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昆虫エクジステロイド生合成にかかわる酵素群と ... - J-Stage

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(1)

It  is  to  be  hoped,  therefore,  that  the  present  experiments will lead not to actual use of these  particular chemicals but to the discovery of others  that will be safe and also highly specific in their  action on the target insect. . . . Some of the most  interesting of the recent work is concerned with  still  other  ways  of  forging  weapons  from  the  insectʼs own life processes. 

̶̶ Rachel Carson (1962)(1)

レイチェル・カーソンの『沈黙の春』は,農薬などの 化学物質が過剰かつ無計画に使用されることの危険性を 訴えた本として極めて有名である.しかし,案外知られ ていないことだが,カーソンは何もいかなる農薬の使用 も禁止せよと主張してはいない.逆に,冒頭で引用した

『沈黙の春』の一節に明記されていることは,害虫だけ に作用するタイプの化合物を見いだせれば,それを環境 に調和した安全な農薬として使用できるのではないか,

というアイデアである.このアイデアの実現は,同じ 1960年代に昆虫の脱皮と変態を制御する2大ホルモンで ある幼若ホルモンと脱皮ホルモンの化学構造が明らかに されたことで一気に現実味を帯びた.そして,昆虫生理 学の大家Carroll M. Williamsによって,昆虫ホルモンの 作用を撹乱する物質は「第3世代の農薬(third-genera- tion pesticides)」になると提唱された(2).現在は,昆虫

に特有のライフスタイルを撹乱する農薬は「昆虫成長制 御剤(insect growth regulator; IGR)」と呼称されてい

(3〜5)

本稿で筆者は,過去15年間で一気に解明された脱皮 ホルモン(エクジステロイド)生合成にかかわる酵素群 に関する基礎的知見を整理し,これらの酵素群を新たな IGR開発のターゲットとするための現在の最も現実的な 戦略を議論する.実は,筆者は同様の内容を2011年お よ び2012年 に そ れ ぞ れ 和 文 総 説 に お い て 議 論 し た

(6, 7),本稿では2016年現在の知見をアップデートする

とともに,2014年に筆者らが同定した「Noppera-bo」

と呼ばれる新規酵素の機能に焦点を当てたい.

エクジステロイドと昆虫成長制御剤の開発

昆虫の生活環を特徴づける代表的な生命現象は,脱皮 と変態である.外骨格をもつ生物である昆虫は,ほかの 外骨格生物と同様に,体がある程度大きくなると外皮を 脱皮によって脱ぎ捨て,より大きな外骨格を作る過程を 繰り返すことで発育していく.そして,ある発育段階に 達すると,完全変態昆虫であれば幼虫から蛹へ,不完全 変態昆虫であれば成体へと変態する.脱皮や変態の過程 は,数多くの神経ペプチドとホルモンが関与する複雑な 神経内分泌の過程であることが古くから知られてい

(8, 9).長いホルモン研究の歴史の中で,脱皮と変態の

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セミナー室

昆虫の科学-3

昆虫エクジステロイド生合成にかかわる酵素群と 昆虫成長制御剤の開発

丹羽隆介

筑波大学・生命環境系

(2)

タイミングを決めるうえで常に重要視されているのは,

昆虫ステロイドホルモンであるエクジステロイドであ る(10)

エクジステロイドの生合成と生理作用は,節足動物お よび一部の線形動物に限定されており,哺乳動物を含む そのほかの動物種においては認められない.よって,エ クジステロイドの機能を撹乱する作用のある薬剤は,選 択性の高いIGRの有力候補である.実際,1988年に米 国のローム・アンド・ハース社の研究グループが,ジベ ンゾイルヒドラジンに脱皮ホルモン活性があることを報 告し,その後に同定された類縁化合物は農薬として実用 化された(4).また,1991年に活性型エクジステロイド

(20-ヒドロキシエクジソン;20E)の受容体EcRが報告 され,ジベンゾイルヒドラジン化合物がEcRのアンタ ゴニストとして作用することが確認された(4).これ以降 は,EcRおよびその2量体パートナーであるUltraspira- cle(USP)に作用する化合物スクリーニングは,エク ジステロイド機能撹乱型IGR発掘の最も有力な系と認識 されてきた.

一方で,ジベンゾイルヒドラジン化合物を含め,

EcR/USPに作用する既存のIGRの殺虫効果は一部の昆 虫に限定されており,それ以外の害虫に対して有効な IGRとは言えない.こうした状況から,より汎用性の高 いエクジステロイド機能撹乱型IGRの開発を狙うには,

エクジステロイドの受容体機能阻害とは別の側面に注目 した戦略が必要であると議論されてきた.

そこで挙げられるのが,エクジステロイドの生合成を 阻害する戦略である.ただ,1980年代からエクジステ ロイドの受容やシグナリングに関する研究が著しく展開 してきたのと比較して,生合成経路の研究は大きく立ち 遅れ,生合成過程にかかわる酵素群すらも長らく未解明 のままであった.しかし21世紀に入ってから状況は大 きく変化し,エクジステロイド生合成に必須の役割を果 たす酵素群の同定が一気に進んだ(11).こうして同定さ れた酵素群に基づいて,エクジステロイド生合成をター ゲットとする創農薬戦略がようやく現実味を帯びてき た.

エクジステロイドの生合成経路

エクジステロイド生合成にかかわる酵素の詳細に触れ る前に,現在までに明らかにされているエクジステロイ ド生合成経路に触れる.エクジステロイド生合成の出発 材料は,コレステロールあるいは植物ステロールであ る.昆虫はアセチルCoAなど低分子化合物からステロ

イド骨格を合成することができないため,食餌からのス テロール摂取がエクジステロイド生合成にとって必須で ある.図1にまとめた模式図においては,エクジステロ イドの原料としてコレステロールが用いられた場合を示 している.エクジステロイド生合成の第一段階は,(コ レ)ステロールから7-デヒドロコレステロールへの脱水 素化である.次いで,7-デドロコレステロールは,A/B 環のシス型への立体構造の変化,第6位(C6)の炭素鎖 修飾のケト化,C14の水酸化を経て5β-ケトジオールと 呼ばれる中間産物になる.7-デドロコレステロールから 5β-ケトジオールへと至る過程はいまだ中間産物が正確 に同定されていないため,「ブラックボックス」と呼称 されている(12).5β-ケトジオールから活性化型エクジス テロイドである20Eへと至る過程は,4段階の変換ス テップで構成されており,C25, C22, C2,およびC20が 段階的に水酸化される.

幼虫〜蛹期のエクジステロイド生合成過程のうち,最 後のC20の水酸化以外は前胸腺と呼ばれる内分泌器官に おいて生合成される.一方,エクジソンから20Eへの 図1昆虫エクジステロイド生合成経路と生合成に関与する酵 素群

酵素群の名称は緑色の文字で示した.現在までに,生合成経路の 中で中間産物の構造のすべてが正確に同定されていない「ブラッ クボックス」には最低4つの酵素の関与が想定されているが,正 確な触媒段階は特定されていない.Noppera-boはコレステロール の動態調節にかかわることが示唆されているが,中間体の化学変 換にかかわるかどうかは不明である.

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C20水酸化反応だけは,前胸腺ではなく,脂肪体などの 末梢組織で起こる.この20Eが主に体液中を循環してさ まざまな組織に働きかけることで,脱皮および変態が誘 導されると考えられている.

エクジステロイド生合成にかかわる酵素群

1980〜1990年代までに,上述したエクジステロイド 生合成過程の生化学的変換ステップについての多くの部 分が解明された(13).それぞれの変換ステップにかかわ る生合成酵素が初めて報告されたのは2000年であり,

それ以降現在までの約15年間で生合成にかかわる酵素 の解明が一気に進んだ.コレステロールから20Eに至る までの中間体の変換にかかわる酵素として,現在までに 10種類の酵素が判明している.これらのうちのいくつ かの酵素の発見については,「ハロウィーン突然変異株 群」と呼ばれる一連のキイロショウジョウバエの胚性致 死変異株の発見が鍵となった(10).この突然変異株群で は,胚期のエクジステロイド量が野生型に比べて著しく 減少しており,また胚のクチクラ構造がツルツルになる 特徴的な形成不全が見られる.「ツルツルでとらえどこ ろがない」という意味で,「幽霊」や「亡霊」の意味の 名称が付けられたことから,総称して「ハロウィーン突 然変異株群」と呼ばれている.関連して,エクジステロ イド生合成にかかわる酵素をコードする遺伝子は「ハロ ウィーン遺伝子」としばしば呼称されている(10)

ハロウィーン遺伝子のコードする酵素は,その構造に 照らして4つのファミリーに分類される.以下,大まか にエクジステロイド生合成過程にかかわる順序で各タイ プの分子を概説する.

1. ハロウィーンP450

シトクロムP450モノオキシゲナーゼは,基質に一つ の酸素分子を付加する活性をもち,原核生物から真核生 物まで広く存在する酵素ファミリーである(14).脊椎動 物のステロイドホルモン生合成過程と同様,エクジステ ロイド生合成過程にも水酸基の生成など酸素分子付加に よって担われる反応が複数存在し,それぞれのステップ にP450が関与する.最初に報告されたエクジステロイ ド生合成酵素Disembodied (Dib)/CYP302A1を皮切り に,Spook/CYP307A1, Spookier/CYP307A2, CYP6T3,  Phantom/CYP306A1, Shadow/CYP315A1,そしてShade/

CYP314A1の7種類のエクジステロイド生合成P450が 同定されており,しばしば「ハロウィーンP450」と呼

称される(10, 11).酵素名としては,キイロショウジョウ

バエの突然変異株名に基づく名称とともに,P450国際 命名規約に則った「CYP」で始まる名称も用いられる.

現在までに,Phantom/CYP306A1, Disembodied/CY- P302A1, Shadow/CYP315A1お よ びShade/CYP314A1 については,生化学的実験によって内在性基質が決定さ れており,図1に示すような特異的な変換ステップにそ れぞれ必須の役割を果たしている.一方,Spook/CY- P307A1, Spookier/CYP307A2,お よ びCYP6T3の3つ については,「ブラックボックス」内で機能することが 明らかにされているのみで,基質の特定には至っていな い(10, 11)

2.Rieske型酸化酵素Neverland

筆者らは,カイコガのマイクロアレイを用いて前胸腺 で発現の高い遺伝子を探索した結果,P450とは異なる 新規の酸化酵素をコードする遺伝子を同定した.この酵 素遺伝子の機能をRNAiによって抑制したところ,エク ジステロイド生合成が阻害されて幼虫期で発生が停止す る表現型が観察されたことから,「大人になれない」と いう意味で, と命名した(15).Neverlandがも つRieskeドメインは,電子伝達系酵素や一部のステロ イド代謝酵素に見られる特徴的なアミノ酸モチーフとし て知られている.これまでの分子遺伝学的および生化学 的解析から,Neverlandはコレステロールから7-デヒド ロコレステロールの変換を担う活性をもつことが示され ている(16).また,ハロウィーンP450群や後述するその ほかの酵素群をコードする遺伝子が節足動物ゲノムにし か見いだされないのに対して, オーソログは テトラヒメナなどの単細胞生物から脊椎動物(魚類,両 生類,鳥類)にまで見いだされており,生物界を通じて 強い保存性が認められる.実際,これらの広範な生物種 のNeverlandも,コレステロール7,8-デヒドロゲナーゼ 活性を有することが確認されている(11, 17)

3. 短鎖型脱水素・還元酵素Non-molting glossy/Shroud 短鎖型脱水素・還元酵素は,微生物から植物,動物ま で生物界に広く分布し,さまざまな基質を取る多様な酵 素ファミリーとして進化している.本酵素に分類される エクジステロイド生合成酵素Non-molting glossy(Nm- g)/Shroudは,農業生物資源研究所の篠田徹郎博士,東 京大学の嶋田透博士と勝間進博士,および筆者らによる 共同研究によって同定された(18). は,脱 皮異常および体内エクジステロイド量の減少を示すカイ コガの突然変異株 およびショウジョウバエの突然 変異株 の原因遺伝子として別々にクローニング

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され,結果としてオーソログであることが判明した.カ イコガとキイロショウジョウバエを併用した詳細な分子 遺伝学的解析から,Nm-g/Shroudは「ブラックボック ス」内で必須の役割を果たす酵素であることが明らかと なっているが,基質は特定されていない.

4. グルタチオン -転移酵素Noppera-boNobo

( )は2014年に筆者らのグループと フランスのFrançois Payre博士らのグループによって 独立に報告された最も新しいハロウィーン遺伝子であ り,グ ル タ チ オ ン -転 移 酵 素(GST) を コ ー ド す

(19〜21).一般に,GSTはグルタチオンと呼ばれるトリ

ペプチドを基質に抱合させる活性をもち,細胞内の異物 や毒物をグルタチオン化させることで解毒代謝に導く機 能が有名である.しかし,ショウジョウバエとカイコガ の 機能欠損個体の表現型はすべてエクジステロイ ド欠乏で説明ができることから,Noboの生理機能は解 毒代謝ではなくエクジステロイド生合成に特化したもの であると予想される.また,現在までの筆者らの解析か ら,Noboはエクジステロイド生合成過程の中間産物の 触媒にかかわるのではなく,エクジステロイド生合成細 胞におけるコレステロールの取り込みや輸送に関与する ことが強く示唆される(19〜21).Noboの内在性基質はいま だ不明であるが,おそらくNoboはコレステロール動態 調節にかかわる何らかの分子のグルタチオン化を介し て,エクジステロイド生合成器官でのコレステロールの 蓄積や消費を制御するものと考えられる.

2016

年現在,最も現実的な

IGRターゲットはどの

酵素か?

上述した計10種のエクジステロイド生合成酵素は,

従来のIGR開発ターゲットであった核内受容体EcR/

USPとは構造的に大きく異なる.したがって,エクジ ステロイド生合成酵素の活性を阻害あるいは昂進する化 合物を同定することができるならば,従来の研究から同 定された化合物とは全く違ったタイプの新規IGR発見に つながる可能性がある.

ハロウィーンP450群をターゲットとしたIGR探索に ついては,先人によるいくつかの仕事がある.Shade/

CYP314A1をターゲットとしたIGR開発の手法論は,米 国ミネソタ大学のMichael B. OʼConnor博士,そして ノ ー ス カ ロ ラ イ ナ 大 学 のLawrence I. Gilbert博 士 と James T. Warren氏の連名による特許として2003年に 早々に提示された(22).また,ハロウィーンP450群を ターゲットとするIGR探索系の具体的な構築への挑戦と

その後の化合物スクリーニングは,東京大学大学院の片 岡宏誌博士の研究グループによって平成21〜25年度に 農研機構のプロジェクトとして世界で初めて実施され た(23).最終報告概要によれば,カイコガPhantom/CY- P306A1の活性アッセイ系を構築し,376種の化合物を 用いた阻害剤スクリーニングから17種の有力な化合物 を選抜することに成功したという(24).この片岡博士ら の研究は,単に手法論の提案のみにとどまらず,実際に エクジステロイド生合成酵素に焦点を当てたIGR探索の 先駆的挑戦であった.

しかし一方で,ハロウィーンP450群をターゲットと する戦略は,ハイスループットの化合物スクリーニング に供するに当たり2つの問題点がある.一つは,P450組 換えタンパク質の精製と可溶化が容易でなく,筆者らが 知る限り,大腸菌や酵母の組換えタンパク質発現系を利 用したハロウィーンP450の調製法が確立していないこ とである.もう一つは,より重要な問題として,ハロ ウィーンP450群の酵素活性を検出するには基本的には 液体クロマトグラフィーが必要であり,千〜万単位の化 合物を対象とした迅速なスクリーニングの実現の大きな 障害となる.同様の問題はNeverlandとNm-g/Shroud についても言える.

このような中で筆者らは,GSTファミリーに属する 酵素であるNoppera-boが,上述の2つの問題点を解決 し,IGR探索の高速化と大規模化を図るうえで極めて優 れた性質をもつと考えている.なぜなら,GSTには以 下の2つの大きな利点があるからである.

1. 可溶性タンパク質の大量精製が可能である

タンパク質を扱う研究者にはよく知られているとお り,GSTの可溶化組換えタンパク質は大腸菌の発現系 を用いることで容易に大量に得ることができる.また,

GSTの精製は,既製のグルタチオンカラムで効率良く 行うことが可能である.すでに申請者は,ショウジョウ バ エ の 精 製Noboタ ン パ ク 質 を,一般的な市販品を組み合わせたシステムによって安 価に精製できることを報告した(25).また,ショウジョ ウバエのみならず,複数の病害虫由来のNoboタンパク 質の可溶性組換えタンパク質の大量精製にも成功してい る(未発表).

2. 酵素活性を検出する蛍光プローブの利用が可能であ

GSTの 酵 素 活 性 検 出 法 と し て は,こ れ ま で は2,4-  ditrochlorobenzeneを用いた比色法やmonochlorobimane

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を用いた蛍光法が一般的である.しかし,両者とも感度 が低く,阻害剤のスクリーニングなどには利用できない ことが問題であった.このような中で,東京薬科大学の 藤川雄太博士と井上英史博士らが開発した3,4-DNAD- CFは,GSTの存在下でグルタチオン化されると約54倍 もの強蛍光性を有する性質をもち,大規模スクリーニン グに好適な新規蛍光プローブとして注目されている(25)

(図2.筆者は藤川博士らとの共同研究を実施し,組換 えNoboタンパク質が3,4-DNADCFを基質として強蛍光 性化合物へと変換できることを確認した.一連の手法に 関して,藤川博士を中心とした特許を出願済みであ る(26)

この2つの利点を最大限に生かし,384穴プレートを 用いたNoboの酵素活性を蛍光強度として迅速かつ安定 な測定系の確立に成功し,これにより1万種類の化合物 であれば1日のうちにアッセイできるハイスループット スクリーニング系が可能となった.実際,すでに実施し た化合物スクリーニングから,キイロショウジョウバエ Noboの酵素活性を阻害する候補化合物を複数得ること に成功し,その一つはβ-エストラジオール,すなわち哺 乳動物の女性ホルモンであることを報告した(25)β-エス トラジオール自身が農薬として活用される可能性は低い が,今回構築したハイスループット系が候補化合物を同 定するうえで有効であることを示す一つの証左と言え る.

おわりに:Noppera-bo に着目した新規

IGR

開発を 目指して

Noboはエクジステロイド生合成を撹乱するIGR探索 に当たっての好適なターゲットであるが,Noboをター ゲットとすることに懸念点があることも記しておく必要 があるだろう.最大の問題点の一つはNoboの内在性の

グルタチオン化基質がいまだに不明なことであり,得ら れた化合物が本当に内在性基質のグルタチオン化を阻害 するのかを検証する方法はまだないことである.現在,

この問題の解決に向けて,Noboと相互作用するタンパ ク質や低分子の同定を視野に入れた研究を計画してい る.また,当然のことであるが,試験管内反応系では優 れた特性を示す化合物であっても,実際の昆虫に摂食さ せた際に致死的な効果をもたらすかは別問題である.こ れについては地道な検証以外の方法はないが,われわれ のスクリーニング系で得られた化合物のうちで散布や経 口投与でも効果をもつものがどの程度の割合なのか,今 後の検討が必要となる.さらに,現在までのデータベー ス検索では, の明瞭なオーソログはハエ目とチョ ウ目のみにしか見いだされておらず,それ以外の昆虫か ら 遺伝子を得ることができていない(19, 21). の 進化速度が比較的早いことが探索を困難にしていると考 えられ,広範な昆虫種にもNoboと同等の機能をもつ GSTがあるのか,今後の研究が必要である.

このような懸念点があるにせよ,筆者らが開始した Nobo活性に影響を及ぼす化合物のスクリーニングは,

エクジステロイド生合成を撹乱する「第3世代の農薬」

を大規模に探索する世界で初めての現実的な挑戦である ことは間違いない(図3.現在,日本医療研究開発機 構の創薬等支援技術基盤プラットフォームのご厚情をい ただきながら,病害虫由来のNoboの組換え精製タンパ ク質も解析対象に含めて本格的な化合物スクリーニング を開始している.今後,もし有力な候補化合物が得られ た場合には,化合物とNoboとの相互作用様式について の立体構造解析や計算科学的解析を鋭意進めていく必要 がある.すでにこれらの異分野研究者との共同研究体制 を構築しており,筆者の当初の想定をはるかに超えた規 模の大きな学際的研究は極めて刺激的である.同時に,

図2GST酵素活性検出用経口プローブ3,4-DNADCFの模式図 図の素材の提供は,東京薬科大学の藤川雄太博士のご厚意による.

GSTの触媒活性によって3,4-DNADCFに還元型グルタチオン

(GSH)が付加されることで,緑色蛍光を発する化合物へと変換す

る. 図3Noppera-boを標的とした昆虫成長制御剤開発のアイデア

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(6)

さらに有効な化合物シーズを発掘するためには,現在筆 者らが利用している低分子化合物ライブラリーのみなら ず,微生物の二次代謝産物などの天然物由来ライブラ リーを用いたスクリーニングも重要と思われ,今後も視 野を狭めずに多方面の研究者との対話を進めていきた い.将来的に,筆者らの研究から真に適切な化合物が同 定され,基礎科学的にも応用科学的にも有益な成果が得 られるよう今後も微力を尽くしたい.

文献

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プロフィール

丹羽 隆介(Ryusuke NIWA)

<略 歴>1997年 京 都 大 学 理 学 部 卒 業/

2002年同大学大学院理学研究科生物科学 専攻博士後期課程修了/2003年日本学術 振興会特別研究員SPD(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)/2006年ヒューマ ンフロンティアサイエンスプログラム長期 フェロー(イェール大学分子発生細胞生物 学部)/2008年筑波大学大学院生命環境科 学研究科助教/2012年同生命環境系准教 授,科学技術振興機構さきがけ研究者(兼 任),現在に至る.2011年度農芸化学奨励 賞受賞.平成26年度科学技術分野の文部 科学大臣表彰若手科学者賞受賞<研究テー マと抱負>昆虫の発育成長制御の分子メカ ニズムの解明.現在は特にステロイドホル モン生合成の制御機構の研究.昆虫そのも ののおもしろさを引き出しつつ,生物一般 の理解にも通じるメッセージ性のある研究 をしたい<趣味>山歩き,サブカルチャー 鑑賞,痛飲<所属研究室ホームページ>

http://niwa-lab.org

Copyright © 2016 公益社団法人日本農芸化学会 DOI: 10.1271/kagakutoseibutsu.54.508

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