日本保険学会関東部会報告
損保3大ホールディングスの Economic Capital
− 資本規制の国際動向と財務的観点によるアプローチ −
2014年9月12日
帝京大学 経済学部
Ⅰ はじめに
Ⅱ Economic Capital
1
流動性(健全性)と収益性2 Economic Capital
と自己資本3
損害保険会社のEconomic Capital
Ⅲ 分析手法
1
収益性からのアプローチ2 流動性(健全性)からのアプローチ
Ⅳ 分析結果及び考察
Ⅰ はじめに
Ⅱ Economic Capital
1
流動性(健全性)と収益性2 Economic Capital
と自己資本3
損害保険会社のEconomic Capital
Ⅲ 分析手法
1
収益性からのアプローチ2 流動性(健全性)からのアプローチ
Ⅳ 分析結果及び考察
Ⅳ 分析結果及び考察
1
業界全体のEVA
の推移2
損保3大ホールディングスの分析(
1
)統合効果(
2
)Economic Capital
と自己資本の比較(3)投資戦略
(
4
)NOPAT
(Net Operating Profit After Tax
:税引後営業利益)(
5
)有利子負債コスト(
6
)自己資本コストⅤ おわりに
Ⅳ 分析結果及び考察
1
業界全体のEVA
の推移2
損保3大ホールディングスの分析(
1
)統合効果(
2
)Economic Capital
と自己資本の比較(3)投資戦略
(
4
)NOPAT
(Net Operating Profit After Tax
:税引後営業利益)(
5
)有利子負債コスト(
6
)自己資本コストⅤ おわりに
Ⅰ はじめに
1. 損保3大ホールディングス
(1) 東京海上ホールディングス(2002年4月)
(2) MS&ADホールディングス(2010年4月)
(3) 損保ジャパン日本興亜ホールディングス(2014年9月)
東京海上ホールディングス(
2002.4
〜)東京海上 日動火災
東京海上日動 日新火災
損保ジャパン日本興亜ホールディングス(
2014.9
〜)2014.9合併
安田火災 日産火災 大成火災
日本火災 損保ジャパン 日本興亜 興亜火災
太陽火災
2004.10合併
2002.7合併 2001.4合併
2002.12合併 2002.4合併
=
イーデザイン損保
セゾン自動車 そんぽ24
損保3大ホールディングスの再編
大成火災
MS&AD
ホールディングス(2010.4
〜)2014.10機能別再編
太陽火災
三井住友 あいおいニッセイ同和 三井海上
住友海上
大東京 千代田 ニッセイ損保 同和火災
あいおい ニッセイ同和
スミセイ損保
2001.10合併
2001.4合併 2001.4合併
2002.12合併
2011.1包括移転
2010.10
合併2002.4合併
=
au損保 三井ダイレクト
4
2. ホールディングス形態の課題
(1) 合併・経営統合・機能別再編等が容易になる
(2) 資本の有効活用が今まで以上に問われる
3.資本規制の国際動向と Economic Capital の分析
(1) リーマンショックおよび
EU
の金融危機以降、金融機関の資本規制は厳 格化の方向にある格化の方向にある
(2) 保険会社の
Economic Capital
は銀行とは果たす役割が異なる(リスク が異なる)という議論があるものの、金融システム上は銀行も保険も重要な金融機関であり、経済に与える影響が大きく、保険会社も資本を 十二分に詰める必要がある
(3) 損保3大ホールディングスの
Economic Capital
を財務的観点から分析 する図表1 金融・保険の資本に係わる国際動向
バーゼルⅢ
Economic CapitalをEconomic value of lossの相当額を用意するバッファーとし、バッファー を使い切ってもサステナブル(sustainable:企業の持続可能性)であることが求められる。
ERM 金融・保険グループがビジネスから発生する予想外の損失をカバーする資本の充分性の 確認等、規制・監督を強化。
ソルベンシーⅡ ERMにおけるリスクの定量化と資本管理の考え方を採り入れた資本規制(2014年実施)。
保険会社はリスクを計量化して必要資本を評価し、これを上回る資本を保有することが求 められる。
ORSA ERMにおける自社独自の必要資本額とソルベンシー規制上求められる資本額を評価する
一連のプロセス。金融庁は「保険会社向けの総合的な監督指針」においてORSAプロセス を重視している。
米国ORSAモデル法 財務健全性等を監督する手段として、ERMおよびORSAの概要報告を求める法律を策定。
(2012年9月)。
ジョイント・フォーラム 金融コングロマリットの監督に関する5つの原則「①監督権限②監督責任、③コーポレート ガバナンス、④資本十分性および流動性、⑤リスク管理」を策定(2012年9月)。
FSBおよびIAIS FSBは2010年11月、システム上重要なグローバルな金融機関(G-SIFIs)を特定し、それら の金融機関に新たな規制を課すことを要請した。保険セクターについては、IAISがG20お よびFSBの委託を受け、システム上重要なグローバルな保険会社(G-SIIs)の選定基準お よび適用規制の検討を行い、2013年7月に公表している。
Ⅱ Economic Capital
1.流動性(健全性)と収益性
流動性(健全性)の維持
流動性の維持はキャッシュフローの創出だけでなく、必要な時に必要な資本 が調達できなければならない。その場合、条件となるのは財務の健全性であり、
⇒ どの程度の自己資本を保有すべきか?
収益性の維持 ⇒ 市場が期待する利益の水準は?
が調達できなければならない。その場合、条件となるのは財務の健全性であり、
それは自己資本の多寡で決まる。
財務の健全性が確保されれば流動性は維持され、配当後の利益は内部留保 となり、自己資本は増加し財務の健全性は向上する。
つまり、流動性と健全性とは表裏一体の関係にある
2. Economic Capital と自己資本
保有資産の価値が簿価を下回る、あるいは現金化できないことによる非 常時の損失に備えるべく最低限の自己資本をいう。
図表2 財務が健全な企業の貸借対照表
資産
非常時に想定さ れる資産価値
負債
資産
Economic Capital
自己資本
期待損失
(Expected Loss)
個別取引の利益 で対応(費用化)
財務が健全な企業の貸借対照表
Economic Capital
< 自己資本非常時に想定される資産価値 > 負債
(出所)津森・大石[2005]p.160を基に筆者作成。
(1) 個別リスクから発生する
EL
(Expected Loss
:期待損失)への対応⇒ それぞれの取引の利益率の中に含める、あるいは予算化する
(2) 個別リスクのうち、
UL
(Unexpected Loss
:非期待損失)、および企業全企業のリスク管理の基本
(2) 個別リスクのうち、
UL
(Unexpected Loss
:非期待損失)、および企業全 体のUL
への対応⇒ 自己資本で対処する
3.損害保険会社の Economic Capital
(1) 最低必要資本(最適資本構成)を求めるのが困難 自己資本は保険負債とトレードオフの関係にある
自己資本を縮小すれば自己資本コストは低減されるが、自己資本が負債に比べ 過小であると市場が判断すれば、信用力の低下やリスクプレミアムの上昇により、
高い調達コスト(通常より低廉な保険料)でなければ保険を販売できない。この場 合、逆に総資本コストは上昇する。
合、逆に総資本コストは上昇する。
(2) 損害保険会社の経営課題
どの程度の自己資本が適正か?
Ⅲ 分析手法
1.収益性からのアプローチ
(1) 企業の健全性の判断基準となる自己資本は株主が提供した資本である
(2) 株主は2つの判断基準に基づいて投資を行う a.財務の健全性
b.配当とキャピタルゲインの確保
(3) 株主が期待する利益
=純利益−自己資本コスト
=
Economic Profit
(Economic Value Added
:経済的付加価値) > 0EVA ( Economic Value Added :経済的付加価値)
① 簿価ベースの指標であるものの株価の先行指標である
② 市場付加価値を表す
MVA
(Market Value Added
)との相関が強い③ 総合商社や金融機関においても利用される等、範囲は拡大している
EVA
=純利益−自己資本コストEVA
=純利益−自己資本コスト またはEVA
=NOPAT
−(有利子負債コスト+自己資本コスト)=
NOPAT
−総資本×WACC
NOPAT(Net Operating Profit After Tax:税引後営業利益)
自己資本コスト率(%)=リスクフリーレート+β×株式のリスクプレミアム WACC(Weighted Average Cost of Capital:加重平均資本コスト率)
=自己資本コスト率と有利子負債コスト率を加重平均した資本コスト率
EVA
を損害保険に応用する場合は、(1)〜(3)を適宜修正する必要 がある。(1)
NOPAT
(Net Operating Profit After Tax
:税引後営業利益)EVA の損害保険への応用
(2) 有利子負債コスト
(3) 自己資本コスト
(1)
NOPAT
(Net Operating Profit After Tax
:税引後営業利益)a.事業収益
積立型保険に関する収入を控除し、掛捨型保険料収入および資産運用収 益とその他収益から生じているものとする
b.有価証券売却益
営業利益に算入する
c.責任準備金および支払備金の繰り入れ・戻し入れ c.責任準備金および支払備金の繰り入れ・戻し入れ
事業損益から控除する d.事業費用
積立型保険に関する満期返戻金部分を控除した残りの保険引受費用およ び資産運用費用とその他費用の合算部分であるとする
e.その他経常費用
支払利息以外の部分をそのまま全額費用計上し、支払利息については債 権者に対する有利子負債コストとして計上する
(2) 有利子負債コスト a.有利子負債
実際の負債額に対するコスト率を用いて計算する b.積立型保険の予定利子相当額
契約者に対する有利子負債コストであり数値は積立保険等運用益とする c.退職給付引当金
従業員に対する有利子負債であり引当金の3%を有利子負債コストとする 従業員に対する有利子負債であり引当金の3%を有利子負債コストとする d.退職給付に関する年金数理計算上の差違
考慮しない
(3) 自己資本コスト a.自己資本
2005年以前は連結会計がないため「資本の部合計」を自己資本とみなす b.自己資本コスト率
リスクフリーレートは10年国債利回りを使用する。
β
値は金融機関同様 1.15とし、株式のリスクプレミアムは4%とする自己資本コスト率(%)=リスクフリーレート+
β
×株式リスクプレミアムc.異常危険準備金
現行会計制度では負債に計上するが、予測できない損失(
UL
)に備えるも のであるため自己資本に含める2.流動性(健全性)からのアプローチ
(1) 流動性(健全性)の維持
非常時の損失に備える自己資本を常時確保する必要がある
(2)
Economic Capital Management
(ECM
)a.資産額に一定の係数(
Leverage
係数)を乗じることにより資産ごとのEconomic Capital
を計算する手法Economic Capital
を計算する手法b.キャッシュ化が容易、すなわち流動性が高い資産ほど
Leverage
係数は 小さくなる。最も流動性の高いものは現預金であり、そのリスクを「0(ゼ ロ)」とみなし、流動性が低くなるにつれLeverage
係数は大きくなるc.勘定科目ごとに
Leverage
係数を決定し合計すれば企業全体のEconomic
Capital
を求めることができる図表3 財務状況が健全な
Leverage Index
Economic Capital
=現預金×0%
+債権×a%
+流動資産×b%
+有形固定資産×c%
+子会社投資×d%
+無形固定資産×e%
<1
自己資本
Leverage Index = <1
(3) 損害保険会社の
Economic Capital
a.損害保険会社はオペレーションとファイナンスが複雑に絡み合っており、
また保有資産の多くは金融資産である
b.
Economic Capital
の算定にあたり、金融資産のリスク度を逐一計算しな ければならないc.損害保険会社が保有する金融資産の詳細は各社マターであり外部から 評価するのは難しい
d.保険には自己資本と保険負債のトレードオフという特有の問題が存在す る
EVA から Economic Capital を算定する
図表4
ECM
とEVA
の関係資 産 負 債
ECM ( Economic Capital Management )
資産のリスク度から資産保有に必要な自己資本を算出し、総資 本コストを超える営業利益が要求される。
自己資本
EVA ( Economic Value Added )
営業のために使用していると考えられる総資本コストを算出し、
これを超える営業利益が要求される。
(出所)津森[2001]p.233を基に筆者作成。
損害保険会社の
Economic Capital
をEVA
からアプローチする過去の実績値を基に
EVA
が0(ゼロ)になる「限界ROE
」を算出する最低必要資本
① 収益性の観点では株主価値を喪失させない最低限の自己資本
② 流動性(健全性)の観点からは非常時の損失に備える自己資本
「限界
ROE
」と純利益(当期利益)から最低必要資本を求めるⅣ 分析結果及び考察
1.業界全体の EVA の推移
図表5 損害保険業界全体の
EVA
の推移 (単位:百万円)(出所)インシュアランス損害保険統計号を基に筆者作成。
2.損保3大ホールディングスの分析
(1) 統合効果
図表6 損保3大ホールディングスの統合効果 (単位:百万円)
統合前
会社名 平均EVA ⑴ 自己資本割合(%) 理論EVA ⑵ EVAの増減(⑴−⑵)
東京海上日動 -19,519 35.5 -56,273 36,754
日新火災 -5,997 1.9 -2,927 -3,070
三井住友 -33,994 23.9 -37,788 3,794
あいおいND -33,990 14.2 -22,533 -11,457 あいおいND -33,990 14.2 -22,533 -11,457 損保ジャパン -36,046 15.0 -23,719 -12,327
日本興亜 -28,770 9.5 -15,076 -13,694
合計 -158,316 100.0 -158,316 0
統合後
HDグループ 平均EVA ⑴ 自己資本割合(%) 理論EVA ⑵ EVAの増減(⑴−⑵)
東京海上 -25,516 37.4 -59,200 33,684
MS&AD -67,984 38.1 -60,321 -7,663
図表7 損保3大ホールディングスの限界
ROE
(単位:百万円)(2)
Economic Capital
と自己資本の比較-150,000 -100,000 -50,000 0 50,000 100,000
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 東京海上
損ジャ日興 MS&AD
E V A
会社名 限界ROE (EVA=±0)
東京海上(HD) 4.8%
東京海上日動 5.0%
日新火災 1.2%
MS&AD(HD) 2.9%
三井住友海上 3.5%
あいおいニッセイ同和 2.0%
損保ジャパン日本興亜(HD) 1.9%
損保ジャパン 2.3%
日本興亜 1.1%
ホールディングスの平均 3.4%
(出所)インシュアランス損害保険統計号を基に筆者作成。
-200,000 -150,000
ROE(%)
図表8 損保3大ホールディングスの
Leverage Index
の平均値ホールディングス名 Economic Capital 自己資本 Leverage Index
東京海上
1,746,628 2,417,107 0.72
図表9 損保3大ホールディングスの
Leverage Index
の推移会社名 EVA累計 変形EVA累計 EVAの増減 割合(%)
東京海上(HD)
-306,196 -745,319 439,123 58.92
東京海上日動-234,226 -682,103 447,877 65.66
日新火災
-71,969 -63,216 -8,753 -13.85
MS&AD
(HD
)-815,803 -887,244 71,441 8.05
三井住友海上
-407,903 -478,252 70,322 14.70
あいおいニッセイ同和-407,874 -408,992 1,118 0.27
HD -777,791 -797,011 19,220 2.41
(3) 投資戦略
図表10 損保3大ホールディングスの投資戦略による
EVA
の増減損保ジャパン日本興亜(HD)
-777,791 -797,011 19,220 2.41
損保ジャパン-432,552 -423,912 -8,640 -2.04
日本興亜
-345,241 -373,099 27,858 7.47
(注)変形EVAとは、EVAから投資による収益及び費用を控除したものをいう
EVA
=NOPAT
−資本コスト=(〔
NOPAT
/資本〕−〔資本コスト/資本〕)×資本=(
ROC
−WACC
)×資本=
EVA
スプレッド×資本EVA = EVA スプレッド×資本 EVA = EVA スプレッド×資本
NOPAT
/資本=ROC
(Return on Cost
:資本利益率)資本コスト/資本
=
WACC
(Weighted Average Cost of capital
:加重平均資本コスト率)ROC
−WACC
=EVA
スプレッド資産の増減
EVAスプレッドの向上
増減がない場合
EVAスプレッド(ROC−WACC)を向上させるには、
ROC
を増加させるか、WACC
を減少させる。増加する場合
ROC
がWACC
よりも大きくなる投資を選ぶ。図表11
EVA
スプレッドの向上減少する場合
EVA
の向上を伴わない資産は削減する。(出所)津森[2001]『EVA価値創造経営』pp.202-207を基に筆者作成。
会社名 項目
東海 日動
日新 火災
東京 海上
損保 ジャパン
日本 興亜
損ジャ 日興
三井 住友
あい おい
MS AD 正味収入保険料 0.65 0.51 0.66 0.78 0.63 0.84 0.33 0.73 0.53 利息及び配当金収入 0.11 0.13 0.09 0.22 0.21 0.26 0.38 0.13 0.28 有価証券売却益 0.03 0.04 0.03 0.38 0.47 0.44 0.29 0.14 0.28 収益の合計 0.71 0.53 0.71 0.82 0.70 0.88 0.49 0.64 0.61 正味支払保険金 -0.42 -0.37 -0.43 -0.42 -0.43 -0.40 -0.73 -0.71 -0.73 損害調査費 -0.26 -0.19 -0.26 -0.49 -0.20 -0.45 -0.65 -0.10 -0.62
図表12
NOPAT
に影響を及ぼすファクター(4)
NOPAT
(Net Operating Profit After Tax
:税引後営業利益)損害調査費 -0.26 -0.19 -0.26 -0.49 -0.20 -0.45 -0.65 -0.10 -0.62 諸手数料及び集金費 -0.14 0.24 -0.13 0.40 0.49 0.58 -0.21 0.58 0.26 資産運用費用 -0.40 -0.61 -0.42 -0.58 -0.48 -0.49 -0.21 -0.26 -0.38 営業費及び一般管理費 0.07 -0.16 0.04 -0.04 0.48 0.30 0.15 0.12 0.01 費用の合計 -0.65 -0.86 -0.69 -0.74 -0.55 -0.73 -0.85 -0.73 -0.84
NOPAT 0.86 0.97 0.87 0.97 0.90 0.95 0.96 0.97 0.96
(出所)損害保険インシュアランス統計号より筆者作成。検証期間は2001年度〜2012年度 数字はピアソン相関係数
会社名 項目
東海 日動
日新 火災
東京 海上
損保 ジャパン
日本 興亜
損ジャ 日興
三井 住友
あい おい
MS AD 予定利子(積立保険)
0.20 0.15 0.19 0.05 0.28 0.16
0.56 0.530.56
退職給付引当金0.12 -0.21 0.12
0.44 0.510.58 0.35
0.450.36
税引後有利子負債コスト0.16 0.15 0.15 -0.16 0.29 -0.20 0.52 0.53 0.54
図表13 有利子負債コストと各ファクターの相関関係
(5) 有利子負債コスト
(出所)損害保険インシュアランス統計号より筆者作成。検証期間は2001年度〜2012年度 数字はピアソン相関係数
(例)有利子負債コストの削減策
(1)積立保険の販売停止
積立保険の利子相当額が有利子負債コストに占める割合は92.2%(
2001
年度 から2012
年度までの業界平均値)と比重が高い。(2)退職給付引当金の見直しを含む新しい人事給与制度の構築
(6) 自己資本コスト
(1) ROE の欠点
・ 財務の健全性や資本コストという考え方がない。
・ 資産リスクや
Economic Capital
の視点が欠落している。・ 比率指標であるため縮小均衡に繋がりやすい。
・ 累計評価ができない。
・ 累計評価ができない。
(2) 経営者の問題
経営者は目標
ROE
を自己資本コスト率よりも高く設定する傾向がある。経営者はすべての事業分野において自己資本コストを確保するように努め、あ る事業が突出して高い収益率を有していれば、他の事業もそれに引っ張られる形 で高い目標を掲げることが多い。その結果、全事業平均の目標
ROE
は自己資本コ スト率を上回る。逆に資本が少ない場合、経営者は収益性のある事業であっても資本を充分持っ 逆に資本が少ない場合、経営者は収益性のある事業であっても資本を充分持っ ていないため、その事業を断念することがある。つまり収益が確実に顕在化する事 業にのみ投下することになり潜在的成長性のある事業を犠牲にする。その結果、
目標ROEの全事業平均は自己資本コスト率を上回る。
(3) 株主を意識した経営者のパフォーマンス
過剰に高い「目標
ROE
」は株価向上を阻害する。経営者が自己資本コスト率をはるかに超えるROEを常に達成している場合、株 主から期待される保険会社の時価総額は簿価を上回る。
反面、自己資本コスト率を超える
ROE
を達成できない経営者は時価総額が簿価 を下回るため、リスクを高めに設定して経営を続けなければならない。その場合、常に過剰なまでに高い「目標ROE」を設定することは弊害をもたらす。
常に過剰なまでに高い「目標ROE」を設定することは弊害をもたらす。
なぜならば、経営者が株主とコミットした高い「目標ROE」を満たすために、さらに リスクの高い事業に踏み込めば、株主はさらに高い「目標
ROE
」を求めることになり、結果として株価の上昇には期待が持てなくなる。
Ⅴ おわりに
① 損害保険会社は総じて自己資本が不足しているか、あるいは
Economic Capital
が高すぎる。これは経営指標としてROE
を使っていることが原因 であると考えられる。② 損害保険会社は経営指標として
ROE
を使うべきではない。ROE
は単なる結果指標であり、財務の健全性や資本コストが考慮されてROE
は単なる結果指標であり、財務の健全性や資本コストが考慮されて おらず、また資産リスクやEconomic Capital
の観点が欠落している。③ 損害保険会社が収益性と流動性(健全性)を確保・維持するには財務的 観点による経営指標を採り入れる必要がある。
参考文献
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金融庁[2011]「経済資本の枠組みの実務の幅と論点の公表について」バーゼル銀行監督委員会 財務省ホームページ[2014]「国債応募者利回りの推移」
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McKinsey & Company,Tim Koller, Marc Goedhart and David Wessels[2005]Valuation :Measuring and Managing the Value of Companies,4/Edition.
Swiss Re[2005] Insurers’cost of capital and economic value creatin:principles and practical implications”,