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酵素ルシフェラーゼの性質について - 化学と生物

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Academic year: 2023

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化学と生物 Vol. 52, No. 1, 2014

本研究は日本農芸化学会2013年度大会(開催地:東北大学)

での「ジュニア農芸化学会」において発表された.ルシフェ ラーゼとルシフェリンの酵素反応について温度とpHの変化 との関係を調べ,ルシフェラーゼの熱安定性を明らかにした ほか,発光色の変化について,文献をあたって詳細な考察を 行っている.

  本研究の目的,方法および結果

【目的】ホタルのルシフェラーゼとルシフェリンによる 発光反応は,酵素反応の例として広く用いられている.

高校の夏休みの理科講座でホタルルシフェラーゼを用い た実験を行った際,発光色などが反応条件によって変化 することを知り,それらがなぜ起こるのかなどいくつか 疑問点が生じた.そこでさまざまな反応条件を整えて詳 しく調べてみることにした.

【方法】ホタルルシフェリンとルシフェラーゼとして,

ホタライト(キッコーマンバイオケミファ)を用いた.

A液がルシフェラーゼ,B液がルシフェリンとATPを 含んでいる.

実験1:温度による発光の変化.A液とB液を1 mLずつ 混合し,10 〜60℃まで10℃間隔で5分間保温し発光の有 無・程度を確認した.その後各試験管にA液を追加し,常 温で発光を再度確認した.酵素と基質それぞれの温度に対 する変化を観察するときは,混合前に上記と同様に保温し た後に常温に戻し,もう一方の液を加え,発光を観察した.

実験2:pHによる発光の変化.A液とB液を1 mLずつ

混合し,40℃に保温して,発光を確認した後,HClまた はNaOH水溶液 (0.1 mol/L) でpHを3 〜 12に調整し,

発光の有無・程度を観察した.酵素と基質のpHによる

変化を別々に調べる場合は,どちらかの液を0.5 mLず つ採り,HCl水溶液 (0.1 mol/L) を 25 〜 75 

μ

L, NaOH  水溶液 (0.1 mol/L) を25 〜75 

μ

Lまで25 

μ

Lの幅で加え た後,0.5 mLのもう一方の液を加えた.各試験管の発 光の有無・程度を確認した後,各試験管に入れた薬品を 中和させるため等量のHClまたはNaOH水溶液を加え,

各試験管の発光の有無・程度を確認した.

【結果と考察】

実験1:A液とB液を1 mLずつ混合し,10 〜 60℃まで 10℃間隔で5分間保温し,発光の有無・程度を確認した.

その結果,40℃で最も強い発光が観察された.また,高 温で保温すると発光色が暖色系になり,60℃では発光は 観察されなかった(図

1

A).その後各試験管にA液を加 えたところ,発光が弱かった 50℃, 60℃ のサンプルに おいて再び発光が観察された(図1B).これは,高温下 でルシフェラーゼが失活し,残存していたルシフェリン と新たに加えたルシフェラーゼが反応したためと考えら れた.これを確認するため,A液を各温度で5分間保温 後,常温にしてB液を加えた.その結果,60℃, 5分で ルシフェラーゼが失活することが確認された(図

2

A) またこのとき50℃で保温後の発光色の変化が見られな かったことから,ルシフェラーゼは50℃では不可逆的に 変化せず,常温に戻すことで元どおりに反応することが 示唆された.一方,B液を各温度で5分間保温後,常温 にしてA液を加えたところ発光の変化は見られなかった ことから,ルシフェリンは60℃では不活化しないことが 示された(図2B).以上のことから,50℃ではタンパク 質分子の構造が可逆的に変化していると考えられた.

実験2:反応の至適pHを調べるため,A液とB液を混 合した後にpHを調整して発光を観察した.その結果,

仙台市立仙台青陵中等教育学校科学部

大江信太郎,田村真和,渡邉汐音(顧問:塗田永美)

酵素ルシフェラーゼの性質について

(2)

60 化学と生物 Vol. 52, No. 1, 2014

発光反応の至適pHが8付近であることが明らかとなっ た(図

3

.酵素と基質それぞれの至適pHを調べるた め,A液またはB液のpHを変化させた後にもう一方の 液と混合し,発光を観察した,その結果,酵素はpH 8.2 と9.8の間で失活することが明らかとなった(図

4

ホタルのルシフェリンの発光は以下の二段階から成り 立っている(1, 2)

①ルシフェリルAMP中間体が生成され,その酸化によ り励起状態のオキシルシフェリンが生成される.

②励起状態のオキシルシフェリンが,基底状態に戻ると きに光エネルギーを放出し,発光する.

オキシルシフェリンの蛍光は赤色であるが,ルシフェ ラーゼが②の段階においてオキシルシフェリンと結合す ることで波長の短い黄緑色の光が放出される(1, 2).②の 段階においてルシフェラーゼのイソロイシン288がオキ シルシフェリンのほうに動き,オキシルシフェリンとル シフェラーゼとの間に疎水的な構造をとる.これによっ てオキシルシフェリンのもつ化学エネルギーが保持さ れ,光エネルギーへの変換の際に振動(熱)として放出さ れにくくなり,エネルギーの高い(波長の短い)黄緑色 の光が放出される.このイソロイシン288を分子量の小 さいアミノ酸に置換すると,エネルギーの保持力が弱く なりエネルギーの低い(波長の長い)暖色系の光が放出 される(1).つまり,ルシフェラーゼのルシフェリン結合 部位の微細な構造の変化によって発光色が決定される.

図2Bにおいて発光色の変化がなかったことから,ルシ フェリン自体は60℃程度の熱では変性しないものと考 えられる.本実験で見られた発光色の変化は熱の変化

(図1, 2)やpHの変化(図3, 4)によってルシフェラー ゼの全体的な立体構造が変性しない程度にわずかに変化 し化学エネルギーの変換効率が悪くなることで,波長の 長い光が放出されるようになるためだと考えられる.ま た,オキシルシフェリン自体の発光色が赤色であること から,発光色の変化は酵素を構成するタンパク質が変性 したことによって,オキシルシフェリンとの関係が弱く なり,より本来の発光色に近づいた可能性も考えられる.

  本研究の意義と展望

ホタルルシフェリンとルシフェラーゼを用いた発光の 観察実験を端緒とし,酵素の至適温度,至適pHといっ た酵素反応の基礎的なデータについて,実験系を丁寧に 設計し,調べている.設備の関係もあり,発光色の発光 スペクトル変化については詳細に調べることは困難であ るが,インターネットを用いて文献などの情報を探し出 して調べ考察するなど,興味をもった題材に対して真剣 に向き合っている姿勢に感銘を受けた発表であった.

文献

  1)  SPring-8が 明 か す ホ タ ル が 発 光 す る し く み,http://www.

spring8.or.jp/ja/news̲publications/research̲highlights/no̲26/

  2)  加藤博章,中津 亨,京都大学低温物質科学研究セン ター誌,11, 44 (2007).

(文責「化学と生物」編集委員)

図2温度による反応の変化

(A) A液(ルシフェラーゼ)を各温度で保温後,B液(ルシフェリ ン)と混合した際の反応の様子.(B) B液(ルシフェリン)を各温 度で保温後,A液(ルシフェラーゼ)と混合した際の反応の様子.

図3pHの変化による発光の様子

図4A液(ルシフェラーゼ)およびB液(ルシフェリン)の pHの変化による発光の様子

(A) A液のpHを変化させた後,B液と混合した.それぞれのサン プルで最初に加えた試薬と量,pHの測定値は以下のとおり.

1 ; 0.1 M HCl 75 μL (pH 6.5), 2 ; 0.1 M HCl 50 μL (pH 7.0), 3 ; 0.1 M  HCl 25 μL (pH 7.1), 4 ; 添 加 な し (pH 7.8), 5 ; 0.1 M NaOH 25 μ

(pH 7.8), 6 ; 0.1 M NaOH 50 μL (pH 8.2), 7 ; 0.1 M NaOH 75 μ

(pH 9.8). (B) (A) の反応液を中和させた後の発光.(C) B液の pHを変化させた後,A液と混合した.それぞれのサンプルで最初 に加えた試薬と量,pHの測定値は以下のとおり.1 ; 0.1 M HCl  75 μL (pH 7.1), 2 ; 0.1 M HCl 50 μL (pH 7.0), 3 ; 0.1 M HCl 25 μ

(pH 7.1), 4 ; 何も加えず (pH 7.8), 5 ; 0.1 M NaOH 25 μL (pH 8.1),  6 ; 0.1 M NaOH 50 μL (pH 8.4), 7 ; 0.1 M NaOH 75 μL (pH 9.0). 

(D) (C) の反応液を中和させた後の発光.

図1温度変化による発光反応の変化

(A) 異なる温度下での発光,(B) (A) の後に酵素を添加したとき の反応.

参照

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