韓国における保険会社の情報公開と格付け
李 洪 茂
■アブストラクト
韓国における保険消費者に対する情報公開は,監督のための情報と消費者 のための情報を区分して行われている。この中で,損害保険協会と生命保険 協会による保険商品の比較公示によって,各社が部分的な比較を行うときの 問題点を解決している。また,銀行の過当な募集手数料の引き上げを抑制す るため,銀行の募集手数料率が比較公示されている。さらに,韓国の保険業 界を含む金融業界は, 休眠口座統合照会 と 金融取引照会サービス に よって,保険金を含む金融商品全般の請求漏れの一括的な防止に努めている。
この韓国における情報公開と格付けをめぐる動きは,ソールベンシーマージ ン比率を中心にして保険会社の情報公開が行われている日本に示唆するとこ ろが大きい。
■キーワード
情報公開,保険金請求漏れ,比較情報
Ⅰ.問題の所在
日本では,近年,生命保険会社7社・損害保険会社2社が破たんし,保険 会社の破たん処理で保険金額の削減が行われた 。さらに,生命保険と損害 保険各社の保険金不払い・未払いが多発しことによって,保険会社の信頼性
/平成19年12月25日原稿受領。
1) 拙 稿 保 険 会 社 の 破 た ん と 契 約 者 保 護 新 保 険 論 成 文 堂,2003年,
pp.71‑89。
は大きく損なわれた 。
一方,これまでの保険会社の情報公開と格付けは,保険会社の財務能力に 焦点が合わせられており,保険会社の破たん可能性が問題となっている。し かし,保険会社の信頼性は,破たん可能性のみならず,商品とサービスの内 容などにも深く関係している。したがって,保険消費者の立場からの保険会 社の情報公開と格付けは,保険会社の財務能力のみならず,保険商品・サー ビスなどを包括するものであることが求められている。本稿では,韓国にお ける保険会社の情報公開と格付けを検討し,日本における保険会社の情報公 開と格付けのあり方に対する示唆を探ることとする。
Ⅱ.情報公開制度
韓国における保険業法による保険会社の情報公開制度は , 公示制度 と称される。
1.経営公示
各保険会社の経営内容に関する 経営公示 の具体的な内容は,保険業法 第124条①項に基づいて,生命保険協会と損害保険協会が定めた 経営統一 公示基準(1999年5月15日施行,2007年6月25日改正) に規定されている。
経営公示には,定期公示と随時公示があり,定期公示は決算日から3か月内 に,随時公示はその事由が発生した時に,遅滞なく行われる。
定期公示では,保険会社の現況,経営実績,財務状況,危険管理,その他 経営事項,財務諸表などが公示される。随時公示では,財務の健全性に関す
2) 生命保険の不適切な不払い,損保各社の付随的な保険金の支払い漏れ,第三 分野保険にかかる不適切な不払いなどがある。
3) 1991年1月に 保険商品公示 が設けられ,1998年11月には, 経営公示 が導入され,2003年11月には, 保険商品の比較公示 が導入された。さらに,
2003年3月には銀行などの金融機関代理店の 募集手数料率公示 が導入され た。上場会社に対しては,証券取引法による公示制度がある。
る金融監督委員会の措置(保険業法第123条)・業務などに関する金融監督委 員会の是正命令または行政処分(保険業法第131条,第134条)・ 金融産業の 構造改善に関する法律 の適用を受けた場合,金融監督委員会による保険金 支払いの停止などの行政処分(保険監督規定第7‑43条)が行われた場合,直 前四半期末の支払余力の5%を超える金額の不良債権が発生した場合,不祥 事によって直前四半期末の支払余力の1%を超える金額の損失が発生した場 合などに,その内容が公示される。
2.保険商品公示
損害保険協会が制定した 損害保険商品公示基準(2001年1月1日施行,
2007年4月1日改正) における公示の内容は,表1の通りである。
表1 損害保険商品の公示
区 分 項 目
インターネッ ト公示
商品要約書,加入設計書,事業方法書,保険約款,金利変 動型保険の適用利率およびその算出方法,年金貯蓄保険お よび退職保険・退職年金の実績,契約者配当,その他 加入設計書,商品設計書,保険契約申込書の写本および保 険約款,退職年金および実績配当保険の運用説明書,保険 証券,保険契約の管理内容
交付および 説明
閲 覧 基礎書類(事業方法書,保険約款,保険料および責任準備 金算出方法書),退職年金および実績配当保険(資産明細書,
基準価格台帳,財務諸表およびその付属明細書,有価証券 などの取引明細書)
(出典) 損害保険商品公示基準 の別表
加入設計書 および商品説明書 は,団体保険および団体扱い特約が添付 される保険,保証保険,保障性保険の中の企業向け保険,保険期間が3カ月 以内の保険およびすでに加入している保険契約と同一の担保条件で更新され る保険契約,またはすでに加入している保険契約よりも保障範囲を拡張する 保険契約には適用されない。
加入設計書は,保険契約の勧誘の際に,保険会社によって保険契約見込み 客に提供され,その重要内容が説明される。また,商品説明書は,保険契約 の申し込みの際に2部作成され,保険会社は,募集人が署名した後に保険契 約者に1部を交付し,説明を受けたという保険契約者の署名がある他の1部 は保険会社に保管される。
退職年金および実績配当保険の運用説明書は,保険契約者が当該保険の申 し込みをしたときに提供され,その重要内容の説明が行われる。また,事業 年度末を基準に,1年以上経過した契約に対して,保険契約の管理内容に関 する情報が年1回以上保険契約者に提供されるが,退職年金および実績配当 保険の場合は,半期別に1回以上提供される。金利連動型保険の場合は,適 用利率およびその算出方法が公開され,年金貯蓄損害保険契約および退職保 険契約 の場合は,毎月末の特別勘定別の資産・負債の内容,配当などの実 績が公開される。
生命保険協会が制定した 生命保険商品統一公示基準(2001年5月24日施 行,2007年4月1日改正) (第4条)に規定される公示資料は,商品説明書,
商品要約書,加入設計書,変額保険の運用説明書,保険契約の管理内容であ
4) 加入設計書の項目は,保険加入条件・保険料および解約返戻金・保障内容お よび保険金である。
5) 商品説明書の項目は,加入者の制限など商品別の特異事項・保険金支払い事 由・支払金額および支払い制限・保険料の例示・保険料算出基礎・契約者配当 に関する事項・解約返戻金に関する事項である。
6) 勤労基準法第34条による法定退職金を用意するための保険であるが,2005年 12月に退職年金制度が導入されたことによって,2010年12月31日までに廃止さ れる。
る。商品説明書 は,損害保険と同様に,保険契約の申し込みの際に2部が 作成される。商品要約書 は,インターネットを通じて公開される。加入設 計書は,保険契約を勧誘する際に,見込み客に提供され,変額保険の運用説 明書は,変額保険の申し込みの際に,保険契約申込者に対して提供される 。 保険契約の管理内容は,事業年度末を基準にして,契約時点から1年以上経 過した契約者に対して,年1回以上(変額保険は半期に1回以上)提供され る 。さらに, インターネット公示資料室作成指針 には,商品目録及び 基礎書類の公開方法も規定されている。
3.保険商品比較公示
保険商品比較公示とは,損害保険協会と生命保険協会によって,保険会社 別・保険種類別の保障内容・保険料・解約返戻金・予定利率・予定事業費指 数が比較公示されるものである 。予定事業費指数とは,損害保険業界の平 均事業費を100として,各商品の予定事業費と損害保険業界の平均事業費を
7) 商品説明書の項目は,保険契約の概要,保険加入者の権利・義務,保険契約 の主な保障内容,保険金支払いに関する注意事項,保険契約に関連する注意事 項,その他の消費者保護に関する事項である。
8) 商品要約書の項目は,加入制限などの商品別の特異事項,保険金支払い事 由・支払い額および支払い制限に関する事項,保険料の分析表の例示,保険料 算出基礎,契約者配当に関する事項,解約返戻金に関する事項である。
9) 加入設計書の項目は,保険加入条件,保険料および解約返戻金,保障内容お よび保険金である。変額保険の運用説明書の項目は,変額保険の加入時の注意 事項,変額保険の概要および商品構造,変額保険の特別勘定別資産の運用およ び評価,報酬および手数料,最近3年間における変額保険の運用実績である。
10) 保険契約の管理内容は,保険契約者と被保険者の氏名・性別・変動内容,保 険会社の社名・本店または店舗の住所と電話番号,保険契約に関する事項,保 険料納付に関する事項,契約者配当に関する事項,保険契約者に対する貸付金 額および貸付利率に関する変動事項,金利連動型保険の直前年度に適用した利 率の変動状況である。
11) 保険業法第124条②,保険業法施行令第67条②項,保険監督規定第7‑46条に 基づくものである。
比較した指数である。
損害保険商品の比較・公示細部基準(2003年10月29日施行,2007年4月 26日改正) が,損害保険協会によって,制定された。比較公示の対象とな る商品は,損害保険会社が販売する保険商品であるが,団体保険,自動車保 険を除く保障性の損害保険および特定の加入団体と提携して販売される保険 商品は除かれ,主に自動車保険と貯蓄性保険がその対象となる。比較公示の 内容は,商品名・支払い基準および解約返戻金・予定利率(変動金利の場合 は適用利率)・契約者配当金の算出基準・契約者配当率・契約者配当準備金の 付利率・その他必要な事項である。年金貯蓄損害保険契約および退職保険契 約の場合は,毎月末の特別勘定別の資産・負債の金額および資産の構成,直 前3年間の予定利率および直前3年間の利差配当率が比較公示される。また,
実績配当型退職年金の場合は,上記に加えて,毎月末の特別勘定別の資産・
負債の金額および資産の構成,毎日の特別勘定別の資産の基準価格および収 益率,運用に関する報酬および手数料,運用説明書などが,損害保険協会の ホームページに比較公示される。
生命保険については, 生命保険商品比較公示基準(2003年10月27日施行,
2007年7月11日改正) が,生命保険協会によって,制定された。保険種類 別・保険会社別に,生命保険協会のホームページに比較公示される(第7条)
が,団体保険と特定の加入団体と提携して販売される保険商品は除かれる。
比較公示の項目は,商品名,支払い条件および保障内容,予定利率,保険料 および解約返戻金,契約者配当金の算出基準・契約者配当率・契約者配当準 備金の付利率,その他必要な事項である。変額保険については,毎月末の特 別勘定別の資産・負債の金額および資産の構成,毎日の特別勘定別の資産の 基準価格および収益率,運用に関する報酬および手数料,変額保険の運用説 明書が比較公示される。また,退職年金契約の場合は,積立金の金額および 運用収益率,使用者または加入者に提供した運用方法および収益率が比較公 示される。
4.窓販の募集手数料率公示
銀行窓販 の実施の際,銀行なとは保険会社に対して不当に高額の募集手 数料を要求する可能性があると主張され,窓販の弊害防止対策の一つとして,
金融機関代理店の募集手数料率公示が,2003年12月8日から実施された。保 険会社が金融機関保険代理店に支払う募集手数料率は,保険種類別に,生命 保険協会・損害保険協会,保険会社によって,金融機関代理店別に比較公示 され,金融機関代理店の窓口およびホームページで,保険会社別に比較公示 されている。
募集手数料とは,保険会社が保険料支払い期間の間に金融機関保険代理店 に支払う手数料の総額であり,新契約募集手数料と維持管理の際に支払われ る手数料の合計である。しかし,販売高に比例して支払われる実績別の手数 料と利益手数料は,その金額が不確定であり,商品別に配分することが困難 であるため,予定新契約費の10%以内のときは注記し,10%を超えるときは 支払基準が公示される。また,募集手数料率は,当保険料に対する募集手数 料の百分率であり,小数点以下2桁まで示される。保険契約は保険期間の間 に維持されることと仮定し,当該年度の予定利率を使用した保険料および募 集手数料の現在価値が算出され,それを基準に計算される。
5.休眠口座統合照会
休眠口座とは,銀行・保険会社・郵便局が保有している預金・保険金など が,関連法律の規定によって,請求権の時効が成立したものである。銀行預 金は5年,保険金は2年または3年で時効が成立し,その請求権が消滅する 。
12) 2003年9月から段階的に実施されている窓販(バンカシュランスと称され る)は,金融機関の店舗内に制限され(保険業法91条第3項,施行令40条第3 項),募集人は一店舗当たり2人に制限される(保険業法91条第3項,施行令 40条第4項)。また,金融機関は,毎事業年度別の新契約を基準にして,一つ の保険会社の商品を25%を超えて販売することができない(保険業法91条第3 項,施行令40条第5項)。
13) 民法766条における損害賠償請求権の時効は3年,商法662条における保険金
金融監督院によれば,2007年3月末現在,休眠口座の残高は,銀行3,800 億ウォン,生命保険3,600億ウォン,損害保険650億ウォンで,合計8千億ウ ォンを超えた。銀行などは,この時効が成立した預金などを雑利益に計上す ることによって,莫大な利益を得ている,と非難された。
このようなことを背景に,全国銀行連合会,生命保険協会・損害保険協会 は,インターネットまたは窓口で,会員会社の休眠口座を一括して照会する 休眠口座統合照会 を受け付けている。また,相続人が,被相続人の預金
・貸付などを一括して照会できる 金融取引照会サービス が1996年8月3 日から実施されている。相続人などが,金融監督院・国民銀行・三星生命の 各支店などで,申し込みをすれば,被相続人の預金・貸付・保証・証券口座・
保険契約・クレジットカードなどの残高が一括して依頼人に通知されるもの である。これによって,満期返戻金・死亡保険金などの保険金を含む金融商 品全般の請求漏れの防止が一括的に図られている。
一方,自動車保険と医療保険の保険金未払いが問題となっており,公正取 引委員会は,2007年11月22日に損害保険会社に対して,保険金未払いを理由 に,21億9,300万ウォンの課徴金を賦課した。この保険金未払いについて,
金融監督院が是正命令を出していたため,監督権をめぐる意見の対立がある が,金融監督院による保険会社の処分は行われなかった。
Ⅲ.経営実態評価
既存の銀行監督院・証券監督院・保険監督院及び信用管理基金の4つの監 督機構を統合した 金融監督院 が,1999年1月に設立された。この金融監 督院は,金融監督委員会の指揮・監督の下で,銀行・証券・保険及びノンバン クなどに対する検査業務などを担当しており,早期是正措置 を行っている。
請求権の時効は2年,自賠法第33条における保険金請求権の時効は3年,預金 者保護法第31条⑦項における預金者等の請求権は5年と規定されている。
14) 支払余力比率50%以上100%未満・経営実態評価3等級(普通)以上で,支 払余力または健全性の等級が4等級(脆弱)以下の場合は,第一段階の経営改 善勧告が行われる。支払余力比率0%以上50%未満・経営実態評価4等級(脆
金融監督院の保険会社の格付け制度として,経営実態評価制度がある。
経営実態評価制度は,保険会社の財務の健全性を評価することを目的として,
設立から2年以上経過した保険会社に対する財務能力の絶対評価による格付 け制度であるが,その格付けは金融監督院の保険会社に対する監督・検査お よび早期是正措置に利用される 。しかし,経営実態評価の結果は,日本に おけるソルベンシーマージン比率が1997年度末から公開されている ことと は異なり,市場の混乱を招くなどの理由で公開されていない。
こ の 経 営 実 態 評 価 は,連 邦 準 備 制 度(FRB),連 邦 預 金 保 険 公 社
(FDIC)などのアメリカの銀行監督機関が,金融機関の財務状態に関する 統一的な評価のために,1978年から導入して使用している 金融機関統一評 価 制 度(Uniform Financial Institutions Rating System;UNIRS) を 保険事業に合わせて修正したものであり ,その項目とその加重値は,表2 の通りである。
弱)以下の場合は,第二段階の経営改善要求が行われる。 金融産業の構造改 善に関する法律 に定められた 不実金融機関 に該当する場合で支払余力比 率0%未満の場合は,第三段階の経営改善命令が出される。
15) 経営実態評価の根拠は,保険業法第123条(財務健全性の維持),保険業法施 行令第66条(財務健全性の評価の実施),保険業監督規定第7‑14条(経営実態 評価)である。
16) 江澤雅彦 保険会社によるディスクロージャ制度 保険論 成文堂,2007 年,pp.145‑147。
17) 資本の適正性(Capital Adequacy),資産の健全性(Asset Quality),経営 能 力(M anagement Administration),収 益 性(Earning),流 動 性(Li- quidity)を意味する ʻCAMELʼ方式として称されている。
生命保険
表2 経営実態評価
損害保険
評価部門 評価項目 加重値 評価部門 評価項目 加重値 20 支払余力Ⅰ
20
支払余力Ⅰ 支払余力
支払余力
支払余力Ⅱ 10 支払余力Ⅱ 10
小 計 30 小 計 30
5 不良債権比率
6.67
不良債権比率 資産の健
全性 資産の健
全性
危険加重資産比率 6.67 危険加重資産比率 5
貸し倒れ引当金積 5 6.67 立率
貸し倒れ引当金積 立率
小 計 20 小 計 15
‑ 損
害 率 6.67
平均予定利率対総 資産収益率
収益性
収益性 一般損害保険
自動車保険 ‑
‑ 長期保険
小 計 8.33
純事業費率 8.33 危険保険料対死亡 6.67
保険金比率 予定事業費対実際
の総事業費比率 6.67 運用資産収益率
8.33
25 小 計
20 小 計
流動性 流動性比率 7.5 流動性 流動性比率 7.5 7.5 収支差比率
7.5 収支差比率
小 計 15 小 計 15
15
‑ 15
‑ 経営管理
経営管理
合 計 ‑ 100 合 計 ‑ 100
表2で示したように,支払余力・資産の健全性・収益性・流動性・経営管 理の5部門の各項目に対して5点満点で評価し,それに項目別の加重値を乗 じた点数を求めて合計する。この項目別の合計点を加重値で割って部門別評 価点を算出する。部門別評価点別の評価等級は,表3の通りである。
この部門別評価点に部門別の加重値を乗じて,その合計を100で割ること によって,全体の部門別評価点の加重平均を算出する。この加重平均などを 総合して5段階の経営実態評価の等級が決定される。損害保険会社と生命保 険会社の部門別評価点の加重値とその項目は,生損保の特性を考慮して,資 産の健全性・収益性の部門で異なる。
経営実態評価の等級の内容は,表4の通りである。
評価 等級
表3 部門別評価点別の評価等級
部門別
評価点 2.5〜3.4 4.5〜5.0
3等級 4等級 5等級
3.5〜4.4 1.0〜1.4
1等級 2等級
1.5〜2.4
経営実態評価における支払余力の評価は,支払余力の算入項目を異にした 2種類で行われる。支払余力比率Ⅰの算入項目には劣後借入金・貸し倒れ引 当金などがある。劣後借入金は,その借入期間が長期であり,清算の際に通 常の債務に比べて劣後するため,資本的な性格が強いとされているが,支払 余力比率Ⅱではこれらの項目が除外される。劣後借入金は,その金利が通常 の借入金よりも高いため,保険会社の利息費用を増加させ,財務構造を悪化 させる恐れがあるためである。また,貸し倒れ引当金は,貸し倒れの際の損 失の補てんのために必要な引当金であるためである。支払余力比率Ⅱの算式 は,次の通りである。
支払余力比率Ⅱ = (修正支払余力金額╱支払余力基準額)× 100 修正支払余力金額 = 支払余力比率Ⅰの支払余力金額 − 劣後借入金
− 支払余力比率Ⅰの算出の際に算入した貸し倒れ引当金 支払余力比率の内容は,表5の通りである。
表4 経営実態評価の等級
評価等級 内 容
経営全般にわたって健全な経営が行われており,通常の監督が必要 な状態。
1等級
2等級 経営は健全であるが,解決可能な若干の問題点がある。会社経営に 対する通常の水準以上の監督上の注意が必要。
財務状態,業務遂行および法規の遵守の面において多くの問題点が ある。問題点の是正のための通常の水準以上の監督上の注意が必要。
3等級
4等級 財務状態が脆弱であるか経営上の深刻な問題点が多く露呈されてい る。監督当局の細心の注意が必要であり,財務状態に対する監視お よび是正措置のための明確な計画が要求される。
破たんが差し迫っているかその可能性が高い。緊急の資金支援のよ うな措置がない限り,契約移転・清算・売却・合併などの措置が要 求される。
5等級
表5 支払余力比率の内容
区分 内 容
支払余力比率 = (支払余力金額╱支払余力基準額)× 100 算式
払余力
=①−②±③
合計項目
資本金,資本剰余金,利益剰余金,資本調整,貸し倒れ引 当金,劣後借入金(自己資本の50%まで),契約者利益配 当準備金,契約者配当安定化準備金(生命保険のみに適 用),配当保険の損失補てん準備金(生命保険のみ),純保 険料式の責任準備金から未償却新契約費を控除した金額を 超える保険料積立金(生命保険のみ),非常危険準備金
(損害保険のみ),貯蓄性保険料の中で解約の際に払い戻さ れる金額を超えた積立金(損害保険のみ),契約者持分の 売却可能な証券評価利益および持分の投資株式評価損益
(生命保険のみ) 差引項目
未償却新契約費,営業権,前払費用,繰延法人税差額,支 払が予定されている現金配当,持分の株式の簿価を超える 金額
③子会社の資本過不足
(出典) 保険監督規定 から抜粋して作成 損
害 保 険
○自動車保険,火災保険などの保険期間が1年以内の短期保険
①=保有保険料×17.8%,または発生損害金額×25.2%の中で 大きい金額
○予定利率を適用する保険期間が1年超の長期保険
②次のaまたbの中で大きい金額+責任準備金の4%
a. 保有危険保険料×17.8%
b. 発生損害金額×25.2%
支払余力 基準額=
①+② 支払余力 基準額=
①+②
①=(純保険料式責任準備金−解約返戻金)×責任準備金危険 係数(4%)
②=危険保険金×保険危険係数
危険保険金=(一般商品の保険金額 − 責任準備金)+金利 連動型商品の死亡保険金額(責任準備金を除く)
・保険危険係数=危険保険料╱保険加入金額×∑{危険別保険 金支払率×危険別保険金占有率×危険別自己負担率}
生 命 保 険
支払余力基準額とは,資産運用リスクと保険リスクを合計した金額であり,
責任準備金の4%が資産運用リスク(市場リスク,信用リスク)を考慮した ものであり,危険保険金に対する保険危険係数・保険料または損害金額に対 する一定の比率が,保険リスクを考慮したものである。また,非計量評価項 目は,上・中・下に評価される。非計量評価項目とは,理事会および経営陣 の危険認識・測定・監視・統制能力,支払余力の変動要因の適正性,支払余 力の改善可能性,支払余力の維持の妥当性,その他重要な事項である。
この経営実態評価制度は,1985年から実施されてきた 総合経営評価制 度 に,支払余力などを追加して,1998年12月に導入されたものである。生 命保険会社は,1991年4月から,年度別に一定額以上の担保力 の維持が求 められていた 。ここでの担保力とは資産と負債の差額である純資産額を意 味しており,この基準を達成できない保険会社は,契約者配当率を独自に決 定することができないというものであった。1999年5月に
EU
型の支払余力 制度が導入されたが,このEU
型の支払余力制度は,当時の状況で生命保険 会社に厳しいものであったために,2004年3月末までに段階的に達成するよ うにした。経営実態評価制度による監督は,1985年からその原型が導入され ており,1997年末の金融危機の際に生命保険会社14社が破たんしたことでみ られるように,失敗してきたといえる 。また,RBC(Risk Based Capi-tal
)基準による支払余力の評価は行われていないが,金融監督院は,RBC 基準による支払余力の評価が行われた場合,生命保険会社の現在の支払余力 比率が最大限75%まで下がるとしている。
18) 責任準備金を超える一定額の総資産額を保有することが段階的に要求された。
1991年30億ウォン,1992年50億ウォン,1993年100億ウォンであった。
19) 1991年4月からは 担保力確保基準 ,1994年6月からは 生命保険会社の 支払能力に関する規定 によって,規制された。1996年2月からは,責任準備 金の1%以上の支払余力を維持することが求められた。
20) 拙稿 韓国における生命保険会社の破たん処理 生命保険論集 第146号,
生命保険文化センター,2004年3月22日。
Ⅳ.リスク評価制度
経営実態評価は,支払余力以外の収益性・流動性・資産の健全性・経営管
理が70
%の割合で評価されるのものである。従って,経営実態評価は,必ず
しも保険会社が保有するリスクに見合う余裕資金の量を基準にした評価であ るとはいえず,リスクの評価が不十分であると指摘された。この経営実態評 価制度の問題点に対応するため,保険会社のリスク評価制度(Risk Assess-
ment and Application System)が2007年4月から実施された。リスク評
価制度は,保険会社の経営におけるリスクを評価するものであるが,監督・検査業務に活用される。金融監督院は,将来的には保険会社の監督体系を,
リスク基準自己資本制度(Risk Based Capital),リスク評価制度,リスク 公示による市場規制の三本柱にするとしている 。リスク評価制度によって,
設立3年以上の保険会社は,四半期別に評価される。このリスク評価制度は,
当分の間に経営実態評価と並行して実施されるが,将来的に経営実態評価を リスク評価制度に一元化するとしている。
2006年6月末を基準にした試験運営の結果は,次の通りである 。生命保 険会社のリスクは,金利リスク(60
%),信用リスク(30 %),保険リスクの
順である。生命保険会社が販売する保険商品の多くが長期契約で金利確定型 であるが,長期の投資に適した金融商品が不足し,資産と負債のデュレーシ ョンが一致していないためである。対象とされた生命保険会社の金利確定型 と保険期間10年以上の生命保険契約に対する責任準備金は全体の責任準備金 の55.0%であり,資産の平均デュレーションは2.3年,負債のデュレーショ
ンは9.4年であった。これに対して,損害保険会社のリスクは,保険リスク (55%),信用リスク(30 %),金利リスクの順である。損害保険会社は,損害
てん補型の保険商品の多いため,保険金の変動可能性が多かったためである。21) 金融監督院保険監督局 保険会社のリスク評価制度解説書 (2007年4月)
に詳しい内容が掲載されている。
22) 金融監督院報道資料(2007年1月11日)。
損害保険会社は,2005年度収入保険料に占める積立型保険の収入保険料が
47.9
%にもなるにもかかわらず金利リスクが低い理由は,その保険期間の多
くは10年未満と短く,全体の責任準備金に占める積立型の責任準備金は 18.2
%であったためである。
リスク評価制度では,保険会社のリスクが3部門で評価され,等級が決め られる。その内容は,次の通りである。①保険会社のリスク(保険リスク,
金利リスク,市場リスク,信用リスク,流動性リスク,非財務リスク)の規 模(Risk Exposure)に対して,BIS標準方法および全米保険監督者協議 会(NAIC)の 早 期 警 報 指 標(Insurance Regulatory Information Sys-
tem
)などを修正した計量指標(生命保険22項目,損害保険24項目)で評価 される。②各種リスクに対する保険会社の統制機能(Risk Control)につ いて,リスク管理8項目・内部統制4項目に区分して非計量的に評価される。③資本の適正性と収益性について,生損保それぞれ9項目に対して,リスク 対応能力(Risk Tolerance)が計量的に評価される。
リスク評価制度では,経営実態評価の問題を解決するために,保険リスク と金利リスクの評価が区分され,資産部門のリスクが市場リスクと信用リス クに区分して評価される。また,評価時点での財務能力のみならず過去の経 験率(不渡り率,損失率)などを利用した資産および負債の計量指標(生命 保険22項目,損害保険24項目)で,未来の損失可能性が評価される。
Ⅴ.情報公開と格付けにおける示唆
韓国における保険消費者に対する情報公開は,保険会社の財務状態を把握 するための経営公示,保険商品選択のための保険商品公示と保険商品比較公 示,未請求の保険金などを照会するための休眠口座統合照会,銀行の募集手 数料率を監視するための窓販の募集手数料率公示などがある。このような韓 国では,監督のための情報と消費者のための情報が区分され,保険消費者の ための情報が多く公開されている。
保険商品公示について,保険金不払いなどが発生していることを背景に,
配当の適正性と商品・サービス・価格の適正性に対する評価が行われていな いことが指摘されている。しかし,その内容は,概して充実していると評価 でき,損害保険協会と生命保険協会による保険商品の比較公示によって,各 保険会社の商品別に,保険料・保障内容・解約返戻金・配当率などの比較情 報が,比較的に詳細に公開される。これらの情報は,保険消費者が保険商品 を購入する際の参考資料として,重要な役割を果たしている。損害保険協会 と生命保険協会による保険商品の比較公示によって,各社が部分的な比較を 行うときの問題点を解決していることは,保険会社側からは事実上殆ど提供 されていない日本における保険比較情報の提供に示唆するところが大きい。
また,銀行の過当な募集手数料の引き上げを抑制するため,銀行の募集手 数料率が比較公示されていることは注目に値する。さらに,韓国の保険業界 を含む金融業界は, 休眠口座統合照会 または被相続人に対する 金融取 引照会サービス によって,保険金を含む金融商品の一括的な請求漏れの防 止に努めている。日本では,保険金不払い問題が大きな社会問題になってい るが,保険金請求は保険契約者などの責任とされ,死亡保険金などの保険金 請求漏れに対する措置は存在しない。日本においても請求されていない死亡 保険金等が多く存在する可能性は高いといえる。
一方,保険会社の財務状態の情報は,保険消費者には難しい決算内容など が主な内容であり,金融監督院が保険会社の財務内容を格付けした経営実態 評価の結果は,公開されていない。この経営実態評価は,主として,保険消 費者の観点からの評価ではなく,監督のための評価である。支払余力は,評 価項目の中で30
%の加重値で評価されており,残りの70 %は,資産の健全
性・収益性・流動性・経営管理で評価される。従って,経営実態評価は,支 払余力との組み合わせで早期是正措置が行われているとはいえ,財務能力と いう名称で脆弱な保険会社の支払余力をその付随的条件といえる70%の資産 の健全性・収益性・流動性・経営管理で高く評価しているものであり,必ず しも保険会社のリスクに見合う十分な支払余力を示すものではない問題があ る。このような脆弱な保険会社の支払余力を改善するために,経営実態評価と並行してリスク評価制度が2007年4月から実施されている。
また,保険金不払いなどを背景に,保険会社のサービスなどの評価に関す る研究が盛んに行われている。このような情報公開と格付けをめぐる動きは,
保険会社の情報公開において,消費者のための情報が少なく,ソールベンシ ーマージン比率を中心にして議論されている日本に示唆するところが大きい。
(この論文は,早稲田大学の特定課題研究2007B‑070の研究助成による研究成果 の一部である。)
(筆者は早稲田大学教授)
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