沢の漆器製造および販売業が発達し、山村でありながら第 1次産業の比重が少ないことを地域の特色としている。行政的には「村」でありながらも住民 の暮らしのたて方はいわゆる「マチ」に類似している点がみられ、民俗の保持のしかたにその 影響があらわれ、伝統行事の変容の多様性がうかがえる。

2、回答者の属性からみた地域特性  回答者の属性

 回答者の属性について、構成比を示すと〈表1>のとおりである。

〈表1> 回答者の属性

居住地(有効回答:958)

あなたの家はいつころからこの土地に住んでいますか(有効回答:916)

あなた(世帯主)の出身地はどちらですか(有効回答:957)

あなたの家の属する菩提寺、教会などはどこですか(有効回答:891)

浄竜寺 土真宗

長泉寺

sエ宗

大宝寺 ユ済宗

法然寺 土宗

専念寺 土真宗

観音寺

^言宗

鴬着寺

sエ宗

その他

4.0% 29.5% 10.4% 8.6% 17.8% 17.1% 3.0% 9.4%

自営業 会社員

公務員 無職

その他 33.2% 35.1% 8.7% 18.7% 4.3%

20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上

0.9% 7.0% 19.7% 28.2% 24.2% 19.9%

あなた(世帯主)の職業は何ですか(有効回答:950)

あなた(世帯主)の年齢は(有効回答:957)

楢川村にお住まいの家族構成はどのようになっていますか(有効回答:930)

単身者   夫婦のみ  子供が独立した夫婦

夫婦と子供

夫婦と子供と親

その他

4.5%         12.0%        8.6%

34.2% 27.7% 12.9%

(3)

地域社会における民俗の変容  91

 地域特性

 回答者の居住地は、宿場としての伝統をもつ賛川、奈良井地区が59%、伝統的漆器産業の産 地である平沢地区が41%である。

 居住の時期は江戸時代が26%で、残りは近世以降の居住である。地域において古い町並みが 残るものの、必ずしも住民は古くから住み続けているとは限らない。戦後になってから住むよ

うになったイエも37%を占めている。

 世帯主の出身地の74%は村内で、回答者はおおむねこの土地の習俗のなかで暮らしてきた 人々である、と規定できる。

 菩提寺等の宗派別内訳は、もっとも多いのが禅宗の43%で、次いで浄土真宗22%、真言宗17%、

浄土宗9%となっている。

 世帯主の職業は、会社員がもっとも多く35%を占め、次いで自営業の33%となる。ほかは無 職、公務員等で、農林業に携わる人の比重は低い。

 回答者の年齢層は、40・一一・60歳代が72%を占めている。また70歳以上が20%ほどみられる。30 歳代以下の世帯主はわずかである。

 家族構成は、夫婦のみが21%、夫婦と子供の2世代が34%、夫婦と子供と親の3世代が28%

となっている。

 以上が、回答者の属性からみた地域特性で、あわせてこれは民俗を保持する基盤と条件づけ

られる。

 土地、家屋の所有形態

 儀礼伝承のひとつである年中行事の調査においては、生産基盤の把握がとりわけ重要になる。

本調査においては、世帯主の氏名の記入のあった質問紙を、役場資料にもとづき土地、家屋の 所有形態を調べ、7つのタイプに分類し〈表2>の結果をえることができた。

〈表2> 土地、家屋の所有形態

土地、家屋等の所有形態(アフターコーディング)(調査件数:794)

Aタイプ Bタイプ Cタイプ Dタイプ Eタイプ Fタイプ Gタイプ その他

3.3% 16.8% 9.2% 12.3% 21.2% 12.7% 4.9% 19.6%

[所有形態の凡例]

Aタイプ 家屋+宅地+畑+山林+原野+田を所有 Eタイプ 家屋+宅地を所有 Bタイプ 家屋+宅地+畑+山林+原野を所有 Fタイプ 家屋のみ所有 Cタイプ 家屋+宅地+畑+山林を所有 Gタイプ いずれも所有せず Dタイプ 家屋+宅地+畑を所有 その他 その他の所有形態

 この結果にあらわれるよう、楢川村においては田を所有するイエが少ないことが特徴である。

農耕は、B〜Dタイプにみられるよう畑作が中心であるが、これも副業的な意味合いが強い。

(4)

はい

以前は日を決めてやっていた 煤払いはやらない その他

42.3% 29.4% 25.5% 2.8%

臼を利用 餅つき機を利用 餅は購入する その他

19.6% 57.7% 22.4% 0.3%

エビス、ダイコク

歳神 水神

仏壇

トコノマ

その他

63.4% 73.8% 32.2% 69.7% 81.6% 18.8%

はい

以前は日を決めてやっていた 松迎えはやらない その他

39.6% 29.0% 25.3% 6.1%

はい

以前は日を決めてやっていた とくにやらない その他

63.7% 13.2% 21.5%

1.7%

台所の柱

ロジ

神棚 大戸口(玄関)

水神

その他

11.0% 7.7% 83.2% 79.8% 28.9% 17.6%

麻 銭 昆布 ダイダイ その他

14.6% 6.8% 15.0% 36.4% 59.7%

はい

以前は肚決めてやっていた しめ縄は購入 しめ縄は飾らない その他

23.9% 14.5% 43.1% 14.9% 3.6%

一方、耕地をまったく所有しないE〜Gタイプのイエが39%ほど含まれており、これがもうひ とつの地域の特徴として指摘できる。

3、正月準備について  回答結果

 正月準備についての設問と回答結果の概要はく表3>のとおりである。

〈表3> 正月準備について

煤払い(大掃除)は日を決めてやっていますか(有効回答:880)

餅つきは、いつ、どのようにやっていますか(有効回答:944)

現在、餅はどのような場所に供えていますか(複数回答)(有効回答:952)

松迎えは日を決めてやっていますか(有効回答:863)

松等を立てることは日を決めてやっていますか(有効回答:897)

現在、松等はどのような場所に立てていますか(複数回答)(有効回答:852)

現在、松等を飾るとき、いっしょに吊るすものは(複数回答)(有効回答:206)

しめ縄作りは日を決めてやっていますか(有効回答:854)

現在、しめ縄はどのような場所に飾っていますか(複数回答)(有効回答:643)

大戸口(玄関) 神棚 エビス・ダイコク 水神 自動車

その他

86.5% 81.3% 38.1% 26.4% 17.3% 9.6%

(5)

地域社会における民俗の変容 93

現在、しめ縄にどのようなものを飾りますか(複数回答)(有効回答:226)

麻 ダイダイ イワシ 昆布 銭 串柿 扇子 巾着

その他

ll.9% 33.2% 44.2% 13.3% 6.2% 15.5% 12.8% 0.4% 34.5%

 煤払いと松迎え

 正月準備の第一段階は煤払いと松迎えで、いずれも新年の祭の準備としておこなわれ、その 日取りは全国的に12月13日とすることが多かった。しかし、今日、その期日は一般におそくなっ ている。楢川村においてこれらの正月準備は、煤払いが72%、松迎えが69%のイエでおこなわ れているが、日を定めておこなうイエは42%である。年中行事とは、年々同じ暦時に同じ様式 の習慣的な営みを繰り返す伝承的行事、と規定されているが、その点がやや薄らいでいる。

 煤払いと松迎えの日にちを調べると〈表4>の結果となる。

〈表4>煤払いと松迎えのBにち

27日以前

28日 29日 30日 31日

その他 有効回答 煤払い

14.1% 15.3% 15.1% 37.1% 7.1% 11.3%

496

松迎え 17.7% 30.7% 3.6% 32.2% 3.2% 12.6%

475

 すなわち煤払いは30日がもっとも多い37%を占め、28日、29日が15%台、松迎えは30日が32%、

28日が31%となり、暮れも押し詰まった時期にあわただしく正月準備をしている現況が浮かび あがってくる。

 餅つきとしめ縄作り

 餅つきとしめ縄作りも正月準備に欠かせないものであるが、その方法は、大きく変容した。

自ら餅をつくイエは77%あるものの餅つき機利用が58%を占める。また自らしめ縄を作るイエ は38%と少なく、43%のイエが既成品を購入している。

 楢川村は田が少ないため、藁の入手に困難をきたした。ちなみに藁の入手先については、親 戚、付近の農家、知人や友人などを頼ることが多く、入手の地域は塩尻、松本、木曾郡内、東 筑、伊那、岡谷、諏訪と多岐にわたっている。

 伝統的行事をおこなわないイエ

 伝統的正月準備をおこなわないイエについては、煤払いが25.5%、松迎えが25.3%、しめ縄 飾りが14.9%などの回答がみられる。これらを属性的にみると〈表5>のようになる。

(6)

〈表5> 伝統的正月準備をおこなわないイエ

[地区別内訳]

賛川地区 平沢地区

奈良井地区

煤払い

17.3% 27.6% 28.6%

松迎え

13.0% 30.1% 27.8%

しめ縄飾り 3.9% 13.7% 24.4%

[居住時期別内訳]

江戸時代 明治時代 大正時代 昭和戦前 昭和戦後 煤払い

19.9% 23.1% 27.0% 20.7% 31.5%

松迎え

16.7% 22.3% 16.1% 33.7% 33.0%

しめ縄飾り 11.4% 8.8% 9.4% 25.3% 18.9%

[出身地別内訳]

楢川村 木曾郡内 長野県内

その他

煤払い

24.3% 28.3% 28.4% 32.2%

松迎え

21.5% 34.4% 27.1% 53.3%

しめ縄飾り 13.0% 21.0% 16.3% 23.2%

[菩提寺別内訳]

浄竜寺 長泉寺 大宝寺 法然寺 専念寺 観音寺 鴬着寺 煤払い

32.4% 24.1% 25.6% 31.1% 26.6% 18.5% 0.0%

松迎え

47.1% 20.6% 18.1% 20.0% 29.7% 13.3% 8.0%

しめ縄飾り 43.3% 5.9% 5.0%

7.2%

32.3% 2.1% 0.0%

[職業別内訳]

自営業 会社員 公務員 無職

煤払い

25.3% 23.6% 31.2% 31.0%

松迎え

24.8% 27.0% 32.9% 23.1%

しめ縄飾り 14.3% 15.7% 17.8% 13.8%

[年齢別内訳]

20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上 煤払い

14.3% 31.1% 29.6% 26.2% 17.8% 27.7%

松迎え

57.1% 45.2% 26.1% 24.9% 19.8% 23.1%

しめ縄飾り 33.3% 26.7% 16.1% 12.3% 11.7% 16.6%

[家族構成別内訳]

単身者 夫婦のみ子独立夫婦 2世代 3世代 煤払い

26.8% 30.5% 27.0% 24.3% 21.6%

松迎え

46.2% 20.2% 34.7% 23.5% 20.5%

しめ縄飾り 35.9% 23.2% 18.8% 12.3% 10.1%

(7)

地域社会における民俗の変容 95

[土地家屋の所有形態別内訳]

Aタイプ Bタイプ Cタイプ Dタイプ Eタイプ Fタイプ Gタイプ 煤払い

12.5% 20.9%

2L9%

15.2% 26.2% 33.7% 28.9%

松迎え 9.5% 9.7% 20.2% 17.2% 31.8% 32.6% 48.6%

しめ縄飾り 12.0% 5.0% 16.4% 14.8% 11.5% 24.2% 27.0%

 伝統的正月準備をおこなわないイエの属性別特徴は、以下のように整理できる。

 地区別内訳においては、費川地区が他の2地区と比べて低い数値を示す。これは伝統的正月 準備をおこなうイエが多いことをあらわしている。賛川地区は宿場としての歴史をもつものの 明治期以降農村的性格を強めた地域で、商工業者の居住は少ない。また賛川地区には真言宗観 音寺を菩提寺とする住民が多く住んでいる。

 居住時期別内訳においては、煤払いは昭和戦後居住のイエが、松迎えとしめ縄飾りは戦前戦 後を含めた昭和期居住のイエがおこなわない傾向がみられる。

 出身地別内訳においては、村内出身者は低い数値であるのに対し、県外出身者(その他の覧)

は高い数値を示しており、とりわけ松迎えは県外出身者の過半数がおこなっていない。

 菩提寺別内訳においては、煤払いはきわだった差異はみられないが、松迎えとしめ縄飾りは 浄竜寺と専念寺を菩提寺とするイエがおこなわない傾向がみられる。この2か寺は浄土真宗で あり、宗派による伝統的行事のありかたの差異があきらかになる。

 職業別内訳においては、きわだった差異はみられないものの、公務員がやや高い数値を示し

ている。

 年齢別内訳においては、松迎えとしめ縄飾りは世帯主の年齢層が低くなるほどおこなわない 傾向が読み取れる。とりわけ20〜30歳代の数値が高い。ただし70歳以上になると再びおこなわ

ない傾向となる。

 家族構成別内訳においては、松迎えとしめ縄飾りは単身者がおこなわない傾向にある。夫婦 と子供と親の3世代の家族は、伝統的正月準備をおこなう傾向にある。

 土地、家屋の所有形態別内訳においては、煤払いと松迎えはE, F,Gタイプが、しめ縄飾り はF,Gタイプがおこなわない傾向がみられる。すなわち耕地を所有しないイエが煤払いと松 迎えをあまりおこなわず、宅地を所有しないイエがしめ縄飾りをおこなわない傾向があること が指摘できる。

4、大晦日のすごしかた 回答結果

大晦日のすごしかたについての設問と回答結果の概要は〈表6>のとおりである。

(8)

神棚 明の方 その他

とくにまつらない

84.4%

1.1%

3.2% 11.2%

作る 以前は作っていた

とくに作らない

83.6% 5.3% 11.1%

ブリ シャケ

その他

88.7% 47.4% 11.6%

ゴマメ

黒豆

カズノコ 昆布巻き ナマス キンピラ

煮物 その他

77.1% 84.7% 88.9% 65.3% 71.1% 67.0% 92.9% 20.0%

打って食べる

以前は打って食べた 買った蕎麦

蕎麦屋の蕎麦

食べない その他

5.9% 4.7% 59.5% 12.3% 17.1% 0.6%

する

以前はした とくにしない

77.8% 4.0% 18.1%

する

以前はした とくにしない

70.1% 2.5% 27.3%

家族そろってみる 家族のだれかはみる

以前はみた とくにみない

46.3% 32.6% 13.4% 7.8%

出かける 以前は出かけた

とくに出かけない

56.6% 21.4% 22.0%

〈表6> 大晦日のすごしかた

歳神様はどこにまつりますか(有効回答:899)

年取り膳を作りますか(有効回答:919)

年取り膳はどのようなものですか「年取り魚」(複数回答)(有効回答:896)

年取り膳はどのようなものですか「料理」(複数回答)(有効回答:911)

年越し蕎麦を自ら打って食べますか(有効回答:902)

大晦日の神棚に供え物をしますか(有効回答:893)

大晦日の仏壇に供え物をしますか(有効回答:787)

大晦日はNHKの紅白歌合戦をみますか(有効回答:951)

大晦日の夜に神社に二年詣りに出かけますか(有効回答:941)

 年 越 し

 年越しをおこなう大晦日は、終夜起きあかし、物忌みをして、歳神を迎えることが古い習俗 であった。歳神は、歳棚、恵方棚などの臨時の祭壇を設けてまつるのが古い方式といわれてい る。楢川村においては89%のイエで歳神をまつるものの、臨時の祭壇は設けず、神棚にまつる ことが多い。また明の方に向けるということはやかましくいわない。その他のまつり方として は、床の間、奥座敷、玄関、仏壇などにまつるという回答が若干みられるが、少数意見である。

 大晦日の供え物は、78%が神棚に、70%が仏壇にしている。歳神がまつられる神棚への供え

(9)

地域社会における民俗の変容  97

物の数値が若干高いのは、歳神へ供えるという意識のあらわれ、と理解される。同時に仏壇へ の供え物をするイエも少なくない。仏壇への供え物は、正月が祖霊のまつりとしての性格をも つもの、と意識されているためと理解される。

 物忌みの要素をもっていた大晦日は、終夜起きあかすものだとされていたようであるが、こ の伝統は大晦日の過ごし方としてNHKの紅白歌合戦を見て過ごすことに受け継がれているよ

うにも思われ、79%のイエで家族の誰かは見ているという結果があらわれている。

 大晦日から元旦にかけて地域の氏神などへ「二年詣り」に出かける人も半数をこえている。

以前出かけていた人を含めると、78%が二年詣りをおこなっていたことになる。

年取り膳

 年取りの晩は、年取り膳をこしらえて歳神に供える。この年取り膳は84%のイエでつくって いる。年取り膳には「年取り魚」がつくのが慣わしである。聞き取り調査によると、古くはシャ ケが中心であったが、のちにプリを用いることが多くなったという。また裕福なイエではブリ を用い、一般のイエではシャケを利用したともいう。

 年取り魚が何であるかを尋ねると、ブリが89%、シャケが47%という回答である。これは複 数回答で、両方を用いていることを示している。現況としてはブリを用いるイエが多数を占め るが、古い食習慣が併存する形で受け継がれている、とみられる。

 なおその他の年取り魚としては、少数ではあるがイワシ、タコ、イカ、コイ、タイ、エビ、

コチ、イワナなどがあげられている。

 年取り膳の料理としてどのようなものを準備するかについては、煮物が90%台、カズノコ、

黒豆が80%台、ゴマメ、ナマスが70%台、キンピラゴボウ、昆布巻きが60%台のイエでつくら れている。

 年取り膳のその他の料理は新しいものも含めて多様で、〈表7>の回答が寄せられている。

〈表7>年取り膳のその他の料理

つくる家数 その他の年取り膳

60〜70軒台 刺身、茶碗蒸し

10〜20軒台 切りイカ、キントン、吸い物、伊達巻、エビ、レンコン

3〜9軒

揚げ物、タコ、スシ、酢ダコ、肉、鍋料理、蒲鉾、オードブル、カニ、大平、煮イカ、サラダ、よせ

2軒 すき焼き、こんにゃく、しゃぶしゃぶ、きのこ、豆、貝、ごぽう、するめ、柿 1軒

酢豚、そば、餅、松前、すじこ、とろろこんぶ、栗、茶、酢のもの、フナ、ゆりの根、酢みそ、ハム

*ただし、自由記述のため実際の「つくる家数」はこれを上回るものと考えられる

 年取り膳ということで、いわゆるハレの日の食べ物として、どのようなものが意識されてい るかの一端が、ここにあらわれているかと思われる。

(10)

 伝統的な大晦日のすごしかたをしないイエ

 伝統的な大晦日のすごしかたをしないイエについては、歳神をまつらない11.2%、大晦日の 神棚に供え物をしない18.1%、二年詣りに出かけない22.0%などの回答がみられる。これらを 属性別にみると〈表8>のとおりである。

〈表8> 伝統的な大晦日のすごしかたをしないイエ

[地区別内訳]

賛川地区 平沢地区

奈良井地区

歳神祭祀

9.9% 15.4% 7.0%

神棚供え物 13.3% 22.8% 16.0%

二年詣り 25.1% 21.4% 21.3%

[居住時期別内訳]

江戸時代 明治時代 大正時代 昭和戦前 昭和戦後

歳神祭祀

4.8% 7.4% 4.8% 10.5% 19.2%

神棚供え物 10.4% 13.1% 6.3% 19.5% 28.8%

二年詣り 14.8% 17.5% 15.2% 20.2% 30.3%

[出身地別内訳]

楢川村 木曾郡内 長野県内

その他

歳神祭祀

6.8% 23.4% 22.3% 25.8%

神棚供え物 12.8% 27.3% 25.2% 51.8%

二年詣り 19.2% 25.7% 26.1% 41.3%

[菩提寺別内訳]

浄竜寺 長泉寺 大宝寺 法然寺 専念寺 観音寺 鴬着寺

歳神祭祀

11.1% 6.9% 3.4% 4.2% 4.6% 6.7% 3.8%

神棚供え物 21.2% 11.5% 12.8%

8.6%

16.8% 12.1% 3.7%

二年詣り 24.2% 14.7% 18.0% 17.3% 20.0% 18.4% 30.8%

[職業別内訳]

自営業 会社員

公務員

無職

歳神祭祀 9.5%

14.5% 14.3%

6.0%

神棚供え物 13.5% 23.2% 20.0% 13.5%

二年詣り 16.7% 24.7% 28.9% 22.5%

[年齢別内訳]

20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上

歳神祭祀

44.4% 36.2% 16.3%

8.3%

5.0% 7.8%

神棚供え物 66.7% 37.3% 21.0% 13.8% 12.6% 19.3%

二年詣り 12.5% 46.2% 26.5% 19.4% 18.6% 17.9%

(11)

地域社会における民俗の変容 99

[家族構成別内訳]

単身者 夫婦のみ

子独立夫婦

2世代 3世代 歳神祭祀

30.0% 10.2% 6.5% 13.2% 7.4%

神棚供え物 30.0% 22.3% 14.9% 19.4% 13.4%

二年詣り 33.3% 30.3% 18.2% 20.7% 20.1%

[土地家屋の所有形態別内訳]

Aタイプ Bタイプ Cタイプ Dタイプ Eタイプ Fタイプ Gタイプ

歳神祭祀

7.7% 5.6% 3.1% 5.3% 10.2% 9.9% 38.5%

神棚供え物 16.0% 6.9% 10.4% 11.2% 22.8% 29.5% 42.9%

二年詣り 15.4% 14.6% 18.3% 20.7% 21.3% 29.3% 40.5%

 伝統的な大晦日のすごしかたをしないイエの属性別特徴は、以下のように整理できる。

 地区別内訳においては、歳神の祭祀と神棚への供え物において平沢地区が他の2地区と比べ て高い数値を示し、歳神をまつらず、神棚への供え物をしないイエが多い。平沢は、伝統的漆 器産業をもち、商工業者が多く居住する地であるが、この地域特性との関連性はいまひとつはっ

きりしない。二年詣りをおこなわないイエは、賛川地区が若干高い数値を示している。

 居住時期別内訳においては、歳神の祭祀、神棚への供え物、二年詣りとも、昭和になって居 住のイエがおこなわない傾向がみられる。とりわけ戦後の居住のイエにおいては高い数値を示

している。江戸時代から居住のイエについては、伝統的な大晦日のすごしかたがみられる。

 出身地別内訳においては、いずれも楢川村出身者は低い数値であるのに対し、県外出身者(そ の他)は高い数値を示しており、とりわけ神棚への供え物は県外出身者の過半数がおこなって

いない。

 菩提寺別内訳においては、歳神の祭祀についてはきわだった差異はみられないが、神棚への 供え物と二年詣りは、浄土真宗の浄竜寺と専念寺の壇家がおこなわない傾向がみられる。歳神 の祭祀は宗教的行為というよりむしろ習慣として定着しているため、宗派による差異がみられ ないものと理解される。

 職業別内訳においては、自営業者が他の職種と比べ低い数値を示し、伝統的な大晦日のすご しかたをしている。

 年齢別内訳においては、歳神の祭祀と神棚への供え物は世帯主の年齢層が低くなるほどおこ なわない傾向にあり、とりわけ神棚への供え物は20歳代では67%がおこなっていない。二年詣

りは20歳代はもっともよくおこなっているが、30歳代から60歳代にかけては、先と同様に年齢 層が低くなるほどおこなわない傾向がみられる。ただし20歳代の二年詣りがどのような意識の

もとでおこなわれているかは、検討の余地がある。また70歳以上については行事をおこなうこ とが少なくなる。

 家族構成別内訳においては、歳神の祭祀と神棚への供え物は単身者が、二年詣りは単身者と 夫婦のみの世帯がおこなわない傾向にある。一方、子供が独立した夫婦のみの世帯がこれらの

(12)

行く

以前は行った とくに行かない

12.5% 32.3% 55.2%

入れる

以前はそうした とくにしない

1.8%

19.1% 79.1%

豆 柿 栗

その他

93.0% 94.3% 95.1% 19.2%

食べる

以前は食べた とくに食べない

96.9%

1.1%

2.0%

切り餅 焼いた切り餅 丸餅 焼いた丸餅 その他

35.8% 69.7% 0.3% 0.9% 0.5%

ブリ シャケ 昆布 鶏肉

化学調味料 その他

44.7% 10.2% 28.3% 59.4% 51.7% 0.4%

行事をよくおこなっている。

 土地、家屋の所有形態別内訳においては、歳神の祭祀と神棚への供え物はE,F, Gタイプが、

二年詣りはF, Gタイプがおこなわない傾向がみられる。すなわち耕地を所有しないイエが歳 神の祭祀と神棚への供え物をあまりおこなわず、宅地を所有しないイエが二年詣りをおこなわ ない傾向にあることが指摘できる。とりわけ宅地および家屋をもたないイエはこれら3つの行 事をおこなわないことに高い数値を示している。

5、大正月について  回答結果

 大正月についての設問と回答結果の概要は〈表9>のとおりである。

〈表9> 大正月について

若水を汲みに行きますか(有効回答:910)

豆殻を焚いて若水を沸かして茶をいれますか(有効回答:865)

現在、若水で入れた茶は、何をつまみにして飲みますか(複数回答)(有効回答:511)

雑煮は食べますか(有効回答:941)

雑煮には何が入っていますか[餅](複数回答)(有効回答:915)

雑煮には何が入っていますか[ダシ](複数回答)(有効回答:903)

雑煮には何が入っていますか[汁](有効回答:890)

醤油味 味噌味   その他

97.6% 2.7%    1.1%

(13)

地域社会における民俗の変容 101

雑煮には何が入っていますか[野菜など](複数回答)(有効回答:869)

ダイコン ニンジン ゴボウ

サトイモ

ジヤガイモ ホシワラビ

凍豆腐 ホウレンソウ その他

39.9% 56.0% 13.5% 12.5% 7.4% 14.4% 19.2% 53.7% 47.4%

お屠蘇はのみますか(有効回答:907)

飲む

以前は飲んだ とくに飲まない

59.0% 6.2% 34.8%

仕事始めの慣わしはありますか(有効回答:811)

ある

以前はあった

とくにない

11.2% 12.6% 76.2%

三が日のうちトロロイモを作って食べますか(有効回答:922)

食べる

以前は食べた とくに食べない

52.0% 12.4% 35.7%

七日正月に七草粥を作って食べますか(有効回答:912)

食べる

以前は食べた とくに食べない

33.6% 18.2% 48.2%

蔵開きの日に鏡餅で雑煮を作って食べますか(有効回答:839)

食べる

以前は食べた とくに食べない

26.1% 14.1% 59.8%

 若   水

 元旦には、若水を汲んで茶を立てる慣わしがあった。しかし現在、昔ながらに若水を汲みに いっているイエはわずか13%にしかすぎないが、以前汲みにいっていたイエは32%あった。

 また豆殻を焚いて若水を沸かして茶を立てる慣わしもあったというが、燃料に豆殻を用いる イエはわずか1.8%で、この習俗は跡絶える寸前である、といえる。以前豆殻を使用していた イエは19%あった。

 若水で立てた茶は「お福茶」と呼ばれている。昔ながらに汲んだ若水でなくとも、年が改まっ た元旦に、茶を立ててそれを「お福茶」として飲む習慣は続いており、そのときの茶受けもき まっており、90%以上のイエで豆、柿、栗をつかっている。

 雑   煮

 雑煮は97%のイエで食べている。雑煮の餅は焼いた切り餅を70%、切り餅を36%のイエでつ かっているが、両方用いるイエも若干あるようである。丸餅をつかうイエは稀である。

 雑煮のダシは、伝統的なものではブリを45%、シャケを10%のイエでつかっているが、同時 に、鶏肉でダシをとるイエが59%、化学調味料を利用するイエが52%みられる。雑煮のダシは 時代により大きく変わった、といえるであろう。汁は、大半が醤油味である。

 雑煮に入れる野菜については、ニンジン、ホウレンソウが50%台、ダイコンが30%台、凍豆

(14)

腐、ホシワラビ、ゴボウ、 Tトイモが10%台、ジャガイモが7%となっている。その他、雑煮 の野菜としては、ネギ、ミツバ、ハクサイ、シイタケなどが用いられている。

 大正月の飲食習慣

 大正月には、お屠蘇を飲み、三が日のうちにトロロイモをすって食べ、七日正月に七草粥を 炊き、蔵開きに際して鏡餅を雑煮にする飲食習慣がみられる。聞き取り調査によると、お屠蘇 を飲む習慣は楢川村においては古いものではないというが、現在、59%のイエでお屠蘇を飲む 習慣が定着している。

 三が日のうちにトロロイモをすって食べることは、楢川村において伝統的な習慣であるとい われ、52%のイエでこれが受け継がれている。

 七日正月に七草粥を食べるイエは34%ほどみられる。「七草」といっても実際に利用される ものはさまざまで、多様性をもっていることが特徴として指摘できる。ちなみに七草粥に入っ ているものを尋ねると〈表10>の回答結果となる。

〈表10> 七草粥に入っているもの

使用の家数 七草粥に入っているもの

50〜70軒台 セリ、ダイコン、ナズナ

30〜40軒台 ニンジン、ありあわせの野菜、七草セット(購入したもの)

10〜20軒台 ミッバ、ホウレンソウ、ハコベ、ハクサイ、青菜、スズナ、ゴギョウ、スズシロ

2〜9軒 ホトケノザ、カブ、ゴボウ、ネギ、マメ、キノコ類、キャベッ、イモ、カイワレ、ジャガイモ、ワラビ、フキノトウ、シュンギグ、アズキ

1軒 ヨモギ、パセリ、ブロッコリー、オオバコ、サヤエンドウ、ニンニク、ニラ

*ただし、自由記述のため実際の「使用の家数」はこれを上回るものと考えられる。

 「春の七草」に限定せず、イエでそれぞれで思い思いの材料を整えて、七草粥の風習をとり おこなっている様子が浮かびあがってくる。

 蔵開きに鏡餅で雑煮を作るイエは26%で、全体の四分の一程度である。

伝統的な大正月をしないイエ

伝統的な大正月をしないイエについては、若水を汲まない55.2%、三が日のうちトロロイモ を食べない35.7%、七草粥を食べない48.2%などの回答がみられる。これらを属性別にみると

〈表11>のとおりである。

(15)

地域社会における民俗の変容 103

〈表11> 伝統的な大正月をしないイエ

[地区別内訳]

賛川地区 平沢地区

奈良井地区

若水汲み

43.8% 65.0% 50.6%

トロロイモ 39.7% 43.4% 23.1%

七草粥

35.3% 52.8% 51.9%

[居住時期別内訳]

江戸時代 明治時代 大正時代 昭和戦前 昭和戦後 若水汲み

33.2% 39.9% 46.2% 65.1% 77.6%

トロロイモ 30.6% 34.3% 30.8% 31.0% 43.4%

七草粥

37.2% 46.1% 47.6% 42.9% 57.7%

[出身地別内訳]

楢川村 木曾郡内 長野県内 その他 若水汲み

50.3% 66.2% 68.2% 71.7%

トロロイモ 34.7% 33.3% 30.3% 58.6%

七草粥

47.1% 51.5% 46.7% 62.9%

[菩提寺別内訳]

浄竜寺 長泉寺 大宝寺 法然寺 専念寺 観音寺 鴬着寺 若水汲み

69.7% 54.7% 42.7% 53.5% 52.9% 41.4% 43.5%

トロロイモ 21.9% 36.8% 21.6% 28.4% 30.5% 40.9% 18.2%

七草粥

60.6% 46.8% 42.5% 51.4% 53.4% 32.4% 25.0%

[職業別内訳]

自営業 会社員

公務員 無職 若水汲み

58.6% 64.2% 48.1% 37.8%

トロロイモ 38.6% 36.3% 37.2% 27.6%

七草粥

48.3% 52.5% 44.9% 43.2%

[年齢別内訳]

20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上 若水汲み

88.9% 78.5% 75.3% 58.0% 40.3% 39.0%

トロロイモ 66.7% 49.3% 40.1% 34.5% 31.7% 32.2%

七草粥

62.5% 56.9% 52.2% 49.8% 40.1% 49.7%

[家族構成別内訳]

単身者 夫婦のみ

子独立夫婦

2世代 3世代 若水汲み

63.4% 55.2% 31.9% 66.8% 48.8%

トロロイモ 28.6% 31.8% 23.0% 43.8% 33.6%

七草粥

50.5% 44.3%

42.5%・

52.9% 41.1%

(16)

[土地家屋の所有形態別内訳]

Aタイプ Bタイプ Cタイプ Dタイプ Eタイプ Fタイプ Gタイプ 若水汲み

41.7% 33.8% 31.3% 38.7% 68.6% 72.9% 81.1%

トロロイモ 28.0% 28.1% 29.6% 18.5% 41.9% 41.9% 51.4%

七草粥

43.5% 27.9% 45.6% 34.4% 61.9% 59.4% 57.9%

 伝統的な大正月をしないイエの属性別特徴は、以下のように整理できる。

 地区別内訳においては、若水汲みは平沢地区がしないイエが多く、蟄川地区ではこの習慣が 比較的守られている。三が日にトロロイモを食べることは奈良井地区ではよくおこなわれるが、

平沢、賛川地区ではあまりおこなわれていない。また七草粥の習慣は費川地区において守られ ているが、平沢、奈良井地区ではあまり受け継がれていないことが指摘できる。

 居住時期別内訳においては、若水汲みは、居住時期が新しくなるほどおこなわない傾向がう かがわれる。ちなみに江戸時代居住のイエの33%が若水汲みをしないのに対し、昭和戦後居住 のイエの78%が若水汲みをしないという差異があらわれる。三が日にトロロイモを食べたり七 草粥を食べる習慣は、概して居住時期による差異はみられないが、昭和戦後に居住のイエはこ れをおこなわない傾向にある。

 出身地別内訳においては、若水汲みは村外出身者がおこなわない傾向が認められる。三が日 にトロロイモを食べないイエは県外出身者に多い。また七草粥については概して出身地による 差異はみられないが、県外出身者はおこなわない傾向にある。

 菩提寺別内訳においては、若水汲みと七草粥の習慣は、浄土真宗の浄竜寺檀家が高い数値を Ptしておこなわない傾向をみせるが、同じく浄土真宗の専念寺檀家では浄土宗や曹洞宗の寺と 相似た数値を示しており宗派による差異とは認めがたい。三が日にトロロイモを食べることは 観音寺檀家があまりおこなっていないが、それはこの寺の檀家が多くを占める蟄川地区におい ても同様な傾向があらわれ、宗派か地域の差異であるのかの判別は検討を要する。

 職業別内訳においては、若水汲みと七草粥食べることは会社員と自営業は比較的よくおこ なっているが、公務員と無職はこれをおこなわない傾向にある。三が日にトロロイモを食べる 習慣は概して職業による差異はみられないが、無職はおこなわない傾向にある。

 年齢別内訳においては、若水汲みは年齢層が低くなるほどおこなわない傾向があらわれる。

40歳代と50歳代がこの習慣を受け継ぐか否かの境目であると指摘できる。三が日にトロロイモ を食べる習慣も年齢層が低くなるほどなくなる傾向がみられる。ちなみに50歳代以上において は食べないイエが30%台であるのに対し、20歳代では60%台のイエが食べていない。七草粥を 食べる習慣も年齢層が低くなるほどなくなる傾向がみられるが、トロロイモの習慣ほど年齢層 による差異は認められない。

 家族構成別内訳においては、若水汲みは子供が独立した夫婦がよくおこなっているが、その 他の家族構成においては、特徴がみられない。トロロイモを食べる習慣は、2世代の家族がや や高い数値を示しているものの、やはりこれも家族構成による特徴がみられない。七草粥の習

(17)

      地域社会における民俗の変容 105

慣においても家族構成による特徴は認められない。

 土地、家屋の所有形態別内訳においては、若水汲み、トロロイモを食べる習慣、七草粥とも E,F, Gタイプが高い数値を示す。すなわち耕地を所有しないイエが伝統的大正月をおこなわ ない傾向にあることが指摘できる。

6、小正月について  回答結果

 小正月についての設問と回答結果の概要は〈表12>のとおりである。

〈表12> 小正月について

木を1尺ほど切って薄く削りかけにしたものを作りますか(有効回答:806)

小正月に若木を立てますか(有効回答:793)

小正月の若木迎えはやっていますか(有効回答:768)

若木はどのような木を使いますか(有効回答:114)

米の粉で作った団子をいくつも木の枝に差したものをつくりますか(有効回答:869)

鳥追いの行事は行いますか(有効回答:734)

松焼きの行事を行いますか(有効回答:814)

松焼きの転び方によって豊作を占いますか(有効回答:741)

作る

以前は作った とくに作らない

3.0% 20.1% 76.9%

立てる

以前は立てた とくに立てない

6.3% 15.6% 78.1%

はい

以前は日を決めてやっていた やらない

5.5% 12.5% 82.0%

ミズキ ヌルデ クルミ カヤ

その他

21.1% 48.2% 6.1%

1.8%

22.8%

する

以前はした とくにしない

52.7% 29.7% 17.6%

行う(小学生いる)

以前は行った

行わない(小学生いない) 行わない(小学生いる)

13.5% 7.4% 68.0% 11.2%

行う(小学生いる)

以前は行った

行わない(小学生いない) 行わない(小学生いる)

41.9% 19.7% 37.2%

1.2%

占う

以前は占った

占わない

0.8%

5.4%

93.8%

(18)

松焼きの焼け残りの木を屋根に投げて火災防止のまじないとしますか(有効回答:755)

まじないとする 以前はしていた

まじないとしない

5.6% 34.0% 60.4%

1月15日に小豆粥を食べますか(有効回答:861)

食べる

以前は食べた とくに食べない

12.3% 13.9% 73.8%

米の粉で作った団子をいくつも木の枝に差したものはいつかたづけますか(有効回答:575)

1月20日 その他

66.4% 33.6%

二十日正月に、家族の女の人が鳥居峠の御嶽様にお詣りに行きますか(有効回答:831)

行く

以前は行った とくに行かない

0.2%

1.2%

98.6%

 削りかけと若木迎え

 小正月の飾り物として、色の白い樹の枝を薄く細長くなかばまで削りかけてちじらせたもの を作る習慣がある。これは一般に「削りかけ」といわれ、作物がかくあれと祈る呪物とされる。

楢川村において、現在、削りかけを作っているイエはわずか3%であるが、以前は20%のイエ で作っていた。

 削りかけの呼称、素材は〈表13>のとおりである。

〈表13> 削りかけの呼称、素材

[呼称]

ホンダレ

その他 [素材]

ヌルデ

ヤナギ その他

N:88

70.5% 29.5%

N:137

27.7% 55.5% 16.8%

 呼称はホンダレが多いが、その他ズボバナ、ワカギ、ホンダラ、ホンダル、ハナ、ハガキ、

キノハナ、マヨケとも呼ばれている。また素材はヤナギがもっとも多く、ヌルデがこれに次ぐ。

その他の素材にはヒノキ、サワラ、マキ、カッラ、ミズブサ、マッがある。

 小正月には、木の枝を山からとってきて家屋の入口などに立てる習慣があり、この木を山か らとってくることを「若木迎え」という。楢川村において、現在、若木を立てるイエは6%で あるが、以前は16%のイエがこれをおこなっていた。

 若木にはヌルデが用いられることが多く、ミズキがこれに次ぎ、クルミやカヤを使うイエも みられる。その他の若木としては、ヤナギ、カツラ、マツが用いられることもある。

 若木迎え、若木を立てる日は〈表14>のとおりである。

(19)

地域社会における民俗の変容 107

〈表14> 若木迎え、若木を立てる日

12日以前

13日 14日 15日

その他 回答件数

若木迎え

3.3% 36.7% 43.3% 13.3% 3.3%

30件

若木立て

5.0% 30.0% 60.0% 5.0% 0.0%

80件

 若木迎え、若木立ての日にちは、14日がもっとも多く、13日がこれに次ぐ。これらが小正月 はじめと意識されている日と考えられる。

 米の粉で作った団子

 小正月には米の粉で団子を作り、これを木の枝に差した飾り物を作る習慣がある。楢川村で は、現在、53%のイエがこれをおこない、以前おこなっていたイエは30%あった。

 この飾り物の種類、木の枝の素材は〈表15>のとおりである。

〈表15> 米の粉の団子の飾り物の種類、木の枝の素材

[呼称]

繭玉

その他 [素材]

カツラ

ヤナギ その他

N:625

93.8% 6.2%

N:647

26.6% 65.1% 8.3%

 飾り物の種類は、繭玉が圧倒的に多い。そしてこの飾り物自体を「繭玉」と称し、養蚕繁盛 を祈願するための作り物と意識してきたむきがある(現在養蚕はほとんどおこなわれていな い)。その他、米の粉の団子の飾り物の種類としては、小判、野菜、巾着が多く、ほかにササゲ、

ナス、干支、キノコ、ミョウガ、ヒョウタン、果物、算盤、俵、エンドウ、星形、杯、徳利、

カボチャ、キュウリ、稲穂、末広、勾玉、ダイダイ、銭、机、漆器、ミカン、人形があり、多 様なものがみられる。それらの多くは予祝の象徴物と考えられる。

 団子を差す木の枝の素材はヤナギがもっとも多く、カッラがこれに次ぐ。その他の木の枝と してミズブサ、ミズキ、ナラ、サクラ、シラカバ、ハンノキ、モミジ、カエデも少数ではある が用いられる。

 米の粉の団子の飾り物を作る日、かたづける日は〈表16>のとおりである。

〈表16> 米の粉の団子の飾り物を作る日、かたづける日

作る日

11日以前

12日 13日 14日 15日

その他 回答件数

2.7% 7.8% 35.0% 51.7% 2.5% 0.4%

515件 かたづける日

15日 16日 17〜19日 20日

その他 回答件数

21.1% 3.2% 5.2% 68.0% 2.5%

563件

 米の粉の団子の飾り物を作る日は、若木迎えと若木立てと同じく14日がもっとも多く、13日 がこれに次ぐ。またかたづける日は、二十日正月にあたる1月20日が多い。

(20)

 鳥追いと松焼き

 小正月には、作物を荒す鳥を追い、大正月に用いた門松などを燃やす松焼きがおこなわれる。

これらは、地域社会の子どもが中心になっておこなう行事である。鳥追いは14日の晩に、また 松焼きは15日の午前中におこなわれることが多い。楢川村では現在、鳥追いは13.5%、松焼き は41.9%がおこなうと回答しているが、小学生がいないためこれらの行事に参加しないイエも 少なからずみられる。

 鳥追いは、子どもたちが「鳥追い歌」を歌いながら集落境まで歩く、集団としておこなう行 事で、行事の伝承において集落ごとの差異があらわれる。ちなみに鳥追いをおこなっているイ エ(小学生がいる)は賛川地区44.0%、平沢地区1.4%、奈良井地区0.9%の数値になり、村内 においても行事をおこなう地区とそうでない地区が明確にわかれる。

 松焼きの行事の呼称は〈表17>のとおりである。

〈表17> 松焼きの行事の呼称

オンビ ドンドヤキ

サンクロウ その他 有効回答

0.1% 80.7% 13.6% 5.5%

689件

 松焼きの行事の呼称はドンドヤキが多いが、なかにはサンクロウと呼ぶ人もいる。聞き取り 調査によると、以前はほとんどがドンドヤキと呼んでいたが、松本平との婚姻が増えると、そ の地の呼称が楢川村においても用いられるようになった、という。松焼きの行事のその他の呼 称としてマツヤキ、サイノカミ、オマッサマ、オマツサマヤキ、ドウロクジンが少数ではある が用いられている。サイノカミ、ドウロクジンは道祖神行事を意識しての呼称と考えられる。

 松焼きにおいては、松の転び方によって豊作を占ったとの言い伝えがあるが、現在、このよ うな占いをしているイエはわずか0.3%で、かつて占っていたというイエも5%にすぎない。

また焼け残った木を屋根に投げて火災防止の呪いとするイエは6%、以前していたイエは34%

ほどあった。

 伝統的な小正月をしなくなったイエ

 小正月は、地域社会の子どもが集団でおこなう鳥追いや松焼きをのぞき、イエの行事として おこなうものについては、正月準備、大晦日、大正月と比べて伝承のあり方が異なり、行事の 残存の割合がきわめて低くなっている。

 しかし「以前はおこなっていた」という回答の割合は、正月準備、大晦日、大正月に比べて、

高い傾向を示すのが特徴であると指摘できる。

 ここでは、視点を変え、以前伝統的な小正月をおこなっていたが、現在しなくなったイエに ついて属性的にみていきたい。ここで指標にあげるのは現在はあまりおこなわれていない行事 で、「削りかけ」を以前作っていたイエ(20.1%)、「若木」を以前立てていたイエ(15.6%)、

松焼きの残り木で「占い」を以前おこなっていたイエ(34.0%)について〈表18>の回答結果

(21)

地域社会における民俗の変容 109

がみられる。

〈表18> 伝統的な小正月をしなくなったイエ

[地区別内訳]

賛川地区 平沢地区

奈良井地区

削りかけ

39.7% 20.5% 5.6%

若木立て

31.8% 11.4% 8.7%

松焼き占い 44.4% 11.7% 50.0%

[居住時期別内訳]

江戸時代 明治時代 大正時代 昭和戦前 昭和戦後 削りかけ

30.4% 23.1% 28.1% 14.1% 9.9%

若木立て

24.0% 18.8% 19.6% 17.3% 7.4%

松焼き占い 43.3% 49.3% 36.7% 24.7% 23.6%

[出身地別内訳]

楢川村 木曾郡内 長野県内 その他 削りかけ

24.1% 11.3% 12.6% 3.6%

若木立て

18.2% 7.1% 13.3% 3.6%

松焼き占い 39.0% 21.3% 14.3% 25.0%

[菩提寺別内訳]

浄竜寺 長泉寺 大宝寺 法然寺 専念寺 観音寺 鴬着寺 削りかけ

0.0% 26.4% 9.7% 13.6% 9.6% 42.2% 50.0%

若木立て

6.7% 16.5% 9.5% 13.6% 11.4% 31.5% 41.7%

松焼き占い 26.9% 23.6% 35.4% 49.1% 45.2% 45.0% 50.0%

[職業別内訳]

自営業 会社員 公務員

無職 削りかけ

20.1% 15.4% 20.3% 26.4%

若木立て

14.2% 9.0% 18.6% 24.7%

松焼き占い 25.3% 32.1% 44.8% 44.2%

[年齢別内訳]

20歳代 30歳代 40歳代 50歳代 60歳代 70歳以上 削りかけ

0.0% 15.9% 10.6% 20.5% 29.3% 20.5%

若木立て

0.0% 9.7% 5.0% 15.9% 24.3% 18.4%

松焼き占い 11.1% ll.9% 25.9% 38.0%

4ユ.8%

37.4%

参照

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