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終の棲家はどこにする

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(1)

卒業論文

終の棲家はどこにする

~日本のあるべき住まいとは~

名古屋市立大学 経済学部 経営学科

053125 鶴見あずさ

(2)

目次

1.序論

<変わる日本、変わる家族>・・・・・・・・・・・・・・・2

2.本論

<介護保険制度>・・・・・・・・・・・・・・・5

<介護保険のねらい>・・・・・・・・・・・・・・・7

<介護保険制度創設の目的>・・・・・・・・・・・・・・・7

<介護保険の現況>・・・・・・・・・・・・・・・8

<介護予防とは>・・・・・・・・・・・・・・・9

<サービスについて>・・・・・・・・・・・・・・・10

<介護保険でまかなえない出費>・・・・・・・・・・・・・・・13

<仮説の検証・分析>・・・・・・・・・・・・・・・14

3.結語

<長く自宅で過ごすには>・・・・・・・・・・・・・・・24

<健康住宅でハッピーリタイアメント>・・・・・・・・・・・・・・・27

≪参考文献≫・・・・・・・・・・・・・・・29

(3)

1.序論<変わる日本、変わる家族>

2008年11月27日、朝日新聞にて首相の医療費を巡る発言が問題となった記事が掲載さ れた。

「たらたら飲んで、食べて、何もしない人の分の金(医療費)を何で私が払うんだ」。

麻生首相が 20 日の経済財政諮問会議で、こんな発言をしていたことが、26 日に公開され た議事要旨で明らかになった。

自らの健康管理を誘ったうえで、病気予防の重要性を訴えたものだが、保険料で支え合 う医療制度の理念を軽視していると受け取られかねない発言だ。

首相は社会保障費の効率化の議論の中で「67、68 歳になって同窓会に行くと、よぼよぼ している、医者にやたらかかっている者がいる。学生時代はとても元気だったが、今にな るとこちら(首相)の方がはるかに医療費がかかってない」と指摘。自ら日課にしている 朝の散歩が役立っているとしたうえで、「私の方が税金は払っている。努力して健康を保っ た人には、何かしてくれるというインセンティブがないといけない」と強調した。

人類ははるか昔から、「不老不死」と言う夢を追い続けてきたと言われている。いつまで も若くはつらつとし、健康に過ごす。それは誰もが望むことだろう。しかし現代の最新医 療をもってしても、人間は「死」という宿命から逃れることはできない。

その中で、今日の日本は世界一の長寿社会を迎えた。そういう点では日本は求めてきた 至福を得たことになる。だから暗く考える必要はないのではないか。

しかし我が国では、急速な高齢化とともに、「介護」の問題が老後の最大の不安要因とな っている。高齢化と同時に少子化、また女性の社会進出化なども伴い、現実には家族だけ で介護を行うことは非常に困難になっている。

そこで平成12年(2000年)4月より介護保険制度がスタートした。介護保険制度とは、

介護を社会全体で支え、利用者の希望を尊重した総合的なサービスが安心して受けられる 仕組みを創ろうとするものである。

一見聞こえのよい印象を抱くが、これは「日本社会が家族制度の崩壊を認めた」という ことだ。つまり、急速な高齢化のために国としても制度化せざるをえなくなったため、そ れ以前は高齢者の介護を主に家族がしてきたところを、社会全体で支えあおうと国のルー ルとして位置づけてしまったのだ。

その結果、「保険のモラルハザード」により医療費、とくに 65 歳以上の高齢者医療費が 莫大になってしまったのはいうまでもない。医療費における利用者の自己負担が1割です むため、人間は健康を保つ努力を惜しまなくなってしまったのか。

確かに麻生首相の発言は軽率だったかもしれない。しかし筆者は、健康は「財産」だと 思っている。首相の言うことにあながち否定はできない。高齢者の医療費がかさんで深刻

(4)

になってきている今、高齢者が健康でかつ介護保険に頼りすぎず自宅で最期まで暮らせる ように努力する必要があると考える。

ここで「自宅で」と述べた理由は、日本では病院や診療所で亡くなる人の割合が死亡者 全体の約8割に上る一方、米英両国では5 割強にとどまっていることが、厚生省所管のシ ンクタンク「医療経済研究機構」がまとめた終末期医療に関する報告書で明らかになった からである。このことがなぜ問題なのかと言うと、日本は依然として終末期におけるケア は医療機関に、とくに長期で入院して行われることが多く、それが医療費の高騰につなが っている可能性が大きいからだ。

広井良典氏らによる「『福祉のターミナルケア』に関する調査研究報告書」によると、「老 人の終末期疾患は退行性疾患であり、医療は意味がないので、介護が厚く医療の薄いケア を」と事実上老人の医療を退ける提言をしている。しかし筆者は、これはそもそも老人の 生存権を否定する提言であると反論する。なぜならこの発言は極端に、老人は治る見込み がないので、本人の意思に関係なく治療しなくてもよいという意味に捉えられるからだ。

つまり筆者は、医療または介護を選ぶのは、老人の意思を尊重すべきであると考える。

そこで平成 15 年 7 月、内閣府がおこなった「高齢者介護に関する世論調査」によると、

仮に自分自身が老後に寝たきりや痴呆になり,介護が必要となった場合に,どこで介護を 受けたいと思うか聞いたところ,「可能な限り自宅で介護を受けたい」と答えた者の割合が 44.7%,「特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護保険施設に入所したい」と答えた 者の割合が33.3%,「介護付きの有料老人ホームや痴呆性高齢者グループホーム(痴呆の高 齢者が共同生活を営む住居)などに住み替えて介護を受けたい」と答えた者の割合が9.0%

となっている。平成12年に介護保険制度が始まって3年後、それでも半数近くの人々が在 宅で過ごしたいと望んでいる結果となった。

44.7 33.3 9.0 8.4 4.6 38.6 37.8 11.7 7.64.2 52.3 27.7 5.6 9.3 5.1

0% 20% 40% 60% 80% 100%

総数(3,567人)

女性(1,991人)

男性(1,576人)

「介護を受けたい場所」に関する世論調査

       内閣府(2003年9月)より

可能な限り自宅

特別養護老人ホームや老人 保健施設などの介護保険施

介護つきの有料老人ホーム や認知症高齢者グループ ホーム

一概に言えない

分からない

(5)

筆者が問題と感じている老人医療費の増加において、日本の終末期医療費が老人医療費 危機をもたらしている原因であるならば、できる限り在宅で最期を迎えるようにし、老人 医療費を抑制すべきであると考える。

本稿では、

「老人医療費を減らす最良の策とは、自宅で最期を迎えることである」

ことを仮説とする。

介護が必要になっても、残された能力を生かして、できる限り自立し、尊厳を持って生 活できるようにすることは国民共通の願いである。筆者は最期を迎える場所、いわゆる「終 の棲家」が自宅であることを望む高齢者が多いことから、高齢者の幸福追求と日本の医療 費の行く末を見つめ、自宅で最期を迎えることが老人医療費を削減することに密接に関係 しているかを考察する。

(6)

2.本論

<介護保険制度>

まず始めに、序章で述べた「介護保険制度」について解釈する。介護保険制度は、介護 される人(被介護者)の体の状態に応じて、ケアマネージャー(介護支援事業者)が利用 者と各種居宅介護サービス提供事業者との契約に基づいて、サービスが受けられるという 制度のことだ。この制度内では、在宅・通所・滞在型など状況に応じたサービス内容を相 談しながら計画していくことになる。

そして介護を受けられる対象者は、全ての 65 歳以上の方(第 1 号被保険者)及び 40 歳

~64 歳の医療保険に加入されている方(第 2 号被保険者)で、介護が必要と認められた第 1 号被保険者及び加齢に伴う疾患(初老期痴呆、骨粗鬆症など指定 15 種類)により、介護 が必要となった第 2 号被保険者が介護保険制度を利用することができる。

また料金は保険負担 9 割で自己負担は 1 割となっている。ただし、交通費や食費等にかか る費用は、利用者の全額負担となるので注意が必要だ。

この介護保険制度が始まったきっかけだが、日本は長寿国と少子化であることにより、

高齢化社会を迎えている。そして高齢化が進むと、介護を必要とする人が増えるが、少子 化などで介護をする家族の経済的、精神的負担は増大してきてしまったのだ。

そこで利用しやすくて、介護が公平に受けられる為の社会全体の仕組みを作ることを目 指して作られたのが、介護保険制度ということになる。

この介護保険制度が始まる前は、介護を受けるか受けないか、受けられてもサービス内 容の決定はどうするかの判断は市町村で決めていたが、制定後では自分が受けたい場所や、

住み慣れた場所、自宅で本人の意見や家族の意見を尊重したようなサービスが受けられる ようになった。

(7)

出所:福祉医療機構「WAM NET 介護早わかりガイド」

(8)

<介護保険のねらい>

出所:福祉医療機構「WAM NET 介護早わかりガイド」

<介護保険制度創設の目的>

老人福祉と老人医療制度に分かれて「措置制度」として扱われていた高齢者介護の問題 は、社会保険方式として新しく「介護保険制度」に生まれ変わった。制度創設の目的は次 のようになっている。

1)老後の最大の不安要因である介護を社会全体で支えていく仕組みとする。

2)社会保険方式にして給付と負担の関係をはっきりさせた相互扶助の仕組みとする。

3)従来の縦割りの制度ではなく福祉サービスと保健・医療サービスが総合的に提供され る。

4)介護を医療がカバーして起こった現象である「社会的な入院」を解消させる。

5)公的な機関のほかに民間介護サービス事業が参入することで効率的な多様なサービス が供給される。

(9)

<介護保険の現況>

■被保険者数と要介護認定者数の推移

平成 12 年 4 月末 平成 19 年 4 月末 第 1 号被保険者数 2,165 万人 2,682 万人(23.9%増)

要介護認定者数 218 万人 440.8 万人(102.1%増)

■利用者数の推移

出所:福祉医療機構「WAM NET 介護早わかりガイド」

利用者の増加にともなって、介護保険からの介護サービス費も増大している。

■ 総費用の伸び

出所:福祉医療機構「WAM NET 介護早わかりガイド」

■ 第1号被保険者の保険料

第 1 期(00~02 年度) 第 2 期(03~05 年度) 第 3 期(06~08 年度)

平均 2,911 円/月 → 平均 3,293 円/月 → 平均 4,090 円/月

(+13.1%の上昇) (+24.2%の上昇)

(10)

<介護予防とは>

介護予防とは、どのような状態にある者に対しても、生活機能の維持・向上を積極的 に図り、要支援・要介護状態の予防及びその重症化の予防・軽減により、高齢者本人の 自己実現の達成を支援することである。

■ 介護予防の考え方

・ 元気な高齢者であっても、加齢、疾病や環境の変化、精神的要因などをきっかけと して生活機能の低下が起こることがある。

・ どのような状態であっても、生活機能の維持・向上の取り組みにより、生活機能の 低下を防止することが期待される。

・ とりわけ、生活機能の低下が疑われる状態、または軽度な生活機能の低下が疑われ る状態での「水際作戦」が、生涯にわたって生活の質(QOL)を維持する上で重 要である。

出所:福祉医療機構「WAM NET 介護早わかりガイド」

■ 介護予防の3つのステージ

■第一次予防

パンフレットの配布や講演会の開催、介護予防手帳の交付などを通じて、活動的な状態 にある高齢者を含むすべての高齢者を対象に生活機能の維持・向上を図る。

■第二次予防

健診や訪問活動等を通じて要介護・要支援になるおそれのある高齢者の早期発見に努め、

各種介護予防プログラムの提供による早期対応を行う。

■第三次予防

要介護認定で「要介護」と判定された方に介護給付によるサービスを、「要支援」と判 定された方に予防給付によるサービスを提供し、要支援・要介護状態の改善や重度化予 防を行う。

(11)

介護保険制度があるからといって、それはあくまで保険である。高齢者は、できるだ け自立した生活を送れるように努力する必要があると筆者は考える。

<サービスについて>

■在宅サービス

出所:福祉医療機構「WAM NET 介護早わかりガイド」

(12)

■ 施設サービス

(1割負担+食費・居住費)

出所:福祉医療機構「WAM NET 介護早わかりガイド」

■介護予防

・運動器の機能向上

ストレッチや筋力トレーニングを通じて、立つ・座る・歩く・階段昇降などの生活機能 向上を図る。

・栄養改善

管理栄養士による小グループの栄養相談や栄養教室の開催を通じて、低栄養状態の予防 と改善を図る。

・口腔機能の向上

呼吸法や体操、嚥下訓練などを通じて、口腔機能の向上を図る。

・閉じこもり予防・支援

高齢ボランティアの養成、通所系サービスやイベントの紹介・勧誘、保健師等による訪 問などを通じて、閉じこもり予防を図る。

・認知症予防・支援

上記のようなプログラムへの参加を通じて認知機能をつかう機会を増やして、認知機能 の維持を図る。

・うつ予防・支援

多くの機会を活用してうつの評価を行い、うつの可能性が疑われた高齢者を「心の健康 相談」などの機関につなぐとともに、適切な支援を行って、重症化予防を図る。

■包括的支援

・総合相談・支援

初期相談対応、専門相談対応、介護以外の生活支援サービスとの調整、地域の高齢者の 実態把握などを行う。

・権利擁護

高齢者に対する虐待の防止及びその早期発見のための取り組み、その他高齢者の権利擁 護のための必要な援助を行う。

(13)

介護サービスの利用限度額は「要介護認定」での判定結果により決められている。

決められた利用限度額までは、自己負担はサービスにかかった金額の1割ですむが、

利用限度額を超えてしまうと、超えた分の全額が自己負担になってしまうので注意が必 要である。

<要介護度別の利用限度額と自己負担>

要介護度 利用限度額 自己負担(1割)

要支援1 4万9,700円/月 4,970円/月 要支援2 10万4,000円/月 10,400円/月 要介護1 16万5,800円/月 16,580円/月 要介護2 19万4,800円/月 19,480円/月 要介護3 26万7,500円/月 26,750円/月 要介護4 30万6,000円/月 30,600円/月 要介護5 35万8,300円/月 35,830円/月

日本経済新聞社が調査したところ、在宅介護の場合で1ヶ月間の介護費用の平均は約 4万2000円であった。この金額には、介護保険のサービスにかかったお金の自己負担 分と、その他に、医療費、病院に通うための交通費、衣類・寝具、おむつの代金なども 含まれる。

<要介護度別の在宅介護費用>

要介護度 金額

要支援 22,000円/月 要介護1 33,000円/月 要介護2 35,000円/月 要介護3 57,000円/月 要介護4 69,000円/月 要介護5 75,000円/月

*データはすべて日本経済新聞社調べ(2005年 3月、介護保険の要介護認定を受けた 人を家族にもつ全国の男女400人が回答)。

施設へ入所すると、在宅介護を続けた場合よりも、費用の面だけでいえば大きな負担 がかかる。在宅介護の場合で、1ヶ月間の介護費用の平均は約4万2000円であったが、

これが施設へ入所したとなると、食費、居住費なども含めて、10 万円以上アップして しまうケースも珍しくない。有料老人ホームともなると、その他に、管理費(光熱水費)

やおむつの代金などもかかり、1ヶ月間の費用は20万円近くになる。

(14)

1ヶ月に施設に支払う費用は平均約10万2500円+1万8000円(法改正後の食費の増 加分)+1万~6万円(法改正後の居住費の増加分)

<施設の種類別の費用(法改正前)>

施設の種類 金額

特別養護老人ホーム(介護老人福祉施設) 6万1,429円/月 老人保健施設(介護老人保健施設) 8万3,529円/月

老人病院 11万8,125円/月

グループホーム 12万4,285円/月

有料老人ホーム(特定施設) 18万8,571円/月

その他 14万7,500円/月

*データは日本経済新聞社調べの数値(2005年 3月、介護保険の要介護認定を受けた 人を家族にもつ全国の男女400人が回答)による。

*2006年に介護保険法の改正あり。

*「老人病院」は介護療養型医療施設と医療療養型病床群を合わせた数値。

<介護保険でまかなえない出費>

次にあげるものは、自己負担分である。

・ 介護タクシーの利用・・・タクシー料金(運賃)

・ 通所介護(デイサービス)・・・食費、おやつ代、おむつ代、利用者が希望した教養娯 楽費

・ 通所リハビリテーション(デイケア)・・・食費、おやつ代、おむつ代

・ 短期入所生活介護、短期入所療養介護(ショートステイ)・・・食費、滞在費、おやつ 代、日常生活費

・ 特定施設入居者生活介護・・・入居一時金(保証金や家賃前払い分)、管理費(光熱水 費)、食費、理美容代、おむつ代、家賃

・ 施設サービス(介護福祉施設、介護老人保健施設、介護療養型医療施設)・・・食費、

居住費、日常生活費

・ 認知症対応型通所介護・・・食費、おやつ代、おむつ代

・ 小規模多機能型居宅介護・・・食費、宿泊費、おむつ代、日常生活費

・ 認知症対応型共同生活介護(グループホーム)・・・食費、理美容代、おむつ代、家賃、

共益費

(15)

<仮説の検証・分析>

さて、介護保険制度の基本的な知識を身につけたところで、早速本題に入りたい。

筆者は問題となっている高齢者における医療費の増大の要因は、次の項目であると仮 定する。

医療保険制度の普及 医療技術の進歩 社会的入院の増加 終末期医療費の増加 生活習慣病の増大

このことから、次のものが医療費を抑制させる項目であると仮定する。

医療制度の見直し 在宅死亡率の向上

高齢者のための設備の充実化

以前、医療費が地域によって格差があるという問題に取り組んだ際に、地域差を生み 出す要因、それにともない医療費が増加する要因を考察した。

1人当たりの年間総医療費(以下国民医療費)を比較した場合、2005(平成17)年度の 総額の推計値では、最も高い高知県が49万2千円であり、最も低い沖縄県の30万8千円 の約1.6倍となっている(全国平均38万6千円)。 図表1-1

また、75歳以上の1人当たりの年間総医療費(以下老人医療費)を都道府県別で見ると、

最も高い福岡県が102万円で、最も低い長野県の67万3千円の約1.5倍となっている(全 国平均82万1千円)。 図表1-2

図表1-1  一人当たり国民医療費

厚生労働省「医療マップ」より平成17年度都道府県別実績医療費より作成

308 492

386

0 100 200 300 400 500 600

鹿

(千円)

(16)

図表1-2  一人当たり老人医療費

厚生労働省保険局「老人医療事業年報」平成17年度より作成

673

1020

821

0 200 400 600 800 1000 1200

鹿

(千円)

『平成17年度版 厚生労働白書』(以下厚生労働白書)によると、「都道府県別の国民医 療費および老人医療費の地域差は、(中略)医療提供体制の整備状況(人口当たりの病床数、

平均在院日数など)との相関関係が見られており、提供される医療サービスの効率化も併 せて必要となることが示唆される。」

そこで筆者は、

①国民医療費と平均在院日数

②国民医療費と人口当たりの医師数

③国民医療費と人口当たりの病床数

の3点について、実際に相関関係があるか否かを分析した。

図表2-1をご覧頂きたい。

これは都道府県別国民医療費と平均在院日数の関係を表したグラフである。

この図から、平均在院日数が大きいほど国民医療費が高くなっていることが分かり、

①は相関関係があるといえる。

次に、図表2-2は、都道府県別国民医療費と人口10万人に対する医師の数との関係を 表したグラフである。

この図から医師の数が多いほど国民医療費が高くなっていることが分かり、②は相関関 係があるといえる。

さらに、図表2-3では、都道府県別国民医療費と人口10万人に対する病床数(ベッド の数)をグラフに表した。

この図から、病院にベッドの数が多いほど国民医療費が高くなることが分かり、③も正 の相関が強く見られる。

(17)

厚生労働白書によると、医療費のうち約5割を入院医療費が占めていると述べられてお り、図表2-1~3でも、このような医療サービスが増加すると医療費が高くなることを 示している。

図表2-1  一人当たり国民医療費と平均在院日数の相関関係

y = 0.0814x + 5.0044 R2 = 0.4238

20 25 30 35 40 45 50 55 60

250 300 350 400 450 500 550

一人当たり国民医療費(千円)

平均在院日数(日)

出所:厚生労働省医療マップ「平成17年度都道府県別実績医療費」及び「平成17年病院報告」より作成

図表2-2  一人当たり国民医療費と医師数の相関関係

y = 0.4515x + 22.756 R

2

= 0.5113

100.0 120.0 140.0 160.0 180.0 200.0 220.0 240.0 260.0 280.0

250 300 350 400 450 500 550

一人当たり国民医療費(千円)

10万人対医師数(人)

出所:厚生労働省医療マップ「平成17年度都道府県別実績医療費」及び「平成17年病院報告」より作成

(18)

図表2-3  一人当たり国民医療費と病床数の相関関係

y = 5.2673x - 695.26 R2 = 0.6993

0 500 1,000 1,500 2,000 2,500 3,000

250 300 350 400 450 500 550

一人当たり国民医療費(千円)

10万人対病床数(床)

出所:厚生労働省医療マップ「平成17年度都道府県別実績医療費」及び「平成17年病院報告」より作成

以上のことから、前述のとおり、

医療費は様々な提供される医療の量と相関関係がある

ことが明らかとなった。

また、筆者が問題としている、終末期医療の長期的入院について、

④平均在院日数と人口当たりの病床数が国民医療費に与える影響

を多重回帰分析によって考察した。結果は以下である。

回帰統計

重相関 R 0.853544 重決定 R2 0.728538 補正 R2 0.716198 標準誤差 29.69836

観測数 47

分散分析表

自由度 変動 分散 観測された分散比 有意 F

回帰 2 104150.1 52075.07 59.04252 3.48E-13 残差 44 38807.68 881.9927

合計 46 142957.8

(19)

係数 標準誤差 t P-値 切片 250.6645 24.99853 10.02717 6.14E-13 10 万人対病床数 0.182221 0.025929 7.027649 1.04E-08 平均在院日数 -2.84208 1.306578 -2.17521 0.035031

分析結果から読み取ると、

・ ベッドもなく入院もしなければ、

・・・一人当たりの国民医療費は25万円となる。

・ 平均在院日数が一定のとき、

・・・10 万人対病床数が 1 床減れば、国民医療費は一人当たり182円減る。

・ 10 万人対病床数が一定のとき、

・ ・・平均在院日数が 1 日減れば、国民医療費は一人当たり2,842円減らせる。

ということがいえる。

つまり、

やはり終末期における長期的入院は問題

である。

次からは、特に老人医療費に注目していきたい。

なぜならば、図表1-1、1-2からわかるように、国民全体の医療費の全国平均が 38 万6千円であるのに対し、75 歳以上のみを見た老人医療費の全国平均は82万1千円と、

約2倍となっている。

筆者は、医療費が深刻化する要因を、

・高齢化に伴い最先端の医療技術が発展し、具合が悪くなったらまず病院へ、と考える高 齢者が増加したこと

・時代とともに寿命を全うする場所が自宅から病院へ移り変わったこと と仮定し、

①老人医療費と受療率

②老人医療費と病院での死亡率

③老人医療費と自宅での死亡率

の3点について、実際に相関関係があるか否かを調査した。

図表3-1をご覧頂きたい。

ここで述べる「受療率」とは、人口10万人に対する、65歳以上の入院+外来の患者の数 を表している。

(20)

この図から、受療率が大きくなるにつれて老人医療費も高くなっていることから、①は 相関関係があることが分かり、病院へ行く高齢者が増加すると医療費も増加することが明 らかとなった。

次に図表3-2、3-3を見ると、これはそれぞれ老人医療費と糖尿病、悪性新生物、

心疾患、脳血管疾患など主要な生活習慣病患者の病院での死亡率、自宅での死亡率との関 係を表したグラフである。

図表3-2は正の相関が見られるのに対し、図表3-3は負の相関が見られることから、

②、③はそれぞれ相関関係があり、深刻化する医療費増加の抑制には、在宅での医療サー ビスを充実させると効果があると予測される。

厚生労働白書においても、「生活習慣病の受療率が高い地域の医療費が高くなっているこ とは、生活習慣病の有病率の高低が医療費の高低をもたらしている可能性を示唆しており、

生活習慣病予防を効果的に行うことが、医療費の削減に結びつくものと考えられる。」

と述べられている。

このことから筆者も、今後地域において質の高い効率的な医療提供体制を整備していく ためには、急性期から回復期を経て在宅療養への切れ目のない医療の流れを作り、患者が 早く自宅に戻れるようにすることで、患者の生活の質(Quality of Life:QOL)を高め、

また、トータルな治療期間(在院日数を含む。)が短くなる仕組みを作ることが重要であ ると考える。

図表3-1  老人医療費と65歳以上受療率の相関関係

厚生労働省 平成17年「患者調査」及び「老人医療事業年報」(平成17年)より作成

y = 0.0338x + 285.45 R2 = 0.67

600 650 700 750 800 850 900 950 1000 1050

10000 12000 14000 16000 18000 20000 22000

受療率(人/10万人)

老人医療費(千円)

(21)

図表3-2  老人医療費と死亡率(病院)の相関関係

厚生労働省 「人口動態統計特殊報告」(平成16年度)及び「老人医療事業年報」(平成17年度)より作成

y = 0.009x + 71.174 R2 = 0.091

70 72 74 76 78 80 82 84 86

600 650 700 750 800 850 900 950 1000 1050

老人医療費(千円)

病院での死亡率(%)

図表3-3  老人医療費と死亡率(自宅)の相関関係

厚生労働省 「人口動態統計特殊報告」(平成16年度)及び「老人医療事業年報」(平成17年度)より作成

y = -0.0125x + 22.576 R2 = 0.3291 6

9 12 15 18

600 650 700 750 800 850 900 950 1000 1050

老人医療費(千円)

自宅での死亡率(%)

以上のことから、

地域における適切な医療提供体制の整備と機能分化・連携が必要

であるという結論に至った。

(22)

さらに筆者は、日本家屋が高齢者にとって暮らしにくい造りとなっていることが、社会 的入院を増やし、医療費が逼迫している要因となっていると考え、都道府県別に高齢者等 のための設備状況を調べ、医療費や在宅死亡率に起因しているかを調査した。

前述で、在宅死亡率が高い地域ほど老人医療費が小さくなっているという相関関係が得 られたが、その在宅のバリアフリー設備の詳細を調査した。

その結果、高齢者のための設備がある住宅数の割合が多いほど在宅死亡率が増加する傾 向にあるというデータが得られた。(図表4-1)

厚生労働省「人口動態統計」によると、平成 17 年(2005 年)に家庭内の事故で亡くな った12,781人のうち、65歳以上の人は9,728人であり、溺死が全体の33.1%となってい る。交通事故死は 4,380 人で、家庭内で起こる事故死は交通事故死の倍以上に達すること がわかる。

65歳以上の家庭内事故死の詳細

厚生労働省「人口動態統計」(平成17年度)より作成

51%

33%

4% 10%

2%

溺死

同一平面上での転倒

階段での転落・転倒

建物などからの墜落

その他(不慮の窒息、火災事 故、有毒物質などによる中毒死)

加齢にともない身体機能が低下してくると、歩行時にバランスを崩し、室内のわずかな 段差につまずいて転倒することが多くなる。「手すり」は、動作を補助し安全な歩行や移動 を助けるといった役割があり、上肢を使って体位を安定させることのできる最も主要な福 祉住環境設備である。

高齢者のための設備のなかでも、筆者は特に「手すり」に注目し、設備が整っている地 域とそうでない地域での医療費や在宅死亡率に違いが出てくるかを考察した。

結果は、手すりがある住宅、特にトイレに手すりのある住宅が多い地域ほど平均床面積 が大きいことが分かった。(図表4-2)

つまり、床面積が大きければ高齢者のための住宅改修もしやすくなるということだ。

(23)

また、高齢者が特に家庭内での事故が起きやすい場所が浴室であるが、浴室に手すりの ある住宅の割合が多い地域ほど、老人医療費が低くなる傾向にあるというデータも得られ た。(図表4-3)

図表4-1 高齢者のための設備と在宅死亡率の関係

平成15年住宅・土地統計調査「高齢者のための設備状況」及び厚生労働省「人口動態統計特殊報告」(平成16年度)により作成

y = 0.2668x + 1.1732 R2 = 0.2443

6 8 10 12 14 16 18

30 35 40 45 50 55

高齢者のための設備率(%)

在宅死亡率(%)

図表4-2 床面積と手すりの関係(沖縄県除く)

平成15年住宅・土地統計調査「高齢者のための設備状況」及び「持ち家延べ床面積」により作成

y = 0.1128x - 0.153 R2 = 0.6396

5.00 7.00 9.00 11.00 13.00 15.00 17.00 19.00 21.00 23.00

80 100 120 140 160 180 200

平均床面積(㎡)

トイレに手すりのある住宅率

(%)

(24)

図表4-3 老人医療費と手すりの関係

「老人医療事業年報」(平成17年度)及び平成15年住宅・土地統計調査「高齢者のための設備状況」により作成

y = -16.158x + 1066.1 R2 = 0.1774

500 600 700 800 900 1000 1100

5.00 7.00 9.00 11.00 13.00 15.00 17.00 19.00 21.00 23.00 浴室に手すりのある住宅率(%)

一人当たり老人医療費

(千円)

以上のことから、老人医療費を抑制するためには、

医療の無駄遣いをなくす 可能な限り自宅で過ごす

最期を自宅で全うするために個々人に適した住宅改修が必要 であると考えられる。

よって、

「老人医療費を減らす最良の策とは、自宅で最期を迎えることである」

という仮説は支持された。

(25)

3.結語<長く自宅で過ごすには>

いかに長く健康を保ち、最期まで自宅で過ごすか。介護保険でまかなわれる在宅サービ スや住宅改修費、介護予防住宅改修費など、高齢者のための介護に適した造りになってい ない昔ながらの日本家屋を、バリアフリーリフォーム住宅に生まれ変わる方法を見出した い。

介護が必要になり、住宅を改修したいと思っていても、即座に大金を用意することは難 しい。そんな時に役立つ知恵として、いくつか制度を紹介する。

①バリアフリー改修促進税制

平成19年度の税制改正で、住宅のバリアフリー改修促進制度が創設された。65歳以上の 高齢者が増加することが見込まれている中で、高齢者などが安心して快適に生活できる環 境の整備が課題となってくる。一方、バリアフリー化された住宅に居住する高齢者の割合 は低く(賃貸住宅でバリアフリー化されたものの割合も低い)、住み替えによる課題の解決 は難しい。急速な高齢化を踏まえ、バリアフリー改修を税制面で支援することにより、高 齢者などの居住安定の確保を図る目的で創設される。

■住宅のバリアフリー改修工事に係る住宅ローン控除の創設

一定の居住者が自己居住する家屋について、一定のバリアフリー工事を含む増改築等を 行なった場合、平成 19 年 4 月 1 日から平成 20 年 12 月 31 日までの間に居住の用に供した ときは、一定の要件の下でそのバリアフリー改修工事に充てるために借り入れた住宅ロー ン等の年末残高の一定割合を、5 年間にわたり所得税額から控除できる。

出所:野村不動産アーバンネット「不動産コラムvol.173 住宅のバリアフリー改修促進税制の創設」

(26)

一定の居住者とは 1.50 歳以上の者

2.要介護または要支援の認定を受けている者 3.障害者である者

4.前記 2 もしくは 3 に該当する者又は 65 歳以上の者のいずれかと同居している者

一定のバリアフリー改修工事とは

次の 1~8 に該当する工事で、その工事費用(補助金等をもって充てる部分を除く)の合計額 が 30 万円以上のものをいう。

1.廊下の拡幅 2.階段の勾配の緩和 3.浴室改良

4.便所改良 5.手摺の設置 6.屋内の段差の解消 7.引き戸への取替工事 8.床表面の滑り止め化

増改築をした居住用家屋を平成 19 年 4 月 1 日以降に自己の居住の用に供する場合に適用。

適用対象となる住宅借入金等の範囲は

償還期間 5 年以上の一定の住宅借入金等および死亡一括償還に係る借入金等となる。

バリアフリー改修工事等の証明書とは

住宅品質確保法に基づく登録性能評価機関・建築基準法に基づく指定確認検査機関又は 建築士事務所に所属する建築士が発行する証明書

一定のバリアフリー改修工事にかかる固定資産税の減額

平成 19 年 1 月 1 日に存していた住宅のうち 65 歳以上、介護保険法の要介護もしくは 要支援の認定を受けている者又は障害者である者が居住するもので、平成 19 年 4 月 1 日 から平成 22 年 3 月 31 日までの間に一定のバリアフリー改修工事が完了したものについ て、市町村に申告がなされた場合に、当該住宅に係る固定資産税額(100 ㎡相当分までが 限度)について改修工事が完了した年の翌年分に限り、3 分の 1 に減額されることになる。

※「一定のバリアフリー改修工事」とは、上記「住宅のバリアフリー改修促進税制」適用に際 し要件となる工事と同じである。工事費用の合計額 30 万円以上という点も同様。

(27)

②リバースモーゲージ

リバースモーゲージとは、所有する不動産を担保に融資を受け、死亡時にその不動産を 売却して一括返済する仕組みのことである。

住宅担保年金ともいい、自宅を手放さずに、融資を受けることができる。このため、金 利の低迷は長期化し、株価下落や年金問題など、老後の生活資金についての不安が高まる 中で、老後の生活防衛手段として、活用が広がっているのである。

既にこの仕組みはアメリカでは定着しているが、日本ではまだ知名度が低い。なぜなら 日本はアメリカと違い、住宅寿命の短さから中古の家の価値が低いため、実際は土地の価 値のみが担保とみなされるからである。よって近年では、評価額の対象を緩和して、この 仕組みをもっと拡大していこうという政府の動きが見られる。

リバースモーゲージには、公的なものと民間のものがあり、公的なものは、比較的低所 得者を対象とするものが多く、民間のものは富裕層を対象とするものが多くなっている。

民間のものは、銀行が提供しているほか、旭化成ホームズなど大手ハウスメーカーが自 社販売住宅を対象としているものもある。

<ニーズ>

日本では、65 歳以上の世帯の持ち家比率は高いため、リバースモーゲージのニーズは大 きいものと考えられる。

特に、低所得者でも高所得者でもない世帯にとって、年金以外の生活資金として、持家 を売却せずに活用できるのはメリットがあるといえる。

国土交通省も、住宅改築用融資資金について、資金の 9 割までを保証する保険制度の導 入を検討している。

<住宅ローンとの違い>

リバースモーゲージと住宅ローンは、ともに、住宅を担保にした借入である。

リバースモーゲージは、毎月借入し、死亡時に一括して返済するのに対し、住宅ローン は、契約時に一括して借入し、毎月返済するという違いがある。

リバースモーゲージ 住宅ローン

目的 定期的な生活資金 住宅の購入

融資 定期的な分割融資 一括融資

返済 死亡時に一括返済 分割返済

<長期生活支援資金>

リバースモーゲージには、公的なものと民間のものがあるが、公的なもので普及してい るのが、厚生労働省の長期生活支援資金である。単独で土地を所有し、市町村民税が非課 税の高齢者世帯が長期生活支援資金の対象となる。

不動産評価額の7割程度を限度額として、月 30 万円以内の融資を受けることができる。

(28)

<高齢者向け返済特例制度>

高齢者向け返済特例制度は、住宅金融支援機構による融資の制度で、バリアフリーまた は耐震改修工事のための改築に利用することができる。

<中央三井信託銀行の例>

中央三井信託銀行は、リバースモーゲージによる融資がある。大都市圏の土地付き一戸 建てで、評価額が 4,000 万円以上の住宅が対象となり、変動金利で、契約終了時に一括利 払いとなる。

<東京スター銀行の例>

東京スター銀行のリバースモーゲージは、「充実人生」というもので、一戸建てを対象に、

最高 1 億円までの融資が可能である。55 歳から 80 歳までが対象で、毎月の支払は利息分の みで、元金の返済は、死亡後になり、土地評価額の 80%、最高 1 億円まで融資される。

☆健康住宅でハッピーリタイアメント

~低価格で理想の「終の棲家」を~

筆者は、実際に高齢者が現役を引退し、第 2 の人生をどのような「家」で暮らすことを 望んでいるのか、数々の文献を読み調査した。

そこでたどり着いた結果が、人はみな、老後は静かな田舎で暮らしたいと望んでいると いうことである。なかでも筆者が興味を抱いたのが、上野健一著『老後はこんな家で暮ら したい』(こう書房,2003年)の「ログハウスこそが最高の健康住宅である」というくだり であった。

アメリカに、「ハッピーリタイアメント」という言葉がある。これは、「働き盛りの第1 の人生から、老後を楽しく暮らす第 2 の人生への転換に成功しよう」という意味で使われ ている。この著書では「都会を離れて田舎で健康的な木の家に住み、自然の恵みをいっぱ いに享受しながら暮らす」ことを、ハッピーリタイアメントを実現させるための提案とし て紹介している。

日本は世界一の長寿国にもかかわらず、高齢者対策は後手に回っている。高齢者医療や 介護システムについてはかなり体制が整ってきているが、大多数を占める元気な高齢者に 対する施策は大幅に遅れている。特に、高齢者住宅(終の棲家)の開発、老後を住まう地 域の環境づくりといった、生活の最も基盤となる「住」の分野は、手付かずの状態である。

アメリカでは、老後を暮らす人たちのために開発された街がいくつもある。都市におい て高齢者に快適な環境を作ることは不可能なため、高齢者にとって理想的な住環境を整え た街を新たに創造しているのだ。

上野(2003)は「わが国で、高齢者が暮らすための理想的な環境を探すとしたら、豊か な自然に触れることができる“田舎”をおいて他に候補はない(p.3)」と述べている。

(29)

田舎の住環境はなぜよいのか。当たり前だと思うかもしれないが、何といってもそこに は「豊かな自然」があることである。そしてなぜ、ログハウスこそが最高の健康住宅であ るのかというと、便利性や経済性よりも本来ならば優先させるべき「室内環境」がいちば ん優れているのが「木造」の家だからである。

「木」の効果をあらためて挙げると、

①湿度調節機能

②断熱性が高い(夏に涼しく、冬暖かい)

③有害な紫外線から守る

④木の床は足に優しい(特に高齢者の足の負担を軽減)

⑤木の香りがストレスを和らげ、疲労回復効果がある

⑥音が室内で発生しても木肌に反射すれば耳に優しい音に

⑦人間を自然回帰させる力がある などがある。

田舎で暮らすことのメリットに、土地が安価であることが挙げられるが、そうはいって もやはり住まいを手に入れることは安易ではない。健康に優れた住宅はどうしても高価格 になる。そんな中で近年、新しい工法による住宅が開発されている。それは木材(杉や檜)

のかわりに「竹素材」を使ったバンブーログハウスである。

竹を素材にした家というと、普通の竹を組み合わせた家が想像されるが、そうではない。

竹を糸のような繊維にして圧縮加工すれば、普通の木材とまったく同じ板、角材、丸太が 出来上がる。それを建材として使用するので、一般の木造住宅と同じ仕上がりになる。

「竹」は、抗菌性、抗酸化性、消臭性などに高い効力を持っている。ダニやカビに対し ても、強い抗菌・防カビ効果を発揮することは間違いない。つまり、シックハウス症候群 の主原因のひとつを排除する自然建材になるのである。竹は 3 年で成長するため、資源の 有効活用ができ、廃材を燃やせば竹炭になり、防腐剤、消臭剤、浄水剤として利用できる という、大変優れたエコロジー建材となりうる。

竹建材で優れた健康住宅を低コストで開発できるのではないか、現在そう期待されてお り、中国・上海工場において開発中である。竹素材でつくる「バンブーログハウス」の開 発に成功すれば、「小さな土地に建つ、安価で優れた健康効果を持つ小さな住まい」として、

高齢者が快適に暮らせるための居住性が追求されるのを筆者は強く望んでいる。

(30)

≪参考文献≫

・ ほっとくる編集部編(2007)『介護保険、介護のお金がわかる本』主婦の友社

・ 上野健一著(2003)『老後はこんな家で暮らしたい』こう書房

・ 福祉医療機構「WAM NET 介護早わかりガイド」

http://www.wam.jp/kaigo_guide/ 2009年1月確認

・ 野村不動産アーバンネット

「不動産コラムvol.173 住宅のバリアフリー改修促進税制の創設」

http://www.nomu.com/column/vol173.html 2009年1月確認

・ 「リバースモーゲージ」

http://リバースモーゲージ.net/ 2009年1月確認

・ 内閣府大臣官房政府広報室「高齢者介護に関する世論調査」

http://www8.cao.go.jp/survey/h15/h15-kourei/2-2.html 2009年1月確認

・平成17年度 厚生労働白書

http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpax200501/b0057.html 2009年1月確認

≪参考データ≫

・厚生労働省統計表データベースシステム「平成17年老人医療事業年報」

http://wwwdbtk.mhlw.go.jp/toukei/kouhyo/indexkk_47_3.html 2009年1月確認

・ 厚生労働省「平成 16 年人口動態統計特殊報告」

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/sinno05/index.html 2009年1月確認

・総務省統計局「平成17年労働力調査年報」

http://www.stat.go.jp/data/roudou/report/2005/ft/index.htm 2009年1月確認

・ 総務省統計局「平成 15 年住宅・土地統計調査」

http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/kekka.htm 2009年1月確認

参照

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