損害保険会社と格付情報
(tentative version)
関西大学 商学部 徳 常 泰 之
[email protected]
©Yasuyuki TOKUTSUNE 1
日本保険学会関西部会 2019年6月8日
目次
1.
はじめに2.
研究背景2-1
先行研究2-2
格付情報取得の状況2-3
再保険3. 仮説
4.
分析モデルと使用データ4-1
分析モデル4-2
使用データ5.
分析結果6.
まとめ1.はじめに
•
金融ビッグバン以降、保険業界を含めた金融業界において規制 緩和が進み、金融機関を取り巻く環境が激変した。その流れの 中で保険会社による情報開示が大きく前進した。また格付情報 を取得する保険会社も増加傾向にあり、格付情報を取得する保 険会社は2017年度に年次報告書などが確認できた73社のうち55社が取得する状況(75.3%)になっている。
•
本報告では損害保険会社による情報開示という視点から、格付 情報の取得について着目し、格付情報の変化が損害保険会社 の業績に与える影響について考察する。©Yasuyuki TOKUTSUNE 3
2.研究背景
2-1 先行研究
Zanjani(2002)
Epermanis & Harrington(2006)
Eling & Schmit(2012)
2.研究背景
2-2 格付情報取得の状況
出所 保険会社各社の年次報告書をもとに作成
©Yasuyuki TOKUTSUNE 5
表2-1 2017年度格付取得状況
格付取得数 会社数 率 生命保険 率 損害保険 率
6 3 4.1% 0 0.0% 3 9.1%
5 6 8.2% 5 12.5% 1 3.0%
4 1 1.4% 1 2.5% 0 0.0%
3 8 11.0% 5 12.5% 3 9.1%
2 19 26.0% 12 30.0% 7 21.2%
1 18 24.7% 11 27.5% 7 21.2%
0 18 24.7% 6 15.0% 12 36.4%
合計
73 100.0% 40 100.0% 33 100.0%
取得社数
55 75.3% 34 85.0% 21 63.6%
2.研究背景
2-2 格付情報取得の状況
出所 保険会社各社の年次報告書をもとに作成
表2-2 格付情報の変化(2005-2017年度)
S&P Moody's AM Best Fitch JCR R&I
UpGrade 32 21 2 7 3 6 6
DownGrade 22 20 3 1 5 3 4
Not Change 179 159 66 93 46 98 60
233 200 71 101 54 107 70
2.研究背景
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表2-3 格付情報の相関
格付取得数
S&P Moody's AM Best
FitchJCR R&I
格付取得数Pearson
の相関係数1 .245
**0.157 .440
**-.302
*.672
**.304
**有意確率 (両側)
0.000 0.175 0.000 0.016 0.000 0.008
度数
459 218 76 113 63 122 75
S&P Pearson
の相関係数.245
**1 .809
**.625
**.529
**.788
**.834
**有意確率 (両側)
0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
度数
218 218 68 109 61 100 66
Moody's Pearson
の相関係数0.157 .809
**1 .701
**.814
**.765
**.831
**有意確率 (両側)
0.175 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
度数
76 68 76 63 37 45 48
AM Best Pearson
の相関係数.440
**.625
**.701
**1 .676
**.867
**.888
**有意確率 (両側)
0.000 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
度数
113 109 63 113 49 66 57
Fitch Pearson
の相関係数-.302
*.529
**.814
**.676
**1 .520
**.658
**有意確率 (両側)
0.016 0.000 0.000 0.000 0.002 0.000
度数
63 61 37 49 63 34 30
JCR Pearson
の相関係数.672
**.788
**.765
**.867
**.520
**1 .935
**有意確率 (両側)
0.000 0.000 0.000 0.000 0.002 0.000
度数
122 100 45 66 34 122 60
R&I Pearson
の相関係数.304
**.834
**.831
**.888
**.658
**.935
**1
有意確率 (両側)0.008 0.000 0.000 0.000 0.000 0.000
度数
75 66 48 57 30 60 75
**.
相関係数は1%
水準で有意(
両側)
です。*.
相関係数は5%
水準で有意(
両側)
です。2.研究背景
2-2 格付情報取得の状況
記述統計量:格付情報 記述統計量:格付情報 記述統計量:格付情報 記述統計量:格付情報
AAA:10、AA+:9、 AA:8、 AA-:7、 A+:6、 A:5、 A-:4、
BBB+:3、BBB:2、BBB-:1
度数 最小値 最大値 平均値 標準偏差 分散 格付取得数
464 0 6 1.41 1.791 3.209
S&P 218 3 9 5.81 1.316 1.732
Moody's 76 3 8 6.34 1.027 1.055
AM Best 113 6 10 8.67 0.871 0.758
Fitch 63 4 9 6.38 1.275 1.627
JCR 122 3 10 7.59 1.927 3.715
R&I 75 3 9 7.19 1.633 2.667
2.研究背景
2-3 再保険
•
再保険は一般の契約者を対象にした元受保険契約を保有して いる保険会社がその契約の一部または全部を他の保険会社に 転嫁する仕組み。再保険は保険の保険とも言われている。•
再保険の機能①事業成績の安定機能
②異常損害に対する防御機能
③引き受け能力の補完機能
•
再保険契約の原則①再保険契約の独立性
②最大善意と運命共同体になる
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2.研究背景
2-3 再保険
•
再保険にはこのような特徴があるため、保険会社は出再先を選 定するに際しては、一定の条件を設けている。•
保険会社各社が公開している年次報告書によると、出再してい る保険会社は出再先としてA以上の格付情報を取得しているこ とを重視している。2.研究背景
出再の方針について
当社は、リスクを十分に分析し、保険引受利益への影響、リスク と資本の状況、世界の再保険市場の動向などを考慮して最適な再 保険手配を行い、リスクと収益の適切な均衡を図っています。また
、毎年の保有・出再方針については経営陣が協議して決定してい ます。
出再先の選定にあたっては、再保険会社の倒産により再保険金 が回収不能とならないよう、外部格付機関による格付なども参考 に社内格付を定め、出再先の信用力を審査しています。さらに社 内格付に応じて、出再先ごとの出再上限ラインを設定することで再 保険金の回収不能リスクを低減し、特定の再保険会社に出再が過 度に集中することのないように出再先の選定を行っています。
出所 損害保険ジャパン日本興亜の現状2018 p.51
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2.研究背景
出所 損害保険ジャパン日本興亜の現状2018 p.99
2.研究背景
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出所 損害保険ジャパン日本興亜の現状2018 p.100
2.研究背景
2.研究背景
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2.研究背景
2.研究背景
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3. 仮説
保険契約の引受先である保険会社の財務内容は格付情報に示さ れている。
特に、保険会社同士の取引となる再保険では、保険以外の契約 者を対象とする元受保険契約と比較して「情報の偏在」が生じる可 能性が低いと考えられる。そのため、格付情報が受再保険料に反 映されているのではないかと考えられる。
また、格付情報の状態は責任準備金を通じて、受再保険会社を含 めた契約者全体の状況が反映されているのではないかと考えられ る。
4. 分析モデルと使用データ
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4-1 分析モデル
LR = α + β 0 Asset i,t + β 1 NPW i,t + β 2 S&P i,t + β 3 Raiting i,t + β 4 CR i,t + β 5 Japanese i,t +e i,t
*被説明変数として、LR、LRchange、RNP、RNPchangeの4つのモ デルの分析を行った。
*AssetとNPWは相関係数が高く(.933)、多重共線性を回避するた め分けて分析を行った。
4. 分析モデルと使用データ
4-2
使用データ本研究で使用するデータは、損害保険会社各社が発行する年次 報告書より取得した。
格付情報については、格付会社が公開しているデータを併用し た。
分析対象期間は2005年度から2017年度までの期間。
4. 分析モデルと使用データ
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4-2
使用データ責任準備金Ln(LR):保険契約を確実に履行するため、将来の保 険金などの支払いに備えて、積み立てておく資金の対数値。既契 約と新規契約の双方を含む。元受保険契約と再保険契約を含む。
責任準備金変化率
(LRchange)
:責任準備金の対前年変化率。受再保険料Ln (RNP):再保険として契約を引き受ける際に受け取 る保険料の対数値。既契約と新規契約の双方を含む。再保険契 約のみ。
受再保険料変化率
(RNPchange)
:受再保険料の対前年変化率。4. 分析モデルと使用データ
4-2
使用データ総資産Ln (Asset):損害保険会社の資産規模を示した変数。総資 産額の自然対数値を使用。
正味収入保険料
(NPW)
:契約者から受け取った保険料から、再 保険に要した保険料等を加減した金額。正味収入保険料の自然 対数値を使用。S&P格付情報の変化 (S&P)
:S&P社の格付が上昇したか(1)、下落 したか(-1)、変化しなかったか(0)を示した変数。格付情報取得数
(Rating)
:S&P社を含めた格付情報を取得してい る会社の数を示した変数。0から6の間の数値を取る。4. 分析モデルと使用データ
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4-2
使用データコンバインド・レシオ
(CR)
:損害保険会社の収支状況を見る指標 の一つ。損害率と事業費率を合算した変数。日本の保険会社
(Japanese)
:内国系の損害保険会社であるかど うかを示した変数。5.分析結果
LR LRchange
説明変数 (1) (2) (3) (4)
Asset 1.168
***- 0.050
*-
(66.988) - 1.764 -
NPW - 0.912
***- 0.027
- (34.077) - (1.151)
S&P 0.010 0.150 -0.043 -0.044
(0.209) (1.592) (-0.537) (-0.533) Rating -0.102
***0.178
***-0.078
**-0.056
*(-4.931) (5.262) (-2.340) (-1.887)
CR 0.001
**-0.001
*0.000 3.162E-6
(2.323) (-1.871) (0.299) (0.005) Japanese 0.105 1.204
***-0.109 -0.033
(1.322) (9.002) (-0.851) (-0.282)
定数 -2.746
***0.044 0.732
***0.937
***(-18.860) (0.203) (3.108) (4.962)
Adj.R2 0.986 0.951 0.005 -0.006
N 200 199 200 199
5.分析結果
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RNP RNPchange
説明変数 (5) (6) (7) (8)
Asset 0.747
***- 1.127 -
(10.933) - (0.641) -
NPW - 0.420
***- 1.514
- (6.370) - (1.036)
S&P 0.325
*0.400
*-0.290 -0.230
(1.638) (1.712) (-0.055) (-0.043) Rating 0.390
***0.699
***-2.287 -2.581 (4.806) (8.312) (-1.084) (-1.371)
CR -.003
***-0.004
**-0.005 -0.011
(-2.902) (-2.267) (-0.177) (-0.315) Japanese -0.420 0.615
*-21.163
**-21.778
***(-1.276) (1.735) (-2.460) (-2.728)
定数 -0.524 2.373
***14.847 13.846
(-0.905) (4.426) (0.996) (1.163)
Adj.R2 0.754 0.668 0.017 0.020
N 189 188 188 187
(注)カッコ内はt値であり、
*、**、***はそれぞれ10%、5%、1%の有意水準を示す。
6. まとめ
LR、RNPを被説明変数としたモデル Assetを用いたモデル (1)、(5)
NPWを用いたモデル (2)、(6)
LRchqnge、RNPchangeを被説明変数としたモデル Assetを用いたモデル (3)、(7)
NPWを用いたモデル (4)、(8)
引用・参考文献一覧
• 植村信保(2009) 「保険会社経営の健全性の確保について」『保険学雑誌』 日本保険学会 第604号 2009年3月
• 江澤雅彦(2001) 『生命保険会社による情報開示』成文堂
• 岡田太志(2006) 『保険問題の諸相』千倉書房
• 大塚忠義(2014) 『生命保険業の健全経営戦略』日本評論社
• 永田邦和(2011) 「日本の生命保険市場の市場規律」『生命保険論集』 財団法人生命保険文化センター 175号 pp.89-110。
• 永田邦和(2012) 「何が生命保険市場の市場規律に影響しているのか」『生活経済学研究』 生活経済学会 Vol.36 pp.19-32。
• 松浦克己・白石小百合(2004) 「生命保険会社破綻と家計・保険契約者の選択-保険契約者は何に注目して生保会社を選べば よいか、あるいは会社の何に注目しているのか」『資産選択と日本経済』東洋経済新報社 pp.231-267。
• Eling M (2012), “What Do We Know About Market Discipline In Insurance?”,Risk Management and Insurance Review, American Risk and Insurance Association, Vol.15, No.2., pp.185-223.
• Eling, Martin and Schmit,Joan.T.(2012) “Is There Market Discipline in the European Insurance Industry? An Analysis of the German Insurance Market” The Geneva Risk and Insurance Review, 37, pp.180–207.
• Epermanis, Karen, and Harrington, Scott E. (2006), “Market Discipline in Property/Casualty Insurance: Evidence from Premium Growth Surrounding Changes in Financial Strength Ratings,” Journal of Risk, Credit, and Banking, 38, pp.1515-1544.
• Harrington, Scott E. (2004), “Market Discipline in Insurance and Reinsurance”, in Borio,C. et al. eds. Market Discipline Across Countries and IndustriesThe MIT Press.
• Park, Sojung Carol, and Tokutsune, Yasuyuki (2013), “Do Japanese Policyholders Care About Insurers' Credit Quality?”, The Geneva Papers on Risk and Insurance Issues and Practice38, pp.1-21.
• Zanjani, George (2002), “Market Discipline and Government Guarantees in Life Insurance”, Unpublished Working Paper, Federal Reserve Bank of New York.
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