社会科カリキュラムと社会問題
一日生連「日本社会の基本問題」の検討一
臼 井 嘉 一
1 はじめに一課題と方法
日本において社会科という教科が成立するのは 1947(昭和22)年のことであるが、その社会科と は、戦前の歴史科・地理科・公民科などという、
いわば「学問」の系統をふまえた教科とは異なる 新しい教科であるということが謳われ、その際に
「社会問題」がカリキュラム編成の基本に捉えら れていると言われた。
ただしこの「社会問題」とは後に新学習指導要 領の対案として提出されるものとは異なり、社会 機能にそって社会の問題が選択されるものであっ たので、必ずしも現実の社会問題そのものを内容 として位置づけるものとは言えず、したがって後 の「社会問題」のカリキュラムとは区別されるも のである。
なお小論で検討する日生連の「日本社会の基本 問題」という社会科カリキュラム構想案は、以上 のような社会機能にそった新学習指導要領の一つ の対案であり、したがっていわば本格的な「社会 問題」カリキュラムと言えるものである。
しかし、その批判された新学習指導要領にして も従来の歴史科・地理科・公民科と呼ばれたよう な教科とは異なる新しい教科を提起していたこと は、注目すべきことであり、今日のようにこの社 会科という教科を「単なる歴史・地理・公民の寄 せ集め」と捉えられるような状況とは大きく異なっ ていた事実にしっかり目を向ける必要がある。
さて小論で検討する日生連の「日本社会の基本 問題」についてその概要と、それを検討すること の意義について述べておきたい。
まず「日生連」という団体について一言すると この日生連とは「日本生活教育連盟」の略称であ りその成立は、その前身である「コア・カリキュ ラム連盟」(略称「コア連」)という団体名称の変 更に伴うもので、そのコア連の研究や実践の深化・
発展の成果をふまえての名称変更といえる。
コア連は1948(昭和23)年10月に成立し、上記 において述べた社会科の成立に象徴される文部省 学習指導要領の新しいカリキュラムのありかたを 研究し実践することをその中心任務としていた。
その研究・実践の展開の成果として発展されるの が、日生連の社会科カリキュラム構想案としての
「日本社会の基本問題」である。
この「日本社会の基本問題」は、日生連編集・
誠文堂新光社発行の『生活教育の前進IV社会科指 導計画〈総説編〉』に掲載されているが、その発 行年・月は1955(昭和30)年5月である。この年 は文部省学習指導要領における社会科改訂の年で
もある。
この「日本社会の基本問題」の全体像を一口で 述べるならば、幼稚園、小学校低学年・同中学年・
同高学年、中学校という10カ年間において、九つ の「日本社会の基本問題」が発達段階をふまえて 配置されるようなカリキュラム構想を指している。
その九つの「日本社会の基本問題」とは以下の 通りである。
一 災害問題 (D主要な災害 (2)自然改造計 画
二 健康問題 (1)国民体位の問題 (2)環境衛 生の問題 (3)医療行政の問題 (4)母子保 護問題
三 農山漁村問題 (1)土地改良 (2)耕地整理 と交換分合 (3)生産性の高度化(4)生活改 善 (5)土地制度 (6)低米価問題 (7)零細 経営 (8)低賃金のプール (9)封建性と前 近代性
四 中小企業問題 (1)原料高と製品安の問題 (2)販売市場の崩壊の問題 (3)金融と中間 搾取の問題 (4)中小企業の将来の問題 (5)低賃金の問題
五工業労働問題(1漣輸・通信(2)資源
(3)立地条件 (4独占化の問題 (5)経営の
合理化 (6)市場の開発と海外貿易 (7)労 働条件の改善 (8)労働運動 (9)失業問題 (ゆ国民経済の構造
六 現代文化の問題 (Dマス・コミュニケー ション (2)青少年の非行問題 (3)娯楽の 商品化と退廃文化 (4旧本文化の跛行性 七社会計画化問題(1}人口問題(2)都市問 題 (3喰料問題 (4)社会保障の問題 (5)国土総合開発
八 政治問題 (1)地方自治 (2}政治の民主化 (3)国家財政 (4)国際関係
九民族と平和の問題(1)人権の尊重(2)国 際理解 (3)国際諸機関 (4)民族と愛国心 (5)平和問題
以上の「日本社会の基本問題」カリキュラム研 究の意義は、第一に日本において初めて成立した 社会科カリキュラムである文部省学習指導要領に 匹敵する総合的な内容を持つがゆえに、その研究 に意義があることである。
第二に文部省学習指導要領がとりわけ1947(昭 和22)年版においては、アメリカ社会科の影響が ストレートに反映し、必ずしも日本社会の現状に はそぐわない面があったのに対し、この「日本社 会の基本問題」カリキュラムはその名称の通り・
日本社会の現状をふまえようとする方法意識を兼 ね備えていたという意義である。
第三に文部省の学習指導要領が、1947年版と 1951年の改訂版の後に、いわゆる社会科解体への 論議を基礎に、1955年に大きな改訂を迎えていく のに対し、この「日本社会の基本問題」は社会科 の初心を積極的に受け止めっっ、併せて文部省学 習指導要領の弱点ともいえる面をも補充して作成
されたことからくる意義である。
以下における「日本社会の基本問題」カリキュ ラム研究は、次のようか視角から検討していく。
まず第一にどのような経過から生まれてきたカ リキュラムであったかという点。
第二にこのカリキュラムはどのような目標と構 造を持つものであるのかという点。
第三に「日本社会の基本問題」はどのような観 点から捉えられているのかという点。
第四に「日本社会の基本問題」は教科書の中に おいてどのように具体化され、いかなる特質をもっ ているのかという点。
2 「日本社会の基本問題」の作成経過 この「日本社会の基本問題」カリキュラムの作 成経過は、次の四つの時期に区分できる。
(1)1947年版社会科学習指導要領における「社会 機能法」「経験の地域的拡大法」への批判 戦後に設置された社会科という教科の内容は、
そのカリキュラム編成の原理として、一方では内 容設定の範囲としてのスコープ論として「社会機 能法」を採用し、他方ではその設定された内容の 各学年配列としてのシークエンス論として「経験 の地域的拡大法」を採用した。
すなわち1947年版社会科学習指導要領において は、社会科カリキュラムは、一方では「社会機能 法」原理を踏まえて「生産、消費、交通運輸、通 信報道、.宗教、教育、政治、保全」という社会機 能を小学校から高校までの社会科教育内容として 設定し、他方では「経験の地域的拡大法」原理を 踏まえて小学校低学年では「学校や近所の生活の 中で」、中学年では「町や村の生活の中で」、そし て「郷土の生活」「国の生活」さらに「世界の生 活」へと内容を発展させていくという方法を採用
した。
このような方法は、アメリカ社会科の土台にあっ た社会学や心理学の成果を踏まえっつ、定式化さ れていたものであるが、このような方法に対して、
さまざまな立場や分野・領域から批判が提出され、
日生連からも次のような批判が出された。
海後勝雄「社会機能法と問題領域法」(『カリ キュラム』1950年1月)
1)社会機能法では歴史的な課題をとらえる ことができない。
2)社会機能だけでは問題把握が不十分であ り集団、対象からも考える必要がある。
上記のような批判は当時のさまざまな批判の中 の共通項でもあるところであるが、このような批 判によって「社会機能法と、地域拡大法との組み 合わせによっては、現代日本社会の各方面にあら われている悩みや問題点を、ありのままの姿で取 り出すことが不可能であるばかりか、かえってこ のような事実とその根に目を蔽わせる結果になる」
という問題が意識され、このような「現代日本社 会の各方面にあらわれている悩みや問題点」に眼
を向けることが課題とされていった。(注1)
上記の海後論文のタイトルからもこのような問 題意識がうかがわれる。
(2)「問題領域法」の提案
たとえば次のような提案がなされている。
広岡亮蔵「牧歌的カリキュラムの自己批判」
(『カリキュラム』1950年2月)
1)社会機能を羅列的にもれなくひろいあげ るということにより、社会体制の構造的な 分析にもとづく問題把握が正しいのではな
いか。
2)まず経済的領域を下層構造として「人と 物との関係」とし、社会的領域を中層構造 として「人と人との関係」とし、さらに文 化的領域を上層構造として「人と価値との 関係」として提案する。
3)そして上記の各領域ごと(各関係ごと)
に機能的把握を行って両者をかみあわせる と次のようになる。
A.経済的領域(人と物との関係)
(資源)(労働)(生産)(金融)
(交通)(貿易)(消費)
B.社会的領域(人と人との関係)
〈集団生活>
(家庭)(地域社会)(国家)(世界)
(交通通信)(娯楽健康)(政治)
(教育)
C.文化的領域(人と価値との関係)
(科学)(道徳)(芸術)(宗教)
この広岡の提案は、従来のような「社会機能法」
カリキュラムにおける、いわば「牧歌的な」甘さ を克服していくきっかけともなり、日生連におけ る「三層四領域論」カリキュラムの登場にもつな がっていく。
(3)「三層四領域諭」の登場
この「三層四領域論」とは「三層論」と「四領 域論」とを合わせたものであるが、その「三層論」
とは生活教育カリキュラムの構造として「生活単 元課程」「問題単元課程」「系統単元課程」の三層 構造を指し、また「四領域論」とは「保健」「経 済(又は自然)」「社会(政治)」「文化(教養、娯 楽)」の四領域を指している・
以上の「三層四領域論」は社会科カリキュラム
論というよりは、文部省カリキュラム全体に対す る対案とのいえるものであるが、このようなカリ キュラム論が登場してくる背景としていえること は文部省社会科がアメリカのバージニア州で作成 された「コア・カリキュラム」の「コア・コース」
をモデルとしているところにもある。したがって
「社会科」という教科は文字どおり教科というよ りは「コア・カリキュラム」の「コア」という独 特の領域であるという捉え方がなされ、その本来 の捉え方をめぐって議論される中から上記の「三 層四領域論」が登場してきたともいえる。
さてその「三層四領域論」と日生連の社会科カ リキュラム論との関わりについてであるが・次の 二点において研究史的意義がある。
第一に、その社会科カリキュラム内容そのもの との関わりにおいてであるが・「三層四領域論」
全体において先に検討してきたように・内容その ものを「社会機能」の設定から「日本社会の基本 問題」の設定への転換を促していったことの意義 である。つまり「三層四領域論」は日生連のカリ キュラムそのものにおいて「日本社会の基本問題」
を設定することを中 O的課題とするようなものだっ たのである。
第二に・「三層四領域論」のいわば二重的性格 のゆえに・日生連の社会科カリキュラムの二重的 性格が持ち越されたという意義(というより問題 点)である。すなわちこの三層における(第一層一 生活単元課程・第二層一問題単元課程・第三層一 系統単元課程)「問題単元課程」としての「社会 科」(いわゆる一般社会科のこと)と「系統単元 課程」(いわゆる歴史・地理・政治経済という系 統的知識の習得課程)との関わりについては次の
ような二重的捉え方がなされている・
「(問題単元課程における)問題解決的思考に 必要な基本的で体系的な知識や技能を習得する系 統課程がその上層に(或いはその奥に)位置づけ
られなければならない。」(下線一引用者)(注2)
この第二の意義(というよりは問題点)は、日 生連の社会科教育計画としての「日本社会の基本 問題」カリキュラムの評価にかかわるものである が筆者は、この二つ(①問題単元課程の上層つま り問題単元課程とは異なる系統単元課程に基本的 で体系的な知識や技能の習得を位置づけること・
②問題単元課程の奥につまり問題単元課程の中に 基本的で体系的な知識や技能の習得を位置づける
こと)の捉え方によって次のような「日本社会の 基本問題」カリキュラムの捉え方が生まれる。
第一の捉え方一「日本社会の基本問題」カリキュ ラムの外側に「基本的で体系的 な知識」を位置づける
(「社会科」カリキュラムの外側に歴史・地 理・公民の系統的学習が位置づいている)
第二の捉え方一「日本社会の基本問題」カリキュ ラムの内側に「基本的で体系的 な知識」を位置づける
(「社会科」カリキュラムの内側に歴史・地 理・公民の系統的学習が位置づいている)
もっとも、この時期の「三層四領域論」の時期 には、未だ「日本社会の基本問題」カリキュラム は正式には成立していないので・最終的にはどの ような捉え方が採用されるかは次の時期の問題と なる。
(4)「社会科指導計画」としての日本社会の基本 問題カリキュラムの成立
この「社会科指導計画」は、1953年8月に文部 省が初期社会科学習指導要領の改訂に手をつけた ことによって、その研究が促進され、1955年5月 にその構想が正式に発表される。
筆者は、この「社会科指導計画」は従来の「三 層四領域論」における社会科論とは異なり、「教 科」としての社会科カリキュラム論を明確に打ち 出したところに大きな意義があると捉えている。
すなわち、いわゆる「コア・カリキュラム論」
という立場から一歩進んで、「教科」カリキュラ ム論の一環としての社会科指導計画の研究に入っ ていったわけである。
ところで、そのような「教科」としての社会科 指導計画において、先に問題としていた二つの捉 え方のどちらが選択されたのであろうか。
詳細については後に検討するとして・結論的に 述べると、その点については次のように述べられ
ている。
「社会科のカリキュラムは、問題解決課程にお ける綜合的な学習のコースと、基礎課程における 地理、歴史、政治・経済・社会の三つの分野にわ たる系統的な学習のコースとに大別して構成され る。」(注3)(以下本資料の「綜合学習」をすべて
「総合学習」と表示する。)
すなわち「社会科のカリキュラム」の中で「問 題解決課程における総合的な学習のコース」と
「基礎課程における地理、歴史、政治・経済・社 会の三つの分野にわたる系統的な学習のコース」
の二つを統一して位置づけている。したがって先 の二つの捉え方については、社会科の中で二つを 位置づけている点を踏まえれば「総合的な学習の
コース」の延長線上に「系統的な学習のコース」
を位置づけていることになる。まさに社会科の
「内側」に「系統的な学習のコース」が位置づい
ている。
しかし、かつての「問題解決課程」に「総合的 な学習のコース」を位置づけ、「基礎課程」に
「系統的な学習のコース」を位置づけていること を踏まえれば、「問題解決課程」の「外側」に
「系統的な学習のコース」が位置づいているとも いえる。
筆者は、「社会科」という教科カリキュラムの 中で、上記の二つの「コース」を統一的に位置づ けているところに着目するがゆえに、社会科の
「内側」に「系統的な学習のコース」というよう に捉えておきたい。
以上の四つの時期区分から、「日本社会の基本 問題」カリキュラムは、第一に「社会機能」カリ キュラムに見られた「牧歌的」な甘さを克服し、
そして第二に「コア・カリキュラム論」とは異な る「教科」カリキュラムの一環として位置づき・
第三に社会科のカリキュラムの中にその「総合的 な学習のコース」が位置づきっっ、その学習の延 長上に「系統的な学習のコース」がさらに位置づ けられるというものになっている。
まさに「教科」としての社会科において「総合 的」な融合領域と、「系統的」な統合領域が統一 的に位置づけられている。
3 「日生連社会科」の本質と構造
「日本社会の基本問題」を位置づけた「日生連社 会科」の本質は次の四点から捉えられている。(由)
① 社会科は児童生徒の全人的な形成をとおし て日本社会の民主化を推し進め・平和な人類 社会の建設に積極的に貢献しようとする使命 をになう重要な教科である。
②社会科の教育は、生活教育を基盤にして行 われなければならない。それは伝統的な個々 の教科の学習によっては十分に果し得ない、
問題解決的な総合学習として計画さるべきで ある。
③社会科は、理論と実践、経験と法則との統 一をめざし、子どもの直面する生活の具体的 な現実から出発して、日本社会の直面してい る基本問題に対する正しい理解と批判にまで 導くよう計画し、また指導さるべきものであ る。そしていたずらに与えられた社会生活を 無批判に受けいれ、これを肯定して現情にな ずみ、矛盾や問題を解決し克服しようとする 積極的な意欲を欠いた、現実適応的な人間を 造ることに満足してはならない。
④問題解決学習の指導に当たっては、常に子 どもの発達の法則を重視し、その自主性と創 造性を尊重し、彼らに批判的にものを考える 力をっけ、積極的で建設的に問題解決に取り くむ生活態度を形成することが必要である。
以上の四点からもうかがえるように、「日生連 社会科」の本質は、まずその目標は「日本社会の 民主化を推し進め」「平和な人類社会の建設に積 極的に貢献」するという人間を育成することにお き、そのためには「日本社会の直面している基本 問題に対する正しい理解と批判にまで導くよう計 画」するものとなっている。
そしてそのような社会科は、従来のような「伝 統的な個々の教科の学習」によってすすめるもの とは異なり・社会科を含めた全教育課程が生活教 育としてすすめることが肝要であり・そのことは 社会科が「問題解決的な総合学習として」計画し て、児童生徒の「積極的で建設的に問題解決に取
りくむ生活態度を形成」することにもつながる。
まさに「日生連社会科」は、新しい教科である 社会科の基本精神を正面から受けとめて、そのた めにも「日本社会の直面している基本問題に対す る正しい理解と批判にまで導く」ことをその本質 においたのである。
したがってその社会科の構造は次のように設定
される。〔注5)
①社会科のカリキュラムは、問題解決課程に おける総合的な学習のコースと、基礎課程に おける地理、歴史、政治・経済・社会の三つ の分野にわたる系統的な学習のコースとに大 別して構成される。
②小学校、中学校の段階を通じて、問題解決 による総合学習のコースを構成するとともに、
中学校ではとくに地、歴、政・経・社の三分 野にわたる系統学習のコースを重視し、量質
ともにこれらのものを増加させる。
③ 問題解決学習の指導においては、つねに地、
歴、政・経・社の三分野からする、内容的な 角度を明確にした考察を行わせる指導を重視 しなければならない。社会科の指導は、究極 には意識を改造し、態度形成をねらうとして もこれらのものは単に意識や態度一般の形式 的な側面の形成が行われるのではなく、それ はつねに三分野にわたる実質的な内容の肉付 けを伴ってゆくものでなければならない。
④社会科における地理、歴史、政治・経済・
社会の三つの分野の指導は、旧い形の記憶中 心の地誌的な地理科や、年代史的な歴史科、
法制経済的な公民科の教育を復活させるもの であってはならない。ここにいう社会科の系 統学習とは、新しい性格を創造する意味を持 たなければならない。
⑤ 新しい系統学習では、単に事項を網羅的に 並べてこれを機械的に暗記させるような性格 に逆転することを防ぎ・児童生徒に批判的思 考力、論理的なものの見方や考え方を発展さ せ広い視野に富んだ平和な民主的実践者を育 成するように、とくに配慮しなければならな い。
以上五点が「日生連社会科」の構造についての 要約である。
これらの要約においては次の諸点に注目する必 要がある。
第一に・社会科の構造として・対照的な二つの 領域である「問題解決課程における総合的な学習 のコース」と「基礎課程における地理、歴史、政 治・経済・社会の三つの分野にわたる系統的な学 習のコース」とが統一的に設定されていることで
ある。
なおこの二つのコースをかつての「三層四領域 論」の分類概念である「問題解決課程」と「基礎 課程」という概念を使用することについては、
「コア・カリキュラム論」に対して批判的見解を 有する筆者としては、その弱点をも継承している という点で問題であると考えているが、しかし
「教科」としての社会科カリキュラムの内部構造 において、上記のような「総合的な学習のコース」
としての「融合」領域と、「系統的な学習のコー ス」としての「統合」領域を・統一的に設定して いることは、当時の「あれか、これか」式という
対立状況の中で注目すべきことである。
第二に、上記の、いわば二つの「領域論」=ス コープ論を踏まえた発達段階に則した内容配列論=
シークエンス論とでもいえることであるが、その 点について「小学校、中学校の段階を通じて、問 題解決による総合学習のコースを構成するととも に、中学校ではとくに地、歴、政・経・社の三分 野にわたる系統学習のコースを重視し、量質とも にこれらのものを増加させる必要がある」と述べ られているように、内容配列は一方で「総合学習」
コース領域を小・中に配列し、他方で「系統学習」
コース領域を中学校で配列している。
第三に、「総合学習」コース領域の学習方法の 特質についてであるが、(これは他の「系統学習」
コース領域との比較において注目すべきことであ るが)「系統学習」コース領域では各「系統」つ まり「歴史」「地理」「政治・経済・社会」の体系 的学習が進められるのに対して、「総合学習」コー ス領域での「社会問題」の学習も「歴史」「地理」
「政治・経済・社会」という「内容的角度」をつ けて進められるというものとなっている。つまり
「社会問題」の学習においても「つねに三分野に わたる実質的な内容の肉付けを伴ってゆく」よう な学習が進められており・そのようないわば「社 会問題」ごとの「内容的角度」を伴った「総合的 学習」が、他の「系統学習」コース領域での学習
と相乗効果をあげていくのである。
第四に、社会科における新しい系統学習と、そ れ依然の古い系統学習との相違点についてである が、その新しい系統学習については「単に事項を 網羅的に並べてこれを機械的に暗記させるような 性格に逆転することを防ぎ・児童生徒に批判的思 考力、論理的なものの見方や考え方を発展させ広 い視野に富んだ平和な民主的実践者を育成するよ うに、とくに配慮しなければならない」と述べら れているように、児童生徒の批判的思考力、論理 的なものの見方や考え方を発展させるような学習 であることが強調されている。
さて、古い系統学習と新しい系統学習との個々 の比較についてであるが、次のように捉えられて
いる。(註6)
「地理」
*地名や物産をおぼえさせたり、地域の特質 をつかませるような古い形の地誌学習に堕 らないように注意する。
*地域の特質を明らかにする場合にも、かよ うな特色の成り立つ理由を・歴史社会的に 考慮させることが重要である。
*日本の地理的環境は悪い現在の条件を運命 的に背負っているということを絶対視して 地理的宿命論や決定論に陥ることなく、資 源の貧困さも科学技術の水準によって相対 的に変化するものであり、人間の主体的な 働きかけいかんによっては・必ずしも悲観 するに価しないという考え方をもたせるよ うな指導をする。
「歴史」
*人物、事件、年代を暗記することが重点で はなく、また時代の特色をつかませること も究極のねらいではない。
*それはむしろ時代の性格の把握とともに、
時代がいかに変化発展したか、その原因は 何であったかという、正しい歴史の見方考 え方を指導することが眼目となるべきであ
る。
*小学校の段階では、子どもの生活に密着し た具体的な歴史の指導が望ましく、「物の 移り変わり」や「機能的歴史」また「問題 史」的な取り扱いなども一概に捨てさるべ きではない。ただこの場合は、その根底に 流れる社会の総体的な発展の過程を考えっ つ、この総合的な全体史との関連を見落と さないようにすべきである。
*中学校の段階では、問題解決学習の中で取 りあっかわれる「問題史」の指導と並んで 総合的な歴史を体系的に指導する必要があ
る。
「政治・経済・社会」
*小学校の低学年から、つねにこの角度から 社会生活を考察する態度をつけるよう配慮 する必要がある。それは決して中学の三年 において初めてしかも最終的な形での指導 とならないようにする。
*法制経済のような無味乾燥な教育に陥らぬ ように関連させつつ興味深い指導をするこ とがとくに必要である。その意味で時事問 題に関連させつつ問題解決的な学習を展開 することが望ましい。
以上の各「系統」ごとの留意点は、戦後の社会 科における新しい系統学習の捉えかたとして注目
すべきである。
なお以上のような本質・構造をもつ「日生連社 会科」は、冒頭にも述べたように、社会科という 教科を「日本社会の民主化を推し進め、平和な人 類社会の建設に積極的に貢献しようとする使命を になう」ものと捉えているが・そのことはとりも なおさず、「社会科教育は、何よりも人間形成を めざすものであって・単に知識を網羅的に注入す るための教科」ではないということにもなる・
そして「基本的人権の尊重と、正しい国際理解 の力をのばし、民族目立の達成に必要な有能な生 産人の形成」を打ち出すことになる。
「日生連社会科」の作成経過で、「三層四領域 論」の論議があったことは先に述べたが、その論 議は、中心的指導者である梅根悟の主張に典型的 に表われていたように、生活教育カリキュラムに おけるコアとして「生産的労働そのものの実践」
を重視していたが、上記の「日生連社会科」の目 的の中に「生産人の形成」が位置づけられている
こともその反映といえる。〔注n
したがって「日生連社会科」は、「日本社会の 基本問題」を基本に捉えて、その内容が構成され ているわけであるが、その際の「問題解決学習」
においては上記のような「生産的労働そのものの 実践」をベースにしっっその学習が展開されるも のとなっている。以下においてその「日本社会の 基本問題」の内容構成について検討したい。
4 「日本社会の基本問題」構成の視点と方法 「日本社会の基本問題」の内容構成において注
目すべき点は次の二点である。
第一は、先述の作成経過とも関わることである が、文部省社会科学習指導要領における弱点であ
る「社会機能法」批判を踏まえた「社会問題法」
に基づくものであるという点である。
この点では、日生連の当時の現場実践において しだいに「社会問題に対する問題意識を強く反映 した」実践が登場してきており、当時の「俗語」
で言えば「『傾斜』のかかった」実践が広がりっ
つあった。(注8)
まさに現場の実践を踏まえて「社会問題法」の 主張が形成されっっあったといえる。
第二は、その「社会問題」を捉えるうえで、個々 の小課題を並列的、多元的に捉えないで、日本社 会の基本問題として「統一的構造的」に把握しよ
うという提案が出されたことであるが、具体的に は「日本社会の発展を求めるときに大まかに考え られる問題領域」という視点から捉えようとして いることである。
この提案は、冒頭でのべた1948年10月創立の
「コア・カリキュラム連盟」(コア連)が1953年6 月に「日本生活教育連盟」(日生連)へと団体名 称を変更したこととほぼ軌を一にしてなされてい
るものである。(注9)
以上の二つの視点を踏まえて「日本社会の基本 問題」の内容が構成される。
それでは、かかる視点を踏まえて、「日本社会 の発展を求めるときに大まかに考えられる問題領 域」として、いかなる問題領域が設定されたので あろうか。
まず、農業問題、中小企業問題、工業化問題、
貿易の問題、産業合理化問題、経済自立問題、青 少年問題、婦人問題、労働問題、生活改善問題、
マス・コミ問題、平和問題、社会保障問題という 十三の問題領域が設定された。
これらの問題領域は「いずれも孤立したもので はなく、どれをおしていっても一般的危機につな がり社会改造の必要とそのポイントが見えてくる ような」性格のものであるとされた。(注上①
ここでは・「日本社会の発展を求めるときに大 まかに考えられる」日本社会の基本問題として上 記の問題領域が設定され、「たんなる問題領域」
ではない方法が採用され始めている。〔注1 )
しかしまだここにおいてはその「日本社会の発 展」の捉えかたが科学的・系統的にはなされてお らず、それゆえに問題領域も「大まか」なものに
とどまっていた。(注口)1
しかしそのような経過を踏まえて、「単元系列 作成委員会中学校部会」によって、 「日本社会の 基本問題」の科学的・系統的作成が進められてい
く。その結果として次のような方法意識を踏まえ た「日本社会の基本問題」の内容が作成される。
すなわち次のような方法意識を踏まえて作業が 進められる。㈱)
① 歴史的な発展過程のなかでどのように立ち あらわれてきたかという史的発展のプロセス で基本問題をつかみだす。
②これらの諸問題は人間の恣意で発生したも のではなく、どれ一つとっても日本社会とく に明治以降の日本資本主義の発展のなかから
うみだされた客観的な矛盾としての社会的な 問題からである。
こってきた問題、それはどういう過程で生ま れ、どう発展し成熟し、今どのように存在し、
そのために日本の国民はどのように困ってい るかというような問題のとらえ方をする。
問題があげられ、その問題のなかには半封建 的な農村、資本主義に搾取される農村、そこ に生きる農民の問題、農村生活の合理化、米 価問題が含まれていると分析される。つまり 農業問題という基本的な問題の中から米価問 題が出てくるし、部分的には二、三男問題も 出てくるということである。
るといわれた中小企業というものが依然とし て今日も残っている。しかも日本産業の支柱 の役割をはたしているがそういう中小企業の 問題が独占段階以降あらわれてくる。
⑥以上の農業と中小企業の上にのっかって・
日本独特といわれる産業の問題や、そこに働
③日本社会が近代国家として成立して以来お
④そして一番最初に、基底ともいうべき農業
⑤ ついで本来資本主義の成立とともになくな
いている労働者の問題が、日清日露戦争頃か ら登場している。
入ってから機械文明の問題とか・マス・コミ の問題とか、青少年の不良化とか、退廃文化 の問題とか・総じて現代文化の問題が、一つ の社会的な問題として立ちあわられる。
人口問題とか食糧問題とか住宅問題とか総合 開発とか、ひっくるめて社会をコントロール して維持してゆこうとする傾向として社会計 画化の問題があらわれてくる。
会や国家を維持している一広く言えば政治一 天皇制とか議会とか地方自治とかの国家権力 体制に関する問題がある。
⑩ 以上のような前近代的な封建的な矛盾から
⑦さらに日本の資本主義が、独占段階以降に
⑧さらに産業資本の段階にはみられなかった
⑨それからこのような問題をうみださせた社
うみだされる問題や、資本主義の矛盾から起 こってくる問題とともに・とくに戦後におい ては日本の従属化からおきてきた民族の独立 と平和の捷護の問題がわれわれの前に大きく 提起されてきている。
以上のような方法意識・手続きを踏まえて日本
社会の基本問題の系統的な位置づけがなされたが 整理すると以下の通りである。〔注10
〈日本社会の基本問題(案)〉
1 日本資本主義の基本的性格
式、資本主義に搾取される農村、そこに生 きる農民の問題一農村問題
とくに零細企業の問題、そこに生きる中小 企業者の問題一中小企業問題
いる日本独占産業とそこに生きる労働者の 問題一工業労働問題
H 主として独占資本の形成過程で発生した
①半封建的な農村、これを規制する社会様
② この農村に根をおく賃金労働による工業、
③ このような基盤を従属せしめて成立して
諸問題
④現代文化の問題
⑤ 社会計画化問題
皿主として従属化をたちきるため当面して いる問題
⑥ 平和問題
⑦ 民族問題
IV こうした社会体制を維持、促進する国家 権力の問題
⑧国家権力の問題
以上の八つのく日本社会の基本問題案〉が先述 の方法意識・手続きを踏まえて設定された。
しかし以上の基本問題案は、委員会全体会議で 検討され、次のような問題が出されたという。(醐 1)八つの社会問題の前提ともいうべき「自然 災害の問題」をとりあげる必要があるとの提 起があったが、論議の結果、「子どもが取扱 いやすいという観点からも独立させることが 有意義だ」ということになった。
2)国民保健の問題がおちているという批判が 出たが、それに対してそれは「社会計画化の 問題のところでとりあげてこそ意味がある」
との論も出されたが、論議の結果、「大勢は、
独立に傾き」とりあげることとなった。
3)国家権力の問題は「現代政治の問題」とい いかえることになった。
4)「家族制度、婦人問題などの人間関係の問 題をひろえない欠点がある」との批判が出さ れたが、「人間関係の問題は、具体的な各問
題の学習のなかで扱えばよい」ということに なった。
5)子どもの主体性からの基本問題のつかみか たが不十分である。そして「日本社会の基本 問題にのみ重点がかかって、子どものパーソ ナリティ形成の観点からの研究がよわいので はないか」という批判も出された。これは今 後の問題とされた。
以上のような論議の中で、社会問題そのものの 設定に関わっては、新たに二つの社会問題(「自 然災害問題」と「健康問題」)が付け加えられる ことになった。また「人間関係の問題」について は、既存の具体的な社会問題の中で扱えばよいと いうことになった。
また社会科カリキュラムにおける社会問題の設 定そのものの方法意識に関わる問題として「子ど もの主体性からの基本問題のつかみかた」の問題 が提起されているが、注目すべきことである。す なわち社会科カリキュラムにおいて社会問題を設 定する場合、言うまでもなく児童生徒の教育とい う目的のために設定されているわけであって、決 して大人の社会問題研究のためではないからであ り、したがって設定される社会問題が「子どもの 主体性からの」つかみかたを踏まえて検討すべき
ことが提起されていることはきわめて重要なこと だからである。
もっとも、以上の日本社会の基本問題の論議は 単に社会科学的立場や大人の立場からというより は、実際の授業実践をも踏まえてなされており、
その点は改めて念頭においておく必要がある。
以上の論議を踏まえて、1954(昭和29)年6月 開催の日生連の「第6次総会」(和光学園)で提 案されたものは次の通りである。
では次に、以上の「日本社会の基本問題」が社 会科教科書作成においてどう具体化されるのかと いう問題について検討してみたい。
5 社会科教科書における「日本社会の基 本問題」の内容と特質
ここで検討する社会科教科書は、次のとおりで
ある。
〈日本社会の基本問題〉(1954年6月)
〈小学校〉
「小学校社会科 日本の生活」
馬場四郎編、教育図書株式会社、
昭和29年発行。
全9冊(2年用1冊・3年〜6年用各 上・下2冊)
〈中学校>
「中学校社会科 日本の課題」
馬場四郎編、教育図書株式会社、
昭和29年発行。
全6冊(1年用2冊・2年用2冊 3年用2冊)
一二三四五六七八九 第第第第第第第第第
自然災害問題健康問題 農山漁村問題 中小企業問題 工業・労働問題 現代文化の問題 社会計画化問題 現代政治の問題 民族と平和の問題
なおこの教科書作成については、前節において 検討してきたような日生連という団体で行われて いるものではないが、その日生連の中心的メンバー である「馬場四郎編」という教科書でもあるので
「日本社会の基本問題」を教科書作成にまで具体 化しているものと捉えておきたい。なお著作者と して小学校では「馬場四郎・久保田浩・大村栄・
福田章太郎・森久保仙太郎」と記され、また中学 校では「教育文化研究会 馬場四郎・川田信一郎・
野々村一雄・横越英一・菊池利雄・松本達郎ほか」
と記されているが、ここからも馬場を中心とする 日生連の実践・研究成果が踏まえられていること がうかがえる。
では以下において、各学校・学年ごとに、「日 本社会の基本問題」が教科書の中にどう具体化さ れているのかについて検討する・
(1)小学校社会科「日本の生活」
2年(「日本の生活① はたらくひとびと」)
①はたらくひとびと ②まちではたらくひと
③うみではたらくひと④みせではたらくひ と ⑤のうかのひとたち ⑥山ではたらくひ と ⑦わたくしたちのくらし ⑧わたくした ちをまもるひと
2年の内容は、「はたらくひとびと」という視 点から全体が構成され、①では「こうば」で働く 人、②では「いえをつくるひと」「こうじをする
ひと」「にもつをはこぶひと」など、③では「さ かなをとる」人など・④では「いろいろなみせ」
など、⑤では「のうか」の様子、⑥では「山」で 働く人々、⑦では「きものをつくるひと」、⑧で は「かじをふせぐひと」「おいしゃさん」「けいさ つかん」「やくば」で働く人々、というように子 どもの身近かにいる「働く人々」が多面的に取り あげられている。
3年上(「日本の生活② かいたく村」)
3年上の内容は、「かいたく村」という視点か ら全体が構成され、1では「かいたく」「村をつ くるしごと」「新しいむら」について、2では
「道」について「あたらしい」「ふるい」道・「東 京と大阪をむすぶ」・いろいろな道・どうしたら 道はよくなるか、という点から、3では「水」に ついて「わたくしたちと水」「水」をえる工夫・
使い方・恐ろしい水、という点から、それぞれ扱 われている。
3年下(「日本の生活③ 大むかしのくらし」)
3年下の内容は、上につづいて4では「牛」と 生活との関わりについて・5では「火」と生活と の関わりについて・そして6として「大むかしの くらし」としてその生活について調べ村をつくっ た人々について考える、というものとなっている。
4年上(「日本の生活④ 山の村 海の村」)
4年上の内容は、1では「木」をふまえて「山 の村」について調べて考えるもの、2では「魚」
をふまえて「海の村」について調べて考えるもの となっている。
4年下(「日本の生活⑤ 村と町」)
4年下の内容は、3では「米」をふまえて「日 本の米・農業」について調べて考えるもの、4で
は「村や町」として「村や町はどのようにうつり かわって」きたかや「町の発展」などについて調 べて考えるものとなっている。
5年上(「日本の生活⑥ 日本の工業1」)
5年上の内容は、1では「家計」をふまえてく らしと品物・ねだんや収入について調べて考える もの、2では「糸」をふまえて紡績工業について 調べて考えるものとなっている。
5年下(「日本の生活⑦ 日本の工業H」)
5年下の内容は、3では「鉄と石炭」をふまえ
て重工業について調べて考えるもの、4では「近 代工業のあゆみ」ということで明治以降の工業発 達史を調べて考えるものとなっている。
6年上(「日本の生活⑧ 日本と世界1」)
6年上の内容は、1では「水害とわたくしたち」
という点から水害問題について調べて考えるもの・
2では「日本の貿易」という点からわが国の生活 と貿易について調べて考えるものとなっている。
6年下(「日本の生活⑨ 日本と世界H」)
6年下の内容は、3では「ひとつの世界をめざ す」という点から「世界」の探検史・文化の交流・
平和への努力などについて調べて考えるもの、4 では「わたくしたちの政治」という点から「くら しと政治」「地方政治」「選挙」などについて調べ て考えるものとなっている。
なお6年下の巻末に「資料」も兼ねた「5」の
「政治が国民のものになるまで」という単元が設 定されているが、このことに注目しておきたい。
すなわちその内容は「1政治が国民のものにな るまで 2原始時代 3貴族の世の中一古代一 4武士の世の中一封建時代一 5新しい世の中一 近代一」という、いわゆる日本通史となっている が、このような「総合学習」コース領域の学習を ふまえて「日本通史」の「系統学習」コース領域 が「資料」として設定されているが、これは両者 の密接不可分性をしめすものとして注目しておき たい。
以上が小学校社会科教科書内容の全般的特質で あるが、この教科書において「日本社会の基本問 題」はどう具体化されているのであろうか。
まず小学校社会科全体に関わることであるが、
どの教科書も「日本の生活」というタイトルで貫 かれている。この「日本の生活」というタイトル 設定に上記の具体化への基本姿勢が示されている
といえる。
そしてその「日本の生活」というタイトルは次 のように内容構成されている。
①はたらくひとびと(2年)
②③④⑤⑥⑦⑧
かいたく村(3年)大むかしのくらし(3年)
山の村 海の村(4年)
村と町(4年)
日本の工業1(5年)
日本の工業H(5年)
日本と世界1(6年)
⑨日本と世界H(6年)
すなわち「日本の生活」を・まず「はたらくひ とびと」の様子を多面的に学ぶことから出発して・
次に当時の昭和21年頃の「かいたく」村の様子を 素材としつつその村の課題に目を向けさせ、さら に「道」「水」「牛」「火」を素材としてそれらと 生活との関わりにまで視野を広げ・そして視点を 変えて「大むかしのくらし」を「水」「けもの」
「火」を素材としつつ学習することを通して「日 本の生活」の実態に迫ろうとしている。
そして、「村」や「町」の様子を、「山の村」
「海の村」から学習することから始めて、「米」と 村との関わりに入りつつ、その「村」と「町」と の関わりに視野を広げていく。
すなわち以上の2年・3年・4年までの社会科 においては、主に「地域」を素材としっっ、ある 一定の視点からその生活の実態に多面的に迫ろう
とする内容が構成されている。
それに対して・次の5年からは「日本の工業」
について・「家計」を切口にして「くらしと品物」
という生活実態から入りながら、「糸」をふまえ てまず紡績業を学習し、次いで「鉄と石炭」をふ まえて重化学工業について学習して・まとめとし て「近代工業のあゆみ」の学習がなされるという ように構成されている。
そして6年では、まず「水害とわたくしたち」
というように・日本社会の基本問題の第一の問題 である「災害問題」が設定されており、次に「日 本の貿易」ということで日本と世界との関わりを
「貿易」ということ視点から学習する。
その「貿易」をふまえた日本と世界の学習から
「ひとつの世界をめざす」学習として「世界をひ ろげたたんけん」「山をこえ海をわたる文化」「平 和への努力」という世界学習に進み、最後に「わ たくしたちの政治」として「政治」「地方自治」
「選挙」について学習するように構成されている。
以上の5・6年においては、「地域」から離れ て、広く「工業」そのものの学習と、「日本と世 界」の学習がなされて、最後は「政治」学習でま
とめられている。
したがって、小学校社会科では、まず「地域」
を素材としっっ「日本社会の基本問題」に迫りつ つ、5・6年で本格的な「日本社会の基本問題」
の学習として「日本の工業」や「水害」および
「政治」の問題が学習されている。
〔2)中学校社会科「日本の課題」
中学校社会科教科書は、まさに「日本の課題」
というテーマによって全体が構成され・各学年は 二冊ずつ計六冊となっており・その各教科書にお
いて・「単元」が九つ(1〜IX)設定されてそれ らが「日本社会の基本問題」と捉えられる。
「日本の課題」とは具体的には各教科書では次 のような内容で構成されている。
1年「1 日本の生活」
単元1 日本の生活 単元H 日本の農業
「2 国土の開発」
単元皿 日本の災害
研究資料 世界の自然と生活 2年「3 近代工業と都市」
単元IV 近代工業と中小企業 単元V 近代社会と都市
「4 日本文化の発展」
単元VI 日本文化の形成 研究資料 日本の歴史 3年「5 経済と政治」
単元V皿 日本経済の自立 単元槻 日本の政治
「6 民族と平和」
単元IX 民族と平和 研究資料 政治経済の制度
この九つの単元・課題を、先述の「日本社会の 基本問題」と対照すると次の通りである。
一二三四五六七八九 第第第第第第第第第
自然災害問題健康問題 農山漁村問題 中小企業問題 工業・労働問題 現代文化の問題 社会計画化問題 現代政治の問題 民族と平和の問題
1皿VHWWWV閥皿
日本の生活日本の災害 近代社会と都市
日本の農業 近代工業と中小企業
日本経済の自立 日本文化の発展 近代社会と都市
日本の政治 民族と平和 以上のように・中学校においては中学1年の冒 頭で「1日本の生活」という日本社会の現状を考 える・いわば序論的学習をふまえて「日本社会の 基本問題」が全学年において正面から位置づけら れている。
そして、これらの内容は、「問題解決学習」と いう一定の方式によって構成されている。その一 定の方式とは次のような「八段階学習」である。
〈1〉現状分析 〈H〉問題の確認
〈皿〉問題をとくための研究 〈IV〉結論
〈V〉残された課題 〈VI〉整理
〈V皿〉テスト 〈鴨〉研究のための参考
では次に、上記の「八段階学習」が教科書の中 にどう具体化され、「日本社会の基本問題」はど のように扱われているか見てみよう。以下その内 容項目を列挙する。
中学1年(「日本の課題1日本の生活」)
単元1 日本の生活
〈1〉現状の分析(日本の国土・深い雪・北海 道の開拓・かいこの村・農林業によって 生きる地方・農林業地帯から工業地帯へ・
日本の工業地帯)
〈H>問題の確認(日本のさまざまな問題)
〈皿>問題をとくための研究(1日本の自然と 生活・H各地域の特色)
〈IV〉結論(日本社会の生活と現状)
〈V〉残された課題(さまざまな課題)
〈VI〉整理(単元で学んだたいせつなことがら・
たいせつなことば)
〈皿〉テスト(1〜10)
〈鴨〉研究のための参考(重要語句解説)
単元H 日本の農業
〈1〉(農村や農家の生活をみじめでつらいも のにしている原因)
〈皿〉問題の確認
〈皿〉研究(1米をめぐって・H農家のようす・
皿米つくりのようす・IV日本農業のあゆ み・Vもっと村をよくしよう)
〈IV〉結論(食糧問題・農村人口問題・経営規 模の問題)
〈V〉残された課題
〈VI>整理(ことカゴら.ことば)
〈U>テスト
〈履>(重要語句解説)
中学1年(「日本の課題2国土開発」)
単元皿 日本の災害 〈1〉.(災害はふせげるか)
〈H〉問題の確認
〈皿〉研究(1荒れていく国土・Hむかしの人 は災害とどのようにたたかってきたか・
皿災害をどのようにふせいでいるか・W 日本の総合開発・V外国の総合開発計画)
〈IV〉結論(災害と科学技術。日本社会のしく みと政治)
〈V〉(災害から国土をまもっていく)
〈VI〉整理 〈W〉テスト 〈履〉参考 中学2年(「日本の課題3近代工業と都市」)
単元IV 近代工業と中小企業
〈1〉現状の分析 〈H>問題の確認
〈皿〉(1中小工業の国・日本・∬中小企業は どうなるか・皿近代産業の成立・W近代 産業の発達・Vわが国における近代産業 の成立とその特徴・VI日本経済の現状と 中小企業)
〈IV〉結論 〈V〉残された課題
〈VI〉整理 〈皿〉テスト 〈頒〉参考 単元V 近代社会と都市
〈1〉現状の分析 〈H〉問題の確認 〈皿〉(1都市の発生と発達・皿都市にはどの ような型があるか・皿都市における人々 の生活はどうなっているか・IV健康な都 市の建設・V外国の都市)
〈IV>結論 〈V〉残された課題
〈VI〉整理 〈W〉テスト 〈履〉参考 中学2年(「日本の課題4日本文化の発展」)
単元VI 日本文化の形成
〈1〉現状の分析 〈n〉問題の確認
〈皿〉(1現代文化の上流・H西洋の近代文化 と歴史・皿明治維新と文明開化。IV明治 の文芸と思潮・V大正時代から昭和へ・
VI昭和の文化)
〈W〉結論 〈V〉残された課題
〈Vl〉整理 〈W〉テスト 〈履〉参考
中学3年(「日本の課題5経済と政治」)
単元V皿 日本経済の自立
〈1〉現状の分析 〈H>問題の確認
〈皿〉(1日本産業の現状・1日本の貿易の現 状・皿世界産業の現状・IVこの対立の中 で世界の国々は国民の幸福のためにどん なことに努力しているか)
〈IV>結論 〈V〉残された課題
〈VI〉整理 〈V皿〉テスト 〈覆〉参考
単元槻 日本の政治
〈1〉現状の分析 〈H〉問題の確認 〈皿>(1政治とは何か・H政治の発達・皿民 主主義の原理とその発達・IV日本の政治・
V政治の制度とじっさい)
〈IV〉結論 〈V〉残された課題
〈VI〉整理 〈U〉テスト 〈履>参考 中学3年(「日本の課題6民族と平和」)
単元IX 民族と平和
〈1〉現状の分析 〈H〉問題の確認 〈皿〉(1近代社会と民族の成立・H民族国家 の発展・皿帝国主義と植民地の分割・IV 近代日本の誕生・V2回にわたる世界大 戦・VI第2次世界大戦後の新しい危機・
V皿平和のための機構・覆平和をもとめる 運動)
〈IV〉結論 〈V>残された課題
〈VI〉整理 〈皿〉テスト 〈履〉参考 以上の内容項目の列挙からもうかがえるように
中学校社会科における「日本社会の基本問題」は
「単元」という形で九つの「社会問題」(1日本の 生活・H日本の農業・皿日本の災害・IV近代工業 と中小企業・V近代社会と都市・VI日本文化の形 成・V皿日本経済の自立・履日本の政治・D(民族
と平和)によって構成されている。そしてそれぞ れの「単元」(「社会問題」)の内容構成は、「問題 解決学習」という「八段階学習」方式によるもの
となっている。
ところで、以上の中学校社会科における「日本 社会の基本問題」の構成について、もう一つ注目 すべき点がある。それは、各学年の最後に「研究 資料」が位置づけられていることである。
すなわち次のような「資料単元」が「問題単元」
の後の位置づけられている。
1年 「単元1日本の生活」・「単元H日本の 農業」・「単元皿日本の災害」
⇒「研究資料・世界の自然と生活」
2年
3年
r単元IV近代工業と中小企業」・「単元 V近代社会と都市」・「単元VI日本文化 の形成」
→「研究資料・日本の歴史」
「単元V皿日本経済の自立」・「単元V■日 本の政治」・「単元lX民族と平和」
⇒「研究資料・政治経済の制度」
つまり、「融合学習」という社会問題の多角的 学習の中で「系統学習」が有機的に位置づけられ ており、先に検討したような「日生連社会科」カ
リキュラム編成の方法意識がこのような形で表れ ているのである。まさに社会科のカリキュラムは、
「問題解決課程における総合的な学習のコース」
と「中学校ではとくに地、歴、政・経・社の三分 野にわたる系統学習のコース」を重視したものと なっている。
6 まとめ
以上において、日本生活教育連盟(日生連)と いう民間教育研究団体が作成した、社会科カリキュ ラム構想である「社会科指導計画」(日生連社会 科)について検討してきた。
この「日生連社会科」を取りあげた最大の理由 は、この社会科カリキュラムはその中心に「社会 問題」を位置づけていたからであり、しかもその ような「社会問題」を中心にすえる方法は戦後の 社会科カリキュラムの本質に関わることと考えて
いるからである。 (拙著『社会科カリキュラム論 研究序説』学文社1989年12月参照)
その「社会問題」を中心にすえた「日生連社会 科」カリキュラムの特質は次のとおりである。
①「日生連社会科」カリキュラムの構造は、「社 会問題」を多角的に学習する「問題解決課程」コー
スと、「基礎課程」における地理、歴史、政治。
経済・社会の三つの分野にわたる系統的学習コー スによって構成されている。
②小学校、中学校の段階を通じて、問題解決によ るコースを構成するとともに、小学校6年では
「日本歴史」、中学校では「地理、歴史、政治・経 済・社会」というような系統学習コースも位置づ
けている。
③系統学習コースでは、単に事項を網羅的に並べ てこれを機械的に暗記させるような性格に逆転す ることを防ぎ、児童生徒に批判的思考力、論理的 なものの見方や考え方を発展させ、広い視野に富 んだ平和な民主的実践者を育成することをめざし
ている。
④個々の「社会問題」は、「いずれも孤立したも のではなく・どれをおしていっても一般的危機に つながる社会改造の必要とそのポイントが見えて
くるような」性格のものである。
⑤「社会問題」を設定する基本的観点は「歴史的 な発展過程のなかでどのように立ちあられてきた かという史的発展のプロセスで基本問題をつかみ だす」というものである。
⑥「社会問題」は大きく四つに分けられ、第一に
「日本資本主義の基本的性格」に関わるものとし て「農村問題」と「中小企業問題」及び「工業労 働問題」、第二に「主として独占資本の形成過程 で発生した諸問題」として「現代文化の問題」と
「社会計画化問題」、第三に「主として従属化を たちきるため当面している問題」として「平和問 題」と「民族問題」、第四に「こうした社会体制 を維持、促進する国家権力の問題」そのもの
(「国家権力の問題」)・そして以上の諸問題の中に 含みうるものであるが、論議の中で独立して設定
されたものとして「自然災害問題」と「国民保健 の問題」がある。
注意文献
(注1) 日本生活教育連盟編「社会科指導計画〈総説 編〉生活教育の前進IV』誠文堂新光社1955年 5月(以下単に「総説編』と表記する)38頁
(注2)梅根悟「三層四領域説の生まれたいきさつ」
(『生活教育の前進IV』誠文堂新光社1959年11 月)154頁
『総説編」33頁 「総説編」18〜26頁 「総説編』33〜35頁 「総説編』34〜35頁 梅根・前掲論文150頁 r総説編』47頁
日本生活教育連盟編「子どもの生活をひらく 教育戦後生活教育運動の40年』学文社1988年 11月参照
『総説編』50頁 「総説編」50〜51頁 r総説編』51頁 「総説編』51〜53頁 「総説編』53〜54頁 「総説編』54〜55頁
(注3)
(注4)
(注5)
(注6)
(注7)
(注8)
(注9)
(注10)
(注11)
(注12)
(注13)
(注14)
(注15)
The SOCIAL STUDIES CURRICULUM
and
SOCIAL PROBLEMS
Yoshikazu Usui
The NSR(Nihon Seikatsu−kyoiku Renmei,Japanese Assoxiation For Life−E(lucation)drew up the Social Studies Curriculum in1955.
The characteristics of the Social Studies Curriculum are as follows:
1.the Social Studies Curriculum was based on9Social Problems.
2.the9Social Problems concemed:
①Disasters ②Health ③Agriculture−Forestry−Fishing
④Smallerenterprises ⑤IndustryandLabor ⑥Modemculture ⑦S㏄ialplanning ⑧Politics ⑨theNationandtheissueofPeace
3。the Social Stidies Curriculum is divided into a problems course and a Social Sciences course covering History,Geography,Politics,Economics and Sociology.
4.the Social Stidies Curriculum shows how the Social Problems course relates to the S㏄ial Scien㏄s course.