はじめに
近年,オミクス解析技術の発展によって,腸内細菌の 遺伝子とその代謝産物の網羅的解析が可能となり,腸管 内での腸内細菌叢の全容とその機能性が明らかとなって きた.その結果,腸内細菌叢の変化が種々の疾患の発 症・増悪(炎症性疾患(1),代謝性疾患(2, 3)や自己免疫疾 患(4)など)に寄与することが明らかになりつつある.す なわち,腸内細菌が宿主の免疫・代謝機能に重要な役割 を果たしており,医学・生物学において最も重要な領域 として認識され始めている.本稿では,腸内細菌による 食事由来リノール酸代謝産物が および 評 価系で腸管バリア保護作用を発揮することを示すととも に,長鎖脂肪酸受容体GPR40を介したそのメカニズム の一端を紹介したい.
腸管バリア機能
われわれの腸管は「内なる外」とも呼ばれ,食品の消 化吸収を司ると同時に食品抗原や細菌などに常に暴露さ れていることから,生体最大の免疫器官としても機能 し,免疫細胞や免疫グロブリンの量が全身の60%以上 にものぼると言われている.たとえば,小腸に存在する パイエル板領域には,樹状細胞,T細胞やB細胞などの 主要な免疫細胞が集中して存在しており,これらの免疫
細胞は抗原に対して免疫グロブリンを作製することで,
生体内への侵入を防ぐ機能を果たしている.また,腸管 上皮細胞は,栄養素の吸収に関与すると同時に,食品や 腸内細菌などの抗原の無秩序な侵入を物理的・化学的に 制御するバリア機能を担うことが知られている.このよ うな腸管上皮細胞の細胞間に局在するタイトジャンク ション(tight junction; TJ)は,OccludinやClaudinな どの膜貫通型タンパク質と,Zonula occludens(ZO)
などの細胞内裏打ちタンパク質によって構成され,その 機能は各TJ分子の発現量や局在の変化によっても調節 されている.また,細胞間の抗原の無秩序な侵入を制御 する細胞間接着因子であり,このバリア機能の破綻は 種々の疾患の発症に寄与すると考えられている(5).この ようなTJバリアの恒常性を維持することは非常に重要 であり,これまでにさまざまな食品成分(プロバイオ ティクス乳酸菌(6),ポリフェノール(7)やアミノ酸(8)な ど)がTJバリアの維持・保護に重要な役割を果たすこ とが明らかとなっている.さらに,ある種の腸内細菌が TJバリアの恒常性維持に重要であることが明らかにさ れているが(9, 10),その分子実体は不明なままであった.
腸内細菌と代謝産物
われわれの腸管には,1,000種類以上,100兆個もの腸 内細菌が存在し,それぞれがバランスを保ちながら共存
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セミナー室
腸内相互作用の理解に基づいた健康の増進・疾患の予防-4腸内細菌脂質代謝産物に見いだされた 腸管バリア保護機能
腸内環境から健康増進
宮本潤基 *
1,2,鈴木卓弥 *
1,木村郁夫 *
2,田辺創一 *
1*1広島大学大学院生物圏科学研究科,*2東京農工大学大学院農学研究院
している.近年,この腸内細菌のバランスが何らかの刺 激で破綻すると,宿主の恒常性に影響を及ぼすことが明 らとなった.すなわち,われわれの恒常性を維持するた めに,腸内細菌のバランスを保つことが非常に重要であ る.また,宿主の恒常性維持において,腸内細菌が腸管 粘膜免疫システムの制御に寄与することと,その分子 メカニズムが明らかになりつつある.たとえば,腸内 細菌の一種であるセグメント細菌(SFB)は炎症応答に 関与するインターロイキン17産生性ヘルパー T細胞
(Th17)の分化・誘導に関与することや(11),クロストリ ジウム目細菌群が制御性T細胞(Treg)の分化・誘導 に寄与することが明らかとなった(12, 13).しかしながら,
このような腸内細菌の作用が宿主側にどのように寄与し ているのか,すなわち,宿主と腸内細菌との相互作用の 分子メカニズムまでは不明なままであった.
近年,難消化性多糖類(食物繊維)は腸内細菌の重要 な栄養源として利用され,その代謝産物として生成され た短鎖脂肪酸が,宿主の免疫・代謝系に重要なシグナル 分子として役割を果たすことが明らかになりつつある.
たとえば,短鎖脂肪酸の一つである酢酸は,病原性大腸 菌O157の感染を予防することや腸管バリア機能を向上
させることが明らかになっており(14),酪酸はエピジェ ネ テ ィ ッ ク に 作 用 し,Treg細 胞 の 転 写 因 子 で あ る FoxP3の発現を促進することで大腸炎を改善すること も報告されている(15).このほか,細胞膜上の7回膜貫通 型受容体(G protein-coupled receptors; GPCRs)であ る短鎖脂肪酸受容体を介した作用なども報告されている
(次項参照).
さらに,腸内細菌が生化学的な水和反応による水酸基 の導入を介して,食事由来の不飽和脂肪酸から水酸化脂 肪酸,オキソ脂肪酸,共役脂肪酸および部分的に飽和さ れた非メチレン系脂肪酸を産生することが報告され,さ らに,マウスの組織においても,これら独特な脂肪酸の 存在が明らかになっている(16).特に,これら水酸化脂 肪酸は,腸管バリア保護(本稿)(17),脂肪酸合成・脂質 代謝制御(18),免疫制御(19)などの機能性に寄与すること が見いだされており,腸内細菌の不飽和脂肪酸代謝に依 存して,腸管内に生成する脂肪酸がシグナル分子とし て,宿主の健康に何らかの影響を及ぼしている可能性を 示唆している.
われわれの腸管は長さにして7 〜8 m,面積にして
400 m2(テニスコート1.5面分)にも及ぶと言われ,
生体内で最も長い臓器である.腸管は栄養素などの 吸収を担う小腸(十二指腸,空腸および回腸)と,水 分の吸収を担う大腸(盲腸,結腸および直腸)に大別 される.腸管の管腔内(内側)は,摂取した食品や腸
内細菌に常に暴露されていることから,「内なる外」
と称されることもある.このような腸管を形成する 腸管上皮細胞は食品成分の消化や吸収を担う組織で あると同時に,食品成分や腸内細菌などの抗原の無 秩序な侵入を物理的・化学的に制御するバリア機能 も担う.その中でも,腸管上皮細胞間に局在するタ イトジャンクションは,腸管腔側に隣接し,食品成 分や腸内細菌などと頻繁に接触することから物理的 なバリアとして非常に重要である.タイトジャンク ションの形成は,抗原の無秩序な侵入を制御するだ けでなく,栄養素,イオンや水分などの透過も制御す ることで,われわれの生命維持に寄与している.さら に,近年の研究で,腸管腔内に存在する食品成分が タイトジャンクションの調節に寄与することも明ら かにされ,腸内環境を正常に維持することが健康増 進につながると考えられる.
一方,われわれの腸管には,1,000種類以上,100兆
個もの腸内細菌が存在し,それぞれがバランスを保 ちながら共存している.近年,腸内細菌叢の変化が 我々の健康維持に密接に関与することが明らかにさ れつつあり,腸内細菌学研究が盛んに行われている.
また,オミクス解析(生命現象を網羅的に解析する 手法)技術の発展に伴い,腸内細菌の遺伝子とその 代謝産物の網羅的な解析が可能となり,腸内細菌叢 の全容とその機能性が明らかになりつつある.たと えば,腸内細菌によって産生されるインドール(ト リプトファン代謝物)が,タイトジャンクション関 連因子の発現を亢進することで,抗原の無秩序な侵 入をより強固に制御していることが示唆されている.
さらに,タイトジャンクションを始めとする腸管 バリア機能の障害は,さまざまな疾患(炎症性腸疾 患,肥満,アトピー性皮膚炎やアルコール性肝障害 など)で観察されることから,腸管バリア機能の障 害はこれら疾患の増悪因子であると考えられる.加 えて,これらの病態では腸内細菌叢の破綻 (Dysbio- sis)も観察されており,腸内環境の変化が腸管バリア 機能の障を誘導し、疾患の発症・増悪に寄与するこ とも示唆されている。すなわち腸内環境の改善、バ ランスを維持することは腸管バリア機能の制御に寄 与し,われわれの健康増進に関与する可能性が期待 される.
コ ラ ム
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GPCRs
Gタンパク質共役型受容体(GPCRs)は,ホルモンや 神経伝達物質のようなシグナル伝達分子を感知するのに 生理学的に重要な膜タンパク質であり,さまざまな疾患 の治療の標的となっている(20).腸内細菌代謝産物の短 鎖脂肪酸は,GPR41, GPR43, GPR109aやOlfr78などに 対するリガンドとして同定されており,宿主の恒常性維 持に重要な役割を果たすことが明らかとなっている.た とえば,GPR41はエネルギー代謝制御(21)や免疫制御(22) が報告されており,GPR43も同様に,代謝疾患(23)や免 疫疾患(24)などに関与することが明らかとなっている.
また,GPR109aは免疫制御(25)を,Olfr78は血圧調節(26) をそれぞれ担うことが報告された.このように,宿主の 栄養源として捉えられていた食品由来の短鎖脂肪酸が,
GPCRsを介することでシグナル分子として作用し,宿 主の恒常性維持に重要な役割を果たしていることが明ら かにされている.
一方,長鎖脂肪酸受容体であるGPR40やGPR120にも さ ま ざ ま な 機 能 性 が 報 告 さ れ て い る.た と え ば,
GPR120は脂肪組織や免疫細胞に高発現することが明ら かにされており,食事性肥満の原因遺伝子の一つである こと(27),マクロファージにおける炎症抑制性シグナル を誘導すること(28)や腸管ホルモン分泌による代謝改善 作用などが報告されている(29).さらに,GPR40は膵β細 胞のインスリン分泌を促進すること(30)や,腸管ホルモ ン分泌に寄与することが明らかにされている(31).この ように,種々のGPCRsは栄養センサーとして,免疫 系・代謝系をはじめとした宿主の恒常性維持に重要な因 子として作用していることが明らかとなっている(図 1).
本稿では,腸内細菌のリノール酸代謝産物である 10-hydroxy- -12-octadecenoic acid(HYA) の デ キ ス
トラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性腸炎モデルマウス の症状緩和作用と,GPR40を介した腸管バリア保護メ カニズムを概説したい.
GPCRsを介した腸内細菌代謝産物の腸管バリア保 護作用
1. 腸内細菌代謝産物の腸管保護作用
食事脂質中に多量に含まれるリノール酸(ω-6脂肪 酸)は,われわれが生命を維持するために摂取する必要 がある必須脂肪酸であるが,その摂取量が過剰になる と炎症やアレルギー反応を惹起することも知られてい る(36).近年では,消費者の食事脂質への関心も高まり,
亜麻仁油のα-リノレン酸や魚油のDHA, EPAなどのω-3 脂肪酸の機能性が期待されている.しかしながら,食事 脂質中のリノール酸が腸内細菌によって代謝されること が明らかとなり,このような腸内細菌代謝産物がさまざ まな生理活性を示すことが期待されている(16).そこで,
われわれは腸内細菌のリノール酸初期代謝産物である HYAの生理機能を明らかにするために,腸管バリア保 護作用への影響を検証した.まずはじめに,ヒト腸管上 皮様細胞株Caco-2細胞を2層式の培養装置であるTran- swell systemに培養し,腸管上皮様に分化させた.分化
図1■脂肪酸受容体群とその作用 図2■リノール酸およびリノール酸代謝産物の構造
(文献16より引用・改変)
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したCaco-2細胞のapical側からリノール酸代謝産物群
(図2)を作用させ,その後,炎症性サイトカイン(In- terferon(IFN)-γおよびTumor necrosis factor(TNF)- α)でTJ損傷を誘導した.
TJ損傷の指標には,経上皮電気抵抗(TER)および FITC-dextran透過量で評価した.その結果,リノール 酸の初期代謝産物であるHYAにTJ損傷を回復する効 果(TERの減少およびFITC-dextran透過量の増加)が 観察されたが,その他の代謝産物群に同様の作用は確認 されなかった(図3A, B).また,HYAの前駆体である リノール酸にも腸管バリア保護作用が観察されたが,そ
の作用はHYAと比較して僅かであった.さらに,腸管 バリア保護作用が観察されたHYAを,DSS誘導性腸炎 モデルマウスに投与し,腸炎改善作用を検討した.その 結果,DSS誘導性腸炎モデルマウスで顕著な腸炎症状
(体重減少,大腸長,糞便スコアや上皮損傷)が観察さ れたが,HYAの継続的な投与で,その症状が緩和され た(図3C, D).一方,リノール酸代謝産物の一種であ るHYBには,HYAで観察された腸管バリア保護作用や DSS誘導性腸炎モデルマウスの症状緩和作用は観察さ れなかった.
図4■HYAはTNFR2発現制御を介したNF-κB 経路の抑制
(A)Western blottingに よ るIκBαの リ ン 酸 化,
(B)フローサイトメトリーによるTNFR2+腸管 上皮細胞の検出と,(C)その割合(文献17より 引用・改変).
** <0.01 and * <0.05 compared with無処理
## <0.01 and # <0.05 compared with無 添 加
(もしくは,DSS投与群)
$$ <0.01 compared with HYA 図3■HYAの腸管バリア保護作用
(A)経時的な経上皮電気抵抗(TER)の変化,
(B)FITC-dextran透過量,(C)DSS投与後の体 重推移,および(D)大腸長の変化(文献17よ り引用・改変).
** <0.01 and * <0.05 compared with無処理
## <0.01 and # <0.05 compared with 無 添 加
(もしくは,DSS投与群)
$$ <0.01 compared with HYA
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2. TNF受容体発現制御
HYAの腸管バリア保護メカニズムを明らかにする た め に,TNF受 容 体 の 一 つ で あ るTNF receptor 2
(TNFR2)に着目して検討を行った.TNFR2は,炎症 状態などの限られた環境下において発現が誘導されるユ ニークな受容体で,実際に,炎症性腸疾患患者の腸管組 織 で は,TNFR2が 高 発 現 す る こ と が 報 告 さ れ て い る(37).また,NF-κBは免疫応答や細胞の生存などさま ざまな生命現象に関与していることが知られている.不 活状態ではIκBαなどの阻害タンパク質と結合して細胞 質 に 局 在 し て い る が,TNF-αな ど の 刺 激 に よ っ て IκBαがリン酸化され,プロテアソームによる分解後,
NF-κBの 核 移 行 に よ っ て 活 性 化 す る.本 研 究 で は,
IκBαのリン酸化レベルを確認することで,NF-κBシグ ナルの活性レベルを評価した.IFN-γ刺激したCaco-2細 胞 はTNFR2を 過 剰 に 発 現 す る こ と が 知 ら れ て い る が(38),HYAはその発現を正常レベルにまで回復し,そ の下流であるNF-κBシグナルの活性化も抑制した(図 4A).さらに,DSS誘導性腸炎モデルマウスの腸管組織 においても,腸管上皮細胞において増加したTNFR2発 現を,HYAの経口投与は抑制した(図4B, C).すなわ ち,リノール酸の初期代謝産物であるHYAは,腸管上 皮細胞に発現したTNFR2発現を制御することで,炎症 促進シグナルの活性化を抑制し,腸管バリア保護作用を 発揮することが示唆された.
3. GPR40を介した腸管バリア
HYAの有する腸管バリア保護作用のさらなるメカ
ニズムを解明するために,長鎖脂肪酸受容体である GPR40に着目して検討を行った.ヒト腸管上皮様細胞 株であるCaco-2細胞におけるGPR40の局在を検討した 結果,Caco-2細胞のapical側に強く発現していること が明らかとなった(図5A).次に,human GPR40-ex- pressing HEK293細胞を用いて,Ca2+の流入を解析し た結果,HYAは用量依存的にCa2+の流入を促進した.
さらに,その活性は内因性アゴニストの一つであるリ ノール酸よりも高いことが示された(EC50;リノール 酸11.3±0.6 μM, HYA 6.0±2.8 μM).一方,HYBは全く 活性を示さないことが明らかとなった(図5B).
さらに,GPR40シグナルがHYAの腸管バリア保護作 用に寄与するか否かを検討した.Caco-2細胞に対して,
GPR40 antagonistで あ るGW1100を 作 用 さ せ た 際 の TERとFITC-dextran透 過 量 を 解 析 し た.そ の 結 果,
GW1100存在下では,炎症性サイトカインの誘導した TERの 低 下 とFITC-dextran透 過 量 の 増 加 に 対 す る HYAの改善作用が消失することが明らかとなった(図 5C).また,TNFR2発現に対するGPR40の影響を検討 した結果,GW1100存在下においても,IFN-γ誘導性 TNFR2発現は顕著に増加したが,HYAのTNFR2発現 制御作用が消失した.さらに,GPR40の下流シグナル であるMEK-ERK経路に着目し,HYAの腸管バリア保 護作用を検討した.HYAは経時的にCaco-2細胞のERK のリン酸化を促進しており,その作用は用量依存的で あった.MEK-ERK経路の腸管バリアへの影響を検討す る た め に,MEK inhibitorで あ るU0126存 在 下 で の HYAの腸管バリア保護作用を検討した.その結果,
図5■HYAのGPR40シグナルを介した腸管バ リア保護作用
(A)GPR40の免疫蛍光染色;FITC-GPR40(緑)
お よ びDAPI(細 胞 核,青),Bar=20 μm, (B)
hGPR40強制発現細胞株におけるCa2+の誘導能,
(C)GPR40アンタゴニスト(GW1100)を介した 腸管バリア保護作用(文献17より引用・改変).
$$ <0.01 and $ <0.05 compared with HYA
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U0126存 在 下 に お い て,HYAの 腸 管 バ リ ア 保 護 や TNFR2発現制御作用が部分的に消失した.すなわち,
腸内細菌によるリノール酸の初期代謝産物であるHYA は,長鎖脂肪酸受容体のGPR40を介して,MEK-ERK 経路を活性化し,腸管上皮細胞のTNFR2発現を制御す ることで腸管バリア保護作用を示すことが明らかとなっ た.
おわりに
近年,腸内細菌叢と宿主のクロストークが盛んに取り 上げられており,『腸内細菌学』としての新たな分野が 確立されつつある.さまざまな要因(ストレス,加齢,
アルコール・喫煙,食生活など)で腸内細菌叢の異常
(Dysbiosis)は引き起こされるが,その結果として,腸 管での炎症惹起にとどまらず,アルコール性肝障害,肥 満,アトピー性皮膚炎,喘息や精神疾患など全身のさま ざまな局所・臓器で起こりうる疾患と関連することが明 らかとなっている.このような疾患は,Dysbiosisに伴 う腸管バリア機能の破綻,その後のエンドトキシンの体 内への過剰な侵入が全身性疾患の発症や悪化に寄与して おり,腸内細菌叢のバランス,腸管バリア機能および 種々の疾患の発症は,密接に関連していると考えられて いる.
食事由来リノール酸の腸内細菌代謝産物群は,腸管バ リア保護作用のみならず,脂肪酸合成・脂質代謝制御や 免疫制御などをもつことも示されている.また,それら の作用機序も明らかになりつつあり,疾患に対する予防 的な役割をもった高付加価値の機能性食品因子として期 待されている.さらに,これら代謝産物群は宿主の生体 内に一定量,存在することから,食‒腸内細菌叢を介し た宿主の恒常性維持に(腸管バリア機能維持を含めた)
何らかの生理的役割を担っていると考えられ,その解明 が期待される.
謝辞:本研究では,京都大学大学院農学研究科 教授 小川 順先生と 助教 岸野重信先生に腸内細菌代謝産物をご供与いただき,さらに,実 験を遂行するうえで多大なるご指導・ご助言を賜りました.また,理化 学研究所メタボローム研究チームチームリーダー・慶應義塾大学薬学研 究科 教授 有田 誠先生には,腸内細菌代謝産物の定量などの解析を 中心にご指導・ご助言を賜りました.この場を借りて,諸先生方に心よ り御礼申し上げます.
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プロフィール
宮本 潤基(Junki MIYAMOTO)
<略歴>2012年広島大学生物生産学部生 物生産学科卒業/2014年同大学大学院生 物圏科学研究科博士前期課程修了/同年日 本 学 術 振 興 会 特 別 研 究 員DC1(食 品 科 学)/2016年同大学大学院生物圏科学研究 科博士後期課程在学中/2015〜2016年東 京農工大学大学院農学研究院特別研究学 生/107th American Oil Cemistsʼ Society Biotechnology Student Award (first place award)(2016年),日本農芸化学会2016 年 度 大 会 ト ピ ッ ク ス 賞(2016年)<研 究 テーマと抱負>食‒腸内細菌‒宿主を軸とし た生理作用の解明,特に食事脂質と脂肪酸 受容体を介した分子レベルでの宿主生理作 用の解明<趣味>スポーツ(サッカー)
鈴木 卓弥(Takuya SUZUKI)
<略歴>1996年北海道大学農学部生物機 能化学科卒業/1998年同大学大学院農学 研究科修士課程修了/同年明治乳業(株)研 究員(1998〜2002年)/2005年北海道大学 大学院農学研究科博士課程後期修了 博士
(農学)/同年日本学術振興会 特別研究 員,この間の2005〜2007年米国テネシー 大学ヘルスサイエンスセンターにて研究に 従事/2008年北海道大学大学院農学研究 院博士研究員/2010年広島大学生物生産 学部および大学院生物圏科学研究科講師/
2013年同准教授/2016年同教授,現在に 至る/ハインドガットクラブジャパン学会 奨励賞(2003年),日本農学進歩賞(2012 年),農芸化学奨励賞(2014年),安藤百 福賞(2016年)<研究テーマと抱負>食品 成分による腸管バリア制御の解明と疾病予 防への応用<趣味>映画鑑賞,スノーボー ド
木村 郁夫(Ikuo KIMURA)
<略歴>2001年京都大学薬学部薬学科卒 業/2006年同大学大学院薬学研究科修了,
博士(薬学)[指導教官:伊藤信行教授]/
同年千葉科学大学薬学部応用薬理学教室助 手・助教/2008年京都大学大学院薬学研 究科薬理ゲノミクス分野助教/2011年カ リフォルニア大学サンディエゴ校医学部客 員研究員/2013年東京農工大学大学院農 学研究院応用生命化学専攻テニュアトラッ ク特任准教授,現在に至る/文部科学大臣 表彰若手科学者賞(2016年)<研究テーマ と抱負>脂質を認識する細胞膜上受容体を 介した高次生命現象の分子レベルでの解明
<趣味>バンドやってます(ギター)
田辺 創一(Soichi TANABE)
<略歴>1990年東京大学農学部農芸化学 科卒業/1992年東京大学大学院農学系研 究科農芸化学専攻・修士課程修了/1992〜
1995年旭化成(株)ライフサイエンス総合 研究所/1995〜2000年東京学芸大学教育 学部・助手および講師,この間,博士(農 学)(東京大学大学院農学生命科学研究 科)/2000〜2015年広島大学生物生産学部 および大学院生物圏科学研究科・助教授,
准教授および教授/2015年日清食品ホー ルディングス(株)グローバルイノベーショ ン研究センター,現在に至る/農芸化学奨 励賞(2006年),日本食品免疫学会学会賞
(2015年)
Copyright © 2017 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.55.278