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論文内容の要旨 - 自治医科大学機関リポジトリ

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Academic year: 2025

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氏 名 大お おEA AEた にEA AEし んEA AEい ちE 学 位 の 種 類 博士 (医学) 学 位 記 番 号 甲第531号

学 位 授 与 年 月 日 平成29年3月21日

学 位 授 与 の 要 件 自治医科大学学位規定第4条第2項該当

学 位 論 文 名 ラット実験モデルを用いた形態観察による再膨張性肺水腫の発症機序解 明

論 文 審 査 委 員 (委員長) 教 授 萩 原 弘 一

(委 員) 教 授 國 田 智 教 授 坂 本 敦 司 教 授 仁 木 利 郎 准教授 菱 川 修 司

論文内容の要旨

1 研究目的

肺水腫は成因によって、肺微小血管内の静水圧上昇が原因で起こる心原性肺水腫と、主に肺微 小血管の透過性亢進が原因で起こる非心原性肺水腫に分類される。非心原性肺水腫のひとつに、

長期間虚脱していた肺が急速に含気を回復して再膨張する際に発症する再膨張性肺水腫がある。

現在でも再膨張性肺水腫の発症を確実に予防することはできず、重篤な呼吸不全に陥ることもあ るため、再膨張性肺水腫の病態を理解することは重要である。

再膨張性肺水腫の発生機序として、サイトカインなどの化学伝達物質を介して炎症が肺微小血 管に起こることで肺胞透過性が亢進するという説や、再膨張時に肺胞が伸展されて物理的な損傷 が起こるという説などが討議されているが、明確には解明されていない。

再膨張性肺水腫は、肺再拡張後の数分から数時間という短時間内に発症することが一つの特徴で ある。これは、肺胞の物理的損傷・細胞組織障害が発症初期段階の主たる原因であることを示唆 しているのではないかと筆者は考えた。そこで、それを実証するためにラット再膨張性肺水腫モ デルを作成し、再膨張性肺水腫肺の形態学的特徴を捉えることで、発症の原因を推察しようとし たのが本研究である。

2 研究方法

Wistar雄ラットを全身麻酔で経口気管内挿管し、人工呼吸換気下に左開胸をした。再膨張性肺

水腫を誘発させる再膨張群ラットは、前処置として左気管支をクリップで遮断し、左肺を無気肺 にして閉胸して覚醒させた。一方、コントロール群のラットは、左開閉胸のみの偽手術を施行し た。前処置の 3日後に、全身麻酔で気管切開および左開胸を行って、再膨張群は左気管支を遮断 解除して左肺を膨張させることにより、再膨張性肺水腫を誘発させた。コントロール群は左肺が 無気肺になっていないことを確認した。

ライブイメージング観察を行うために、fluorescein isothiocyanate (FITC) 標識ウシアルブ ミンを静注した後に各群の左肺を吸引チャンバー内に留置した。次に、生体蛍光顕微鏡を用いて 肺毛細血管および肺胞の微小循環動態を観察した。さらに、各群の左肺のHE 染色標本を作製し、

光学顕微鏡で観察した。そして、各群の左肺の超薄切試料を作成し、透過型電子顕微鏡で観察し

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た。さらに、horseradish peroxidase (HRP) を血漿成分のトレーサーとして静注した後に、

diaminobenzidine (DAB) 発色させた試料を透過型電子顕微鏡で観察した。

3 研究成果

肺水腫群は左肺の再膨張直後から10秒以内に左肺全体に斑状発赤が出現した。再膨張性肺水腫は 虚脱した肺に含気が回復した後、きわめて短時間に発症することが肉眼的に判断できた。

次に蛍光顕微鏡で生体下の肺微小循環動態を観察した。FITC 標識アルブミンが存在する部位は発 光して白色に描出され、逆に、FITC 標識アルブミンが存在しない部位は蛍光発色の欠損像として描出さ れた。コントロール群では、全ての肺胞は黒色に観察され、FITC 標識アルブミンが存在していない状態 であった。肺胞の周囲には、白色に発光する網状構造物として肺毛細血管が観察され肺毛細血管の血 流に停滞は認められなかった。一方、再膨張群では約 80%の肺胞が白色に蛍光発色しており、多くの肺 胞内へ FITC 標識アルブミンが漏出していることが確認された。また、再膨張群の毛細血管では全体とし て血流が遅い傾向だった。

HE 染色標本を光学顕微鏡で観察した。コントロール群では正常肺との組織構造の違いは認められな かった。再膨張群ではほとんどの肺胞内が血漿成分で充満していた。また、コントロール群と比較して、

肺胞内に赤血球や肺胞マクロファージが多数認められた。

電子顕微鏡観察では、コントロール群の組織構造は正常像との違いは認められなかった。再膨張群に おいて、一部のI型肺胞上皮細胞の胞体が若干肥厚しており、0.01から0.1 μm径の小孔が多数形成さ れていた。血管内皮細胞には障害といえるような変化はなく、閉鎖帯も密着したままの構造が保たれてい た。また、血液空気関門を構成するI型肺胞上皮細胞・基底膜・血管内皮細胞が層構造を保ったまま大き く裂け、その裂傷部から赤血球が肺胞内へ漏れているかのような像が観察された。

HRP をトレーサーとして用いた電子顕微鏡観察では、コントロール群の毛細血管内腔、血管内皮の貪 飲小胞内、基底膜の透明層と思われる部位には HRPの酵素反応により発生した DAB の反応産物が観 察されたが、肺胞上皮細胞の貪飲小胞内や肺胞腔には DAB の反応産物は認められなかった。肺水腫 群では、肺胞内表面の広い範囲にDAB反応産物が認められ、多数の小孔が形成されていたI型肺胞上 皮では、小孔部から肺胞内表面にかけてDAB反応産物が存在していた。

4 考察

本研究において、ラット再膨張性肺水腫モデルを作成し、肺の肉眼観察、生体顕微鏡観察、光学顕微 鏡観察行い、再膨張性肺水腫が肺再膨張の直後に発症すること、肺毛細血管の血流に局所的な停滞が 認められることが分かった。また、電子顕微鏡観察、HRP投与個体の電子顕微鏡観察を行い、I型肺胞上 皮に形成された小孔あるいは肺胞壁損傷部から肺胞へ血漿成分が漏出することが分かった。

肺水腫群の生体観察では、観察開始時から大部分の肺胞への血漿の漏出が認められ、肺の再膨張 直後に肺水腫が発症していると考えられた。また、均一に肺水腫が起こっているようでも、個々の毛細血 管血流は一様ではないことが分かり、肺胞壁に多様な微小障害が起きていることが推察された。

再膨張性肺水腫の電子顕微鏡観察で、毛細血管内皮細胞の膨化が認められたとの報告があり、肺拡 張時に膨化した内皮が機械的に損傷することが推察されているが、再膨張性肺水腫の電顕像報告は少 ない。本研究での肺水腫群の電顕像で認められたI型肺胞上皮細胞の0.01から0.1 μm径の小孔形成 は過去に報告がない。また、肺胞壁が層構造を保ったまま損傷している像が確認され、肺水腫発症直後

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に赤血球が多数肺胞内に認められたのは、この肺胞壁損傷が原因であろうと推察する。

電子顕微鏡を用いた HRP のトレーサー実験で、コントロール群において血管内の微小粒状物は毛細 血管内皮の貪飲小胞を介して基底膜の透明層と思われる部位まで短時間で移動することが示され、肺水 腫群においてはI型肺胞上皮に形成された小孔あるいは肺胞壁損傷部から肺胞へ血漿成分が漏出する ことが判明した。

本研究の結果により、肺胞上皮細胞小孔形成と肺胞壁損傷が再膨張性肺水腫の発症初期段階にお ける発症機序の主因であると考えられた。その他に再膨張性肺水腫の発症機序として提唱されているサ イトカイン等の血管作動性物質の作用による肺胞透過性亢進は、発症初期段階以降の時相においての 機序であろうと推察する。

5 結論

1. 再膨張性肺水腫の発症機序を解明するために、ラット再膨張性肺水腫モデルを作成して形態観 察を行った。

2. 蛍光顕微鏡での生体観察を行い、再膨張性肺水腫が肺再膨張の直後に発症すること、肺毛細 血管の血流に局所的な停滞が認められることが分かった。

3. 電子顕微鏡観察を行い、再膨張性肺水腫ではI型肺胞上皮に形成された小孔あるいは肺胞壁 損傷部から肺胞へ血漿成分が漏出することが分かり、再膨張性肺水腫の発症初期段階の機序と して重要な事象であると推察された。

論文審査の結果の要旨

本論文は、気胸手術後などにしばしば問題になる再膨張性肺水腫の発生機序を、ラットを用い て肺手術後の再膨張をシミュレートする実験系により考察するものである。再膨張性肺水腫の機 序は不明な点が多く、機能解析の前に詳細な形態学的解析を行い、発生機序モデルを構築するこ とが必要である。本論文では、光学顕微鏡、電子顕微鏡を用いて形態学的な観察を行い、機序に 関して考察した。再膨張性肺水腫は再膨張性後 1 分以内に発症し、I 型肺胞上皮細胞に生じた小 孔や肺胞壁損傷部から肺胞への血漿成分漏出が最初に起こることが分かった。今後、予防法、治 療法開発のための基礎データになると考えられた。

本論文はデータのほとんどない再膨張性肺水腫の発症機序に先鞭をつけるもので、野心的な試 みである。考察を加えながら、一歩一歩現象を解明していくことは医学の基本であり、科学の技 法に沿ったものである。この研究の結果、申請者は臨床研究者として十分な能力を獲得すること ができたと推定できる。学位を授与するに十分な研究と考える。よって、本学位審査会は、大谷 真一氏の論文を、本学学位論文として十分なものと考え、合格と判定した。

最終試験の結果の要旨

大谷真一氏は、提出論文で記載した研究内容に関して、学位審査会でプレゼンテーションを行 なった。

プレゼンテーションは簡にして要を得たものであり、氏の研究にかけた努力が推察される多量

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のデータを含むものであった。審査委員から、氏の実験内容、科学的研究能力を問うための質問 が行われた。氏は、全ての質問に的確に回答した。審査委員より、これらの質疑応答を踏まえ、

学位申請論文を改定するよう要望が出された。

氏は、改定学位申請論文を速やかに提出した。審査委員会は、すべての結果を総合し、自治医 科大学最終試験合格と判定した。

参照

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