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近年における世界経済のひとつの特徴は

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Academic year: 2023

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近年における世界経済のひとつの特徴は、一見すると矛盾するようであるが、世 界化(グローバリゼーション)と地域経済統合(以下、地域統合)が同時に進行してい ることである。ヒト、モノ、カネ、情報など経済活動に不可欠な要素が世界大で活 発に移動している一方、特定地域内での動きも活発化している。グローバリゼーシ ョンの進展は、近年、国際経済活動である貿易や直接投資が国内総生産(GDP)より も急速に拡大したことで確認できる。具体的には、1980年から2004年の24年間で世 界のGDPは3.8倍拡大したのに対して、世界の貿易および直接投資は、各々、4.6倍 および11.8倍も拡大した。グローバリゼーションはさまざまな要因によって推進さ れたが、そのなかでも特に関税と貿易に関する一般協定(GATT)および世界貿易機 関(WTO)の下での多角的貿易自由化と、国際経済活動の円滑化を可能にした通 信・輸送分野における技術進歩や規制緩和が重要である。

他方、地域統合も世界諸地域で進んでいる。地域統合の程度を図るひとつの尺度 に使われる地域内貿易比率(地域による貿易に占める地域内での貿易の割合)でみると、

欧州、北米、東アジアにおいて同比率は1980年から2004年にかけて、各々、61、34、

36%から68、46、54%へと上昇している。

地域統合を促進する要素は、主に2つある。ひとつは地域内の活動に対して優遇 措置が適用されるような制度的枠組みの構築であり、いまひとつは経済活動の担い 手である企業や人々による、情報入手の容易性などの集積の利益を求めての移動で ある。前者を制度誘導型地域統合と呼ぶのに対して、後者は市場誘導型地域統合と 呼ぶ。

制度誘導型地域統合の代表的な例としては、欧州での地域統合が挙げられる。欧 州では、1950年代に欧州石炭鉄鋼共同体、欧州原子力共同体、欧州経済共同体など が構築され、その後も、欧州共同体、欧州連合などが構築されたことで、統合が深 化した。北米での地域統合は市場誘導型であったが、89年の米加自由貿易協定、94 年の北米自由貿易協定など加盟国間の貿易障壁を撤廃する自由貿易協定(FTA)の発 効により、制度誘導型の要素が含まれるようになった。

国際問題 No. 553(2006年78月)1

◎ 巻 頭 エ ッ セ イ ◎

Urata Shujiro

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東アジアの地域経済統合―歴史と特徴

東アジアにおける地域統合は20世紀後半において、貿易や投資政策の自由化によ り、企業や人々が自由に移動した結果として進展したことから、市場誘導型である。

ただし、東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国により1992年にASEAN自由貿易地域が 設立されていたことから、制度誘導型の要素も存在していた。しかし、日本、中国、

韓国などの他の東アジア諸国による貿易額と比較すると、ASEAN域内の貿易額はき わめて小さかったことから、東アジアの地域統合においては制度構築による影響は ほとんどなかったと言える。

東アジアにおける市場誘導型地域統合の実現にあたっては、日本は大きな貢献を した。地域統合の担い手となったのは日本企業であり、それらの直接投資により構 築された域内生産・流通システムが地域内貿易を大きく推進した。また、日本政府 による経済開発援助も東アジアでのインフラストラクチュア整備や人材育成への貢 献を通して投資・貿易および経済の拡大に貢献し、地域統合を促した。

市場メカニズムを原動力として進んできた東アジアにおける地域統合であったが、

1990年代末になると制度構築への動きが活発化した。具体的には、2国間でのFTA や地域レベルでの協力へ向けての枠組みが設立されるようになった。主なFTAとし ては、日本・シンガポール(2002年)や中国・ASEAN(2005年)など地域内FTAが あるが、他方、日本・メキシコ(2005年)や韓国・チリ(2005年)など地域外との FTAもある。東アジア諸国はFTA設立に向けての動きを活発化させているが、欧州 や北米とは異なり、すべての東アジア諸国を加盟国とするようなFTAは設立されて いないことから、現在までのところ、地域統合へ向けてのFTAの貢献は大きくない と思われる。

地域レベルでの協力の枠組み構築では、外貨不足に陥った際に外貨を相互に融通 するチェンマイ・イニシャチブや、アジア域内の資金を域内で活用することを目的 としたアジア債券市場の構築へ向けての制度作りなど、金融面での動きが活発であ る。また、情報通信(IT)部門における人材育成や環境問題への協力など機能的協 力の枠組みもできつつある。

近年における東アジアでの地域制度構築活発化の背景には、1997年に発生したア ジア経済危機に際して東アジア地域外の国々から期待したような支援を受けること ができなかったことから、危機再来の防止にあたっては、域内諸国での協力が不可 欠であるという認識がある。一方、FTAへの関心の高まりはさまざまな要素に起因 する。ひとつは世界の他地域において、FTAの数が急増していることが挙げられる。

WTOでの多角的貿易交渉が頓挫している状況において、貿易自由化に関心のある 国々は、同じような考えをもつ国との間でFTAを設立してきた。そのような状況の

巻頭エッセイ東アジアにおける経済統合と日本

国際問題 No. 553(2006年78月)2

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なかで、輸出市場の縮小を懸念した東アジア諸国は自らもFTA設立に積極的になっ た。また、東アジアにおける政治および経済面での影響力の維持・拡大を狙って、

日本、中国、韓国、ASEAN諸国などが他国に先駆けてFTA構築に動いたということ もある。

地域統合に向けての課題

東アジアにおいて、さまざまな国々の組み合わせでFTAが形成されつつある状況 のなかで、東アジア諸国を包含するようなFTA構想も検討されるようになった。具 体的には、日本、中国、韓国およびASEAN諸国(ASEANプラス3)の経済大臣会合 で東アジアFTA構想が取り上げられ、現在、その可能性について学識経験者による 検討が行なわれている。東アジアFTA構想は、東アジア諸国が地域での経済的メリ ットを最大化させるには東アジアFTAが必要であること、東アジアにおいて多くの2 国間FTAが形成されることにより発生する貿易抑制効果(スパゲッティボウル効果)

を回避しなければならないこと、など現状に対する不満や懸念に起因する。

東アジアFTAの形成は、東アジア域内に残存する貿易や投資に対する障壁の削減 を通して貿易・投資を拡大し、経済成長をもたらす。少子高齢化が急速に進み、経 済のダイナミズムを失いつつある日本にとっては、東アジアFTAを通して東アジア 諸国との関係を緊密化することにより大きなメリットを得ることができる。さらに、

東アジアFTAは、共通通貨の導入などを含む高度の地域統合である東アジア経済共 同体形成へ向けての大きなステップになる。

東アジアFTAのメリットは大きいが、貿易、投資、人の移動の自由化などから被 害を受ける人々からの反対が強く、構想実現に向けての道のりは長い。日本に関し ては、農業分野の自由化や看護師・介護士などの労働者の海外からの受け入れに対 する抵抗が強く、東アジア諸国との2国間FTAの設立にも時間がかかっている。

東アジアにおいて最大の経済規模をもち、発展段階の最も進んだ日本にとって、

東アジアFTAなどの制度的枠組みの構築などを通して地域統合の推進に向けて果た すべき役割は大きい。しかし、これまでの動きのなかでは、日本の貢献はかなり限 定的である。

以上のような問題意識を踏まえて、本号では、東アジアにおける地域統合につい て、貿易・投資、人の移動、農業・食糧問題、通貨・金融問題などの重要な問題を 取り上げて分析を行なう。分析では、日本の果たすべき役割についてのさまざまな アイデアが提示される。ここでの分析が、日本におけるFTAへの関心を高めるだけ ではなく、日本の対外経済政策に関する議論の活発化を通して、望ましい政策決定 につながることを期待したい。

巻頭エッセイ東アジアにおける経済統合と日本

国際問題 No. 553(2006年78月)3

うらた・しゅうじろう 早稲田大学教授 [email protected]

参照

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