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環境への放出細菌は特定の原生動物に捕食される⁉ - 化学と生物

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354 化学と生物 Vol. 52, No. 6, 2014

環境への放出細菌は特定の原生動物に捕食される⁉

Spumella 属の鞭毛虫の細菌捕食者としての優位性

環境浄化の分野では,土壌・地下水浄化において,汚 染現場に生息する土着細菌を活性化させ浄化を行う「バ イオスティミュレーション」が数多く実施されている.

しかし,土着細菌のみでは浄化が期待できない場合,高 い分解能力を有する外来の特定細菌を導入して浄化を行 う「バイオオーグメンテーション」を適用するケースも ある.自然環境下にはさまざまな分解(=物質変換)能 力をもった細菌が生息しており,これらの細菌を単離・

培養し,効果的に活用することができれば,バイオオー グメンテーションは大きなポテンシャルを有する魅力的 な浄化法である.

一方,このバイオオーグメンテーションについて過去 の実施例を見ると,導入された特定細菌が,その能力を 発揮し,汚染現場の浄化へとつながった例は極めて少な い.これは,自然界に放出された特定細菌が,放出時の 個体数を維持できず,急激に減少することによる(放出 細菌が汚染物質で活発に増殖できる場合は除く)

.これ

までのわれわれの解析から,この主な理由は土着の原生 動物による捕食であることがわかってきている.

従来,原生動物は活性汚泥法のような生物学的排水処 理法において汚泥中の細菌を摂食する捕食者として働 き,安定した良好な運転には欠かせない存在として知ら れてきた.また,原生動物は増加する活性汚泥の減容化 にも大きな役割を果たしていることがわかっている.こ こでは,原生動物が有するこの「活性汚泥法の重要構成 要素」というプラスの側面ではなく,前述の「環境に放 出された特定細菌を減少させる」というマイナスの側面 に着目して述べることとする.

自然環境には種々の細菌が生息し,その捕食者である 原生動物の種類も多岐にわたっている.その前提に立て ば,土着の原生動物が生息するさまざまな環境サンプル 中に,種類の異なる被食細菌を添加すれば,その組み合 わせに応じて,多様な原生動物が捕食者として出現する ことが想像できる.しかしながら,われわれがこれまで に行った研究の結果は,この予想とは全く異なるもので あった.

研究では,具体的に,複数種の「細菌」(グラム陰性 および陽性)を使って,さまざまな「環境水」(河川水,

地下水,土壌浸出水)を準備し,捕食実験(1種類の細 菌を1種類の環境水に添加,環境水中の原生動物の中 で,捕食能の高いものが優占化する設定)を行った.す ると,「細菌」と「環境水」の組み合わせにかかわらず,

極めて多くのケースで,Chrysophyceae(黄金色藻綱)

の 属,あるいはこれに近縁な原生動物が優占 化することが明らかになった(1)

.本原生動物は,鞭毛虫

の一種である.

このような極端な実験結果は,容易には信じがたい.

しかしながら,われわれが観察した鞭毛虫は,従来から nanoflagellateとして淡水中の細菌の重要な捕食者とし て知られている(2)

.また,これらnanoflagellateの18S 

rRNA遺伝子解析を基にした分類が進められ,特に黄金 色藻綱に分類される 属は,世界中の異なる環 境条件のさまざまな場所に広く分布し,細菌の捕食者と し て 重 要 な 役 割 を 担 っ て い る こ と が 報 告 さ れ て い る(3, 4)

わ れ わ れ の 研 究 で 優 占 化 し た 鞭 毛 虫 の18S  rRNA遺伝子は,これらの研究で主要な細菌捕食者とし て単離された 属鞭毛虫の18S rRNA遺伝子と 極めて相同性が高い.

整理すると,既報の研究(3, 4)では,さまざまな自然環 境中(淡水,海水,土壌)

,つまり多様な被食者が生息

する条件下での原生動物を調査し, 属の鞭毛 虫が高い頻度で優占種として単離されている.それゆ え,われわれの研究のように,複数種の被食細菌をそれ ぞれ添加し,捕食による優占化のステップを加えた実験 を行っても,同種の原生動物が出現することは,不自然 な現象とは言えない.さまざまな条件下において,

属の鞭毛虫が優占化する原因は解明されていない が,その存在の重要性は明白である.

ここで,本鞭毛虫に関してわれわれが解析した結果を紹 介したい.図

1

は河川水を利用した捕食実験前後の,原生 動物を含む微小真核生物の18S rRNA遺伝子を対象にした Terminal Restriction Fragment Length Polymorphism

(T-RFLP)解析の典型的なピークパターン変化を示し たものである.図1Aの捕食実験前は,複数の微小真核 生物が河川水中に存在することを意味する複数のピーク が観察される.しかしながら,Bの捕食実験後は添加し

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今日の話題

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化学と生物 Vol. 52, No. 6, 2014

た被食細菌の摂取によって著しく増加する1種類の鞭毛虫 の優占化によって検出ピークは1本となり(ほかのピーク は相対的に低く検出できない)

直接の塩基配列決定や希 釈法による単離が可能となる.本手順で, 属 細菌を被食者とし,図1B中の写真の鞭毛虫  sp. 

TGKH6株を河川水(仙台市の広瀬川)から単離した.

18S rRNA遺伝子の解析結果 ( -like flagellate  JBC30と同一)を基に 属と分類した.また,被 食細菌として試験したほかの4種類の細菌,グラム陰性細

菌の  JM109と  

PAO1,グラム陽性細菌の  de Bary  1884(細胞のサイズが比較的大きい)と

 IAM1399のすべてを捕食でき,幅広い捕食 性を有していることが示唆された.今後はさらに被食細 菌の種類を増やして検討を行う予定である.

先にも述べたが,既報の研究(3, 4)によって,

属の鞭毛虫はさまざまな自然環境中に,幅広く生息して いることが確認されている.それゆえ,多様な原生動物 と競合する自然界で,本鞭毛虫が,どのような特性を有 し,どのようなメカニズムによって細菌の捕食の際に優 位に活動できるのかを明らかにしていくことは,非常に

重要な課題である.それは,単にバイオオーグメンテー ションの技術的な改良(捕食回避手法などの確立)にと どまらず,環境中の食物連鎖の中で,細菌の捕食者とし ての活動や役割を理解するために,大きな意味があると 考える.

  1) 中村寛治,須藤真志:土木学会論文集G(環境),68, Ⅲ̲ 

31(2012).

  2) S.  J.  Bennet,  R.  W.  Sanders  &  K.  G.  Porter : , 35, 1821(1990).

  3) J.  Boenigk,  K.  Pfandl,  P.  Stadler  &  A.  Chatzinotas :   , 7, 685(2005).

  4)  J. Boenigk, K. Pfandl, T. Garstecki, H. Harms, G. Novarino 

&  A.  Chatzinotas : , 72,  5159

(2006).

(中村寛治,東北学院大学)

プロフィル

中村 寛治(Kanji NAKAMURA)   

<略歴>1983年東北大学大学院工学研究 科土木工学専攻博士後期課程修了/同年栗 田工業(株)総合研究所勤務/1988年イリノ  イ大学微生物学科客員研究員/1990年栗田  工業(株)技術開発センター勤務/2004年東 北学院大学工学部教授,現在に至る<研究 テーマと抱負>原生動物による環境放出細 菌の捕食機構について<趣味>実験・旅行 図1捕食実験前後の18S rRNA遺 伝子のT-RFLP解析結果の比較

参照

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